お呼び出し
1975年。世界を白い光が包み人間という種族は魔法という力を得た。魔法はすべての人間に宿ったわけではない。割合で言えば10人に一人という感じだ。体から炎が出てきたり、風を操れたりする人間の出現は当時大きな混乱を招いた。
魔法は、当時の人類にとって未知であり人間は研鑽を重ね何とか魔法を使いこなそうとした。そして、最初は自分の炎で焼かれるといった状況から、炎を制御することに成功するものが出始めた。人類は、この力は人類にとって大きな繁栄をもたらすと信じて疑わなかったらしい。だが、そう都合よく事は運ばなかった。魔法の研究が進み始めて五年。異形の化け物、現在では魔物と呼称さる生命体が発見された。魔物は、非常に凶暴だった。当時、魔法を大して使いこなせていなかった人類は魔物に蹂躙され、人口の七割を失った。それからさらに二年後。人類は魔法で結界というものをと作り上げた。それは魔物の侵入を防ぐものであり、主要都市に生き残りをかき集めて籠城することに成功した。結果人類は滅亡せずに今に至る。
現在、2090年。人類は、魔物と戦うすべを身に着け人口は三億人まで増えた。奪われた領土も取り戻しつつ、人類は今も魔物との戦いを続けている。
とある国、とある町、その地下にある裏組織のの拠点。
相も変わらず、薄暗い場所だな。殺風景な階段を降り、しばらくすると巨大な扉が見えてくる。
「入りたまえ」
コンコン、とノックする前に扉の向こうから許可が出た。
別に驚くこともなくそのまま静かに入る。
「任務完了しましたボス」
「お帰り、シオン。相変わらず、いい魔力だね。実に分かりやすいよ」
「・・・魔力だけで俺を判別できるのはあなただけですね」
呆れながら答える俺を見ながらその男は笑った。
割と大人びていると言う印象がある、爽やかな顔をした青年。しかし、どこにでもいるような顔とは裏腹にまとっている雰囲気は人間のそれではない。まるで、死そのものと相対しているような錯覚すら覚えるほどの禍々しいオーラ。彼こそ、様々な国が警戒する強力な魔法使いであり、ついでに俺の雇い主でもある。もっと言うなら、俺の育ての親とも言えなくはない。ボスに拾われてから、3年が過ぎている。
しかし何年たってもこの上司の圧倒的な魔力と雰囲気になれずに毎回ここから早く逃げ出したくなる。故に俺は、手短に今回の任務の達成の旨を伝える。
ボスは俺の話を黙ったまま聞いていた。一通り報告は済ませ、帰ろうと背を向ける。
「待ちたまえ、シオン。もう一つ、君に頼みがある」
「・・・何でしょうか?」
珍しい。連続で任務なんて・・・めったにないことだ。ていうかブラックすぎじゃね?
なんて考えつつも、再びボスに向き合う。
「そう身構えなくていいよ、長期の任務だがそんなに面倒ではない。休みだと思ってもらって構わない」
「・・・どのような任務で」
残念ながらボスの言うことを信用するには俺は度胸が足りなかった。
「はは。まあ、落ち着きたまえシオン」
ボスは、にこやかな微笑みで俺にそう言ったが悲しきかな俺には死神の笑みにしか見えない。
「ある学園に潜入してほしい」
「学園ですか?」
予想と違い思わず聞き返した。
「ああ、僕らと敵対しているある組織が日本のある学園を狙っていると聞いてね。何を企んでいるか調査してきてほしいんだ。頼めるかな?」
「学園に潜入する必要ってありますか?」
「頼みたいことはそれだけじゃない・・・例の魔法の適合者が日本の学園に入学するらしいんだ。彼の監視を頼みたい」
「ブラックすぎませんか?」
「なに、バックアップは任せてくれたまえ。それにせっかくの長期任務だ。しかも学園。君、今16才だろう。任務さえ果たしてくれれば少しぐらいは目を外してもかまわないから」
ボスはひたすら笑顔だ。・・・ハア。面倒くさい。しかし拒否権がないのは分かっている。
「・・・分かりました、資料ありますか?」
「資料はこれだ、適合者の名前は獅子堂 ソナタだ」
俺はボスに近づき、机の上に置かれた資料を手にとって見る。
身長は170cm。例の魔法に適合したのはつい最近。性格は、正義感が強く、お人よし。・・・なるほど。
「物語の主人公のような奴ですね」
「あはははははは、間違いないね。確かにその通りだ。そんな彼を監視する君は差し詰め、主人公の親友役かな」
「それはまた面倒くさそうですね・・・この学園って魔法学園ですよね。しかも、東京を管理しているのは七星家ですよ。俺の魔法って見る奴が見たら、正体ばれかねないと思うんですけど」
「そこは、加減してくれれば何とかなるはずだよ。炎魔法をなるべく使わずにいればバレたりはしないよ・・・多分ね」
確信がほしい。しかし、ボスがこういうのだから何とかなるんだろう。こういうことでボスが嘘を吐いたことはない。
「了解しました」
俺は今度こそ部屋を出ていく。
「頼むよ、僕の懐刀・・・」