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祖父の家

作者: 高座 低見

 家に帰ると、両親の怒鳴り声がきこえた。


 いつも通りのことだ。気にしてはいけない。この家の暗黙の了解。


 たとえその内容が、家族であるお互いを罵倒するものだとしても。


 十年前、迎え入れた祖父が……元気だったはずの祖父が、急激に呆けたあのときからのルールだった。


 靴をそろえて廊下に上がると、床の冷たさが足裏に伝わる。ぬくもりの消えた家。


 両親の怒鳴り声を振り切り、二階の自室に向かう。カバンを放り出し、ベッドに横になった。天井がやけに高く見える。ねずみ色の壁紙が、私を憐れむように見下ろしている。


 大学の課題をやらなくては。ただし、祖父の世話をしてから。


 体が重い。心そのものが鉛となって、私の体を文鎮のように縛りつけている。


 部屋だけは静かだった。厚いドアを透かすように、かすかに聞こえてくる喧嘩の音。


 それに重なって、新しい音が入り込んだ。


 「背中がかゆいんじゃ、背中がかゆいんじゃ、おっかさぁん」


 祖父の声だった。何年前からだろうか、寝たきりになってしまった祖父の。


 赤子のむずがりに似た泣き声は、大きかった。


 はぁ。


 ため息が部屋に溶ける。どうしようもないくらいささくれ立ち始める心を抑え付ける。


 柔なかなベッドを断ち切って立ち上がると、一階の祖父の寝室に重い足取りで向かう。


 そんな生活だった。



 不自然に重たい開き戸を開けると、カラカラという乾いた音が鳴る。まだ祖父の足が満足に動いていた頃、徘徊を阻止するために設置した名残だった。

 中は照明がついていて明るい。その隅、ベッドの上には芋虫のように身もだえる祖父がいた。かびたイグサの香りに強烈な糞尿の臭いが混じって鼻に飛び込んでくる。粗相をしたのだ。


 「おっかさん、おっかさん」


 「お母さんはね、今出かけてるのよ」


 おっかさんとは、私の母親……彼の義娘ではなく、彼自身の母親のことだった。満足に動けない老いた肉体に、非情にも脳は幼児退行していた。


 疲れた声になってしまわないよう、努めて優しく話す。でないと、騒ぐのだ。もう私が孫だということも忘れている。

 むしろ、他になにを覚えているのだろうか。

 大昔の、私も両親も生まれていないあの日の夢に、彼は生きていた。


 「背中かゆいの? じゃあお洋服脱ごうね」


 祖父は、まだ口の中でなにかもごもご言っていたが、素直に横向きになった。ボタンを緩めて寝間着を下ろし、濡れたタオルで背中を掻くように拭く。

 その後、ビニール袋を何重にもして広げて、祖父のズボンを下ろした。饐えた臭いが強さを増す。だが、顔をしかめてはいけない。彼の心を刺激してはならないから。


 「ご飯まだ、おっかさん、おとうちゃんはどこ」


 私に尻を拭かれる間も、ずっとそんなことを呟いている。


 彼をこの家に迎えるまでの日を、私は思い出していた。



 土の感触がした。


 久々に過ごした祖父の家。東京よりもずっと爽やかな空気に撫でられて、目が覚めた時間はまだ朝の5時だった、こんなに早く起きたのは初めてかもしれなかった。


 横を見やると、両親はまだ寝息をたてている。両親よりも早く起きた。その事実は私を震わせた。小さなことだけど、大人に勝ったんだ、と。

 誰かに自慢したい、その一心で寝室を飛び出した。野良仕事をしていた祖父は私たちよりもずっと早起きなことを知っていたから。


 寝室の隣、囲炉裏のある部屋に果たして祖父はいた。

 だけど、ビックリしたような目でこちらを見つめてくる。その驚愕の成分は、感嘆というよりは……見られたくない“なにか”が見つかりそうになったような、そんな色合いがあった。


 「千里ぉ……お前さん、なんでこんな時間に起きとんや」


 祖父の言葉が、私には責められているように思えた。

 なんでよ。いつもは早寝早起きってうるさいくせに。

 不機嫌な顔色を浮かべる私を見てか、祖父は思い直したようにぎこちない笑みを浮かべた。


 「そ、そうか。偉いなぁ千里は。でもな、まだテレビもやっとらんし、じいちゃん忙しいから遊んでやることもできん。すまんが、もうちょっと寝てな、な」


 優しく言い聞かせるように、寝室に入るよう手で支持される。

 なんだか癪だったけど、私はそれに素直に従ったんだっけ。


 事実、早く起きてみたのはいいが、眠気がまだ頭の奥で抵抗していた。

 それと、祖父の様子に、なにやら異常が感じられたから。


 なんで、あんな全身が汗ぐっしょりだったんだろう。


 踵を返して寝室の戸を開ける。一歩踏み出して確信した。


 やっぱり、あの部屋の畳からは土の感触がしていた。



 祖父の引っ越しのトドメになったのは、祖母の死だった。その前からも、両親……特に父が熱心に説得を続けていた。


 風情といえば聞こえはいいが、大きいだけの古すぎる家。風が吹くたびにきしみをあげるし、雨の日は湿気が家中に蔓延する。


 思い出の家かもしれない。でも、ひとりで住むには大きすぎて、そして寂しすぎた。


 引っ越しを決めてからは大人の世界だった。家の土地がどうたら畑の土地がどうたら。幼い少女が入り込む余地はなかった。


 当時の私でも飲み込めた事実は、この家が解体されるということだけだった。


 それから、村の近所の人たちがこぞって訪問してきたっけ。

 祖父はその対応をしていた。祖母の死へのお悔やみ、恐らく何度も言われたのだろう、祖父は苦笑いをしながらそれを聞いていた。


 その夜、近所の人々が家に集まり、宴会が開かれた。夏休みごとに遊びに行っていたのに、気丈だけど優しい祖父が村中の人気者であると知ったのはそのときが初めてだった。


 楽しい笑い声が響き、夜遅くになりみんなが帰って、後片付けを手伝うとくたくただった。

 

 寝室に倒れこむように眠る。

 

 早く目が覚めたのはその翌朝。


 いったい祖父は、なにをしていたんだろう。



 東京に引っ越して、最初は上手くいっていた。


 野良仕事をしていた祖父は、歳を感じさせないほど元気ではっきりしていた。体力では、父すら負けていたんじゃないか。


 でも、一か月後。本当にたった一か月で、全ては転んだ。


 祖父が呆けた。兆候もなく、急激に。体力はそのままに。


 ここが東京にある父の家だと理解できなくて、何度もわめいて何度も逃げ出した。


 都内であることが仇となって、老人ホームの空きも見つからない。日に日に日常が浸食されていった。


 暴れ、壁が破れ、皿が割れ、両親の顔に傷が増えていく。それに比例するように家族の仲が冷え込んでいく。


 徘徊中の祖父が転倒して足の骨を折ってようやく、徘徊と暴行は停止した。


 汗だくで町中を探していた母のもとに転倒の一報が届いたとき、母が笑みを浮かべたのを私は見ていた。


 解放されたわけではなく、召使のように彼の欲求に応え続ける毎日だが、あの頃よりはマシだとばかりに。


 私自身、母の内面を察することができてしまった。


 そして今に至るのだ。



 粗相をしたおむつの入ったビニール袋を玄関に置く。回収日はまだだから。


 入念に手を洗い、冷蔵庫の中からヨーグルトを取り出して食べる。優しい甘みが体を癒してくれた。おむつを替えた後にものを食べるのが平気になってどれほど経つだろうか。


 ソファーに座ってもくもくと食べ進める私を見て、母はいそいそと身支度を始める。


 「買い物に……行ってくるわ。すぐに帰るから、なにかあったらお父さんに言ってね」


 か細い声でそう吐くと、家を出ていった。


 彼女のいう「なにか」は……祖父の手足がきかなくなった今、起こることはないだろう。それでも忠告せずにはいられないのだ。深いトラウマが刻まれていた。


 母が出ていき、食べ終えたヨーグルトのカップをゴミ箱に捨てるのと疲れた顔の父が部屋に入ってくるのは同時だった。

 

 勤めていた会社を辞めて、時間的な都合の利く仕事に鞍替えした父の顔は、年齢よりもずっと老けて見えた。

 あの頃、会社に向かう父がとても楽しそうな顔をしていたのを思い出した。


 「タバコ、買ってくる」


 「えっ、でも……」


 「大丈夫だよ。じいさんは寝てる」


 ふらふらと靴を履きながら、父までもが出ていき、私はひとり取り残された。正確には祖父もいるんだけど。


 暇だ。


 大学の課題を進めることにした。


 二階にあがり、カバンの中からレジュメとノートを取り出す。一階に戻って机に向かい、経済の動きがどうとかという内容を咀嚼しようとする。祖父の動きに対応するために、勉強などは下で行うことにしていた。


 ペンを走らせる。今日は変にはかどっていて、いつもは頭を何度もひねらなくちゃならない問題がスルスルと飲み下されていく。


 順調に喜びを感じていたら、唐突にまた邪魔が入った。


 「おっかさん」


 寝ていたんじゃなかったのかよ。書き途中のノートを閉じて、誰が効いているわけでもないけれど、できるだけ小さく舌打ちをする。


 「おっかさん、おとうちゃん、たすけてくれよぉ」


 祖父の無駄に大きい声が、はっきりと届いてくる。


 ……だけど、私は無視をすることを選んだ。どうせ、大した用事ではない。さっき粗相をしたのだし、今度は腰がかゆいとか言い出すだけだろうし。今の私には、明日が期日の課題の方が優先事項だった。順調とはいえ、まだまだ先は長いのだから。


 閉じていたノートを再び開き、またペンを走らせ、問題を解く。祖父の声が聞こえている。


 この均衡は保たれていて、気づけば三十分近くが経過している。母も父もまだ帰ってきていなかった。きっと道草を食っているのだろう。帰りたくない気持ちはわかる。わかってしまうのだ。


 時計の長針がまたひとつ動くのを見た。


 その直後、祖父が大きく叫んだ。


 「うああああ、うあああああああああああああ!」


 「えっ」


 今までの声は、子供の我儘を思わせるような、せいぜい「大きな声」程度のことだった。


 だけど、これはまるで……。


 「たすけて、たすけて」


 叫んでいる。それも断末魔のような、切迫した響き。


 気づいたらペンを放り出して駆け出していた。


 祖父の部屋に押し入ると、小さなベッドが壊れんばかりに軋みをあげている。ただごとではない。


 「おじいちゃん大丈夫!? 今救急車を……」


 左手のスマホを撫でようとする。


 その手を握られた。祖父の手で。満足に動かないはずの、その手で。


 折れそうなくらいに強い握力で握られている。だけど、そんなことはどうでもよかった。


 すがるように私を見つめる祖父のその顔は、まるで別人のように……様変わりしていた。パーツも、深い皺も、私の知る祖父のものだった。だけど、表情が違う。こんな……こんなおぞましい顔を、目を、彼は浮かべたことなんて……。


 しぼんだ口がパクパクと動いて、震えた空気がようやく音と認識できた。


 「なん……で……わたしが……こんな……め……」


 祖父は、“わたし”といった。幼児退行の気が見られてからは、もっぱら「僕」だった祖父が。


 「せっか……どれ……のに……」


 「おじいちゃん、いったいなにを」


 おそるおそる、祖父の口に耳を近づける。


 祖父の声が、今度ははっきりと聞こえた。


 「おうちに、かえして」


 ゾクリ、と総毛立つ感覚を覚えた。


 鼓膜から冷たい触手を流し込まれたみたいな、凶悪な声色。


 その直後、祖父の手から力が抜けて、ベッドにぽすんと小さな音をたてた。


 ドタドタドタ。今度は、廊下を走ってくる音。母の足音だった。


 荒く息を整える母が、震えるような声で「おじいちゃん、まさか……」と言った。


 私は、返事の代わりに首を横に振った。振り向かず、こと切れた祖父を見ながら。


 あの日、祖父が倒れたときに母が浮かべたあの笑みを、見たくなかったから。


 今更のように左手が痛み出した。握られたところが真っ青に染まっている。


 電話を聞きつけた父が飛び込んできて、念のための救急車を呼んだのは、その後のことだった。




 「じゃあ、出かけてくるから」


 「迷惑かけるんじゃないよ?」


 「大丈夫だって。もう大人なんだしさ」


 「年齢的には、でしょ? お酒覚えたてだからって、羽目を外すじゃないわよ」


 「わかってるわよ。行ってきます」


 祖父が亡くなってから三か月。

 

 皮肉なことに、そうなってから、我が家には幸せと呼べるものが訪れていた。


 遺産だとか、形見分けだとか、通夜とか告別式とか。そういったものが嵐のように過ぎていって、全ての折り合いがついて、肩の荷が下りて。


 そして今日、祖父の世話から解放された私は思う存分友人の家に泊まり、たくさん遊ぶのだ。


 そういうことになっていた。


 泊まるのは合っている。24時間営業のファミレスがそこにあるのはリサーチ済みだ。風呂に入れないが、この際どうでもいい。


 向かうのは、祖父の故郷だ。


 どうしても、あの日の言葉が耳にこびりついて離れない。


 だから私は、決着をつけにいくのだ。プランなんかなにもない。決着もなにも、呆けた祖父の脳が生み出した単なるバグといえば、それでいいはずだった。


 でも。


 『おうちに、かえして』


 あのおぞましい声色を、忘れることなんかできない。


 まるで、邪悪ななにかに憑りつかれているいるみたいだったから。





 何年ぶりに訪れただろうか、祖父の村は幾分か栄えていて、歩く人々も少し垢抜けているように見えた。


 その中を歩いていいく。友人の家に泊まる建前で持ってきたリュックを背負う姿はバックパッカーかなにかに見えているかもしれない。


 目的地はただ一つだけだった。


 祖父のあの最後の言葉、まるで悪霊のささやきのような言葉。


 その専門家。


 村一番のお寺だけは、村の進化などどこ吹く風とばかりに、威風堂々と建っていた。檜造りの巨大なお堂は、陳腐な怪談話に出てくるお寺のような、超越的な空気を漂わせていた。


 境内に足を踏み入れる。かさりと枯れ葉が鳴いた。その先で、誰かが大きなほうきを使って落ち葉を掃除している。


 「あの……すいません」


 おずおずと話しかけると、禿げあがった頭がくるりとこちらに向き直る。

 想像以上にお年を召していて、顔中皺だらけだった。だけど、人懐っこさも感じられた。


 おどおどとした私の顔を、微笑みを浮かべながらじっと見つめて数秒。老いたお坊さんが、ふと何かに気付いたように、パッと明るい笑みに変わった。

 

 「お、あんたぁ、ゲンさんのとこの千里ちゃんかい?」


 ゲンとは、私の祖父のことで、千里とは私の名だ。


 「は、はい。わかるんですか?」


 「そりゃあ、アタシぁ一度見た人の顔は忘れませんよ。ゲンさんにも何度も聞かされてましたからなぁ。いい子だ、いい子だって」


 なんだかむず痒い気持ちになる。


 でも、祖父はとうに亡くなり、そして今日訪ねてきた理由は決して気持ちのいいものではなかった。


 「あの……実は祖父は三か月ほど前に亡くなったんです」


 「えっ、そりゃあ……ご愁傷様です」


 「いえ、そんな……あの」


 ゴクリと唾を飲む。怪訝な顔つきに変わり始めたお坊さんに、二の句を継いだ。


 「祖父の死についてなんですが、どうしても聞きたいことがあるんです」





 お寺にあがったのは初めてかも。妙な感想を覚えながら出されたお茶を啜る。薄味を想像していたのだが、予想に反して味は濃く渋かった。


 「それで、ゲンさんがその、今際の際に妙な物言いをなさったというわけですな?」


 かいつまんだ説明を反芻する和尚さんに、私は頷いた。ふうむ、と彼は手を顎にやり、なにか考え込むような仕草をする。

 つまり、思うところがあるということだ。


 「教えてください。それらしいことがもしもあるのでしたら」


 身を乗り出し、皺だらけの顔を覗き込む。その目は鋭くて、私の心を隅々まで探らんとしているように見えた。

 試されている、と直感した。決して面白い話ではない、半端な気持ちでは教えられない。そう彼の目は語っていた。


 「お願い、します」


 縮む心臓を奮い立たせ、正面から向き合う。

 和尚さんの眼が、何かを諦めたようにすっと落ちた。


 「ついてきなさい。少し、歩きますよ」


 立ち上がった彼はそのまま歩きだした。雪駄を履いて外に出ていく背中を慌てて追いかけた。


 


 すっかり舗装され車も頻繁に通る道を、和尚さんと連れ立って歩いている。なんだか奇妙な感覚だった。


 前を歩く彼の声が聞こえてくる。昔話をしているようだった。


 「アタシがまぁだ幼かった頃よりも、もっともっと、昔の話でございますがね。この村には、それはそれは恐ろしい風習があったのです。

 アタシも子供のときに初めて耳にしまして、そんなことがあるかい。って笑ったのを覚えておりますよ」


 ゆっくりと歩く彼の年齢は、優に80を超えているだろう。そんな彼が、あり得ないと笑うような風習。テレビすらなかった時代の子供がだ。それはいったい、何年前に確立していた風習なのだろう。


 「……人身御供って、聞いたことありませんか?」


 優しくも厳しくもない、ただ事実を告げるような声色が、むしろ不気味に思えた。


 「ヒトミ、ゴクウ?」


 「はい。まあ、わかりやすく言うのなら……」


 ピタリ、と彼が止まった。その横には石段があって、木が茂るどこかへ繋がっている。


 サッと風が吹いて、木々が歌うようにさざめいた。


 「生贄、ですな」


 にべもなく彼が呟いた。


 その短い言葉が、私の心を撃ちぬいていた。


 生贄。生贄。生き物の命を、神様に捧げる行為。


 硬直する私を放って、彼は石段を登り始めた。年齢を思わせないしっかりとした踏み込み。

 おぼつかない足取りでついていく私を彼は見もしない。私の覚悟を試しているように。足にまで伝播しているショックを、膝を掴んで抑え込んだ。


 掃除が行き届いた……もしかしたら彼がしているのかもしれない石畳の歩道をゆっくりと歩く。たくさんの墓石に見つめられながら。


 「これは、全国的に信奉されていたらしいものなんですがね、アニミズムっちゅう考え方でして、いわゆる土地神様、それに人間の命をささげるんですわ」


 「人間の、命……」


 「そうです。もうじき着きますよ」


 彼が立ち止まった場所には、大きくて立派な御影石のお墓が立っていた。他の墓と比べると、倍近い大きさである。


 「これですわ」


 寺の人が管理しているのだろうか、磨かれてピカピカになっていて、私の顔が映ってさえいる。


 ただ不可思議なことに、銘が刻まれていなかった。「○○家之墓」みたいな銘がなく、つるりとした石面だけがそこにある。


 彼の言う「これ」が何なのか、いくつかの予想を立てる。その中で最も確かなものを、マーカーで塗るように赤く染める。


 幼い頃、足の裏で感じた土の感触を思い出しながら。


 和尚さんの横顔が、哀しみを形作っていた。


 「この墓は、ゲンさんの家に捧げられた人身御供ですわ」


 そうか、やっぱり。予想が的中した。


 頭の中で少しづつピースがハマっていく。


 幼いあの日、土の感触を感じたのは、きっと、床下を掘り返していたのだろう。恐らく、代々受け継がれてきた人身御供の居場所を。


 朝早くに起きた私を制止したのは……腐った白骨と幼い私が対面する可能性を排除したかったのだろう。


 宴会、引っ越しや土地の手続き、チャンスは少なかった。私たちが疲れて寝静まったその間、祖父は一人で土をあばき、哀れな遺体を探していたんだ。


 そして、祖父の努力は実って。


 こんな立派なお墓まで建ててもらって。

 

 なのに、だというのに。


 『なん……で……わたしが……こんな……め……』


 人身御供に捧げられた人は誰なんだろう。病気になった老人だろうか、あるいは子供だろうか。

 子供だとしたら、貰い子なのだろうか。

 もしかしたら、どこかで攫ってきたのでは……。


 『おうちに、かえして』


 恨みというのは、それほどに深いものなのか。






 「ファミレスに泊まる? あきまへん若い娘さんがそんな不健康なこと。寺に泊まっていきなさいな。こう見えて風呂はガスなんですよ」


 「お風呂……はい、ではお言葉に甘えて」


 何から何まで、申し訳ない。でも実際、暗くなってから外を歩くのが恐ろしいと感じていた。


 決着をつけると意気込んだはいいが、私はなにも成すことができなかった。


 あの日、祖父がなにをしていたのかを知っただけ。それだけだ。人身御供に捧げられた“誰か”の荒ぶる魂を、私はどうやって抑えればいいというのだろう。


 『アタシらも、力を尽くして供養いたしました。墓のお世話も欠かしておりませんでな、理由は、わかりません』


 力なくそう答える彼を、私は慌てて慰めた。

 そもそもの話、今際の際み見せた祖父の変貌が、呪いとかそういった超自然的なものである保証自体はどこにもなかったのだから。

 彼は、祖父が信頼して埋葬を頼んだ方なのだから。小娘の一人相撲として、一つの哀れな魂がいたことを記憶して帰ることが、最良の選択だ。


 本当にガス炊きの風呂に入ってさっぱりすると、夕食が用意されていた。まったく私は世話になりっぱなしだ。初めて食べる精進料理は、意外と口に合った。


 まだ早い時間だったけど、友人の家に泊まるという建前、早い電車に乗ることを考えてもう寝ることにした。


 寺の一室に布団が敷かれていて、横になるとドロのような睡魔が一気に襲ってきた。

 真っ暗な闇の中、寺に抱かれるようにまどろみに落ちていく。


 その瞬間だった。


 「……きて……きて……きて」


 小さな……恐らく、声が、暗い一室をか細く反響した。


 耳鳴り、空耳。そのたぐいだと思い込もうとする。だが、まどろみを打ち切られた隙間を見逃さないように、か細い声のようなものは、明確な輪郭をもって私の意識に刺さり始めた。


 「起きて」


 確かな、少女の声だった。


 寝ている場合ではないと意識が告げる。レッドアラート。緊急事態。目は冴えたが、照明が落ちた部屋は真っ暗だ。指先が馬鹿みたいに震えていた。


 「なに、なに、なんなの!」


 近所迷惑もどこかへ消え、渾身の力で叫ぶ。だが、返事は返ってこない。


 その代わりとばかりに、漆黒の闇の中、ぼやっと白い靄のようなものが浮かんだ。


 歯がガチガチと噛み合っている。本当に、恐怖したら歯が鳴るんだ。全身の血液が後退し、強烈な寒気が全身を包み込んで私を縛る。


 白い靄は、頼りない自信をスライムのように変形させ、輪郭を形作った。細部が彫り込まれ、目の前でどんどん人間体になっていく。


 人間と違うのは、全身が淡く発光していることだった。もやが現れてから五分ほど経って、認められたその正体は十二歳前後の少女だった。はっきりとした顔つきの彼女は、上等な着物を着ている。

 いや、着せられているという言い方が正しいかもしれない。おろしたてのスーツを身に纏った就活生のような、服に着られているような。だけどそれを笑うことはできない。丸い大きな瞳が、私をまっすぐに捉えている。


 人身御供。土地神様への捧げもの。


 上等な着物は、その証左ではないのか。神様のもとへ送るのだから、せめて着飾るというのは自然な発想だった。


 白い少女は、私の疑問に何も答えてはくれない。ただじっくり、じっくりと、距離を詰める。


 ヒィッ、と悲鳴が漏れる。情けないことに、腰が抜けて立てなくなっていた。ずりずりと下がることしかできない。そんな私の姿に、少女はまた口を開いた。


 「落ち着いて」


 誰が落ち着いていられるか! 腰が抜けていなければそう怒鳴ってやりたい気分だった。


 目の前にいるのはおぞましい悪霊。恐らく、祖父は彼女の呪いで呆けて、悲惨な断末魔を響かせて、極上の恐怖の中この世を去った。


 白い少女から逃げていると、背中に硬い感触を覚える。


 ああ、壁についてしまったんだ。それは一つの絶望的なじ事実を突きつけている。もう、逃げ場はないのだと。


 彼女はそれを認識しただろうか。相変わらず、ゆっくりと近づいて……。


 もう、目の前には真っ白い、生気のない顔が……。


 「おい! 千里ちゃん、大丈夫か、なにがあったんじゃ!」


 ドンドン、と戸をノックする音。


 「開けて! お願い、助けて」


 すかさずガラッと音がして、発光する彼女の光に映し出された淡い影は、和尚さんの姿だった。


 影が電気をつける動きをした。


 その直前、白い発光体は蛇のように接近し、ついに私に肉薄する。


 その小さな口が、私の耳に当てられて……。


 照明が、世界を塗り替えた。狭い畳部屋の中央には布団が敷かれ、戸口には肩で息をしながら和尚さんが立っている。


 「大丈夫か」


 その一言み、おなかの上で留まっていた感情が涙となって溢れた。とめることができず、静かな寺の中を泣き声が響き渡っていく。



 

 「最後に、彼女はなにかを言っておったな」


 お祓いを受けて、私はまたあのお墓に来ていた。来なくてもいいと彼は言ってくれたが、ひとりになる方がよっぽど嫌だった。それに、成り行きを見守らなければならない。私はそう確信していた。


 「はい。……『ごめんね』と、確かにそう、言っておりました」


 「ごめんね。か」


 御影石にひしゃくで水がかけられ、冷たそうな雫が伝っていく。無銘の墓石を。


 「あの、やっぱりあの子……」


 私は、自分の考えを話そうと思った。お祓いを受けながら、墓場までの道を歩きながら、自分の中で練った最終的な答えを。


 それを遮るように、お坊さんは口を開いた。


 「なあ、世にゃホラー小説だとか映画だとか、結構ありますわな」


 「は、はい」


 唐突な話に、私は着地点を見出すことができなかった。


 「そういう怪談のメジャーな舞台として、墓場なんかがありますな。お墓から悪霊が出てきて、人を呪うとか、そういうのな」


 水をかけ終えたのか、ひしゃくをおけに刺す。からんと乾いた音がした。


 「実はな、あれはあり得ませんのよ」


 「……あり得ない?」


 あり得ない。そういった物事への視点ではプロフェッショナルといえる彼が、そう断言していた。


 「ええ。お墓っちゅうんは、弔われた魂たちの眠る場所なんです。お釈迦様のお導きを聞けるように、迷える魂を救う行為、それが弔いで、その証が墓なんですわ」


 「…………」


 彼の言葉が胸に染みていって、疑問が確信に変わっていった。


 「『化けて出る』……つまり、未練が残るなんてのは、人によって大なり小なりあるかもしれませんがね、それでも他人に危害を加えるほどに慰められないなんて……お釈迦様はね、そんな半端なお力ではないんですわ」


 「そう……ですよね」


 目の前の御影石は、やはり美しく磨かれていた。他の墓たちも、穏やかにただ座っているだけのように見え始めていた。


 「ところで千里ちゃん、アタシになにか言いたいことがあったのでは?」


 「いえ、なにも……」


 私の導き出した答えは、やはり間違っていなかったようだった。





 「お世話になりました」


 ぺこりと頭を下げる。地面は枯れ葉一枚ない、綺麗な境内だった。


 「なあ千里ちゃん、これ、持っていきなさい」


 彼が懐から探り出したのは、お守りだった。


 初詣とかでもらうそれよりも一回りは大きくて、首から提げられるように丈夫そうな紐がついている。


 「アタシが特別に造ったもんや」


 ありがたくて、また涙が出そうになる。私はそれを堪えて、何事もないような顔をつくる。


 「さようなら」


 背を向け歩きだす。だけど、目的地は駅ではない。


 私にできることなんてなにもない。でも、決着をつけなくてはならない。


 私にしかできないんだ。この目で確かめなくてはならないのだ。


 首から提げずに、手の中に強くお守りを握りしめる。私は歩く足に力を込めた。




 寺から少々歩いたところ、祖父の家……だった場所がある。入り口は立ち入り禁止を示す黄色いロープが引かれていた。心の中で謝罪しながら、またいで中へと踏み入った。


 十年の歳月はどれほど影響を与えたことだろう。好き好んで近づく者もいないのか遊ばせ放題で、背の高い草がビッシリと生えている。


 敷地の中には入らないようにして、外側から眺める。


 思い浮かんできたのは、怒りだった。


 昨日の夜、少女が最後にいった言葉は、「ごめんなさい」。


 その後の顔は、本当に、申し訳なさそうな悲痛な顔だった。


 もしも、彼女が祖父を呪い殺したというのならば、あんな悲痛な表情を浮かべられるだろうか。呪い殺すような人間が。もう人間ではないが。


 『なん……で……わたしが……こんな……め……』


 ハマったと思っていたピースが反転するように色を変えた。


 深呼吸し、草が生い茂る土地の中へ足を踏み入れた。


 その瞬間、頭の中に強烈な声が聞こえてきた。


 「なんで私がこんな目に……」


 すさまじい爆音。それも、極上の恨みを孕んだ邪悪な。

 頭がかき乱され、強烈な頭痛を覚えて思わずその場にしゃがみ込む。


 変わっていく。色が変わっていく。背の高い緑の草が、おぞましい色の触手に。土が、腐臭を発するぬか床のように淀み、曲がり、ねじれていく。


 逆転する。悪化していく。


 恐ろしいものが、すぐそこにいる。


 


 『せっか……どれ……のに……』


 「せっかく奴隷にしてたのに……」


 


 『おうちに、かえして』


 「おうちに返して」


 


 「奴隷を返せ」


 頭に響くその言葉は。……まるで痴呆老人のような臭いがした。


 彼女は無実だった。昨日の夜の『ごめんね』の意味を理解しつつあった。


 「土地……神……!」


 今、私を苛ましているのは、遥か昔、人身御供が捧げられ、信奉していたという神様に違いなかった。


 和尚さんの言葉が蘇ってくる。


 『アタシも子供のときに初めて耳にしまして、そんなことがあるかい。って笑ったのを覚えておりますよ』


 もう、信心深いお寺の人にすら必要とされなくなっている。一般人は、尚更だろう。

 

 誰からも信じられなくなり、朽ちるのを待つだけの老いた神。


 誰からも見捨てられた、生贄を求める傲慢な神。


 こいつのせいで。


 祖父は。


 家族は。





 すさまじい頭痛を振り切ろうと、必死で両の足に力を込めようとする。

 

 そのたびに、ものすごい怒声が頭を跳ね回り、私の足が震えて力が抜けていく。

 

 「かえせ! かえせ! かえせ!」


 駄々っ子を思わせるような我儘が脳を叩いた。寝たきりになった祖父のように。


 危険だ。今更になって、私は後悔を覚えた。


 逃げないと。


 最後の力を振り絞り、立ち上がろうとしたその足が、ピクリとも動かない。


 立ち上がろうとした勢いがそのままくるぶしにかかり、骨が曲がるような強い痛みが全身を駆け抜けた。


 「な……」


 腐臭漂う黒色の地面が、まるで底なし沼のようにぬかるんでいた。

 私の足がそこにめり込んでいた。


 今日も昨日も一昨日も、雨なんか降っていない。快晴だ。


 ならなぜ、この地面は沈んでいるんだろう。土地神の力。土地に干渉する能力。


 「助け……」


 悲鳴をあげようとしたその体が叩きつけられる。全ての力を使い果たして支えを失った体が倒れたのだ。


 「にくいよぅ、にくいよぅ」


 頭をかき乱す声はまだ続いている。早くはい出さないといけないのに、動かない。どこも動かせない。


 「返してよ、私の奴隷、返して」


 ついに体が沈み始める。そのままゆっくりと後退している。震える体に鞭打って振り返ると、まるでアリジゴクのように土地全体が円錐型の穴となっていた。


 その中央、ぽっかりと空いた真っ暗な闇の中に、血走った巨大な目玉が浮かんでいた。


 「いや、いやああああ!」


 筋肉が今更のように弾け、無我夢中で手足をかく。しかし遅すぎた。体はどんどん沈んでいき、空が、遠くなっていく。


 「かえして、かえして」


 頭の中に響いた声が止んで、すぐ後ろから、聞こえてきた。


 「あなた、あなたでもいい」


 「やだ、やだ、やだ」


 もがく足が、冷たい闇に触れた。なにかに足を撫でられる。氷のように冷たかった。


 掴まれる。やだ、いやだ。お母さん。


 いったい、あの穴の向こうにはどんな世界が広がっているのだろう。


 『ごめんね』


 寺で見た少女の言葉は、生贄がいなくなってのこのこ現れた私が、あの家系の知を引く私が、どのような結末を迎えるのかを知っていたのだ。


 足が沈んでいく。沈んでいく。


 涙が、空を完全に滲ませた


 その足が、後退を止めた。


 滲みきった空に、ひとつの影があった。

 影が、私が右手に掴むお守りの紐を、硬く握っていた。


 「千里ちゃん、絶対離しちゃなんねえぞ!」


 声は、まだ聞こえてくる。 


 「おい、本当に地盤沈下してるぞ!」


 「だから近づいちゃいけないって行ったんだ」


 「この辺の子じゃないらしい。とにかく、引き上げるぞ。人手回せ!」


 多くの人に引き上げられるまで、私は無心で手のお守りを握りしめていた。




 結局、最後まで私はお坊さんのお世話になりっぱなしだった。


 私が寺を去った後、やはり心配になった彼がこっそり後をついてみると、地元では近づいてはいけないとされる場所……その理由は土地神とかではなく、地盤が脆弱であると考えられるからだと後で知った。とにかく祖父の土地に踏み入って、これはマズいと人を呼んだのだという。


 もう少し来るのが遅れていたら、私は大変なことになっていただろう。


 村の人たちから見れば、地盤沈下で生き埋めになったかわいそうな女子大生に映るだろう。でも、私と和尚は知っている。あそこに引き込まれることの真の意味を。


 それを示す社が土地の端に建てられた。立ち入りを禁じる柵は強化され、鍵がなくては入れなくなった。


 みすぼらしい社が辛うじて見えるだけの、誰も近づかず、それでいて忘れることのない場所。


 私は知った。


 復讐が果たされたのだと。







 事の成り行きを見ていた。


 か弱い幽霊の身空だから、助けるなんてことできなかったけどさ。


 でもよかった。ゲン坊のお孫さんが引き込まれなくて。冷たい土の中、魂を縛り付けられながらも、家の中で過ごす人々を想っていた。


 最初は憎しみだった。私がこんな目に遭っているのに、呑気に暮らしやがって。と。


 だけど、ゲン坊の代になってから、それは不思議と薄れていった。なぜかはわからない。時間の一言で解決しようと思えばできるような問題だろう。


 ゲン坊のおかげで私は救われたことは確かだ。それだけでいい。


 あの寺に預けられ、正式な弔いを受け、私の所属は土地神からお釈迦様へと移った。


 お釈迦さまは云った。いつでも、成仏できると。


 それでも私は、この世界をしばらく歩くことをお願いした。どうせ知り合いはみんな死んでいるし、人身御供に選んだような奴ら、会いたいわけでもなかった。


 ただ、この新鮮な世界を歩きたかった。


 土は灰色のなにかで覆われ、人が歩くたびにザッザッという頼もしい音を響かせる。家も、気が使われているのかどうかすらわからない、箱のような形のものが増えた。そんな頼りなさそうな家々が、大雨や大風をものともせずに堪えたことを私は知っている。


 人間の知恵が、土地の神を上回ったのだ。生贄を欲しがる、悪辣な神を。


 いよいよ誰からも忘れられ、あいつは十年ほど静かだった。


 消えたものだと思っていたのだが、それはどうやら違ったようだ。ゲン坊の孫を取り込もうとしたこと。そしてなにより、ゲン坊の孫がひとりで訪れたこと。


 ゲン坊は快活な男だった。十年間も一切この場所に訪れないほどに衰えるとは、到底思えなかったのだ。


 沈痛な面持ちのゲン坊の孫が来て、そして寺に向かって、私は全てを察した。


 だからあのとき、彼女に謝罪したのだ。


 老い、忘れられ、朽ちていく痴呆の神。その恨みがぶつけられるのは……嫁入りに来たゲン坊の妻ではない。死んでいる。私と和尚はお釈迦様のお膝元だ。残るは……。


 どれほど遠く離れた場所にいたのかは定かではないが、住むという繋がりを作ってしまえば、そうそう簡単に逃れられるものではない。


 奴の呪いが、ゲン坊を苛め続けたのだろう。それを考えるたびに、腹立たしい気持ちでいっぱいになる。


 でも、もう全て終わったんだ。


 最早誰も、土地神の徳など信奉していない。みすぼらしい社に面影を見て、霞のように生き永らえさせるだけだ。


 私の復讐を、ゲン坊の孫たちが果たしてくれたのだ。


 もうあいつは、神を信じないされどか細く存在は認識する、そんな人々によって、死にたくても死ねないような薄れた命を孤独に生き続けるのだろう。


 奴隷も誰もいない、冷たい土の中で。


 くるりと背を向けて、空を見る。極楽は今日も蒼い色をしている。


 私は幸せだった。

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