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Symbiotic girl 共生少女  作者: 月見里歩
1章
7/22

ハローモンスター(その3)探索

 前回の流れ。

・元の世界の夢を見たけど、起きたらやっぱり異世界だった。

・状況が悪すぎて、もはや笑うしかない。


※一部表現、内容、誤字、スペースを編集しました。

 真っ先に調べたのは厨房と、隣接する倉庫だったが、そこに食べ物は無かった。

 あるものと言えば、割れた皿の欠片以外は、焼き釜と言った備え付けの調理器具以外見当たらない。


 厨房を出ると、すぐに大きな食堂があった。戸を閉じられた窓からの光しかないので、外ほど明るくない為、よくは見えない。

 だが、昔火事があったらしく、所々が煤けていた。


 壁には、大きな地図が張られていた。

 いわゆる古地図の類で、所々に怪物の絵が描かれ、どこまで正しいのかも怪しかった上に、一部が焼けおちている。

 地図には印も何もないので、どこが現在位置なのかも分からない。

 美咲にとって現在位置と言えば、自動でピンが刺されている世代である。


 それよりも美咲の目を引いたのは、書いてある文字が、日本語や英語では無い事だった。

 美咲は薄暗い中で地図を眺めて、首をひねった。

 知っている文字と同じ形だったり、似た形の文字もあるが、既存の略字や筆記体とも違った。

 これは地図と合わせて、いよいよここが異世界である事に疑いの余地が無くなって来た。

 この調子だと、人と会っても話せない可能性の方が高い。

 そんな事を考えながらiDの翻訳機能のデータ解析を選択すると、目の前の未知の文字のパターンを調べ始めた。

 しかし、すぐに情報不足とエラー表示されてしまった。


 食堂を出ると、窓が全て閉じられた廊下を進み、とりあえず鍵が開いている部屋を片っ端から見ていった。

 そこら中が火事の爪痕で煤けていて、砦の広い範囲が火事にあった事が分かった。


 探索を続けていると、火事の被害が見られない寝室らしい簡素な部屋を見つけた。

 同じ形のベッドが沢山ある大部屋で、美咲の苦手な鼠やゴキブリが普通にいるが、その部屋を避けている余裕さえなかった。

 美咲はビビりながらも、足もとの生物を踏まない様にだけ気を付けて部屋に入った。

 何か無いか探すが、ベッドは上に藁を敷き詰めているだけのもので、布が一切使われていない為、どうやら階級が低い人達の大部屋である事が分かった。

 ベッドの他には、それぞれのベッドの足元に木箱が置かれていた。

 美咲は、宝箱を開ける様な気持ちで木箱を開けると、中にはボロ切れの様な服が仕舞われていた。

 かなりのアンモニア臭がし、吐き気がしたが、胃の中に吐く物が無い。


 美咲は、指で鼻と服をつまむと、服を床に投げ捨て、他に何か無いか箱の中を探した。

 何も使えそうなものが無いと、別のベッドの足元の木箱も物色し始め、三箱目にして綺麗かは別にして、飛びぬけた異臭がしないボロボロの男物の服を見つけた。

 持ち主の一張羅だろうと思った。


 コスプレみたいだなと思いながらも、水着の上から早速着ると、それだけでほんの少し心が満たされた気がした。

 複数の箱の中の物から推測するに、どうやらこの砦で、住み込みで働く男性の使用人が使う部屋らしく、女物の服も下着の様な物も見つからなかった。

 仮に女性用の下着を見つけても、誰の物かも分からない上に洗っていない下着を着けるのには、さすがの美咲も抵抗があるので、下には水着を着たままでいる事にした。


 他にも木箱を物色し、状態がマシな布を見つけると、無理やり裂いてから足や腕に包帯代わりに強く巻いた。

 痛みは消えないが、これで壁を使って身体を支えずに歩ける程度にはマシになった。

 服を拝借して一息ついた美咲は、次は武器が欲しいなと思った。


 心の余裕が、少しだけ生まれたのを感じた。

 昔、兄がやっているのを隣で見ていたRPGなら、真っ先に武器や薬草が手に入りそうなものなのにと思った。

 もっとも、そのRPGなら、もう少し安全で人のいる町から旅が始まっていたが、美咲は自分ではやっていないので記憶に無い。


 木箱の確認を終えた美咲は、一旦ベッドに腰をかけ、余裕ついでに状況を整理しようと思った。

 美咲が分かっている範囲で、状況を整理すると、こうなる。


・プールで泳いでいたら、突然、鍾乳洞の地底湖に移動していた。

・地底湖には、見た事の無い巨大な魚。

・無人の町には、見た事の無い凶暴な猫みたいな猿の群れ。

・逃げ込んだ町はずれの砦は無人で、中では見た事の無い地図と文字を見つけた。


 と、こんな所だった。

 テンションが上がって昨日撮影した写真を見ても、今はまるでテンションが上がらない。


「はぁ……」


 自然と溜息が出た。

 グギュルルル。

 探索で忘れようとしていたのに、腹の虫が空腹を思い出させた。

 立ち上がるのも億劫だった。


 iD内の写真を切り替えると、次に新しい写真は一昨日の誕生日を家族で祝う写真だった。

 兄がメッセージアプリで送ってくれたもので、ケーキにお寿司、ローストビーフがテーブルの上に並んでいる。

 余計に腹が減った。


「会いたいよ……」


 ポト。

 家族の写真を見て、思わず泣きそうな美咲の頭に、何かが落ちてきた。

 驚いて手で頭を掃うと、床に大きな蜘蛛が着地した。


 iDは美咲のパニックをキャッチして、自動ロックされる。

 美咲は声も出なかった。

 それは、美咲にとって蜘蛛が一番苦手な存在だったからである。


 蜘蛛の形状や動きが生理的に苦手で、ゴキブリとは戦えても、蜘蛛には近づく事さえ抵抗があった。

 美咲の気持ちも知らずに、蜘蛛はカサカサとベッドの下へ逃げて行ってしまった。

 美咲はベッドの上に足をあげて避難した。


 安心は出来ないが一息つくと、ロッテに命令して設定で自動ロックをオフにさせた。

 また蜘蛛が出たり、驚くたびにiDが操作不能になっていては、この世界では生き伸びられるとは思えない。


 グギュルルル。

 また腹が鳴った。

 そういえば、大きなタランチュラは、エビっぽい味がすると兄が言っていたのを思い出した。


「エビに、見えない事も……ないか」


 形状的には、まだカニである。

 自分で言っておいて、絶対無理だと美咲は思った。

 蜘蛛だけは、本当に勘弁して欲しかった。


 ミサキの視線が、部屋の隅をウロウロしている鼠に向かった。

 いきなり哺乳類は、ちょっとと思った。

 どんなウィルスを持ってるかも分からないしと、自分に必要の無い言い訳をする。


「はぁ……」


 どうせなら本物のエビを食べたい。

 その時、エビの尻尾とゴキブリの羽の成分が近い事を葵が言っていたのを思い出した。

 葵の人の悪い顔が思い浮かんだ。

 床をゆっくりと這う大きなゴキブリを見た。

 問題の羽は無いが、大きさが20センチはあって、食べ応えだけはありそうだった。

 羽が無く動きが遅いだけで、家で遭遇する奴らよりも気持ち悪さは少ない。


「エビ、と言うより六本足のダンゴムシか……」


 それ以前に、ここは異世界なので、ゴキブリかも怪しい。


 グギュルルル。

 腹は鳴るが、実際に行動に移す勇気は沸かなかった。

 餓死には、まだ相当の余裕がある筈だし、何よりも生理的に受け付けない。


 ほんと、家に帰りたいと思った。

 しかし、いくら願って妄想しても、状況は好転しない。

 今は、とりあえず砦の中で使えそうな物を集めないと、どうしようもない。


 食べ物が見つからないと、最悪本当にゴキブリや鼠、そして蜘蛛の味を確かめる羽目になってしまう。

 そんな現実的かつネガティブな状況整理をしていると「そう言えば……」と、砦を囲む堀にかかった橋が崩れていた事を思い出した。

 そして、他に出口はあるのだろうかと思い、同時に嫌な予感に襲われた。


 美咲は、部屋を出ると砦の上の階へ続く階段を探し始めた。

 どこにも案内図など張られていなかったが、階段はすぐに見つかった。

 一段一段が高い上に、傾斜が急で登りにくい階段を、なんとか登っていく。


 辿り着いたのは、砦の中で一番高い所にある物見の塔だった。

 そこからは、監視所らしく砦の周囲を全て見渡せた。

 しかし、そこから見えたのは、絶景と言うよりは、絶望だった。


 砦は、広く深い堀に囲まれた陸の孤島にあり、周囲には森と草原が広がっていた。

 少し離れた場所にあるさっきまで美咲が彷徨っていた町には、猫猿達と思しき影が遠くからでも確認出来た。

 見た所、堀を超える橋が架かっている所は見当たらなかった。

 つまり、状況的に「詰んでいる」のが見えた。

 出口無し、暫定だが食べ物無しの砦に、狂暴なモンスターと閉じ込められていた。


「はは・・・・・・ははははは」


 美咲は、塔の屋根を支える柱にもたれかかった。

 何もおかしくないが、本当に笑うしかない。


「こんなの、もう……」


 死ぬしか無いじゃないかと思った。

 そんな考えが一度頭をよぎると、それは頭の中で反芻され、それしか無い様にさえ思えてきた。

 そのアイディアを掻き消したのは、今や、よく知っている不快な唸り声だった。

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