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Symbiotic girl 共生少女  作者: 月見里歩
1章
11/22

ハローエレノア(その1)出会い

 前回の流れ。

・逃げ込んだ地下研究室で、モンスターに捕まった。

・バッドエンド一直線な酷い目に遭う。

・一か八かの賭けに出る。


※一部表現、内容、誤字、スペースを編集しました。

※残酷描写が出てきます。


「エレノア!」


 美咲は叫んだ。

 それは、部屋にあった日誌に書かれていた名前だった。


 猫猿達は、まだ騒ぎ抵抗する美咲に驚いた。

 だが、水槽の中に反応は無い。


「エレノア! 起きて!」


 美咲の叫んだ言葉は日本語だったが、今度は水槽内に反応があった。

 培養液が抜けて、コポコポと空気が入り、外の音が聞こえる様になったからだった。

 叫びに、名前を呼ばれ、それは確かに反応を示した。


 猫猿の一匹が、騒ぐ美咲の髪の毛を掴むと、もう一本の手で顔面を殴った。

 それでも、美咲は鼻血をドクドクと出しながら、叫び続けた。


「助けて! 起きてよ! お願いだから!」


 エレノアが何なのかは分からない。

 それでも美咲は、それを呼び続けるしか事しか出来ない。


 もう一度、猫猿が美咲を黙らせようと拳を振りおろした。

 拳は美咲の頬を殴り、口の中が切れた。


「ぐっ、たす・・・・・・っ!?」


 どんなに殴っても叫ぶのをやめない美咲に、猫猿は口を鼻ごと無理やり抑え込んだ。

 これでは、美咲もモゴモゴさえ言えない。

 と言うよりは、息さえ出来なかった。

 いくら水泳をやっていて肺活量があると言っても、肺一杯に空気を吸い込まないで我慢できる時間には限りがある。

 美咲の意識が酸欠で遠のく中、美咲が拭った水槽のガラスを覗き窓にして、美咲とエレノアの……




 目が合った。




 その瞬間だった。

 水槽の中で何かがガツンガツンと動く慌ただしい音が、部屋に響き渡った。

 すると、水槽のガラスに入っていたヒビが蜘蛛の巣状にドンドン広がっていく。


 猫猿達は騒然とした。


 水槽のガラスが一気に決壊すると、残った培養液に押し出され、水槽のガラスが床に散らばると同時に、水槽から何か巨大な物体が飛び出した。


 美咲には最初、黒い塊に見えた。

 黒い塊は、美咲を殴って口を押さえていた猫猿に勢いよく飛び付くと、美咲から猫猿を引き剥がし、美咲を飛び越えてそのままの勢いで猫猿を自重で床に押し潰した。

 押し潰された猫猿が、驚きの中で乱入者を見ようと目を見開いた。

 その目を、乱入者は長い鎌の様な物を振りおろして、一突きに潰してしまった。


 ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!


 突然の乱入者に、他の猫猿達も驚愕した。

 目を潰された猫猿は乱入者の脚を掴むと、力任せに投げつけたが、乱入者は壁と床に脚をついて難なく着地すると、間髪入れずに今度は別の猫猿に掴みかかった。


 床に倒れたままの美咲には、何が起きているのか殆どわからなかった。

 だが、自分は、何に助けを求めていたのか、その正体を見ようと目を凝らした。


 黒い塊は、細長い脚が生え、そこにはいくつかの節があり、細かい毛が生えていた。

 それは、虫の脚に見えた。

 その前脚を、最初に飛びついた猫猿の目に突き刺したのだった。

 水槽から出てきたそれは、鎧の様な外殻に包まれた巨大な蜘蛛だった。

 よりにもよって、美咲が一番苦手とする生き物に、美咲は助けを求めていたのだ。


 さらに、エレノアが普通じゃないのは、大きさだけでは無かった。

 蜘蛛の顔が本来あるべき部分から、人間の上半身が生えていたのだ。

 長い髪の毛で顔も胸も隠れているが、それは美咲よりも少し年上ぐらいの少女に見えた。


 葵や兄が見たら、アラクネと呼ぶだろうが、蜘蛛嫌いの美咲には醜悪なモンスターにしか見えていない。

 美咲がエレノアと呼んだ半分蜘蛛の少女は、猫猿達が武器を拾い構えて威嚇しても怯まず、牙をむき出しにして『ふううぅ』と野生動物の様に、姿勢を低くして猫猿達に対して威嚇し返した。


 エレノアの巨体と跳躍力、それと仲間の片眼を奪った外殻で覆われた脚を警戒して、猫猿達が美咲を放置し、エレノアから距離をとった。

 するとエレノアは、猫猿から奪った美咲を、人の腕で軽々と抱き上げた。

 人の部分は、美咲と同じぐらいの大きさだが、蜘蛛の下半身のボリュームで結構な高さがあり、美咲の足は宙に浮いた。

 骨折した腕が抱き上げられた拍子に傷んだが、美咲はそれどころでは無かった。


「……た、食べるの!?」


 美咲の目には恐怖が浮かんでいた。

 モンスターから助かろうとすがった先が、またモンスターだったのだ。

 見方によっては状況が悪化している。


 エレノアは、美咲の言葉に返す様に、髪の隙間から美咲の目を見た。

 濡れて肌にはりつく金髪の隙間から見える碧い目は、美咲ではない、別の誰かを見ていた。

 だが、それは美咲には知りようも無い事であった。


 エレノアは、おもむろに言葉を発した。


『××××××』


 美咲は、全くエレノアの言葉の意味が分からなかった。

 視界では、翻訳失敗と表示が出ている。


 だが、この状況の中でエレノアについて分かった事があった。

 言語らしき物を喋るのだから、彼女とは意思の疎通が出来る。

 そして、抱きかかえたからには、この状況で猫猿達から美咲を奪うつもりである事だ。


 今の美咲には、それだけで十分過ぎる助っ人だった。


『×××××××××』


 エレノアが美咲を見ると、また何かを言った。

 美咲には言葉の意味が分からなかったし、視界には変わらず翻訳失敗の表示が出た。

 エレノアは、蜘蛛の前脚四本を高く掲げ、威嚇の構えを取り、戦闘態勢を整えると猫猿達を威圧した。

 エレノアに抱えられながら、美咲は息を飲んだ。


 先に仕掛けてきたのは、猫猿の一匹だった。

 槍を持って、正面からエレノアに襲いかかってきた。


 エレノアは、蜘蛛の腹を股の下から猫猿に向けて曲げると、糸くぼから糸を吹きかけた。

 その不意の目つぶしに、猫猿は顔面を糸で覆われ、その場で槍を振り回し始める。

 蜘蛛の前脚が槍を払い除けると、天井に届く程に高く、もう一本の脚をあげ、猫猿の脳天に一気に突き刺した。


 美咲は思わず目を閉じた。


 猫猿は頭を刺されて、ビクンビクンと痙攣すると、力無く首から下がダランとなり、やがて動かなくなった。

 エレノアは、猫猿を脚で刺したまま、他の猫猿達に向かって脚を蹴り上げた。

 頭蓋に大穴を開けた猫猿の死体が、脳漿と血をまき散らして斧を持った猫猿の一匹にぶつかった。


 猫猿が転倒すると、エレノアは蜘蛛の脚で転倒した猫猿の足首を一突きにし、自分の方に一気に引き寄せた。

 激痛に騒ぐ猫猿が足元に来ると、もう一本の脚で猫猿の胸を床に縫い付けた。

 心臓を一突きにしたらしく、脚を引き抜くと血がダムの決壊の様に傷口からドクドクと溢れ出し、猫猿の瞳孔が開き目からは速やかに生気が失われ、だらしなく舌を出して絶命した。


 エレノアの戦闘力は、圧倒的だった。

 美咲を抱きかかえたまま、前脚だけで猫猿を立て続けに二匹も倒してしまった。


 間違いなく、頼もしい存在なのだが、美咲にはそれ以上に恐ろしかった。

 このまま猫猿が全滅したら、エレノアが美咲をどうする気なのか、そんな不安が湧いてくるのだ。

 糸で巻かれるのか、生きたままかじられるのか、それとも内臓をとかされるのか、結局食べられてしまうのではないかと、悲惨な最期ばかり想像してしまう。


 敵の残りは、大きさと態度から見てこの中ではリーダー格の、美咲を特に目の敵にしている片目になった猫猿と、その手下が四匹だった。

 だが、全てが槍や斧で武装している上に、仲間を失った事で蜘蛛の脚や糸を警戒しながらも、階段を塞ぐように陣取って、かなり厄介な相手だった。


 その時、猫猿達がギャアギャアと声をあげ始めた。

 この猫猿達は、仲間同士で会話が出来る事が分かった。

 しかし、視界には自動翻訳が起動する気配が無く、会話として認識していないのが分かった。


 二匹がエレノアを足止めする為に残って、残り三匹が地下牢へと登っていった。

 逃げたのなら良いが、あの執念深そうなリーダー格の猫猿が外に行った時に見せた笑いに、嫌な感じしかしなかった。


 残った二匹は、近くにあったテーブルを倒して、即席の盾にし、蜘蛛糸に気を付けながら、槍でエレノアの脚のリーチの外からチクチクと突いて来た。

 けれども、エレノアの脚は八本あり、槍とテーブルを退けて残った脚で攻撃する事など簡単に出来る筈だった。

 美咲も、猫猿達もそう思っていた。

 ところが、猫猿の突いた槍が美咲に当たりそうになると、なぜかエレノアがそれを嫌がって守ろうとする事に、猫猿達がいち早く気付いた。

 すると、猫猿達は連携して、隙あらば美咲を狙い始めたのだ。


 エレノア一人でならどうにでもなりそうだが、理由は分からないがエレノアは、美咲を守る事を選び続けた。

 猫猿達の思わぬ頭の良さに、血が抜けて気持ちが良くなってきている美咲は、素直に驚いた。

 もちろん、そんな感心している場合ではなかった。

 これは間違いなく、見え見えの時間稼ぎである。


 エレノアの焦りを感じ取ったのか、猫猿の一匹がもう一匹から徐々に距離を取り、そのままエレノアを挟む様に陣取ろうとした。

 エレノアは、後ろから挟まれない様に、自身が入っていた水槽ギリギリにまで後退した。

 事態が悪くなっているのが、エレノアに抱えられているだけの美咲にも分かった。

 こうなると、猫猿が全滅した時の心配なんてしている場合ではない。

 とりあえずエレノアには勝って貰わなければ困る。


 ギャギャギャア!!


 その時、地下牢に凱旋の声が響いた。

 階段を下りてきた三匹の猫猿達は、それぞれリーダーはクロスボウを、手下二匹は弓矢を持っていた。

 どうやら、槍と言い斧と言い、今回の飛び道具と言い、猫猿達は砦の武器庫を見つけていた様だった。

 これには、エレノアも驚き、美咲の顔も一気に青ざめていった。

 今回で、ようやく美咲とエレノアが出会いました。

 美咲が自身の不思議な能力に目覚めるのは「ハローエレノア(その3)走馬灯」からです。

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