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花々繽紛タリ 作者:ちえつ

序の巻「はじまり」

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「暗夜」

 厚い雲が、天上の月を覆い隠す夜。
 店先に吊るされた提灯でほんのりと赤く染まった道を通り抜けると、とたんに一寸先すら覚束ない闇夜になる。
 入れ替わりに柳の葉がさわさわと鳴り、水音がさらさらと流れるかすかな音が忍び入ってくる。源へと進むほどにその音は確かになり、緑と水の匂いが濃くなっていく。酒で火照った身体にまとわりつく空気がしっとり、ひんやりとしていく。

 川があるのだ。

 夜闇に目が慣れてくると、行き先に弧状の橋が架かっているのが見えてくる。橋の半ばまでいくと、橋の向こうに紅灯の明かりがまあるく、ぽ・ぽ・ぽと浮かんでいるさまが分かるだろう。ここは東の都『楽南』の花街、いわゆる不夜城だ。

 雲が切れた。

 暗闇が一転、満ちた月が隅々までを照らし出す。
 下手な鼻歌を歌いながら千鳥足で橋を渡っていた男の足元が、ふらついた。「おっとっと」
 縺れた足取りのまま勢いよく橋の欄干にぶつかった。欄干に肩口から勢いよくあたった反動で身体がひっくり返り、男は川面を覗き込む形で欄干に覆いかぶさった。
「危ねえ危ねえ」
 さすがにひやりとして、男は身を起こそうと欄干に両手をかけ――気づいた。
 月光を浴び、煌めきながらさらさらと水が流れていく川面に不自然な影がある。
 なんだ? あの盛り上がっているものは。
 木か? それに流れに任せて揺れるあれは藻か? だがこの川に藻など……。

 いや待て、あの形。あれは木なんかじゃない。あれは――!

 泣き声とも獣の咆哮とも思える無様な叫びが、辺り中に響き渡った。

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