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2 お城へ

 ただいま、馬車に揺られてお城へと連行されています。

 婚約者候補として、1度王様達に紹介がしたいんだとか。

 もちろん最初は断った。頑なに何度も断った。しかしどんなに断っても、レイド王子の押しは凄まじかった。

 何でも、この前のお祭りで楽しそうにコロコロ転がる私に一目ぼれしたんだそうな。お祭りでコロコロと言うと、出店のジェラートを食べてキーンとして転がってた時の事か。あ、ちなみに食事はヘタの所をカポッと開けて、そこに食べ物を放り込みます。

 兄のシークを通じて家が判明。ここに至るんだそうです。


「あの、王子。私はみかんなのですが」

「知ってる。レイドって呼んで? シトラス」

「そういうわけには参りません」


 仮にも一国の王子。呼び捨てだなんてとんでもない。同じ馬車に乗ってるだけでも大問題なのだ。レイド王子の押しに、食い下がる兵士達。

 優しく私の皮を撫でながら、王子はため息をつく。


「つやつやとしていて、本当に美しい体だね」

「……ありがとうございます」

「そんなに緊張しないで? 大丈夫、もうすぐお城に着くからね。シークもいるよ」

「兄さんが?」


 お城に着いて馬車から降りると、兄が立っていました。

 何故か怖い顔をしている兄が、レイド王子に詰め寄る。


「シトラスに何もしていないだろうな?」


 に、ににに兄さん!?王子様相手に何て口の利き方を!冷や汗をかく私を尻目に、笑いながら王子は返す。


「もちろん。君の言う通り、シトラス本人からお許しを得ない限り手を出したりしないよ」


 手を出すってみかん的にどこからなんでしょうか。皮を剥くのは駄目とか?ヘタを触るのは駄目とか?そんな事を考えていると、真面目な口調で兄が私に言った。


「シトラス。相手が王子様だからって、気後れすることない。よく考えて、幸せに――」


 そこまで言った所で、兄は後ろを向いて顔を下に向けた。目頭を押さえているところから見ると、感極まっている様子です。

 ……両親からもさっき同じこと言われた気がする。

 どうしてそこまで私の事を認められるのか。みかんだよ?


「あの、私はみかんなのですが」


 大事な事なのでもう1回言っておく。するとレイド王子は真剣な表情とともに口を開いた。


「分かっているよ、シトラス。でももう君以外に考えられないんだ。絶対に振り向かせて見せるからね」


 破壊力がものすごいです。みかんじゃなかったらコロッと行っていると思う。

 城の中に通されて、謁見の間の前で待機しています。

 人間だったなら思いきり飾り立てて王様の前に出るんだろうけど、私はそのまま。みかん用のドレスなどあるわけもなく、悲しそうに謝られました。

 扉の向こうに、レイド王子の声が響いた。


「この方が、私の将来を誓いたいただ1人の女性です。おいで、シトラス」


 白い両開きの扉が、開かれる。

 コロコロ。失礼します。ヘタについている1枚の葉っぱをぴんと伸ばし、口を開いた。


「シトラス=ユーシュと申します」


 頭を下げたい所だけど、みかんなんです、ごめんなさい。ユーシュは家名になります。


「おお、これは何と立派なみかんだ。レイドが気にするわけだな」


 王様……。この王様にしてこの王子あり、という事でしょうか。

 その隣にいた王妃のみが、普通といえる反応を示した。


「ああっ、本当にどう見てもみかんではありませんか。レイド、一体どうしたというのです?」


 そうつぶやくと、王妃様は意識を失うように倒れ込んだ。

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