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「無駄だ……私はもう、助からない……」


 横たわった彼女が、感情の薄い声音で言った。


「いいから、喋らないでくれ……」


 彼女の顔も見ずに、僕は歯を食いしばる。


 僕は彼女の横腹に開いた大穴を布で押さえながら、なけなしの魔力で治癒魔法を発動し続ける。僕が使える中で最も高い回復力を誇る魔法だが、それをいくら注いでも、傷口から溢れる血は止まる気配も無い。


「……なぜ、私はお前に、看取られているのだろうな」


 弱々しく自嘲すると、僕と共に傷口を押さえていた彼女の手が地面に落ちた。


「……っ! 今はそんなこと、どうだって良いだろう!!」


 集中力が乱れたせいか、魔法の光が点滅した。


「……なぁ……私は……」


 ゆっくりと、噛み締めるように彼女は言う。


「……なんのために、生きていたのだろうな」


 消え入るような声で漏らした弱音に、僕は何も返せなかった。無言のまま、もはや消えている時間のほうが長くなった回復魔法を駆使し続ける。


 ふと、誰かが僕の肩を叩いた。


 振り向いた先に居たのは、悪縁の王宮騎士だ。金だったはずの鎧が、何かの返り血によって玉虫色に反射している。


「……あれ、カゲ達は……?」


 僕が問うと、彼は少し間を置いて、治療中である彼女の顔を一瞥し、目を細めてから、また僕を見た。


「消えたよ……多分、そいつが死んだから」


 僕は黙った。黙るしか出来なかった。


 恐る恐る彼女のほうに視線を戻す。何故だろう、何が変わったわけでも無いのに、世界が色を失った。モノクロの景色の中で、魔法を駆使していた僕の手から光が消える。


 そこでようやく、僕は彼女の顔を見た。


 彼女は、涙を流したまま、息絶えていた。

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