プロローグ
「や、やめてくれ!命だけはどうか!」
薄暗く入り組んだ路地の一角で目の前の男は懇願した。
「情けないねえ。それでもマフィアの一員かい?」
先に返答したのはブロンドだった。
ブロンドは仕事上の相棒、パートナーといった存在だ。
「お前、知ってるぞ!ブロンドって名前の女執行官だろ!」
その綺麗な金色の長髪から名付けられたコードネームは、あまりにも安易すぎてマフィアの連中には広く知れ渡ってしまっていた。
「私もついに有名人かねえ。まあでも、これから死んでいく者たちには関係のない話だわね」
そう話しながら振り向いた先には、多数の死体が転がっていた。
額に銃弾を浴び、一言も喋らないマネキンと化したマフィアの連中が。
「おれはほんとに何も知らねえんだ!だから頼む!見逃してくれ!」
最後の一人になってしまった彼は、いつ自分もああなってしまうかという思いで恐怖に支配されているのだろう。
声は擦れ、上ずっている。
「そうは言われてもねえ。情報を持ってない奴は皆殺しがうちのボスの指示だから」
今日のブロンドはよく喋る。
新しいダイエット法が成功した時や新しい服を買った時はいつもこれだ。
これだから女は、なんて言ってやりたい。
「わ、分かった!じゃあ取引をしよう!おれがも」
パーン
一発の銃声が鳴り響いた。
その音は、最後の男のこめかみに開いた穴に吸い込まれていくかのようにゆっくりと消えていった。
「ぐだぐだうるさいわねえ。これだから情報を持ってない奴は」
「容赦ないなあ」
思わず言葉が漏れる。
「しょうもない時間稼ぎには付き合ってられないのよ。さ、帰りましょ」
そう言ってブロンドは歩き出した。
確かにその通りだ。
僕たちの仕事は有限なのだから。
「ああ、そろそろ時間だしな」
僕も歩き出す。
これが僕たちの仕事。
僕たちは日々悪と戦っている。
・・・夢の中で。