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「どうですか?」と、ルーフィ。
「はい。反物質融合の式はわかるけど。
エネルギーが必要ですね、物理でやるには」と、加藤。
「うん。たぶん、スウェーデンにある巨大加速機くらいのものでないと」と、ルーフィ。
ここは、イギリス、ロンドン郊外の
元々、ルーフィが住んでいた家。
めぐのところへ旅する前、ルーフィは
魔法を得て、ここから旅立った。
いまは、、魔法を失って
ふつうの人間みたいに、Westbarryの(めぐの家とは並列異空間の、つまり、ふつうの3次元の)Megの家にホームステイ。
神様と、ななと、加藤が魔法調査(笑)に来て
それで、ななのオレンジいろのマーチでドライブ(と言っても時空間移動だけど)してきた。
「うむ。そこは魔法なんじゃな。科学では見つかっていない定義なんじゃ。並列時空間へ、ひょい、と飛び越えるのは。」
神様は、のんびりと話す。
「酵素なんかも、人体では簡単に化学反応を起こすが、ケミカルで同じ事をするのは面倒じゃな。触媒もそうじゃし。これも一緒じゃ」と
神様は、のんびりと言って
「初めて見るもの、って珍しいもんじゃ。
そのうちに慣れる。ルーフィだって、元々魔法で作られたのに、いまは、人間みたいになったしのぉ」と、神様は、笑顔で。
「新しい手法があるって事なんですね」と、加藤。
「まあ、自分自身については簡単に変えられるな」と、神様。
「そうなんですね」と、ルーフィ。
「ルーフィ、君自身も魔法使いから人間になったな」と、神様。
「どうしてなんでしょうね?自分でもわからない」と、ルーフィ。
「まあ、そういうものじゃよ。不思議な事が
誰の身の上にも起こる事もある。それは、超科学、かもしれんな」と、神様。
「ルーフィ君が生きているのも、そのひとつじゃな」と、神様。
「僕の、ですか?」と、ルーフィは驚く。
「そういえば、僕はもう消えていいはずなんですね」と、ルーフィは思い出したように。
「うむ。あの、めぐと言う娘がな、君に恩返しをしたかったんじゃろう。神たちに力を貸してくれたんじゃな。それで、ルーフィ君は
消えずに済んだ」
と、神様は事もなげに言う。
ルーフィは、思う。
みんなが、優しい。
誰かのためにと、がんばっている。
僕は、なにをしたらいいのだろう?
「なんのお話ですか?」と、加藤は尋ねる。
神様は、笑って「いやぁ、神たちには仕事があってな。その手伝いをしてもらったんじゃ」と
分かったようなわからないような(笑)。
「もともと、ルーフィ君は魔法使いの弟子じゃった。ひとりの人間として生きて行くのは
ちょっとできなかった。それを、あの
めぐと言う娘が可能にしたんじゃな」と、神様。
世の中の争いを起こしてるのは、みんな、人間たちの欲、なので
神経回路、オキシとしんの活性で
思いやる気持ちになってもらおう。
そういう、神様たちの術だった。
オキシとしんは、赤ちゃんを育てるための
動物に備わっている回路。
それを、思い出せば、心は
思いやりに根付く。
「でも、こっちの国はあんまり闘争的じゃないですね」と、加藤。
「まあ、こっちは古い国じゃから。もう、争いは飽きたんじゃろ」と、神様。
人間が発生して、食べ物を交換するのに
貨幣を作った。
いまは、その貨幣=食べ物じゃない。
貨幣ってのは、それぞれの国が適当に作っておる。
なので、人々は貨幣を手にしても
貯蓄しても、それでどの程度食べて行けるか
分からない。
こんな不安定な事だから、際限無く富を求めるし
欠乏が卑しいと思ったりもする。
野生の心からすると、おかしな事だ。
富んでいるから威張っていい、なんて心は
そもそも欠乏に怯えているから。
富とか欠乏とかを、人間の作った貨幣の量で
決めている。
でも、その貨幣は
国家がそれぞれ、適当に作っているのだから
(笑)そんな、へんてこりんな価値観はないな。
と、神様は言って
「こっちは、もう、侵略者はいないんじゃな。
地続きじゃし、どこに行っても同じと分かっておる。」
「侵略をしている者に、飢えた民族はいないんじゃよ。みんな、欲に駆られてるだけで。
じゃから、わしらはその人間の欲を、禁止するのではなくて、欲が起きないようにしたんじゃな、あちらの世界では」と、神様は
並列世界の向こうで起こっている事を告げた。
もともと、生き物が持っている
種の保存のための、オキシとしん回路。
同じ人類なら、誰にでも動物として持っている性質。
それが、貨幣とか経済なんて言う欲望を生む人工の仕組みに負けるはずはない。
そのためには、まず心が変わって。
その後、国が変わる、経済が変わる。
「そうなるはずじゃがな。まあ、人間のする事はわからん。ルーフィ君ならわかるかもしれんがの」と、神様は笑った。
「僕は、科学者だから経済とかには
あまり関心がないけれど、確かにそうですね。
ひとの欲望、そういうものが過剰なのは
現実を見ていないからだ、と思う。だから、僕は反物質を制御する研究をする。物質が作り出せるなら、争う事もなくなる。貧富も上下もなくなる。傷つく人々もいなくなる。だって、無限にエネルギーが得られるんだ。」加藤は
科学者らしくファンタジックに語った。
「手始めに、この考え方で高温超電導を開発します。すぐできそうだ」と、加藤は早くも研究を頭の中で始めている。
若いと言うのはいいものだ、と
神様は思う(笑)。
「こちらの世界は、別に闘争的かって言われると
そんな風に感じませんね」と、加藤。
「そりゃ、まあUnited Kingdomだし」と
ルーフィは楽しそうに、誇らしげにイギリスを
主張した。
「紳士の国、って事だね」と、加藤。
「うん、まあ、あっちの世界もね、ヨーロッパは変わらないね。もう、争うのも飽きてるし」とは、ルーフィ。
「アジアの極東は、暖かい気候だから活動的なんだよ」とは、ルーフィ。
楽観的なのは、持ち前の性格だろう。
[向こうの世界]では、神様が少し憂いて
人々の気持ちを変えよう、としたから
変化は起きていた。
例えば、ななたちの元いた職場の渡来人、大塚は
顔つきから変わってしまって、尖んがり頭も
茶髪もやめ、ただの太った青年になった。
彼の心にいつもあった焦りのような感情は
神様の術で消え去ったし
別に、誰に何を言われても激怒したり
些細な事で腹も立たなくなった。
そういう小さな変化が積み重なって、国も
変わっていく。
Kingdom Of Koreaは崩壊し、王朝もきえた。支持者がいなくなったからである。
排他的に攻撃する気持ちが、人々に起こらなくなったからで
同様に、イスラム国とか、テロ集団なども
消えて行った。
元々、攻撃したい気持ちの人々が
敵を求めて集まるもの、だったから
敵なんていないし、敵にも家族があって
子供もいる、などと思えば
襲撃テロなどできるはずも無かった。
神様の薬が効いてきたのだろう。
ロンドンの郊外は、日本で言うと
田舎、と言う感じで
緑がたくさん、道路もまばら。
「落ち着きますね」なな。
「日本は、頑張りすぎたからな」と、神様。
「まあ、代わりに便利になったんだけど」と
ルーフィ。
東京よりも北だから、寒い。
「札幌かしら」と、なな。
「ビール園かな」と、ルーフィ。
「人間らしい言葉じゃな」と、神様。
加藤は思う。
イギリスは落ち着いている。かつて
闘争を繰り返し、もう、飽きた(笑)のだろう。
世界中、どこに行っても侵略できる土地など
もうないのだ、と言う事。
新しい土地ではなくて、次元を超えて旅ができれば
移民も起こるだろう。
反物質融合技術が確立すれば、エネルギーが
得られる。
侵略など必要ないのだ、と。
核物質も要らなくなる。
廃棄物も、反応で消去させられる。
科学者としての彼のイメージは、ファンタジックだ。