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もとは踏切だった、京浜急行の
3階建ての線路の側を歩いて。
ジョナサンとななは、その中華のお店に入る。
いらっしゃい、と
青年の中国の人が、変わった日本語で
ごあいさつ。
普段の昼間は、11時からなんだけど
早く来ても、入れてくれる。
でも、仕込みが間に合わないと
なかなか料理が出てこない(笑)
そういう曖昧なところも、おおらかに
思える。
時間に追われたりしないし、追いもしない。
広いところで育った人なのだろう。
もっとも、お店を出したのは
八木さん、と言う
日本人なのだけれども。
ジョナサンは言う。
「餃子は、面白い食べ物。
焼いても煮ても美味しい。」
ななは笑顔。「ここのは、焼き餃子も茹で餃子も美味しいの。蒸し餃子、そうそう、スープ餃子もあって」と、少しだけ
先輩(笑)。
科学の子供、ジョナサンは
ジェントルマンだから
身構えなくて気楽だと
ななは思う。
いつも、男の子は
なんとなく危ない感じがしたけれど
加藤さんと、ジョナサンは違うな、なんて
つい、思ってしまう
ななだった。
そのお店は、ふつうのラーメン屋さんに
見える。
いろんな料理番組とかで紹介されているらしく
写真が壁にたくさん貼られていたり。
でも、気取らず
餃子も6つで300えん、と
安かったりするし
ラーメンとチャーハンとセットで700円、なんて
ふつうのラーメン屋さん。
味は、中国ふうなので
日本人には少し薄味に感じるらしく
醤油をかけて食べてる人もいる(笑)。
そういえば、味覚もひとそれぞれ。
茹で餃子は、つるつるしてるので
落とさないように(笑)。
手作りの皮と、中のお肉。
スープが入っていて、とても美味しい。
鶏肉がベースみたい。
ななは、美味しく頂く。
ジョナサンも、お箸を上手に使って。
調理場では、中国語が飛び交っている。
めいめいに、楽しそうなのは
国際的な職場らしい感じ。
割と、ちょっと前の日本だったら
誰か、仕切りたがる人が
勝手になんでも決めてしまう、なんて
事もあったけれど
それは、お金を出しているから、とか
お金儲けのため、なんて嘘ついて
本当は、仕切りたがる人は
人を支配したつもりでいたのだから(笑)
愚かしい事だ、と
ななも思う。
どこまで行っても支配なんてできないし
軽蔑されるだけだ、と
思う。
今は、貨幣のなくなった世界で
そういう事がなくなって、よかったと
ななは思う。
資本家もいなければ、仕切りたがる人が
仕切る理由もない(笑)のだ。
ジョナサンの言葉は、意外だった。
「まだ、お金があった頃の
お金持ちにも、いい人もいたんですね。
日本に帰る日本人を助けたりして。
お金が悪い訳でもない。
使い方ひとつなんですね。」
科学の子供達、ジョナサン。
客観的である。
その、経済革命のおかげで
ジョナサンは、人間からではなく
人工環境から生まれた、母を知らない子供達として
生まれて来た。
でも、貧しい家庭で望まれない子供として
生まれたら
ジョナサンは、穏やかな子供にはなれなかっただろう。
格差を作る貨幣取引などの投機性は
やはり、間違いなのだ。
ななは、ジョナサンの言葉を
実感として頷ける。
心が歪んでしまっている、派遣先の人。
経済格差のせいで、媚びてでも生き延びようとする人たち。
そんなにまでして生きたくないとまで、ななは
思った。
だから、派遣社員を辞めたんだった。
派遣という制度は、元々違法な
労働賃金の中間搾取、を
法律を曲げて合法にした制度だったから
そもそも、賃金と言うか
貨幣がなくなれば存在できないし
神様の薬のおかげで、政治も正常になり
この国では、法律を昔に戻して
派遣制度自体がなくなった。
だから、ななのそれも
昔話になったのだけれども。
ジョナサンは、美味しそうにラーメンを食べている。
何も入っていないラーメンだけれども
美味しい。そして安いのが
魅力的なのか、いつも人気の350円ラーメンだ。
物を食べて美味しいと思うのは
それも、生物として生きてきた長い歴史で
記憶してきたもの、だ。
なぜ?美味しいと思うのかは、根拠がない。
それを美味しいと思う事で、生命として
続いていられるから、なのだろうけれど。
「中国の人にも、優しい人がいたのね」と
ななは、お金持ちの中国人が
日本でラーメンのお店を開く時に、手助けを
してくれた事に、そう感想した。
「日本では昔、国がそうだったと聞いています。銀行を国が保護して、会社を始める人を保護した。」
中国では、そういう事ができないので
日本に来て、中国から来た日本人にまで
親切にした。
「彼らは、知っているのですね。
かつて日本人を装って、アジアを侵略した
大陸から渡った人々の事を」と、ジョナサンは言った。
アメリカでは誰もが知っている事らしい。
ななは、学校で習わなかったその事を
初めて聞いて「そうなんだ。」
「元々、大陸から日本に渡った人達が
最後、日本を征服するための戦争だったんです。北日本がロシア、南日本が中国や韓国の領土になる計画だったので、アメリカが原爆を
落として、無理矢理戦争を終わりにした。
でも、今はもう過去の事です。
貨幣流通経済革命のおかげで、世界はひとつ
になったんだから」と、ジョナサンは
楽しそうに言う。
そう、お金も道具だし
法律も道具だ。
使う人間の心次第で、武器にも凶器にもなる。
世の中が変わっても、それは変わらない。
美味しいものを作ろう、そういう気持ちの
人達だから、誰かが助けてくれる。
それで、お店を作れば
美味しいものが食べたい人が来る。
それは、ふつうの事だった。
ジョナサンも、美味しいラーメンに
喜んだ。
「旅してきてよかったと思います」
ジョナサンは言葉が綺麗だ。
「ほんとね。ここでないと食べられないもの」と、ななもにっこり。
喜んでいるジョナサンを見ていて
ななもうれしい。
人と人の気持ちって、そういうものだ。
ななは思う。
ちょっと前まで、自分を守るのに
精一杯だったけど
今は、そんな事はどうでもいい事みたいに
平和だ。
無理矢理、悪い人達の仲間にさせられてまで
働いてた日々が、あった事すら
遠い記憶の彼方。
これが、本当の人間の暮らしなの?
そんなふうに思う。
ジョナサンは、餃子を
美味しそうに食べていて
「変なアメリカンっ」と、ななが言うと
「チャイニーズじゃないね」と、ジョナサンは
ユーモア。
そういう返答の仕方は、なんとなく
加藤に似ているな、と
ななは思う。
落ち着いた、年上の加藤は
ななにとって、なんとなく
安心できる存在だった。
ジョナサンは年上じゃないと思うけど(笑)
でも、落ち着いた雰囲気に
ななh、少し安心。
ななのお父さんも、記憶の彼方では
落ち着いていたような気もしたけど
日本の経済が、資本家のために
なってしまったあたりから
お父さんは、ななにとって
安心できる存在でなくなった。
そのくらい、子育てには
お金がかかるのに
その頃の日本は、投資家の希望で
庶民の雇用を不安定にする、派遣制度を
導入したのだった。
それも、今は昔話になるけれども
日本では、遠い昔に
労務賃金をピンハネする事が横行していた。
仕事をしないとお金をもらえないから
貧しい人達は、やむを得ず
ピンハネに甘んじていたので
法律でそれを禁じた。
ところが、昭和の終わり頃
お金儲けの為に、当時の政治が
ピンハネを一部認めた。
それが派遣と言う制度である。
同じ会社で同じ仕事をしているのに
正社員が高い賃金で、派遣は安い賃金。
あろう事か、正社員が差別やイジメの理由に
派遣社員の雇用不安を用いたりする。
そんな世の中を無くそうと、加藤は
貨幣制度を破壊したし
神様の薬のおかげで、変な制度もなくなった。
おかげで、ななものんびりしていられる訳なのだけど。
「ななさんって、スザンヌさんに似てますね」と、ジョナサンは、突然面白い事を言う。
ななは、ラーメンを食べ終えて
お茶を飲んでたけれど
そう?ニコニコしてるから?」ななは
仕事をしなくてもいいので、自然に笑顔(笑)。
「おおースザンヌー待ってておくれー♪」と
ジョナサンは、間違った歌詞で歌う(笑)。
「それはスザンな」と、ななも笑う。
短い髪の中国の青年は、言葉が
あまりよくわからないらしいけれど
調理場の方から、ジョナサンたちを見て
笑った。
自然に笑顔がこぼれるのって、いいな、と
ななは思う。
みんなが、和やかだ。
それも、みんな加藤さんのおかげかな、なんて
ななは大袈裟に思ったり。
ななは、ジョナサンと話していて
落ち着くな、と思った。
「ジョナサンは、大人ね」と言うと
「僕は、Adultですか、じゃあ、
アダルトムービー、みてもいいのですね」と
ジョナサンは軽妙だ。
ななは、笑って「それは、まだ」
「そうですね、レディの好むものではないです」と、ジョナサンは楽しそう。
ななの思う、落ち着いた感じは
公平にものを考えて、自分が間違ったら正す。
そういう、当たり前の感覚なのだけれども
損得や、自己顕示でものを考える
人達にはない感覚だ。
派遣先で出会った人達のように
理由もなく年長の正社員が
派遣を卑下したりとか
重役の奥さんがパートに出てきて
嫌いな派遣に違法なイジメをしたりとか
そういう、悪い事は
絶対にしないだろうな、と思わせるような
そういう落ち着き。
昔の日本人は、みんなそれを持っていた。
アメリカンだって、公平なのを
好んだものだった。
それが壊れはじめたのが、アメリカの通貨を
金、と言う貴金属と
交換できなくした1970年だった。
客観的な基準のない通貨、ドルが
ただ使われている、と言うだけで
価値として扱われる。
そういう、あやふやなものを
基準に生活が営まれるから
安定しないし、損得に気をつけていないと
ならない。
そういう気分だから、善悪より
損得、どちらかと言うと
悪い事していた方が得、みたいな
気持ちになるのだろう。
ななは、過ぎた時を思い出して
そう思う。
それは、ななも知らない事だけれども
動物的な感覚だ。
弱い人に思いやり、共に生きていくのが
人間である。
例えば病気の人には配慮が必要だし
強い者は、弱い者を助けるのが生き物の
群れ、である。
そういう、人間に進化する前の
類人猿ひと科だった記憶が、誰にでもあるから
例えば、捨て猫がいたら施したりもする。
そうすると、心が安らいだりするのは
600万年以前の記憶である。
僅か、一万年にも満たない
人間社会や経済の理屈で
損したくないから、弱い者を踏み付けるとか
正社員だから、派遣を感情的に攻撃したりとか
ななのような女の子を、思い通りにしたいから
仕事が終わってから、管理職が
会社に呼び出したりとか
そういう、幼稚な事を
いい歳をした人間がするのは
明らかに間違いだし、それは
人間以前の感情である(笑)。
そういう事を日本でするのは、実は
迫害されて大陸を追われた渡来人が
日本人に化けてしているのだけれど(笑)
言い方を変えれば、人類以前の感覚である。
攻撃する刺激に耽溺してしまっていると言う
病的な状態なので
そうではない健康的な、平等さを持っている
ジョナサンに安心する、ななである。
それは、もちろん
貨幣流通経済がなくなった事が理由でもあるけれど
このラーメン屋さんで働いている人達のように
さほど裕福でなくても、例えば
食べ物を料理する楽しみとか
そんな、ささやかな楽しみでも
心を豊かに生きて行けるものなのだ。
食材は、生命体なので
食材から見れば人間の攻撃、なのだけれども
生きる為の必然である。
正社員の派遣イジメと大きく違う事は
その正社員にとって、派遣イジメは
生命維持に役立たないし
正社員にとっても心の健康を損ねる
行為である、不健康な行為だと
言う事であるし
そんなものを合法にした、かつての
日本、実は
日本人に化けた渡来人の末裔がしでかした
事、なのだけれども
そのせいで、結局不況が長く続き
経済が破綻する訳だが(笑)
それこそが、大陸からの渡来人の
狙いであった。
日本を経済的に占領することが。
そして、永遠のエネルギーを得て
人間は自由になった。
家督も、相続も必要ないし
貯蓄も富も要らない。
元々、動物的な排他意識で
富や名誉欲、などがあった訳だが
そもそも排他は、利己である。
生き残る、自分だけが。
そういう、生命発祥からの記憶と
比較進化論的には説かれる。だが
人間は環境順応性が高いし、論理を持つ。
永遠にエネルギーが得られれば、争う必然は
無いのである。
無意味に争うのを好むのは、被虐体験の
ある傷ついた心の持ち主くらいだし
そういう人を作らないために、国家が
人工成育を始め
ジョナサンのような人が生まれる。
ななのような旧世代でも、働く事なく
ストレスのない社会なら、意味もなく
争う事もないから、平穏である。
つまり、古い社会で争ったり
自己顕示を好む人たちは
皆、経済に抑圧されていた悲しい人達
だったのである。