1174
東京駅に定刻、7時6分に着いたサンライズエクスプレスは
特に、疲れた様子も見せないから
神様には、ちょっと不思議に思ったりもする。
「八百万の神様、と言うがのぉ。
電車に魂があるとすれば、疲れるかもしれん、
夜通し走れば」と
神様は、人間っぽい事を思いながら
クリーム色のボディを撫でた。
先頭を、顔に見える電車の14号車は
ファニーフェイス。
笑顔のように見えるところが、どことなく
神様は気に入って。
「かわいいのぉ」と、つぶやくと
背中に気配を感じて、神様は振り返る。
小柄な女の子がひとり。
細身だけれでも、丸顔でちょっとブラウンかかった
髪は、ボブ。
微笑んでいて、丸いめがねの瞳も、にこにこ。
短いスカートに、レギンス。
ファニーフェイスは、サンライズエクスプレスのようだ(笑)。
ちょっと、頬がピンクで。
「あ、あぁ、電車がの、一晩中走っていて
ご苦労様っての」
と、神様は、なぜか説明調(笑)
若い女の子は苦手である(笑)、かわいいと
思うと
どうしていいかわからなくなる(笑)。
その女の子は、くすっ、と笑って
「優しいんですね」と。
神様は、なんとなく、どぎまぎ(笑)。
「あ、ああ?そうか?」と。
なんとなく笑顔になると、女の子は
とてとて、と歩み寄って
サンライズエクスプレスの、ライトのあたりに
触れて。
「ずっと、夜通し走ってくれたんですね」と
神様の方を見上げた。
「この列車に乗ってきたの?」と
神様が言うと
はい、と
女の子は笑顔で
「少し、お休みが出来たので」と
言った、彼女の笑顔が
神様には、揺らいで見えて。
「あ、あれ?」
地震だと思ったけれど
神様自身が、揺れていた。
10番ホームから、線路に落っこちそうになって
285系電車、サンライズエクスプレスの
先頭に手をついて。
持ちこたえた神様だったけど
とっさに、小柄な女の子は
神様を支えて
ホームの端っこで、下敷きになりかけていた。
「だいじょうぶかの?すまんのぉ」神様は
質量がないので、潰す心配はない(笑)。
女の子は、めがねを半分ずりおとしながら
にっこり笑った。
「びっくりしました!すごく軽いんですね、おじさま。」と、女の子は
めがねをなおして。
にっこり。
「いつもはコンタクトレンズなんだけど、今日はめがねなんです。あられちゃんみたいでしょ?」と
女の子は、にこにこしながら話すので
神様も、にこにこ。
こういう笑顔の女の子には、神様だって
かなわない(笑)。
うんうん、とうなづきながら。
「まだ、旅は途中かの?」と、神様は尋ねる。
女の子は、かぶりを振って「出雲から戻って、おしまい!」と言うので
神様は「では、モーニングでもいかがかな?
めがねちゃん」と、にっこり。
「あ、あたし、ななです。さいとう、なな」と
ちょっと恥ずかしそうに名乗る、女の子。
東京駅のアナウンスが、回送、サンライズエクスプレスが
引き上げてゆく事を告げた。
いつのまにか、先頭だった14号車にテールランプが点っていた。
ななは、そのテールを
感慨深げに見た。
「おじさま、日本語がお上手なのですね」と
ななは、楽しそう。
ずっと、個室寝台車でひとりだったから
おしゃべりをしたいのかもしれない。
285系電車、サンライズは
回送表示で、静かに東京駅を出発。
「あーあ、終わっちゃった」と、
ななは、ちょっと名残惜しそうに
ベージュの電車を見送った。
朝の風が、ふたりの間を吹き抜ける。
小さなレザーの、茶色いリュックサックだけの
ななは、なんとなく遠足の小学生みたいだ。
カーブを曲がって、見えなくなるまで
電車を見送った、ななのお腹が鳴って(笑)
ななは、お腹をおさえて笑った。
「さ、じゃあ、ななちゃんかのぉ、
モーニングでも」と、神様は言って
「はい。あたし、夕べから何も」と言って
にこにこ。
10番ホームにはなぜか付いている、銀の鈴へのエレベーター。
最後の寝台列車のホーム、だからか。
そこに、神様は
ななとふたりで乗った。
「ご旅行ですか?日本に」と、ななは
もちろん日本人ふうではない、背の高い
神様を見上げながら。
「わしか?出雲にな。神様の会議」と
神様は本当の事を言った。
ななは、楽しそうに笑い「神無月、って。
それじゃ、おじさまは神様なのね」と
ユーモアだと思って、言葉を返す。
機転の効く子じゃ、と
「ななちゃんは、お話が上手じゃの」と
神様は返答した。
エレベーターが地下、銀の鈴に着いた。
「はい、あたし。話すお仕事だったから」
ななは、にこにこしながら
エレベーターを下りた。
銀の鈴の前に、コーヒースタンドはあるけれど
朝は、オフィス街みたいで
ちょっとせわしい。
神様は、ななと
ゆっくり話がしてみたかったから
地下道の先にあるエスカレーターで
地上に上がり、来る時に寄った
日本食堂に向かった。
「話す仕事?アナウンサーとか?」と
神様は、可愛らしいななの様子を見て
レポーターかな、旅番組の、とか
思ったり(笑)。
ななは、にこにこしながら「いいえ、コールセンターの、電話かかりだったの」と
すこし、口調が砕けて。
それから、すこし、笑顔が曇り空。
神様は、何か思い出があるのかな、と
伺いながら、こじんまりとした
ノースコートの、日本食堂の扉を押した。
7時から営業していることは、意外に
知られていない。
いらっしゃいませ、と
朝でも格調高い洋食のお店で
ななは、それでも気後れする事なく。
「素敵なお店」と
笑顔に戻って。
神様に続いて、お店に入る。
「電話のお仕事じゃな。わしの国には
無いが」と、神様は笑顔になって。
小さな、向かい合わせのテーブルに、ななと
一緒。
「天国にお電話って、無いのかしら」と
ななは冗談の続きのつもりだ(笑)。
本当に、電話はないが
携帯電話はあったりして(笑)
めぐと、メールしたりはする(笑)。
早朝とあって、人影まばらな
お店の奥で、ふたりはモーニング。
なんとなく不釣り合いな神様と
かわいらしいなな、とのカップル(笑)
でも、格調高いこの店では
それを気にする事もない。
「電話のお仕事も、大変じゃろうな」と
神様が言う。
なーんとなく、深夜テレビの通販みたいな
そういうぼんやりとしてイメージで。
「大変!そう。大変だったの。
声だけでお仕事しないとならないし。
最初の頃は、辛くて辛くて。
厳しいお客様もいらしたし」と、ななは
それでも笑顔で。
神様は思う。
それは、人々が
まだ、優しさを忘れていた頃の話じゃろな、と。
「そこのお店で、今年の春だったかしら。
とっても優しい笑顔の、人に出会って。
あれ、あたし、なんでこんな事。
言うつもりなかったのに。ごめんなさい」と
ななは、ちょっと思い出しちゃったらしい。
神様は、「うんうん、そうか。」と
微笑んだまま。
「なんとなく、おじさまに似てる」と
ななは恥ずかしそうに笑う。
「なぜかしら。すっ、って
話せるのって」と、
めがねの奥で笑った。
「そうか。わしは
神様だから」と、神様は
本当の事を言うのだけれど
「おもしろいおじさま。あの人も
ユーモアがあって、ふんわりしてて。
会ったその時から、古いお友達みたいだったの。
誰にでも優しくて。神父さんみたいに静かで」と、ななは思い出を誰かに話したかったのだろう。
でも、偶然神様に出会えて。
話し相手が見つかって、幸せそうだ(笑)。
テーブルには、きちんとクロスが敷かれて
朝だとしても、格調の高いレストランらしい。
サラダとスープを、ウェイターが
颯爽と持ってくる。
見たところ、日本ふうの洋食なので
和風に作られている。
そこが、長年の人気の秘密で
食べ物の好みは、ひとそれぞれだけど
日本で取れる食物をおいしい、と思う
気持ちは日本ふう、の感覚である。
「いただきます」って、ななはにこにこ。
スープを味わうと「おいしいです、とっても。やさしい味。」
ふつうに、食べ物の旨味を煮出したものが
スープだけれども
しっかり作るのは、手間も掛かるので
工場で煮たものを使ったりするのが、流行。
ここのお店は、ずっと昔から東京駅にあった。
改札を抜けて、広い駅の廊下を東に向かう
学校の体育館くらいの、大きな食堂だった事を
もちろん、ななは知らないけれど
伝統のスープは、そういう歴史を伝えてくれて。
やさしい御味で、ななの心に
過ぎた時間の蓄積を伝える。
神様は、ななの愛らしいしぐさを
微笑んで眺める。
それで、クリスタさんやめぐの
姉妹のような可愛らしさを思い出したりする。
「旅の終わり、じゃね。」と、神様はつぶやく。
「はい、おじさまはまだ途中ですね」と
ななは、神様の時間を気にするけれど
もともと神様だから、時間も空間も飛び越えて行けばいいのだ(笑)。
神様は、時間に沿って存在していないから
ななの感じる、想い出を
懐かしむ気持ちも
遠い記憶に残るだけ、である。
「では、これから飛行機で帰られるのですか?」ななは、焼きたてのパンの香ばしさを
喜びつつ、神様の時間を損なっていないか、気遣う。
気のいい子だ、と神様は思う。
そうそう、電話でお仕事をしていたんだっけ。
辞めた理由はいろいろあるだろうけれど、
折角の旅の一日、そういう事を
聞かない方がいいかな、と
神様は思った。
それで「いつ、帰ってもいいんじゃな。わしは、神様だから」と、本当の事を言った。
「いいですね、自由で」と、ななは言い
「あたし、シスターになろうかな、と思ったりもして、それで、お仕事を辞めたんです」と
神様は、キリスト教じゃないから(笑、その神様はイエス様だもの)
ちょっとびっくり。
「かわいらしい、ななちゃんがシスター。
似合うね、きっと、修道服。」と、神様が言うを
ななは、楽しそうに笑い「あの人も、そんなふうに
かわいらしい、って言ってくれて。」
でも、ななは
仕事の話を、自分から話し始めた。
「なんか、落ち着くんです、その人の隣だと。
恋人とか、そういうのじゃないと思うけど。
でも、ほかの人と付き合いたくないし。
初めて、その人の笑顔に出会ってから。
でも。」
ななは、想い出をかみ締めるように
告げた。
「その人は、フリーだったから
仕事の合間にアルバイトで来てて。
次の仕事が決まるまで、って。
でも、その人は。
なんていうか、ふんわりとしてて。
」
ななは、想い出の中のその人を
懐かしそうに語った。
神様は、静かに聞いていた。
「だけど、あたし。
どうしてかわからないけど、その人と
ずっとそばにいたい、って感じて。」
神様は、思う。
この日本と言う国は、30年前までは
思いやりのある国で。
国自身が借金をして、人々の暮らしを守る
、例えば、会社に入れば
55歳まで、同じ会社に居られるように
国が、指導していたから
ななや、その人みたいに
出会ったり、別れたりが
頻繁に起こったり。
そういう事は、思いやりのある
昔の日本には起こらなかった。
それで、出雲神が
日本人に思いやりを思い出してほしい、と この国を神様の力で、変えて。
「もし、今出会ってたら
ななちゃんは、しあわせでいられたんじゃな」
神様は、ひとりごとみたいに。
ななは、微笑んだまま
「はい。あの人は
男の人、って言う感じがしなくて。
神父さんみたいに、みんなのしあわせを
考えている、そういう人。
あたしひとりの、恋人にしたい、なんて
そういう気持ちを持ってはいけないのかしら、
そう感じたの。
でも、その人にもあたしは
しあわせになってほしくて。
」
なにか、してあげたい。
そういうふうに、ななは思ったと
神様に言った。
神様は、もちろん
天国に集まる人達の事を良く知っているから
その人は、自分のしあわせより
なな、や
みんなのしあわせを考えるような
天国に近いひと、だったのかもしれないと
神様は思った。
日本の神様かもしれないし、
仏様、だったのかもしれない。
なんといっても、日本は八百万の神様が
昔から仲良く暮らしている国なんだから。
そんな国は、他にない。
そう、神様は思う。
ななは、懺悔するみたいに
「でも、あたし。
そんな気持ちが自分のどこにあるのでしょう?って思うくらい
自分を見てほしいって気持ちになるんです。
それで。」ななは、神様には言えなかったけど
シャツのボタンをふたつ外して、その人の
そばに寄ったり。
ミニスカートで、立て膝ついたりして
悩殺しちゃおうとか、思ったり(笑)
ほんの、いたずら心だけど
ななの心は、精一杯の気持ちで
その人に見てほしい、そう思ったりしたのだろう。
「あたしって、罪深いんです」と、ななは
真面目な顔になって、それで、笑顔に戻った。
「ななちゃんは、罪深くなんかないんじゃな。ひとの愛は、そういうものじゃ。」
神様は、静かに。
「お水の出口じゃな」と、神様は
すこし恥ずかしそうに言うと
「いゃぁだぁ!もぅ」と、ななは
笑いながら、神様を突き飛ばす(笑)。
4次元の空間なので、どうと言う事もないが
結構、荒っぽい(笑)。
「じゃな。まあ、ななちゃんに
魅力を感じてたのじゃろう」と、神様は
突き飛ばされないように、すこし
距離を置いて(笑)。
「そうなのかしら?」と、ななは
意味が解らず。
「うむ。愛しい気持ちの神経がな、電気を
帯びておるし。あっちもな」と
神様は、笑いながら。
人間ってそうなんじゃ、と
言いながら。
「でも、それならどうして
ななと仲良くしたがらないのかしら?」と
ななは、ちょっと思案。
「それは、ななちゃんを大切に思ってるからさ」と、神様は言う。
ななは、少し考えている。でも、そんな様子も
愛らしい。
「ほんとに、神様だったんですね」と
まるで関係ない事を言うので、神様は
笑ってしまった。
「あ、いやいや、一応、神様じゃな。」と
そういうと、ななは
「神様って、なんでもわかってしまうんでしょ?彼は、どうしてななの事を好きにならないの?」と。
神様は、困る。「それは、彼の気持ちの問題
じゃから」
気持ちは、その人の勝手だもの(笑)。
「じゃがの、ななちゃんを好き、なんじゃと
思うがのぉ。」
おちんちんの神経も起きてるし(笑)とは
言わなかったが。
傍らにある、その神経の電気的状態を
神様は見たので、ななは
なんとなく気づく。
「なにか、訳があるんじゃよ。彼の記憶を
辿って見れば」と
神様は、彼の大脳皮質に移動した。
「その人が、いつも大切に思っている事は
記憶の配線が、沢山くっついておるんじゃ。」と、神様は
配線が太く、絡んでいるあたりを見上げた。
「それは、どんな事?」と、ななは
興味を持った。
「うむ。神経の配線からすると
生物的な事ではなさそうじゃの。皮質に
神経が集中しておる」
と、神様。
「そんな事がわかるのですね
。さすがは神様!」と、なな。
「んにゃ、解剖の本に書いてあるのじゃ」(笑)
「あはは、勉強するんですね、神様!」と
ななは楽しそう。
「いやいや。
」と、神様は照れはんぶん。
「彼は、家族を大切にしてるようじゃの。」と、神様。
「家族....彼は、たしか、お母さんと
暮らしているとか」と、なな。
彼の記憶の中には、素晴らしく
美しいサウンドがたくさん。
聞いていない時でも、彼の心は
優しい気持ちに満たされていて。
その世界から出る必要もないし、かえって
現実の世界は、煩わしいだけだ。
ずっと、そうして生きてきたのだろう。
それはそれで、楽しい生き方かもしれないと
神様は思った。
「彼は、ミュージシャンじゃろうか?」神様は
そう、ななに尋ねた。
「はい、インディーズしてたけど
売るよりも、好きな曲を弾いてた方がいいって言ってました」と、なな。
「そうか。まあ、そういう生き方もあるじゃろな。ショパンや、シューマンもそうじゃったろうし。バッハみたいに、天国に行ってから
才能が認められた人もいるしのぉ」と、神様。
「ふつうの人みたいに、人を愛したりはしないの?」と、ななは尋ねた。
ちょっと、悲しそうな声。
神様は優しく「いや、シューマンもショパンも、それぞれに恋人はいたのぉ。ななちゃんが
出会った頃は、たまたま世の中が不安定じゃったから」と。
母親を養うために、自分の恋愛などは
後回しにしないと、生きていけなかったのだろう。
いつのまにか、そういう生き方に
慣れてしまった。
そういう事なんだろうと神様は、察した。
だけど、神様にはわかる。
恋愛して充足するのも、彼のように
音楽を奏でて充足するのも。
結局、いま、ななの目の前にある
充足、と言う神経が電気を帯びるだけ、で
同じような事なのだ、と言う事。
信仰を極めるように、音楽でも
絵画でも、著述でも
それに浸りきれる人は、幸せなのだ、と言う事。
それを、ななにどう伝えたものか、神様は
困ってしまった。
でも、ひとつだけ言える事は
「彼も、暮らしが安定していれば、ななちゃんを幸せにできると思ったかもしれないね」と
神様は言った。
日本は、ずっと
日本人だけで平和に暮らしていたのに
外国人のお金儲けのために、日本人だけの
聖域を壊してしまったのだった。
そのせいで、彼や
ななちゃんのような、純真なひとたちは
生きていくのも大変で
彼のようなひとたちは、もし
愛するひとが見つかったとしても
守り通す自信がなくて、諦めてしまったり
そんな事も、あったりもしたのだった。
「ななは、お金なんていらないのに。
そばにいてくれれば、それでよかったのに。」と、彼女は悲しそうに天を仰いだ。
「ななちゃんが、そう思ってる事は
彼にはわからないから。」と、神様は言う。
「心が見えたらいいのに」と、ななは
笑顔に戻って。
「ひととして生きていくのが大変な、国とは
一体なんじゃろうのぉ
」と、神様。
もちろん、今はそうではないので
今、ななちゃんと彼がもう一度
出会えれば、違う生き方ができるかもしれないと
神様は思った。
「音楽の中にいれば」と、
ななちゃんは、面白い事を考えた。
どういう事か、神様には解らなかった(笑)
けど、ななちゃんは、名案!とばかりに
ワクワクしてるので
たぶん、いい案なのだろう。
「神様、お願いします。彼の居るところに
連れて行ってください」と、ななは
真剣な顔。
訳わからないけど、神様は
「あ、ああ。そうか?」と言って。
彼のそばの、並列時空間
ななを連れて、3次元実体に
戻った。
parameter real m= real;
equation;
F=mgh;
すう、と
空気を吸い込むように、実体になって。
反物質は、空間に飛び去る。
突然現れた、ななに
驚いている彼。
そこは、どこか高原の研究所のようで
元々は科学研究者だった彼は
以前いた研究所から、呼び戻されたのだった。
もちろん、そうした職種は
身分も不安定で、研究のプロジェクト単位で
仕事が決まる。
そんな訳で、仕事の空いてしまった時に
ななのように、派遣でアルバイトをしていたのだった。
「ななちゃん」と、彼は優しく微笑んで。
心の中に流れていた音楽を止めた。
音楽が好きで、ずっと音楽を聴いていると
聴いていない時も、記憶の中の音楽を
楽しんでいる事が出来て。
そのぶん、彼は
人間っぽい恋愛とか、争いとか
そういうものから遠い存在だったりしたから
ななの思いからも、少し遠かったりした。
ふつう、彼のようなひとたちは
ミュージシャンになったりするのだけれども
この国は、音楽ですら
お金儲けの好きな外国人に占領されてしまって
彼の好むような音楽は、この国では
売り物にならない有様だった。
それに、彼自身
音楽は、心で楽しむだけで充分だった。
そのための時間が必要だった。
ななは、彼に伝えたい事が
いっぱいあったはずなのに
何も言えなくなってしまって。
でも、ここに来ただけで
彼には充分伝わっていることだろう。
「よく来たね、どうしてここがわかったの?」彼は、優しい声でそう言う。
その声は音楽的で、パルティータのようだった。
ななは、その声を聴いているだけで
幸せに思った。
天上の音楽が、もしあるとしたら
ななにとって、それは
そういうサウンドだったのかもしれない。
彼にとっての、サウンドになりたいと
ななは、そんなふうに思う。
でも、それと同じくらい
ななは、彼に愛されたいと思う。
それは、人間らしい感情。
「僕がね、幼い頃は
争うのは、日本人のする事じゃないって
みんな思ってた。だから
女の子はみんな、可愛かったし
男の子はみんな、そんな女の子のために
この国を良くしようって思ってたさ。
でも、今はそうじゃない。
日本人みたいに見えても、そうじゃない連中が争ってばかりいる。どう、頑張っても
もう、日本は戻らないさ」と、彼は
胸のうちを語った。
こんな国で、自分だけ幸せになろうとするなら
壁で囲われていなくてはならない。
自分だけならそれもいいが、とても
恋愛なんてできそうにない。
国に関わりたくないのだから。
彼は、そのせいで
いくつも恋愛を見送ってきた、そう言った。
「ななは、あなたのそばにいられればいいの。それだけでしあわせなの。」
ふるえる声で、それだけを
ななは伝えた。
高原の風は、ちょっと冷たい。
でも、凛々しくななは、それを
やっと言えた。
「でも、僕は争いたくないんだ。
君を好きになったら、誰かと争っても
君を守らなくてはならない。
たとえば、あの店にいた大塚くんみたいに。」
と、彼は言った。
大塚は、闘争が好きな男の子で
茶色の髪を逆立てて、ひとを睨みつけて。
でも、それは、大塚自身が
幼い頃に虐められた記憶に怯えているので
強い自分でありたいと過剰に思っている
可哀相な心で
そういうひとたちと争いたくないと
思っていても
かわいいななが、大塚を好きにならず
やさしいひとに惹かれているのが
気に入らない。
それだけの理由で、ななを征服しようとしたり
「僕を睨んだり、因縁をつけたりしてね。
でも、それは彼が傷ついた心を持っているから
なんだ。
野生生物でもそうで、傷ついた心が
傷つきたくないから、そうするんだよ。
そのために、自分の遺伝子を遺して
仲間を増やそうとするのさ。
果樹園で、たくさん果実を実らせるために
枝を落とすみたいに」と
彼は述べた。
大塚だけではなくて、アルバイト先のひとたちは
知的で物静かな彼を見ると、どことなく
嫌悪感を持って接した。
そういえば、ななも
店では、騒々しくて愚かな演技をした。
居酒屋に連れていかれたり、カラオケで
騒いだり。
そうしないと、みんな不安なのだった。
傷ついた心を、みんな持っているからで
みんな、可哀相なのだった。
「だから、お店を辞めたのね。ななもそうなの。」
ななは、そういう世界が嫌だった。
ななを好きでもないのに、欲望のはけ口に
言葉巧に近づく、大塚や
課長や、係長など
大嫌いだった。
でも、それは
日本人が島育ちで、お人よしだったので
外国から侵略されてしまった。
そういう事なのだけど。
日本人と言っても、大陸からの移民もいたから
そういう人達が、戦争をおこして
大陸の人達を、日本に移民させた。
戦争が終わってからは、その移民たちは
日本を侵略しようとしたけれども
お人よしの日本人は、彼らを受け入れたから
日本の、穏やかな社会に
争いが生まれた。
それまでの日本だったら、リーダーになったら
メンバーたちを愛したものだった。
そうして、グループを、カントリーを。
国を愛するように考えた。
でも、侵略している人達には故郷がないから
リーダーになっても、自分の利益だけで
メンバーを道具にしか思わない。
当たり前だけど、グループのある国の
リーダーじゃないから。
威張ったり、イジメたりするリーダーは
みんな、このタイプであるから
自分から、渡来人であると
告白しているようなものである(笑)。
そういう訳で、彼がこんな国では
もう愛したりできない、そう思う気持ちも
自然である。
彼は、日本人なのだ。
「ななは、あなたがわからない。
国がどうだって、わたしは、ななよ。
どこにいたって、かわらない。」と、静かに言う。
「ななちゃんを好きになる人は、僕のほかにも
たくさんいるから。
なにも、僕と一緒に貧しい暮らしを
選ぶ事はないさ。あの、BMWのひととか」と
彼は、思い出話をした。
日曜日の勤務の時、いつも
お昼休みになると、BMWのZに乗って
ななに会いに来る青年がいた。
その青年にも、大塚は嫉妬するのだ(笑)
そう、エネルギーが余っていて暇なので(笑)嫉妬とか、くだらない事をするのだけれども。
そういう時間に、お金儲けを考えて
BMWを買おう、なんて思考はないのだが。
時間は、誰にも平等なのだ。
もちろん、神様や魔法使いは例外(笑)。
「この国が嫌なら、外国に行ってもいい。
ななは、シスターになるつもりでお店を辞めたの。」
「どうして、シスターに?」と、彼は問う。
神様のおかげで、日本の社会は思いやりに
立ち返って。
派遣、なんて言う制度は
彼のように、本当に能力の高い人達だけが
どこの仕事場でもやっていけるためのものに
変わり
ななのような、ふつうの人達は
1970年代のように、国が面倒を見て
大企業に雇用を義務付けた。
だから、ななも彼も
お店を辞めなくてもよかったのに
なぜか、ふたりともお店を辞めたので(笑)
やっぱり、大塚は嫉妬するのだが
それは、癖のようなもので
神経回路がそうなってしまっているのが人間の多様性を示す、面白い事実である。
顔つきも適応するので
そういう顔になって
いくら化粧しても隠せない、性格を示す顔になる。
例えば、大塚みたいに
卑怯な虐めをする者は、日本人にはいない。
それは、日本に移住してきた渡来人の感覚である。
国境のない国に生まれ育って、争わないと
自分の土地が取られてしまう国の風土、である。
島国、日本は
信仰ですら、緩やかに受け入れるような
民族である。
八百萬の神様がいても、仏様や
キリスト様も受け入れたりする、そういう国に
差別の意識はもともとない、のである。
なので、虐めをする人達は元々日本人ではないのだ。
尤も、純粋な日本人は
いま、少なくなったから
なな、が
なんとなく、彼の事を大切に思うのも
不思議ではないかもしれない。
民族の文化は、そんなふうに
心に残るものだから。
「ぽん!」神様は、ためらいなく
ななの目前に登場した。
「わ!」冷静な彼も、それには驚いた。
そこは、高原の研究所である(笑)
なな、ひとりならともかく
長身の北欧ふう、外国人に見える神様が
下りて来たのは、さすがに驚く。
目立つし、人目を引くから
実験室、Bー7に
とりあえず逃げる(笑)。
広い広い、研究所は
そう、お台場くらいはあるだろう。
実験室は、体育館くらいの広さで
その中の、電波暗室という
外から見えない部屋、それでも
学校の教室くらいに部屋に、神様と
ななを連れて。
「神様!見てらしたのですか?」と、なな。
神様は、「あー、いや。見てはいなかったが
気になってな。」と、照れかくし。
「神様?ですか?」と、彼はまた、驚く。
「ああ、わしは、神様じゃ。フランスの隣のな。君が、ななちゃんの恋人か」と、面白い説明をして。
ななは「ぃやだぁ、もう!」と、また
神様を両手で突き飛ばす(笑)。
おっとっと、と、神様はよろける。
「シスターになるって言うななちゃんは
もう、神様に出逢ったの?」と、彼は言い
申し遅れました、僕は加藤と言います、と
名乗る。
「そうじゃないの。あのね、ななは旅に出てて。
出雲に。帰りの電車で、偶然。」と、ななは
神様との出会いを語った。
そんな、神様と離れた
遠い遠い、北の方で
めぐたちは、寝台特急Northstarの
朝を、楽しんでいた。
料理長の予想通り、平日の朝なので
食堂車を利用するひとは、少なくて。
「余っちゃうから、食べちゃって」と
シェフは、モーニングの準備をしていた
お皿を出してきて。
カウンターに出した。
「はい。運ぶのは自分でね」と
ウェイトレスの仕事を作った。
「この列車、やっぱり廃止になってしまうのかしら」と、めぐ。
「そうだね。新しい豪華列車を走らせる、って
話もあるし」と、Naomi。
夜行列車を走らせるには、沢山の手間と
いろいろな人々の努力が必要なのだけど
もともと、夜行列車は
スピードが遅かった時代、夜行でないと
人々が運び切れなかったから
夜走らせていた。
そういう時代の名残、だった。
「ありがとうございます、親切にしてくださって」と、彼は神様に礼を述べる。
ななの身内でもないのに、神様に礼を述べる
そういう姿勢は、日本人ふうで
神様は好ましい、と思った。
「あー、いや。日本には、ちょっとした会議でな」と、神様。
「出雲大社で神様が集まったの」と、なな。
「外国からも来たの。」と、彼は
微笑みながら。
「そう、それで。日本の現状を憂いてな。」
神様は、人々が思いやりを思い出すように
オキシとしん回路に働きかけたから
これから、日本も、アメリカも
変な競争は減っていく、と述べた。
「競争は別にいいと思うのですけど、不当な
事がなければ」と、彼。
正当な競争なら、負けても別にいい。
そう考えている彼は、健康な思考だと
神様は思う。
負けたくないから、不当な事をするのが
不健康な精神の持ち主。
だから、集団で悪い事をしたりする。
日本人は、集団のために正しい事をし、
渡来人は、集団のためと偽って自分のために
悪い事をする。
たとえば、中国で危険ドラッグを作って
日本に売るように。
「大塚くんにしても、モテないからって
嫉妬する、なんて恥ずかしい事をしなければ
別にいいけど」と、ななは手厳しい(笑)。
「そういうのも、まあ
大塚くんが愛されて育って来なかったせいじゃな。それが恥ずかしい、と思わないのは
日本人の感覚じゃなかろう」と、神様。
日本は島国で、狭い村で仲良く生きていくために
お互いが、迷惑をかけないように、と
気遣かった。
八百萬の神様、と言うように
誰も見てはいなくても、神様が見ていると
自らを律した。
なので、大塚のように
正しくない事をするのは、恥ずかしくて
できないはずが日本人。
できるのは渡来人である。
「ななちゃんも誤解してると思うけど、僕は
優しくはないです。大塚みたいな奴は
殺した方がいい、と思うし」と、加藤は言った。
「ななも、大塚は死んでほしいと思う」と言う。
「それは、淘汰じゃな。生き物はそうして
良くない個体を殺して行ったんじゃ。わずかに近代、それでは不当な死が増えるので
国が禁じただけ、じゃな」と、神様は歴史を語る。
「じゃから、それは罪でもなんでもない。
殺さないから変な人間が増えた、とも言えるが.....いずれ、地獄に堕ちるじゃろうから
わしらが手を下す事もない。無視しておけば良い」と、神様は笑顔で。
関わらなければいいんじゃよ、と。
「ありがとうございます、親切にしてくださって」と、彼は神様に礼を述べる。
ななの身内でもないのに、神様に礼を述べる
そういう姿勢は、日本人ふうで
神様は好ましい、と思った。
「あー、いや。日本には、ちょっとした会議でな」と、神様。
「出雲大社で神様が集まったの」と、なな。
「外国からも来たの。」と、彼は
微笑みながら。
「そう、それで。日本の現状を憂いてな。」
神様は、人々が思いやりを思い出すように
オキシとしん回路に働きかけたから
これから、日本も、アメリカも
変な競争は減っていく、と述べた。
「競争は別にいいと思うのですけど、不当な
事がなければ」と、彼。
正当な競争なら、負けても別にいい。
そう考えている彼は、健康な思考だと
神様は思う。
負けたくないから、不当な事をするのが
不健康な精神の持ち主。
だから、集団で悪い事をしたりする。
日本人は、集団のために正しい事をし、
渡来人は、集団のためと偽って自分のために
悪い事をする。
たとえば、中国で危険ドラッグを作って
日本に売るように。
「大塚くんにしても、モテないからって
嫉妬する、なんて恥ずかしい事をしなければ
別にいいけど」と、ななは手厳しい(笑)。
「そういうのも、まあ
大塚くんが愛されて育って来なかったせいじゃな。それが恥ずかしい、と思わないのは
日本人の感覚じゃなかろう」と、神様。
日本は島国で、狭い村で仲良く生きていくために
お互いが、迷惑をかけないように、と
気遣かった。
八百萬の神様、と言うように
誰も見てはいなくても、神様が見ていると
自らを律した。
なので、大塚のように
正しくない事をするのは、恥ずかしくて
できないはずが日本人。
できるのは渡来人である。
「ななちゃんも誤解してると思うけど、僕は
優しくはないです。大塚みたいな奴は
殺した方がいい、と思うし」と、加藤は言った。
「ななも、大塚は死んでほしいと思う」と言う。
「それは、淘汰じゃな。生き物はそうして
良くない個体を殺して行ったんじゃ。わずかに近代、それでは不当な死が増えるので
国が禁じただけ、じゃな」と、神様は歴史を語る。
「じゃから、それは罪でもなんでもない。
殺さないから変な人間が増えた、とも言えるが.....いずれ、地獄に堕ちるじゃろうから
わしらが手を下す事もない。無視しておけば良い」と、神様は笑顔で。
関わらなければいいんじゃよ、と。
「この研究所はね、自分たちのお金で運営してるんです。
できた技術を売って、それで成り立っているから
大塚みたいな人間は、入って来れない。
ここにいる限りは、僕も安心です」と、加藤は言った。
「いずれ、日本全体、いや、世界がそうなるじゃろう。もともと、人間は増えすぎたのじゃが。」と、神様。
愛のない、たとえば大塚のような人々は
女の子にモテない(笑)つまり、自分から
地獄に堕ちたがっているので
自然淘汰だ、と神様は言った。
顔を見ればわかる。悪い顔をしているじゃろう、とも。
「でも、大塚みたいなのは生物レベルで生きてるから」と、加藤は冷静に。
「迷惑なんです!本当に」と、ななは
なんとなく、告げる。
そういうのを、昔は大人が制止したのだが
今は、大人がいなくなってしまって。
自分の事しか考えていないから
女の子が困ってても、知らんぷり。
「では、ななちゃんには空を飛べる魔法を
進ぜよう」と、神様はにこにこ。
ひゅ、と右手とステッキを宙に。
空中に描かれた魔法陣に、さっきの
反物質突合式。
model reactive_0d;
modelica.SIunits.phygical.reactive.higgs-environ m;
real R=6.02*10^23;
parameter real P=0.99;
equation;
F=ma;
pV=nRT;
end model;
ななは、風が吹くように
ふわり、と
1cmくらい地面から浮き上がった。
反物質を使って、ヒッグス
環境からマテリアルを解放し
0次元、つまり重力から解放したのだ。
「飛びたい、と思ったら
飛べるんじゃ。空飛ぶシスター、なな」と
神様は楽しそうだ。
「でも、神様。大塚たちみたいな渡来人が
ずっと昔、日本に渡ってきて
戦争を企てて。
わざと日本を負けさせて、アメリカに占領させた。
それで、今、日本経済を侵食している。
税金を上げたり、派遣、なんて
ピンハネを合法にしたり。
それに対抗するには、ここの研究所みたいに
壁の中から、日本以外と仕事するしかないけれど
こんな窮屈な国は、破壊できないんですか??」と、加藤は理論的に述べた。
確かに、いまの日本人の中に
渡来人の文化が混じり込んでしまって。
穏やかな気持ち、思いやりが
思い出されても、急に元に戻るだろうかとも
神様も思う。
「じゃがな、渡来人の文化にも
先祖を敬い、自らを律する、そういうものも
あった。儒教と言うが。
いま、日本にいる渡来人も
それを忘れておる。
争って勝つ、そういう闘争の神経しか
生きておらんのじゃ。
ノルアドレナリンじゃな。君は科学者じゃから
理解できるじゃろ?
それを、オキシとしん系の活性で抑止すれば
渡来人とて、元々好きで闘争しとる訳でなかろう。
刺激に沿っとるだけ、じゃな」神様は
理論的だ。
「この国が嫌なら、わしらの国に来てもいいがのぉ。」と、神様はのんびりしている。
加藤は、その時
心の中に、激しいメロディが生まれて
楽器を弾きたくなった。
チェイスの「黒い炎」のような。
トランペットも吹ける彼である。
いつも、そうして心を満たしていたので
実際に闘争する事もなかった。
神様は言う。「渡来人が愚か、と言う事でもないがな。
自分たちは得したい、誰かが損してもいい。
そういう気持は誰にでもある。
それを、思いやりの気持、オキシトシン回路で補うのが
人間じゃろう。
じゃから、これから国を隔てた争いは減るじゃろ。
国そのものがなくなるかもしれん。
それまで、わが国に来るか?」と、にっこり神様。
宙に、浮いたままのななは、地上に降りて。
「うまく飛べない」と、ひとこと笑顔で。
「この研究所はね、自分たちのお金で運営してるんです。
できた技術を売って、それで成り立っているから
大塚みたいな人間は、入って来れない。
ここにいる限りは、僕も安心です」と、加藤は言った。
「いずれ、日本全体、いや、世界がそうなるじゃろう。もともと、人間は増えすぎたのじゃが。」と、神様。
愛のない、たとえば大塚のような人々は
女の子にモテない(笑)つまり、自分から
地獄に堕ちたがっているので
自然淘汰だ、と神様は言った。
顔を見ればわかる。悪い顔をしているじゃろう、とも。
「でも、大塚みたいなのは生物レベルで生きてるから」と、加藤は冷静に。
「迷惑なんです!本当に」と、ななは
なんとなく、告げる。
そういうのを、昔は大人が制止したのだが
今は、大人がいなくなってしまって。
自分の事しか考えていないから
女の子が困ってても、知らんぷり。
「では、ななちゃんには空を飛べる魔法を
進ぜよう」と、神様はにこにこ。
ひゅ、と右手とステッキを宙に。
空中に描かれた魔法陣に、さっきの
反物質突合式。
model reactive_0d;
modelica.SIunits.phygical.reactive.higgs-environ m;
real R=6.02*10^23;
parameter real P=0.99;
equation;
F=ma;
pV=nRT;
end model;
ななは、風が吹くように
ふわり、と
1cmくらい地面から浮き上がった。
反物質を使って、ヒッグス
環境からマテリアルを解放し
0次元、つまり重力から解放したのだ。
「飛びたい、と思ったら
飛べるんじゃ。空飛ぶシスター、なな」と
神様は楽しそうだ。
「でも、神様。大塚たちみたいな渡来人が
ずっと昔、日本に渡ってきて
戦争を企てて。
わざと日本を負けさせて、アメリカに占領させた。
それで、今、日本経済を侵食している。
税金を上げたり、派遣、なんて
ピンハネを合法にしたり。
それに対抗するには、ここの研究所みたいに
壁の中から、日本以外と仕事するしかないけれど
こんな窮屈な国は、破壊できないんですか??」と、加藤は理論的に述べた。
確かに、いまの日本人の中に
渡来人の文化が混じり込んでしまって。
穏やかな気持ち、思いやりが
思い出されても、急に元に戻るだろうかとも
神様も思う。
「じゃがな、渡来人の文化にも
先祖を敬い、自らを律する、そういうものも
あった。儒教と言うが。
いま、日本にいる渡来人も
それを忘れておる。
争って勝つ、そういう闘争の神経しか
生きておらんのじゃ。
ノルアドレナリンじゃな。君は科学者じゃから
理解できるじゃろ?
それを、オキシとしん系の活性で抑止すれば
渡来人とて、元々好きで闘争しとる訳でなかろう。
刺激に沿っとるだけ、じゃな」神様は
理論的だ。
「この国が嫌なら、わしらの国に来てもいいがのぉ。」と、神様はのんびりしている。
加藤は、その時
心の中に、激しいメロディが生まれて
楽器を弾きたくなった。
チェイスの「黒い炎」のような。
トランペットも吹ける彼である。
いつも、そうして心を満たしていたので
実際に闘争する事もなかった。
神様は言う。「渡来人が愚か、と言う事でもないがな。
自分たちは得したい、誰かが損してもいい。
そういう気持は誰にでもある。
それを、思いやりの気持、オキシトシン回路で補うのが
人間じゃろう。
じゃから、これから国を隔てた争いは減るじゃろ。
国そのものがなくなるかもしれん。
それまで、わが国に来るか?」と、にっこり神様。
宙に、浮いたままのななは、地上に降りて。
「うまく飛べない」と、ひとこと笑顔で。
「この研究所はね、自分たちのお金で運営してるんです。
できた技術を売って、それで成り立っているから
大塚みたいな人間は、入って来れない。
ここにいる限りは、僕も安心です」と、加藤は言った。
「いずれ、日本全体、いや、世界がそうなるじゃろう。もともと、人間は増えすぎたのじゃが。」と、神様。
愛のない、たとえば大塚のような人々は
女の子にモテない(笑)つまり、自分から
地獄に堕ちたがっているので
自然淘汰だ、と神様は言った。
顔を見ればわかる。悪い顔をしているじゃろう、とも。
「でも、大塚みたいなのは生物レベルで生きてるから」と、加藤は冷静に。
「迷惑なんです!本当に」と、ななは
なんとなく、告げる。
そういうのを、昔は大人が制止したのだが
今は、大人がいなくなってしまって。
自分の事しか考えていないから
女の子が困ってても、知らんぷり。
「では、ななちゃんには空を飛べる魔法を
進ぜよう」と、神様はにこにこ。
ひゅ、と右手とステッキを宙に。
空中に描かれた魔法陣に、さっきの
反物質突合式。
model reactive_0d;
modelica.SIunits.phygical.reactive.higgs-environ m;
real R=6.02*10^23;
parameter real P=0.99;
equation;
F=ma;
pV=nRT;
end model;
ななは、風が吹くように
ふわり、と
1cmくらい地面から浮き上がった。
反物質を使って、ヒッグス
環境からマテリアルを解放し
0次元、つまり重力から解放したのだ。
「飛びたい、と思ったら
飛べるんじゃ。空飛ぶシスター、なな」と
神様は楽しそうだ。
「でも、神様。大塚たちみたいな渡来人が
ずっと昔、日本に渡ってきて
戦争を企てて。
わざと日本を負けさせて、アメリカに占領させた。
それで、今、日本経済を侵食している。
税金を上げたり、派遣、なんて
ピンハネを合法にしたり。
それに対抗するには、ここの研究所みたいに
壁の中から、日本以外と仕事するしかないけれど
こんな窮屈な国は、破壊できないんですか??」と、加藤は理論的に述べた。
確かに、いまの日本人の中に
渡来人の文化が混じり込んでしまって。
穏やかな気持ち、思いやりが
思い出されても、急に元に戻るだろうかとも
神様も思う。
「じゃがな、渡来人の文化にも
先祖を敬い、自らを律する、そういうものも
あった。儒教と言うが。
いま、日本にいる渡来人も
それを忘れておる。
争って勝つ、そういう闘争の神経しか
生きておらんのじゃ。
ノルアドレナリンじゃな。君は科学者じゃから
理解できるじゃろ?
それを、オキシとしん系の活性で抑止すれば
渡来人とて、元々好きで闘争しとる訳でなかろう。
刺激に沿っとるだけ、じゃな」神様は
理論的だ。
「この国が嫌なら、わしらの国に来てもいいがのぉ。」と、神様はのんびりしている。
加藤は、その時
心の中に、激しいメロディが生まれて
楽器を弾きたくなった。
チェイスの「黒い炎」のような。
トランペットも吹ける彼である。
いつも、そうして心を満たしていたので
実際に闘争する事もなかった。
神様は言う。「渡来人が愚か、と言う事でもないがな。
自分たちは得したい、誰かが損してもいい。
そういう気持は誰にでもある。
それを、思いやりの気持、オキシトシン回路で補うのが
人間じゃろう。
じゃから、これから国を隔てた争いは減るじゃろ。
国そのものがなくなるかもしれん。
それまで、わが国に来るか?」と、にっこり神様。
宙に、浮いたままのななは、地上に降りて。
「うまく飛べない」と、ひとこと笑顔で。
「でも、僕には母がおりますので外国など、とても」と、加藤。
父が早くに天に召され、相次いで兄も。
そうして、母親のために、と
地味な仕事に就いている加藤は
学生自分は気楽な次男坊なので、オートバイで放浪したり
楽器を弾いて、ミュージシャンのような暮らしをしていたり
結果として、今は
自由な暮らしからは遠い生活をしている、とか。
でも、彼の表情に暗さはなく
かえって、その日暮らしの放浪人の
ような軽快さがある。
「まあ、僕の責任ではないので」と言うが
母親のために尽くすのは、それなりに無償の美、と言えるだろう。
それゆえ、自らの恋愛のために
外国へ行く気にはならないのであろうが。
「お母さんが大切なのね」と、ななは微笑む。
でも、どことなく寂しそう。
血のつながりには、勝てない。
そんな思いもあっての事か。
「仕方ないさ、父が死んで、兄も死んだから
僕がついていてあげるしかない。」と、彼は言う。
「うむ。」神様は思う。
いろいろな事情がある。
思いやりのある彼だから、その
思いやりのために、自らの幸せは
次善のものと考える。
そのために土着を選択し、不条理にも堪える。
誰かのために、その領域を守るのが
男の在り方であると彼は考えている。
愛されて育って来たから、愛を持って
帰す。
自分勝手な欲望のままに生きる、他の
男たちと異なり、その潔さ、凛々しさに
ななは感動する。
この人こそ、愛すべきひと。
「わかりました。わたしは、でも
あなたのためになりたい。」ななは、落涙した。
求めていたなにかが、見つかった。
そんな思いで。
「僕は生き物だから、食べなくてはいけない。
頼みもしないのに、税金を納めたり。
そのために嫌でも働かなくてはならないし。
家族なんてものがあるから、自由にはなれない。
母がいるから、生きているけれど。
いつか、母が天に召されたら、僕も自由になれるのさ。
その時のために、家族はもう増やさないつもりなんだよ。
ななちゃんは、どうか、誰か他のひとと
幸せになってほしいんだ。」と、加藤はそう言った。
神様は、黙っていた。
こんなふうに、純真なひとが
安心して生きて行けないのは、雇用不安や
租税のせいだ。
「ななは、あなたと生きたいのに」と訴える声はか細い。
なな自身も気づいている。それは愛とはいえ
贅沢な要求だ。
「止めておいた方がいい。あのBMWの青年とでも生きたらいい。その方が苦労しないだろう」と、加藤は科学者らしく冷静に告げた。
彼とて、ななに心惹かれない訳でもない。
なので、振り返らずに別れたのだから。
彼は、愛、と言うと
物語や音楽の中にあるように
純粋なものをイメージしていたから
ななが、たとえばBMWの青年に
ランチに誘われると、ついて行ってしまったり
する行動を、ハシタナイと思っていたし
旧来の日本人のする事ではないと思っていた。
謂われなく、金品を受け取るなど
自らを商売にするような行為であると考える。
下俗した連中には当然かもしれないが
日本人の社会では、してはならない事で
無意識に、渡来人の生活様式に侵食されて
しまっているなな、の事を
恋人にすると、禁止の言葉を多く使わなくては
ならないから
そうする事は、ななにとっても苦痛であろうから
無理しなくても、いまのまま
生きていけばいいのだろうと
彼は、思った。
「ななちゃんは、いまのまま
自然に生きていけばいいんだよ」と
加藤は言った。
優しくはない言葉なのだ。
神様は、加藤の意図がわかるが
ななには、その意味を知るには幼かった。
「わたし、知らなかった。はしたない女の子
だったなんて。」ななは、落涙したまま
「神様、シスターになります。
心を清めたいです」と、ななは
愛、と言うものに真摯になりたいと
神様に告げる。
日本人の社会が、だんだん
お金儲けを目的にする外国の考えに侵されたのは
1990年代からの事、である。
だけど、神様たちの力で
外国も、戦いよりも思いやり、と
心を変えつつあるから
しばらくすれば、平和な世界、優しさに
充ちるものになるはず。
神様は、そう思った。
「うむ。しばらく修道院にゆくのもよかろう。
シスター、ななちゃん」
神様は加藤に告げる。
「世の中は、すぐに変わる。
それまで、ななちゃんを待っていてあげてくれるかの?」
加藤は、頷く。
「僕も、知らず知らずに狡い人間になってしまっているかもしれません。
ななちゃんに似合う男になれるかどうか、わかりませんけれど」と。
神様は、ななと共に宙に舞い
反物質融合術を使った。
物質に見合う反物質を、スピンの位置に合わせ
互いに右回転させた。
物質の存在が、それで打ち消され
見かけ、光の速度から減速していた
物質は、ヒッグス
環境から放たれ
光の速度で、ななは移動する。
見た目、閃光である。
神様の眼下を、ブルートレインのリバイバル列車が
ゆっくり、走り出して行った。
元の東京駅上空に戻った神様。
ななも、一緒に戻ってきた。
「さっきのは、夢だったのかしら」と
ななは、ちょっと信じられないような気持ち。
瞬間に時空間を飛び越えるのは
人間の感覚にはない行動だから
どっちが現実なのか、ぜんぜんわからない。
どっちも、頭の中の
その人のイメージ。
どっちが現実か、と認める方が
現実になる。
なので、思い込んでしまうと
現実ってひとそれぞれ。
「のぉ、ななちゃん。彼の言う事も
わかるがのぉ。あれは、ひとつの見解じゃ。
生き方はひとそれぞれじゃ」と、神様は慰める。
「はい。神様?ななは、なんとなくわかっていたのです。
男の子にちやほやされるのが当然、みたいな
怖い気持ちが少し、あったんです。
それを、彼に見抜かれたんだ」と
ななは、少し口調が砕けた。
「それもまあ、仕方ない事じゃ。動物さんも
虫さんも、みんなそうじゃよ。
彼氏は、日本の、都市のルールを守っているだけじゃ。」
江戸は、古い都市。
それだけに、貞操の観念だけは厳しい。
人口が密集しているところでは
それがないと、家族がなくなってしまう。
反対に、農村では
女の子が年頃になると、集団で暮らして
土地の若者たちが、誘いに来る、なんてコミュニティーもあった。
人口を増やすための技術であったが
渡来人が、お金を持って
娘を誘いに来る(BMWの若者のように)
ので、次第に無くなって行ったりしたらしい。
そのように、娘の愛らしさを守るのは
日本の文化であるし
金銭などで力付くで
手に入れようとするのは渡来の文化である。
「わしは、まあ
旨いもの食って、歌って。
楽しい事するのに、一緒ならそれでいいと思うがのぉ。」と、ラテン系らしき
神様はポテンシャルを見せた。
元々、日本人の文化は
禁欲的であるが
資源に乏しい大陸由来である。
この神様はラテン(笑)なので
融通がきく。
キリスト教の神様はラテンじゃないので(笑)
差別的な部分もある、のである。
そんなふうに、土地や資源に
文化も思想も影響されるのであるが
共通するのは、金銭、などと言う
まやかしの観念は
価値を持たない、と
言う事である。
金銭は、古代は別として
今は、人間が勝手に作った道具である。
返す、と言えば
借りて来れるし
国家なら、いくらでも貨幣は作れるのだ(笑)。
一方の加藤は、内心
安堵していた。
ななは、確かに逢いらしいけれども
加藤自身とは、価値観が違い過ぎた。
若い娘としては魅力はあるだろうけれども
そんなものは、いつか衰える。
心が、渡来人なみでは
日本人としての誇りを持って
生きる相手として
安心して任せられない。
そう、思ったりしたが
それを伝えるのは、可哀相なので
止めた。
それは、ななのせいではない。
「ああいう子は、すぐに忘れるだろうし」と
その方が彼女にとっても幸せなのだ、と
加藤は呟いた。
加藤、と言うのは別名で
出生名は加藤、と言ったが
その名前では仕事ができないほど有名であったので
経歴、名前などを変えて
科学の分野で仕事をしてきた。
加藤、と言う姓が示すように
藤原氏が落ち、加藤の国に至った族の
末裔であるらしい。
(因みに、なな、の姓、斎藤も
同じく藤原氏の末裔と示す。)
加藤の族は、それ故闘争的であるが
彼は、それ以外に不思議な能力があった。
彼を虐げると、自然に死んでしまう、と言う
能力であった。
何が、願ったりする訳でもないのだが
闘争性のある人々にとって、従属できず
明るく自由に振る舞う彼を、攻撃できず
どうする事もできないので
彼を虐げようとしても、相手にもされない事で
心にダメージを受け、自然に死んでしまうのだった。
(実のところ、ななを含めた
女の子たちは、その彼の能力に寄り添いたいと
思っているようだ)。
能力、と言うよりは本質である。
生まれつき、争う事を知らずいつも自由に、笑ってる。
そういう彼は、父親からも
怒りの対象として見られたし
実の兄もそうだった。
何をしても、家来にならないし
怯えもしない彼に、怒りを持っても
彼は、怖がりもしないのだった。
(実のところ、彼はそういう制度について鈍感なだけで
勝ち負けはどうでもいい、と言う自由な性格な、だけで
親が虐げようと、そんなものは、自らの
存在に何の意味もなさない、と
感じていただけ、だ)。
父親は、そんな彼に
勝てないスケール、を誤認したらしく(笑)
劣等感に苛まされて、神経を患い、狭心症で
死んでしまった。
兄は、あらゆる手段で彼を征服しようとしたが
勝負には勝てても、彼が
従属せず、自由に遊んでいるので
心にダメージを受け、仏教に傾倒し
出家を試み、失敗し
謎の死を遂げた。
それらは、彼のせいではない。
順位や、制度の中に彼を巻き込もうとし、
彼がそんなものを
なんとも思わず、自由にしている事に苛立った、だけ、である(笑)
自分達の攻撃力を、自分達に向けて死んでしまったのだった。
それは、加藤の父兄が
無自覚だったせいで
順位とか、制度とか。
上位ならば、下位を
思いやらなくても良い、と言う
歪んだ渡来人譲りの手法で
彼を支配しよう、としたのが
間違いだっただけなのだが(笑)。
ふつう、日本人なら
リーダーなら、メンバーを思いやる。
その思いやりに応えるべく、メンバーは
グループのため、リーダーのために
働く。
そんな、キリスト教のような(笑)
制度があったのは
日本が、古来島国だったからで
いつもメンバーが同じだから、仲良く暮らそうと言う
緩やかで、親和的な感覚、それが
日本。
八百萬の神様、と言うように
人間は、いつも神様に見守られ
生きていられると言う感覚だから
グループのリーダーとて、神様に沿って
ひとりの人間として生きていくから
同じく人間のメンバーを虐げる、などとは
神を恐れぬ冒涜であった。
それを、渡来人は
日本人のふりをして
作り替えてしまい
日本人は偉いのだから
アジア人を統治すると言う
およそ日本人らしくない宗教を作った。
そう、それは渡来の国の宗教であった。
なぜかと言うと、渡来人は
祖国で成功できなかったので
祖国を支配しようと
企み、戦争を仕掛けた。
失敗仕掛けて、ソビエトやアメリカの力を
利用して
日本人を支配した。
渡来人、と言うか
渡来人たちの心に住みついた悪い怪物である。
そう、以前
魔法使いたちが人間界から追い出した
魔物たちのような、異物たちである。
それが、心に住むと
ノルアドレナリンを多く分泌する、悪性腫瘍の
ような代物である(笑)。
心が清廉であれば、そうした異物の住み着く場所はない、のだが。
例えば、音楽や科学のように
理論的なイメージでいつも、心を満たしていれば。
加藤は、偶然音楽好きだったので
魔物が取り付く島も無かった。
そのせいで、父兄とも
異なる生き方に進んでしまったし
多くの女性に好かれながらも
、恋愛では心を満たす事のできない
男になってしまったりはした、が。
それは、例えて言うなら
神様の領域に近づく事、である。
加藤は、その父兄の影響を思う。
生まれつき体が弱かったし
病院の常連だったから
父兄も、そのあたりに愛情を注いだが
ただ、順位や制度には
無自覚だった。
加藤が幼い頃
おもちゃの拳銃を大切にして
いた。
兄が、あるとき
それを取り上げようとしたので
加藤は、兄弟喧嘩をした。
たまたま、家にいた父親、この時は
政治家秘書をしていて
傲慢な生活をし、苛立っていた。
兄弟が煩いと、その
拳銃を取り上げ、ハンマーで
叩き潰した。
加藤は、思う。
拳銃を壊したのはおかしい、
拳銃が可哀相だと。
兄が悪いのだから、兄を叱ればいい、と。
そんなふうに冷静な子供だった。
小学生に上がる頃、父親が買ってきたランドセルは
黄色だった。
「安全で良い」と、技術者出身の父親は
論理的だった。
それには加藤も納得した。
学校の男の子が、みんな黒いランドセルでも
加藤は誇りをもって黄色のかばんを使った。
「黄色いかばーん」と、愚かな級友が言って囃しても
彼は、なんとも思わなかった。
「安全でいいのだ」と思ったからだった。
そんなふうに、加藤は
どこにも属さない事が好きな子供だった。
でも、なぜか鉄道は好きで
論理的な社会の象徴のような、レールと規則的ダイヤを
好ましいものと思っていた。
そんな加藤の小学校は、線路が見える場所で
電気機関車が、窓の外を通過するのを
見る事が出来たから
最新鋭のEF66型が走り去るのを、
憧憬を持って見送ったりした。
担任の女教師は、大学を出たばかりの若さで
新任、でも
やや、支配的だったから
そういう加藤を、授業が終わるまで立たせておいた。
いまならアカハラ、だが
当時はそんな言葉も無かった。
「授業を聞き逃したのは謝ります」と加藤は言った。
「もうしません、といいなさい」と担任教師は
いかにも女っぽく、感情的に喚いたので
加藤は、それが教師らしからぬ安っぽさ、に
思えて
「聞き逃したのは人間だから、誰にでもある事。」と言うと、担任の教師は
「今、なんて言ったの?」と聞き逃した(笑)ので、加藤は
「そういうふうに、聞き逃すのは人間ならある事だから、もうしません、などと嘘はつけない」と言う加藤に
担任の教師、杉山幸子は
半狂乱になった。
ずっと、エリート学生で、教師の娘。
議論では負けない、と言う自負が
小学生に負けた(笑)ので
精神的に参ってしまったらしい。
「お父さんを呼びます!」
父親は、この時は政界を引退して暇だったので
おっとり刀で学校に黒いクラウンを乗りつけた。
話を聞くと「息子は正しい。間違っていないから
息子が納得するまで話しあって下さい。」と
笑って、クラウンで帰って行った(笑)。
そんなふうに、理論的な部分が
父子には共通しているところは、あった。
そういう子供だったので、小さな頃から
女の子には個性派、として
人気はあった。
男の子にも人気はあったが、群れたがる
頭の悪い子供達には白眼視されたが
それは、今の政界と同じくである(笑)。