大切な何か
「夏輝…行くぞ」
ホームルームも終わり、私達は教室を後にした。
「見つかるかな…遥」
私は苦笑混じりに不安をこぼす。
「当たり前だろ?余計な心配すんなよ」
瞬からは予想通りの頼もしい声と眩しい笑顔が返ってきた。
「うん」
私は瞬を信じ、来る日も来る日も遥を探した。
私の恋人を
「無理なのか…」
私達は重い溜め息をついた。
「ほらよ、これ食べて元気だそうぜ」
瞬はリュックからチョコを二本取り出した。
「好きだろ?」
「うん!」
私は顔を上げ微笑んでチョコを一口。
「随分遠くまで来てたんだな俺たち」
あたりを見回すと私の家が遠くに見えた。
夕日に照らされる紅い私の町は綺麗だった。
遥ともう一度来たいな…
不意に私はそう思ってしまった。
まだ探し出してもいないのに…
一体何処へ行ってしまったんだろう
如何なるときも浮かぶのは遥だ。
でも小さい恋は揺らいだ
密かに息を殺してる恋が
不意に現れたんだ。
「俺さ…夏輝と一緒で無茶苦茶楽しかったな、やっぱり今も昔も夏輝の事が好きだわ」
ポロリと零れてしまった。
隠していたはずの夏輝への好意。
「へ…?」
私は赤面し硬直して瞬をみる。
そこには耳まで赤面した瞬がいた。
「ほ、ほら!早く食べねーとチョコ溶けるぞ?」
瞬は隠すように私のチョコを食べた。
「瞬って私の事好きだったんだ…」
改めて感じる越えちゃいけない一線。
あくまでも幼なじみ。
それ以上にはなれない。
恋人がいるからっていう理由よりも、私達の大切な何かを壊したくはなかった。
「ごめん、無理だよ私」
「いいんだ、知ってくれれば、このままでいよう」
嘘だ。初めて夏輝に嘘をついた。
上手く笑えてないかもしれない。
けど大切な何かを守るためには"現状維持"が必要なんだ。
「馬鹿」
泣いてる瞬を初めてみた。
それはまるで萎れた花みたいで…
私は強く抱き締めた。
「私達の"好き"は意味が違うのかもしれないけれど"好き"に私は変わりないから、」
「私は瞬が大切だから」
泣いてる瞬を励ますように飛びっきりの笑顔でそう言った。
「…ったく馬鹿夏輝」
前とは違う。
刺さる物がないすっきりとした言葉だった。
私達は誓い合った。
永遠の絆を
夕日の下で
壊れることのない物を
小さい頃から作り上げてきた
「帰ろっか、夏輝?」
瞬は私の手を取った。
「うん」
もう大丈夫
すっかり暮れてしまって辺りは暗いけど
今の二人なら怖いものなんてないよ
久々投稿しました!