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<9>


 死者の復活。


 元の世界では夢物語でしか無かったが、魔法のある、この世界では実現可能である。


 しかも、死者蘇生の条件そのものは難しくはない、ようは魂に干渉する方法があり、魂に合った肉体を用意できればそれで良いのだ。

 

 ただ、だからと言って、簡単なわけではない。

 

 肉体があっても、損所が激しかったり、自分のではなく他人の肉体であったりする場合は、魂が定着せず、蘇生ではなく、アンデット化してしまうのだ。

 

 逆に言うなら、新鮮な本人の遺体を用意することが出来るなら、魂の定着は簡単だと云えよう。

 

 そして、魔王であるオレならば、細胞の一片からでも遺体の完全な修復は可能なのだ。

 

 現に、保護魔法をかけていたにも関わらず、灼熱の溶岩に沈み、ほぼ原型を留めないほど溶け落ちた勇者一行の肉体を、元通り、傷ひとつない状態まで引き戻すことができた。

 

 しかるに問題は、肉体に定着させるべき魂が、あの世……冥界に逝ってしまったと言うことにある。

 

 人が死亡した場合。その魂はすぐさまその場から離れるわけではない。


 具体的に言うと、遺体や未練などが枷となり、しばらくは地上に留まるのが普通だ。

 

 だが、例外はある。依代となる肉体が、粉微塵に破壊された場合。遺体は枷とならず。未練だけでは、魂は地上に留まることが出来ず。今の勇者一行のように……すぐに冥界へと逝ってしまうのだ。

 

 手元の水晶球には、教会に安置された勇者一行の遺体と、それに向かって礼拝を捧げる教会関係者の姿がある。

 

 いつもと違って、すぐに蘇生しないことに驚き、戸惑っている様子が見て取れる。


 だが、本当に死んでしまったと言う認識は無いようだ。

 

 そりゃそうだろう、何十回とオレが復活させたんだからな。今度もちょっと遅れてるだけで、そのうち目が覚めると考えたくもなるだろうさ。

 

 しかし、魂が冥界に逝ってしまった以上。蘇生の余地はない。

 

 一度、冥界の門をくぐった魂は、再び地上へと戻ることなど出来ないのだ。

 

 ――――ガメオベラ。もとい、ゲームオーバーだ。

 

 あと一つ。そう、あとたった一つ残ったクエストを、クリアすれば、オレは元の世界に帰れたのに……。

 

 それがまさか、こんなアホみたいな事が原因で潰えようとは思いもしなかった。


 概ね自業自得なのが、さらに泣ける……。

 

 さて、これからどうしものか?

 

 魔王を引退して、田舎にでも隠居するか?

 

 いや無理だな……[魔王の力]は襲名制だ。


 魔王を殺したモノに自動的に受け継がれるようになっていて、意図的に渡すことなど出来ないはずだ。

 

 死ぬ気はない以上、嫌でも魔王を続けるしか無いってことだな……。

 

 例外は一つ。“勇者に倒されること”だ。


 勇者に倒された場合、[魔王の力]は受け継がれること無く、消滅する。だからこそ、魔王は勇者に倒される必要がある。

 

 しかも、その場合。メインクエストクリアとなって、オレは元の世界に帰れる。まさに大団円! Win-Winな結果となるはずだった。そう……だった。

 

 ――――勇者が健在だったならば、だ。

 

 魔王として生きるといっても、オレ個人としては人類と争う気も無ければ、覇権を取る野望もない。


 これまで人類と戦っていたのは全て、クエストをクリアするためだ。

 

 そして、クエストをクリアする理由も、ただひたすらに元の世界に帰りたかったからに他ならない。

 

 それらの願いが潰えた今、本気ですることがない。

 

 ハーレムを目指すのも、実はどうでも良い。

 

 魔王の肉体は、生理現象とは無縁だ。


 呼吸も不要。食事も不要。睡眠も不要。性欲も不要。運動も不要。排泄も不要。生理的欲求は、皆無と言ってい良い。

 

 ただ、不要とは言っても、時々オレがワインを飲んでることから分かるように、出来無いわけではない。


 眼の色変えてまでも、ヤル必要がないだけだ。

 

 それにだ、基本的に玉座からは動けない時点で、できることも限られる。

 

 退屈……と言うことはない。

 

 魔王は王であり、王の責務は多く、やること、やるべきことは山積みだ。


 それに、気分転換なら、水晶球で世界を適当に見渡せば、それでかなりのストレス解消になる。某有名巨大掲示板よりも有効だろう。

 

 覗き趣味で、ストレス解消する魔王……字面は最悪だな、おい!?

 

 

 と、とりあえず気を取り直し、今後について考え続けるとしよう……。

 

 クエストのためとはいえ、完全にオレ個人の私情に巻き込み、命を落とした人々への償いはどうするか?


 敢えて考えないようにしてきたことだが、希望が潰えた以上、考えざる得ないだろう。

 

 そうだな、すでに世界の8割を手中に収めているのなら、もう少し頑張って、世界制覇を成し遂げ、その上で善政を強いて、平和な世界を作るのも良いかもしれない。


 最終クエストの内容発覚前は、元々そのつもりで色々やってたしな……。

 

 犠牲者たちも、世界平和への礎となったのなら、無駄死にではなくなる。


 人界も天界もほぼ落としたことだし……後は冥界を……落とせ…ば……?

 

 冥界を落とす!?

 

 まて! そういえばまだ聴いていない!?

 

 クエストが失敗した時の定番の効果音をッ!!!

 

 某有名RPGの呪われた時の効果音によく似た……アノ独特のSEを……。


 

 数あるクエストの中で、唯一、失敗したサブクエスト……[空亡の果実を入手せよ!]

 

 玉座から動ける。珍しいタイプのクエストだったので、オレ自らその実を取りにいった時の話だ。

 

 実の場所はすぐに分かった。水晶球で探したら一瞬で見つかった。


 そこは深い深い未開地。その森の奥にある、不自然に開けた場所だった。

 

 自由に動ける今なら、転移も可能なので、そこまで一気に飛んだ。

 

 [空亡の実]は、その広場中央にぽつんと立つ、細長い木……と言うか、しなった棒と言うべきモノの先にぶら下がっていた。

 

 ……ん? これって何かに似てるな? なんだっけ? と疑問に思いながらも、まあいいやとばかりに実をもぎ取ろうと近づいた時……ああ、これ釣り竿だわ!?


 ……と、気がついたときは、すでに遅かった。


 馬鹿でかい提灯鮟鱇(チョウチンアンコウ)のような生き物に、パクリとオレは丸呑みされてしまった。

 

 いきなり食われて焦ったオレは、つい……[魔脈爆破(イクスプロージョン)]を使って、周囲を薙ぎ払ってしまったのだ。

 

 とうぜんながら、提灯鮟鱇っぽいモノは爆散四散。囮に使われた実も消滅した。

 

 開けた場所が、さらに二回りほど開けてしまった森の広場で、あ然とするオレの耳に響いたのが、オドロオドロしい、その効果音だった。

 

 ディスプレイウインドウを開くと、[空亡の果実を入手せよ!]が灰色になり、ログには―――

 

 [空亡の実の消失を確認]

 [リポップ条件の消失を確認]

 [サブクエスト“空亡の果実を入手せよ!”に失敗しました]

 

 ―――と、表示されていた。

 

 クエストクリア条件は緩い。


 時間制限もなければ、失敗しても、再挑戦可能なら、何度でも挑戦できた。

 

 件のクエストの失敗は、空亡の実の消失ではなく……その再入手条件が潰えたからだろう。

 

 実は、提灯鮟鱇モドキが体内で作り出すモノだったらしく。その作り手を葬ってしまったため、クエストの失敗が確定したのだと思われる。

 

 

 …………まさか!?

 

 メリーの奢りである、極上のワインを一気に飲み干す。


 普段なら、人の奢りで食う飯はうまいぜ―とばかりに、軽いノリでゆっくりと味わうところだが、生憎と今のオレにそんな余裕はない。

 

 恐る恐る、ディスプレイウインドウを展開させ、クエスト一覧を表示させる。


 これまでクリアしてきたクエストの数を見て感慨深い思いを抱きながらも、一覧をスクロールさせていく。

 

 そして、メインクエストのラストにあった―――

 

 [勇者に討たれ、世界平和への礎となれ!]

 

 ―――肝腎要の最終クエストが、灰色になって無い(・・)事を確認したのだった。

 

 メインクエストは失敗していない……。

 

 つまりは、今からでも、オレが勇者に倒される可能性は残っていると言うことか!

 

 ―――さあ、どうすれば良い?

 

 新しい勇者が生まれるのか?

 勇者が自力で生き返るのか?

 

 それとも……ああ、そうか! そういう事か……。


 水晶球を起動させ、検索条件を[勇者]から、[勇者の魂]に切り替える。

 映しだされた光景を見て、オレは口角を釣り上げた。

 

 良いだろう……やってやろう。

 

 勇者復活の妨げになっているのは[冥界の門]だ。


 死者を輪廻の輪に逆走させないために、世界の仕組みとして存在する概念存在。

 

 いいぜ……世界がオレの思い通りにならないのなら……まずはその巫山戯た概念をぶち壊す!

 

 「ベルクラッド!」

 

 「ハッ、いかが為されましょうか? 魔王様……」

 

 「十二魔将。及び散開している全部隊を呼び戻せ」

 

 「承知しま……本気でございましょうか?」

 

 「まとまった戦力がいるのだ……さあ、征け!」

 

 「ハッ! 委細承知しました! それでは失礼致します!!」

 

 それから数時間後……。

 

 再び謁見の間に集結した十二の魔将と、各自部隊長たちの前で、オレは高らかに宣言した。

 

 「冥界を……落とす!

  全軍、進軍準備を整えよ!!」

 

 謁見の間に、オレの宣言が響き渡り、若干の残響を残し消えていった。

 

 魔将は呆気にとられ、固まっている。

 各自部隊長たちは、状況を飲み込めず、困惑してるようだ。

 

 そして、微妙な空気だけが残った。


 背後に感じる。メリーからの、大きな子供を見守るような、生暖かい優しい視線が痛い。すごく痛い。

 

 

 

 あ、あれ? やらかした?!

 


 

 魔王はボッチです。

 ぼっちが目立った発言してもろくな事にならないと言う教訓回です。嘘です。


 この世界には、冥界、天界、魔界、人界とあります。

 他にも異界(元の世界?)や霊界(精霊界)や深界(不明)などがあります。


 これら、7つの世界はそれぞれ異次元でもあり、地続きでもあります。


 詳細はいずれ明かされますが、すでにヒントは出ていますよ?



 知らなくても、なんら問題ありませんけどねw


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