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ノリノリで書いていたら長くなりすぎた。
でも、内容的に分割するのもアレなので、そのまま投下しますね^^
諸君。ハーレムと言う言葉を知っているかね?
それはスラム街を指す言葉でも有り、某国の後宮を指す言葉でもある。
だが、それが羨望を持って語られる場合……男一人に女多数でラブイチャする状況を意味する事が多い。
そういった意味では、勇者一行は微妙にハーレムの定義から外れる事になる。
エミリアが勇者に惚れていて、ブライトンが実は男装の麗人でした! 百歩譲って、男の娘でした! ……とかの超展開がないとハーレムとは呼べないだろう。
―――実際は、ブライトンが女装したところで、普通にキモい。誰得である。イケメンだからって女装が似合うわけではないって事だ……。
さて、そんな残念なイケメンを抱える勇者一行の事はここまでとして、オレの方はと言うとだ……。
頂点である魔王である上に、魔族にはそもそも、結婚という考え方自体が存在しないため魅力さえあれば、よりどりみどりである!
―――そう、魅力さえあれば、だ。
魔王の肉体は頑強で、造形も悪くはない。
イケメンと言うより、ダンディな強面なフェイスで、好みが分かれるだろうが、概ね美形の範疇に含まれる。
だが、オレがモテる様子はない。
立場が恐れ多すぎて、声をかけづらいと言うのもあるかも知れないが、たぶんだが……本能的に、オレが異質であることを悟られている気がする。
心を開いていないから、信用されないんだ! ……とか言う正論ぶった空耳が聞こえた気がするが、最終的に、元の世界に帰る気持ちで満々のオレが心を開いたところで、普通に嫌われるのではなかろうか? むしろ、ボコられる?
そういう理由で、オレがモテ無いのは、オレの内面の魅力が足りないせいでは無いと、強く主張したい!
―――負け犬の遠吠えにしか聞こえないかも知れないが、だが、ちょっと待って欲しい。
果たしてモテて、嬉しいか? と言う根源的な問題があるのだ!
オレのハーレム候補として、筆頭にあげられるのが、ホネっ娘のメリーアンだという時点で、察して欲しい。
そりゃ確かに……魔将や配下の中に、美人や可愛い子はそれなりに存在する。
実例として思いつくままに、彼女たちの魅力を述べてみよう。
獣神姫“セーレス”
悪名高い、人間至上主義を掲げる騎士王国“ブリガンティン”。そこに囚われ、匿われていた獣人の娘である。
獣神姫とは、獣神“ハウルス”の姫と言う意味であり、ぶっちゃ神への生贄のことだ。
狗頭の英雄が、一代で建国した。獣人の国“ガルガンテュース”に生まれた不憫な子だ。
生まれながらにして神に捧げられる事が決まっていたため、獣神姫として崇め奉られていたが、それを知った騎士王国が拉致った。
その後、下手に死なせては、生贄の儀が成立しかねないので、比較的穏健に囚われ……と言うより匿われていたところを、オレがさらに掻っ攫ったことになる。
獣人には、原罪と呼ばれる原型がある。ようは、元となった動物の特徴を色濃く残した姿のことだ。
人間至上主義者からは、人に非ず。ヒトモドキの亜人と称されているが、オレは知っている。
元々は普通の人間であり。獣神の加護を強く受けた一族の末裔が、獣人であると言うことを……。
つまりは、獣人は本来、神人と呼ぶべき存在で、本質的には、人の上位互換種であるわけだ。
それなのに、単純明快な数の暴力によって、獣人=亜人=下等種と言うレッテルが貼られているのが現状である。
まあ、それはどうでも良い話だ。
お偉いさんが下手に贔屓したせいで、バランスが崩れ、逆に迫害されると云うのは古今東西、良く聞く話でしかない。
重要なのは、セーレスが元となった動物の特徴を色濃く残した外見をしていると言うことだ。
猫耳、狐耳、もふもふした生き物が好きな、世界でも類を見ないほど紳士な漢の集う国出身のオレだが、性癖は至ってノーマルだ。
そして彼女は、羊っ娘だった。
骨に比べればハードルは低いが、それでもオレに高すぎた……。
生贄の羊まんまなのは皮肉なのか、神の嫌がらせか知らないが、彼女はもふもふ、と言うより、モコモコしている。
つぶらな瞳に、ウール100%のコート……というか地毛を纏った成熟した大人の女性であり、羊じゃなくて牛じゃないのか? と思わずにはいられないほどグラマラスな体型をしている。
それでいて、見た目に合わない、あどけない、純粋無垢な表情を浮かべるているのが、彼女の今の姿である。
淫靡で、背徳的な感情を呼び起こさせる魔性の女であるなら、まだ良かったのだが……彼女は天然だった。
元々なのか、虜囚生活で心が壊れたのか、それは分からないが、彼女の精神年齢は低い。
大人の身体に、子供の頭脳ッ! ……と言った、どこぞの名探偵の真逆の存在であり、扱いに困っていたが……なぜか傭兵王に懐いているため、彼に任せている。
救出時の彼女は、毛が剥かれた状態だった事と、人間である傭兵王を、何故かご主人様と呼ぶ事などを考えると、色々と推察できそうだが、オレは敢えて、考えるのを止めている。
傭兵王は面倒見がよく。まとわりつく彼女を本気でウザがっているようだが、突き放すような事はなく、悪態をつきながらも甲斐甲斐しく面倒をみているようなので、問題はあるまい。実情を知らなければ爆破していたところだ。命拾いしたな……傭兵王よ!
ちなみに人間至上主義者は、国の崩壊と共に、ほぼ全滅した。
逆に人間を毛嫌いしていた獣人の国も、結局生贄を捧げれなかったことで神の怒りに触れ、あっさり滅んだ。
ついでに言うなら、天罰を下した獣神もまた、オレと神々との戦いの時に、傭兵王に討ち取られ、心臓を抉られた。
その心臓は、ドロップアイテム扱いだったので、紙も神もどっちもカミだし問題ないな! あれ? ペーパー食べるのは羊じゃなくてヤギだっけ? まあいいや……どっちも草食だしな! ……と言った、大勝によるテンション上がったままの軽いノリのオレが、なんとなくセーレスに食わせたところ、魔将に成れる程にパワーアップしたのだった。
それが、良かったのか? 悪かったのか? 未だにわからない。
……とまあ、彼女についてはこんな感じで、オレのハーレム要員とするには、様々な意味で問題があるのが、分かってもらえたと思う。
だが、むさ苦しい男所帯の魔王軍だが、紅一点というほどに女性形は少なくはない。ハーレム候補となりうる女は、まだまだいる。
双子嬢“サラとサララ”
愛くるしい少女の姿をした、金髪と銀髪の双子の姉妹であり、二体で一体の魔将として数えられている。
ところかまわず二体で、キャッキャウフフと戯れる姿は、ある種の怖さと可愛らしさを見るものに与えるだろう。
ロリでもペドでもない、至ってノーマルなオレでさえ見惚れる程であり、開けてはいけない扉を開ける準備を真剣に検討したくらいだ……。
―――あるコトに、気がつくまでは、だが。
キャッキャウフフと、どこか恥じらいながらオレに挨拶する双子嬢。
その二体の、両手足、胴体、頭から伸びた極細の糸の存在に気がつくまではの話だ。
糸を辿って上を見ると、そこには、十字の木組みを持った手が浮いていた。
空間が歪んでいるらしく、ハッキリと視認できないが、中の人ならぬ、上の人がソコにいるようだ。
これで上の人が女性であるなら、少し悩んだかもしれないが……濃い毛の生えたふとましい手を認識した時、オレの甘い決意は砕け散った。
よくみれば、キャッキャウフフと言っている双子の口は、常に閉じられたままであり、恐らく上の人の腹話術的な何かであろうと推測できるのだが……正直、もうどうでも良かった。
―――ふむ、紹介する人物を根本的に間違えたようだ……気を取り直して、次の候補に移ろう。
小魔法使い“キリト”
ショートカットで、サイズの合ってない瓶底眼鏡をかけた、ボクっ子である。
小さな魔法使いと称されるに相応しい、ちんまい身体に見合わない、ブカブカのローブと、大きな杖を持っているのが特徴の可愛い子だ。
常にオドオドした、小動物的な生き物だが……魔将だけあって、その魔術の力量は侮れない。
性格的にも小心者で、目立った行動は無い……と言いたいが、ちょっとしたことで反射的に大規模破壊魔術を繰り出すため、魔将の中でも有名人と認識されている。
性格は多少アレだが、大規模破壊魔術も、魔王の肉体+闇の帳の前には無力だ。
せいぜい頭皮がアフロ化する程度の被害しかなく、危険度は低い。ハーレム候補から外す理由にはならない。
ならば何故、候補から外すかといえば……悪魔だからだ。
魔王を頂点とする魔族。そうは言ってもその内訳は千差万別だ。
瘴気を取り込んで、人間から変異した魔人を筆頭に、植物や動物から派生した魔族も多く。中には鎧などの器物から魔族化した変わり種もいるくらいだ。
件の悪魔だが。これは、純魔族とも呼ばれる種で、生まれた時から魔族であるモノだ。
その力は、他の成り上がりに比べるまでもなく強力である。
そして、その最大の特徴は……雌雄同体であると言うことである。
神々に作られた人形……無性の天使とは、ちょうと真逆の存在であると言えるだろう。
つまり、このボクっ子は……正真正銘、正しい意味で、男の娘なのだッ!
―――お分かり頂けただろうか?
ここで、むしろご褒美です! ……と逝ってしまえる上級者の方々ならともかく、ノーマルなオレとしては、ご勘弁を願いたいような子たちしかいないのだよ……。
「……さ……」
そもそも問題児だらけの魔将を、ハーレム候補に加えようとしたのが間違いではないか? そう思う方のために、他の配下も紹介しよう。
蛇っ子の“アポネ”や、困ったちゃんの“ネネミン”は、かなりマシな方であったのだが、すでに戦死しているので除外する。
「………様……」
残る中で、特に目立って思いつく子を並べあげると――――
吸血皇の愛娘でありながら、その命をつけ狙う半吸血鬼の吸血皇女“エルザ”
下半身が六頭犬のスキュラでありながら、犬の毛アレルギー持ちの、涙目の淑女“ルナリア”
もふもふしっぽと愛らしい犬耳に、艶やかな毛並みを持った、二足歩行で服を着ただけの犬でしかない元獣人の、わん子“シュヴァルツ”
異国情緒溢れる和装に、牙を象った大薙刀を構え、凛として佇む姿に、黒髪から僅かに見える角がチャームポイントの鬼っ子。鬼眼蒼手“コウメ”
艶やかな声に、豊満でありなが腰のクビレたナイスバディ。異性を惑わすフェロモン全開の魔性の女……顔さえ見なければ完璧だったオークの女傑“ビッツァー”
不健康な肌に、剥き出しの内蔵。ポロリもあるよ! 眼球的な意味でっ……の、聖邪“ハイン”
艶やかな肌と、きらめく鱗のコンストラストが美しい。上半身が魚で、下半身が人であるプリケツ人魚の、海の歌姫“メロイ”
小麦色の健康的な肌に、しなやかなで躍動感溢れる全身筋肉を持ち、華奢な種族だという印象を覆す、究極の肉体美を誇る。ダークエルフの、練筋術師“エレシアナ”
逞しい髭、小柄だが恰幅の良い肢体。全身を質の良い武装で着飾ったオッドアイのドヴェルグ。まさに漢の娘な、貴鬚后“エイミー”
非戦闘要員であり、看護役を担う白衣の少女。性格も温厚で、それでいて芯の強く、おっぱいも大きい、実に良い子である。眼眠鬼“マオリ”
「……し……ま……様……」
―――などなど、一面だけ見れば、合格と言えなくもないが、全体で見ると残念な子ばかりなのだよ。
そもそも魔王軍に、人間基準での、萌えとかハーレム展開を期待する方が間違いだったのだ。
確かにエルザやコウメなど、見た目だけなら普通に美少女な子もいるが……エルザは重度の中二病患者で、ヴァンパイアハンターを自称する痛い娘だ。
ついでに吸血皇は、重度の親馬鹿だ。娘になんどか灰にされてるが、気にしてる様子はない。また、娘をうっかりナンパしようとした巨人族の戦士がいたが……。
後日開かれた、功労者に対する叙勲式で、勇猛な巨人族の戦士の中で一人だけ、くねくねと腰を振る。似合わぬ女装したどこかで見た奴が紛れていたことで、どうなったか察してもらいたい。
もう一人のコウメは、一本筋の通った大和撫子風の性格をしているが……本質的には極道の妻だ。さらにヤンデレ疑惑もあるので、関わらないのが懸命だろう。
「…しっ……して…ま……う…様……」
―――ようするに、どちらも地雷である。
ルナリアは水から出ると、下半身の犬の毛が舞ってアレルギー反応を起こすため水から出れない=戦えない、使えない。
メロイはなんで、上半身と下半身が逆なのかと小一時間問いつめたい。
エレシアナとエミリーは、同族的には絶世の美女らしいが、オレの精神は人間なのでノーサンキュー。
シュバルツは、性格もよく、見た目も麗しく、間違いなく可愛いが……ぶっちゃけ犬だ。柴犬だ。
ビッツァーとマオリとハインは見た目でアウトだ。ビッツァーは言うまでもないが、マオリは単眼娘だ。眼力が強いのは良いが、少々強すぎる。
ハインは本来、生前の美しさを保っていたのだが、オレが魔改造した結果が今の姿である……すまんかった。色々な意味で、ガチで後悔している。マジでごめんなさい。
「……っかりし…さ…! 魔……様ッ……!」
さて、これで諸君にも、ハーレム候補の筆頭がメリーアンであると言った、オレの気持ちを理解してもらえたと思う。
だから……これからオレが、ハーレム要員獲得のために、人界世界を制覇するのも仕方がないことだと分かってもらえたはずだ。
さあ、始めよう……オレがリア充となるための、小っ…、聖戦を!
「……しっかりして下さい! 魔王様ッ!!」
一体何が始まるのか……だって?
「決まっている! 第三次世か……ゲフッ!?」
後頭部に衝撃が走り、顔面から床板に叩きつけられる。
身体はくの字……と言うより、への字に曲がり。床に這いつくばるような体勢を強要される。
星がまたたく視界の中、こちらを伽藍堂の瞳で、心配そうに見つめるメリーの姿を捉えると、瞬時に頭が覚醒した。
「……すまん。
現実逃……考え事に、集中しすぎていたようだ……」
肉体の回復とともに立ち上がると、オレは、セミオートのように自然に玉座へ戻った。
どうやら、勇者終了の衝撃が強すぎたため、本格的に現実逃避していたようだ。
「いきなり絶叫を上げたと思えば、わけのわからないことをブツブツ言い始めた時は、どうしようかと悩みましたけど……正気に戻られて何よりです。
……それでは、非礼を働いた私めに、相応の罰をお与え下さい」
メリーアンの手には、[ひゃく☆とん♪]と書かれた、馬鹿でかい木槌が握られている。
どうやら派手なツッコミを食らったらしい。
その滑稽さにオレは苦笑すると、メリーに沙汰を下す。
「ふむ、なら特上のワインを一杯、奢って貰うとしよう」
「しかし、それでは……」
「ん? 我の裁きが不服だと申すのか?」
「い、いえ!? そのようなことは……畏まりました。
直ぐにお持ちいたします。
……ありがとうございます」
「罰を下され、礼を言うとは、豪胆だな。
まあよい……さ、早く持ってまいるが良い」
ふむ、やはり良い。
気立ても良ければ、思い切りも良い。本当に良い骨……女だ。
木槌を曳き釣りながら下がっていくメリーアンから目を外し、水晶球に目を向けようとして……あることに気がつき、思わず二度見した。
ちょっとまて。木槌?
いくら不意打ちだったからと言って、勇者一行の攻撃を無防備に受けても平気だったオレが、玉座から投げ出される程の一撃だったぞ?
物陰に消える前に、木槌を[鑑定]してみる。
どうやら木目調なだけで、木槌ではなく、クソ堅いけどクソ重いくて使いづらい[神鋼鉄]製のハンマーのようだ。
どうやらガチで100tあるようで、そりゃそんなんで殴られれば[闇の帳]があろうと、ああなるわーと納得……できるか!?
だいぶ昔に内乱を起こした、パワー自慢のゼルガスティアとのタイマン勝負の時に受けた、自爆攻撃並に痛かったぞ!? 具体的には、足の小指をタンスの角に全力でぶつけたくらいのダメージだった。
さすがは骨っ娘。それも竜神の末裔と称される、竜帝の骨で作られた竜牙兵だけの事はあると言ったところか……。
メリーアン……恐ろしい骨っ子ッ!
とまあ、冗談は……冗談にしておきたい事はここまでとして、気持ちを改めて、オレは水晶球に目を向けた。
そこに映しだされたのは、聖王国の大教会の奥に間に安置された、勇者一行の“綺麗な死体”であった。
タグにハーレムが入ってない理由の説明回です。嘘です。
実のところ、死体がなければ復活できないと言う制限は、かなり緩い制限です。
なぜなら、そこに細胞の一片でも残っていれば、そこから再生することが魔王なら可能だからです。
ではなぜ、終了扱いかと言うと……長くなるので、詳細は次回の本編で!