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 <番外編:メインクエスト・オールクリアー!!>

ギリですが、お約束の季節ネタです

 あれから色々あったが……遂にオレは、“勇者”に倒される事に成功した!

 

 勇者の火力不足を補うために、受けたダメージが万倍になる呪詛(カース)を自分自身に掛けたことが功を成したようだ。

 

 「それ! ……え? ええええッ!?」


 そのせいで、軽い牽制の一撃であっさり沈んだ魔王(オレ)を見て、勇者が唖然としているが……無問題だ。

 

 結局のところ、封咒の杖を引きこもり神から奪うことが出来なかったから仕方がない。

 

 闇の帳によるダメージの激減を考慮したとはいえ、被ダメ万倍はやり過ぎた気もするが……もう遅い。

 

 感慨は無いかもしれないが、魔王討伐は成せたのだから、勇者よ、結果オーライだと諦めてくれ。


 

 呪詛に寄る複合効果で、魔王の肉体は粉微塵に粉砕され、オレは遠のく意識の中、クエストクリアーのファンファーレを聞いた

 

 そして、視界の片隅に流れるログを横目に、オレは意識を手放す。

 

 

 ―――意識を手放す寸前。

 

 不吉なエラー音が聞こえたのは、気のせいだと思いたい。

 

 [魔王の肉体が致命的な損傷を受けました]

 [魔王の生死判定を行います……失敗]


 [“勇者に討たれ、世界平和への礎となれ!”のクリア条件が満たされました]

 

 [システムにより、魔王“****”の帰還が承認されました]

 [送還術式が励起されました]

 [離魂返還術式が提起されました]


 [-離魂返還術式の起動に失敗しました-]


 [-超再生能力が無効化されていません-]


 [魔王の肉体を再生します]

 [送還術式が起動しました]

 

 [魔王“****”を転送します]


 [-Congratulations- お疲れ様でした……“****”]


 ――――

 ―――

 ――

 

 懐かしくも息苦しい排気ガスの匂い。

 道行く人々や乗用車の織りなす独特の雑踏が、耳心地良いと感じるとは思わなかった。

 

 見渡せば目に映るのが緑豊かなファンタジー世界とは真逆の、灰色のコンクリートジャングル。

 

 道行く人々が怪訝な目でオレを見ているようだが、そんなことはどうでも良い

 

 帰ってきた

 

 ……帰ってきたぞおおおおぉ!! よっしゃああああッ!!!

 

 雲ひとつ無い快晴であるのも関わらず、見上げた空が濁って見えるのは涙ではなく、黄砂やPM2.5のせいだろう。

 

 しばし感動に打ち震えていると、警官に声を掛けられた

 

 「ちょっといいかな? 身分証が有るなら出しなさい」

 

 「……うーん、じゃちょっと署まで来てもらえるかな?」

 

 元の世界に戻って早々に国家権力のお世話になるのもどうかと思うが、仕方あるまい。

 

 自分の家に帰ろうにも、時間軸がどうなってるか分からないし、手持ちの金もない。

 

 ―――と言うか、着の身着のままで財布一つ持ってないのでどうしょうもない。

 

 あれ?

 

 あれれ?

 

 ちょっと待て……着の身着のまま?

 

 警官を手で制し、近くの店のウィンドウに近づき、ガラスに写った己の姿を見てみる。

 

 捻れた角。

 歪んだ口角と鋭い牙。

 赤く揺らめく邪悪な瞳。

 全身を覆い隠す漆黒の王衣と闇の帳。

 身長2メートルオーバーの体格の良すぎる、奇怪な出で立ちのおっさん。

 

 ――――魔王がソコに居た。

 

 ええええええええええええええええええっ!?

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 「なんだおめえ? オタクって奴かい? ソレ、コスプレって言うんだろ? 気合入ってんなっ!」

 

 「……ええ、まあ」

 

 現在オレは、拘置所に居る。

 

 身分証明が不可能なため、不法滞在、不法入国者の容疑を掛けられ勾留されている。

 

 どうしてこうなったかは分かるが、どうしてこうなったかは理解できない。

 

 唯一つ、ハッキリしているのは、元の世界には帰れたが……元の生活には戻れないと言うことだ。

 

 人種不明、国籍不明、性別不明、自称:魔王

 

 もう一度言おう……どうしてこうなった?

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 「おう、兄ちゃんいい仕事してるね」

 

 「……腕力には自信ありますから」

 

 角材をヒョイと肩に背負い、支持された場所に運ぶ。

 

 魔王の膂力なら、木材どころか鉄骨でも余裕で運べるが、自重する。

 

 アレから数ヶ月。

 

 遠見の水晶球は失ったが、魔王としての力はそのままだったので、食事は不要のままだ。

 

 ぶっちゃけた話、生きるだけなら働く必要は皆無だが、せっかく現代世界に戻ってきたのに“金”が無いのは寂しい。

 

 ネットカフェに行くにも金がいるので、こうして日雇いバイトを転々としている毎日だ。

 

 そりゃまあね、その気に成れば大金稼ぐどころか……国一つ落とす事も可能だろうけど、やってどうするって話だろう。

 

 魔術を使えば、やりたい放題だが自重している。

 

 別に魔術を使うことに支障はあるわけではない。レイライン限定だが、魔力の補給は十分可能だ。

 だがしかし、根本的に魔力を使う必要がないからしょうがない。

 

 下手に魔法を使って稼ぐよりも、姿だけ変えて、こうやって肉体労働で稼いだほうが、騒ぎにも成らず手っ取り早い。

 

 ―――正直な話、力を持て余している。

 

 そりゃ、こっちの世界にも、平和とは程遠いきな臭い話は有るし、首を突っ込もうと思えば幾らでも出来るが……意味が無いし、面倒い。

 

 なにせ、オレに野心が無い。

 

 とりあえず、週刊誌を読んで、ネトゲで時間を潰していればそれなりに満足できるのだ。

 

 ―――寂しいって言うなよ!?

 


 ソレに、オレが本当にやりたかった事(・・・・・・・・・・)、が不要になった以上、望みも無い。

 

 家族や知人、そして、戻ってから片付けるはずだった“問題”も、すでに解決済みである以上、本気ですることが無い。

 

 あー、マジでどうすっかね? このまま、ネカフェ難民として彷徨い続けるか?

 

 「オーライオーライ……アッ!?」

 

 「うわああっ!?」

 

 「マジックブラストッ!」

 

 工事現場に事故は付きものだ。

 

 釣り上げた鉄骨が、玉掛けが甘かったのか、崩れて落下していくのが見えた。

 

 落下する先には運悪く、作業中の若者が居た。

 

 そこで反射的に魔力衝を鉄骨叩き込んだは良いが……これで騒ぎは免れない。

 

 日当が惜しいが、まあしょうがないか……ため息を付き、騒ぎに紛れてオレは姿を消す。

 

 

 

 その時、通行人に携帯で動画を撮られていた事に気づかなかった事が、これからの運命を変えたと思う。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 それから色々あった。

 

 動画サイトに魔法を使う場面が流され、サーバーを落としたり。

 メリケンの謎組織に追われたり。

 中華な謎組織に追われたり。

 ロシアンな謎組織に追われたり。

 太平洋を泳いで渡るハメに成ったり。

 うっかり流されて漂着した無人島を開拓して、魔導都市を創ったり。

 第三次世界大戦勃発と、全面核戦争による世界崩壊の危機を、遠隔術式を駆使して力ずくで防いだり。

 メリケンな艦隊を単独で沈めたり。

 5億人を超える人民兵を殲滅したり。

 ロシアンな空軍による爆撃を返り討ちにしたり。

 成り行きで全世界を敵に回し、魔王認定されたりと……色々あった。

 

 そして現在、オレは僻地に建てた魔王城に引きこもっている。

 

 魔王の肉体に寿命は無きに等しく。

 核が直撃しようが、生き残る頑強過ぎる肉体……と言うか、超再生能力の強すぎる恩恵で不死身なオレに、未来永劫、救いはない。

 

 魔王(オレ)を真に“殺す”には、どうやら”封咒の杖”が必須らしい。

 

 だからオレは切に願っている。

 

 主神から封咒の杖を授かった英雄が、世界を渡ってオレを倒しに来てくれることを。

 

 さもなくば、改良した遠隔術式を使い、世界を超えて“魔王”としての力を振るうことも辞さない覚悟だ。



 故にオレは、敢えて言おう―――

 

 ―――勇者よ! 早く来い!! と……。







 

 

                               -April Fools' Day Bad End-

あり得る未来の一つです

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