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 迷宮(ラビリンス)と呼ばれる物がある。

 

 または、地下迷宮(ダンジョン)と呼ばれる事もある。

 

 一口にダンジョンと言っても内実は様々だ。

 

 [聖者の墳墓]や[破談の檻]のように、意図的にダンジョンとして作られたモノも有れば、埋もれた遺跡や古い砦などを指して言う場合もある。

 

 遺跡などの場合、そこに棲みついた魔物の有無や種類で難易度が変わるが、所詮は遺跡でしかない。


 つまり……“踏破(クリアー)”出来るようになってるとは限らない。

 

 さらに、リスクに見合うだけの財宝(リターン)が有るとも限らない。

 

 ―――かと言って、意図的に作られたダンジョンなら良いというものでもない。

 

 山賊が住み着いた洞窟などのように、そもそもクリアー出来るように造る理由が無いのが当たり前で……。

 

 聖者の墳墓のような……非常に悪質な罠があるが、お宝も有り。ちゃんとクリアー出来るように作ってあるダンジョンは、自画自賛だが……とても良心的で、珍しいとさえ言える。


 

 たとえば破談の檻の場合。平和の祈りを込めた迷宮(ダンジョン)作成者(クリエイター)の意向により。お宝である“神々の鳥船”を“封印”するための施設であり。ハナからクリアーさせる気など無いからだ。

 

 余談だが、その封印を解くための(キー)となる品を水晶球でサーチしたところ……火山の火口の中にあった。

 どうやら製作者は、本気で封印を解く気は無かったらしい……。

 

 それなのに、女勇者一行が踏破できたのは……魔王(オレ)と言うイレギュラーがいたからに他ならない。


 

 ええ、やらかしましたがなにか?


 

 と、とりあえず過ぎたことだ忘れよう。

 

 つまり何が言いたいかというと、ダンジョンアタックは、キケンな割(ハイリスク)に実入り少なし(ローリターン)。それが普通のダンジョンであり。専業の探索者(エクスプローラー)が珍しい理由でも有る。

 

 だが、何事にも例外はある。

 

 ハイリスクだが……クリアー可能で、ハイリターンも確証しているダンジョンが存在する。

 

 それは“神与の迷宮(ラビリンス)

 

 ダンジョンの中でも唯一“ラビリンス”と呼ばれるモノだ。


 

 この世界では、神々から人々に、祝福や加護や神器が贈られる事がある。

 

 しかし、通常は有り得ない。

 

 “勇者”のような例外中の例外でも無い限り。制約が厳しい加護は兎も角、神器や祝福が与えられることはめったに無い。

 

 だが現実に祝福や神器を持った者は、そこそこに存在する。

 

 それは何故かといえば、ラビリンスの存在だ。

 

 ラビリンスとは、神々が用意した試練場であり。神々からの恩恵を望む者の一縷の希望でもある。

 

 試練と言う性質上。困難であれど必ずクリアー出来るように作られていて、終了後のお宝の存在も確定している。

 

 まさしく美味しい話(・・・・・)だ。

 

 だからこそ“国”がそれを放置することはなく。

 ラビリンスを中心とした挑戦者(チャレンジャー)を囲い込むための町が作られる。

 

 残念ながら冒険者やランクといった夢あふれる管理ではなく……貴族の三男坊などの微妙な位置づけ人物を、一発逆転狙いでチャレンジさせたり。他国の人間が勝手にクリアーしたりしないように監視してる程度だ。

 それでも一応は、一般人にも門戸は開かれている。

 

 もっとも、そこそこの手数料を取って、後は放置はどうかと思わないでもない。

 

 また、踏破した者は“英雄”として讃えられるが……その実は、名誉(・・)を与えて、見えない鎖で縛り。英雄の義務(・・・・・)を押し付けてるだけだったりする。

 

 でもまあ、その辺りの人間的なドロドロした裏事情はどうでも良い。

 

 重要なのは、突破することで……“神々からの恩恵を受けることが出来る迷宮が存在する”という“事実”である。

 

 ラビリンスは、その入口を見つけることすら試練に含まれている。

 

 そのため“国”が見つけて管理している数は少なく。今だに未踏破状態となると殆ど存在しないと言って良い。

 

 ならばオレが付け入る隙は無い?

 

 いや違う、それは逆に言えば発見すらされてないラビリンスが山ほど有ると言うことにほかならない。

 

 人類より先に見つけて踏破してしまえば、祝福や加護の場合は無理があるが……神器ならば魔族でも使える可能性が高い。

 

 そう考えたオレは、遠見の水晶球でサーチして片っ端からラビリンスを攻略していった。

 

 神器の有無も水晶球で探れば一発で分かる。そして“人間”が攻略することを前提とした試練であり……“魔族”

 

 ましてや、オレが水晶球で事前に調べて起こした地図を持たせた“魔将”を送り込めば余裕でクリアー出来る。

 

 そんな感じで……調子に乗って片っ端からラビリンスを踏破しまくった黒歴史がある。

 

 

 ―――そう黒歴史だ。

 

 

 種族制限や属性制限なんかも半ば強引に解除してクリアーした結果……。

 

 魔王城の宝物庫は……ろくに使えない(・・・・・・・)神器で溢れかえることになった。

 

 予想に反して、神器にも使用者制限がかかってる物が多く。たとえ使えても……人間基準であれば嬉しいが、魔族にとっては不要な能力だったりして結局のところ、無用の長物として宝物庫に死蔵されることとなった。

 

 当時の時点では……無駄足だった……程度の認識だったが、今になって考えると後悔するしかない。

 

 加護や神器を人類側から横取りしたことで、間接的にだが“勇者”の足止めに成功してしまってるからだ……。

 

 勇者と言えど人間であるが故に、それを支える人々がいなければ闘い続けることなど出来ようはずもない。

 

 その支える人々を守るのは勇者ではなく……“英雄”だ。

 

 勇者と英雄は、似て非なるもの。

 

 魔王と対になる存在は勇者だけであり……勇者が英雄と呼ばれることはあっても、英雄が勇者と呼ばれることはない。

 

 勇者が、神に選ばれし(・・・・)“神話”の中の存在であるのに対して……英雄は、神に認められた(・・・・・)“民話”で語られる存在なのだ。

 

 ぶっちゃけ推薦と自薦の違いでしかないが……与えられる祝福の差が実力の差につながるので、勇者>>>超えられない壁>>>英雄、である事に変わりはない。

 

 だが、勇者には劣るとはいえ仮にも英雄と呼ばれる以上。その戦闘能力は“魔将”クラスはあると見て良い。

 

 それ故に……本来ならば、十二魔将の内、何体かは勇者ではなく、英雄に討たれるはずだったと思われるが……オレがラビリンスを潰しまわったため。神器や加護を得て頭角を現すはずだった英雄が野に埋もれたまま終わり。それが結果的に人類領域の衰退を招ねき……討たれるはずの魔将が生き残り。魔王軍が無双してしまったのだろう。


 

 神器を抑えることで、英雄の誕生を阻害。

 英雄不在で温存できた魔将を持って、神々を追い払い勇者の覚醒を阻害。

 勇者に助力や恩恵を与えるはずだった人々を前もって排除して、勇者の成長を阻害。

 

 人類最後の砦と謳われた聖王国を、難攻不落の聖光・七陣結界諸共、古代兵器を持って粉砕爆砕。


 

 ―――世界制覇がクエストクリア条件だったら完璧だった。

 

 

 

 ふっ……黄昏れるのは、ここまでとして話を戻そう。

 

 

 ラビリンスは、その性質上。ライラリス大陸にしか存在していない。

 

 なぜならばリケイド大陸は、神々の庇護下ではなく……邪神の庇護下にあった(・・・)からだ。


 現世利益を前提とした邪神は、試練(ラビリンス)などと言ったまどろっこしい真似はしない。

 

 力を求める信者に掲示(ディビネイション)神託(オラクル)を与え……代償(サクリファイス)と引き換えに力を与えるからだ。

 

 そして、邪神が神々に敗れ封印された後も、神々はリケイド大陸の存在を、黒歴史の如く無視した。

 

 その結果。リケイド大陸では精霊信仰が広まり。現在の星光教会が生まれたと言われている。

 

 経緯を考えれば、聖国の姫巫女が強い権力を持ち。

 精霊と関わり深いエルフである、鎮守森の巫女が重要視されるのは分かる。

 

 問題は……その二人が“精霊の巫女(シャーマン)”であると同時に“邪神の御子”であると言うことだが……今はその疑問を横に置こう。

 

 今最大の疑問は……ベルグラッドから報告を受け。確認のために覗いた水晶球に映る女勇者一行が、迷宮(・・)攻略の真っ最中だってことだ。

 

 「チッ……闇域結界(ダークゾーン)か……」

 

 「灯火(ライト)で打ち消せないのか?」


 「光そのものを霧散させるタイプの結界じゃな……」

 

 「ねえねえ、結界自体をどうにかできないの?」

 

 「普通の結界ならどうにか出来たが……コレは無理だ。

  ―――いくら俺でも、神級の結界はどうにもできん」

 

 「ならば私のルナライトで……」

 

 「ナルナル、無駄なことはやめておけ。精霊力も魔力も本質は変わらない。

  ―――俺で無理なら、お前も無理だ」

  

 「ぐぬぬ……って、だからナルナル言うな!」

 

 楽しそうで何よりだが……神級の結界が張られてるなら神与の迷宮(ラビリンス)で確定か……。

 

 場所はリケイド大陸の南西部。前に俺が行った町から見て遠く、まさに大陸の反対側だな。

 

 しかしそこは、前述した頃にサーチした時には迷宮なぞ無かった場所だ……。

 

 邪神の性質上。迷宮を制作するとは考え難いが……神々が引き篭もっている以上。消去法的に邪神以外有り得ない。


 だが、身体を取り戻していない今の邪神に果たして、迷宮を作れるほどの力が残っているとも思えないのだが……?

 

 そんな風に、疑問を浮かべながらも、とりあえず迷宮を調べてみようと水晶球の視点を動かした。

 

 階層は5階層。広さは東京ドーム2~3個分ってとこか?

 

 神与の迷宮にしては浅くて狭い気もするが……まあ良い。

 

 配置されてる魔物は……ゴーレムとスライムか?

 

 コレまた嫌な組み合わせだ。スライムに有効な炎は、ゴーレムには無効だし……物理攻撃は両方に効き難い。

 

 …………ん?

 

 スライムとゴーレム? 南西……つまり、南と西だよな?

 

 この組み合わせ覚えがあるんだが……。


 

 水晶球を切り替え、迷宮最深部を確認する。

 

 そこに居る二体の魔族……うん、どうみても影武者(オレ)だ。

 

 イーとアルか?

 

 まあ別に、単独行動を指示した覚えもなく。タッグやコンビなどチームを組むのも悪くはない。

 

 迷宮を造るのも、目的の一つである……女勇者の足止めには最適だろう。

 

 

 ―――それ自体は問題ない。

 

 

 問題ないが……なぜラビリンス(・・・・・)を創ってるんだ? 造れるのだ?!



 ……って、おい!?



 怪訝な目で観察を続けていたオレは……気づいてしまった。

 

 オレの分身。オレオレ軍団のイーとアル。

 

 その頭上にいる……“上の人”の存在にッ!

 

 

 ―――つか、なんで増えてんだよ!?

 

 

 

 ちなみにアレンたちの居る大陸にある既知のラビリンスは過去に全て攻略済みなので、勇者の出番はありません。


 また、人類的に未知のラビリンスも魔王によって攻略済みです。

 ただし、加護を与えるタイプの迷宮は未攻略です。


 もっとも、その加護や祝福を与えるべき神が引き篭もっているので、踏破しても報酬はもらえませんので、攻略する意味も有りません。


 つまり現状。ダンジョン踏破による報酬で、勇者一行のパワーアップは無いと言うことです。


 アレン……(´・ω・)カワイソス


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