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サブクエスト[ゴブリンの聖地を制圧せよ!]
もしも、一連の事件がクエストだったら、こんな感じだっただろう。
そうだったら、今頃は……クエストクリアのファンファーレを聞きながら、クリア特典の内容に一喜一憂していたに違いない。
クエストの達成条件は甘く。例え……クエストの余波で、近隣の小さな町が滅ぼうと、クエストクリアに影響はなく、たいした問題ではなかった。
―――これまでは。
そう言った感覚で、長年過ごしてきたツケが回ってきたのだろう。
感覚が狂っていた。
予測が甘かった。
言い訳はいくらでもできる。だが、いくら喚こうと結果や事態は変らない……止まらない。
ならば今は、できることをやるとしよう。
先ずは挨拶だ……見知らぬ相手ではないが、実質初対面なのだ……。
第一印象は大切にしなくてはならない。
さあ、声をかけるとしよう。
ここ謁見の間で、勢ぞろいした十二魔将に囲まれ動揺している、勇者一行へと魔王としての言葉を……。
―――って、なんて声かけりゃ良いんだよ?!
―――――
―――
――
1つ目の間違いは、聖者の町にゴブリンが向かったとの報せと光景に慌ててしまい、吸血皇に追撃命令を出してしまったことだ。
聖者の町は、魔除けの結界が張ってあるため、ゴブリン如きでは結界を破れなかった。
つまり、放置安定だった。
だが、そこに強力な吸血皇が加わったため、敢え無く結界は消滅してしまった。
2つ目の間違いは、吸血皇に勇者たちと出会った時の対処を伝えていなかった事だ。
即座に殺せと伝えておけば……遠隔術式で、問題なく死に戻りさせることが出来た。
一つ前の街からのやり直しとなるが、現状よりましなはずだ。
「我輩、ご指示通り。ゴブリンの聖地及び、聖者の町の制圧、完了致しましたぞ!
その際、愉快な輩を捕獲しました故に、手土産に連れ帰るとします。お楽しみあれ!!」
吸血皇ォォォ!! オレの指示は追撃であって、聖者の町の制圧じゃねーから!?
それと、捕獲した愉快な輩が、勇者一行だってことは、知ってるから!! 観てたから!!
楽しみどころか不安しかねーよッ!!
吸血皇の魔力に耐えれず、パリンと結界が破れ、驚愕する人々と、困惑するゴブリンズ。
街の上空で高笑いする吸血皇と、それを敵と見定め、退治しようと襲いかかる勇者一行。
勇者の名乗りを受けて、興味深そうに笑った吸血皇は[支配の紅玉眼]で、あっさりと勇者一行を無力化したのだった。
そして、操った勇者一行を使って、ゴブリンと、ついでに町の有力者を惨殺。聖者の町の住民を、絶望のどん底に叩き落しましたとさ。
…………………………
……………
……
なにやってくれてんだってばよー!?
人選ミスだ。
他に比べ、有能なので吸血皇を選んだが……見事に裏目に出てしまった……。
吸血皇は有能過ぎた。
魔王軍の目的である世界制覇を前提に考えるなら、今回の行動結果は、称賛はすれど、非難すべき点はない。
不倶戴天の敵である勇者を、首魁であるオレのところまで連れてくるのは暴挙と言えるが―――
―――後援者の神々がアレで、勇者自身も無力化済であるため、危険は少なく。余興として許される範囲で収まるだろう。
それに、経緯はどうあれ、オレの面前に待望の勇者が現れるのだから文句はない……………わけあるか!!
この状況下で、勇者が魔王に……オレに勝てるわけねーだろ!!
せめてオレと勇者一行だけの状況なら、いくらかやりようもあったのだが……。
そうこうやってる内に、吸血皇は勇者を連れて帰還する。
呼んでもないのに、面白そうだとばかりに十二魔将たちもワラワラ集まり。あれよあれよと言う間に、謁見の間で、勇者とオレの運命の邂逅と相成ったのだった……。
「面をあげよ……吸血皇“アルト・ノワール”
―――大儀であった」
「ハッ! 魔王さま……恐縮に御ざります」
大儀であった……じゃねーよ! クソが! 余計なことしやがって…ぐぬぬ……。
早く来いとは言ったが……いくらなんでも、オレと勇者が出会うには速すぎるんだよ!
幸いというかなんというか、勇者を警戒するモノは魔王軍には一体も居ない。
オレが情報を隠蔽していたのと、実際に勇者がまだ、目立った真似を一切していないからだ。
それでも勇者の存在自体は、神々との戦いの時に、天使たちが仄めかしていたので知ってるモノは多い。
ただ、負け犬の遠吠えとしか思われなかったため、これまで放置されていただけだ。
「これが勇者と、その仲間か……ふむ、このままでは話も出来ぬな……」
「敢えて武装解除しておりませぬ故に、支配を解くのは危険かと……」
「構わぬ。
余興なのであろう?
ならば、存分に楽しませて貰うとしようぞ!」
玉座に腰掛けたまま、オレは勇者一行を指差し[漆黒の波動]を発動させる。
これは魔王専用技の一つで、効果は[中和]
強力な解呪効果があり、後から掛けられた、良い影響も悪い影響も纏めて取り除くことができる技である。
吸血皇の支配が、どういう仕組なのか知らないが、コレなら何であろうと解けるはずだ。
「……ハッ?! ここは?!」
「く……不覚を取りましたわ……」
「わ、私の精神防壁が破られた……だと?」
「……………………ここは……この雰囲気……まさか?!」
良し、思惑通り洗脳だか魅了だか知らないが、精神汚染は取り除けたようだ。
吸血皇の眉がピクッと動いた。
自慢の支配を、オレにあっさりと解かれたので、驚いたのだろう……ザマァ!
―――溜飲も少し下がったことだし、考え方を変えてみよう。
現在の状況は、勇者にとっても、オレにとっても大ピンチ以外の何物でもない。
だが、ピンチはチャンスでもある。
魔王城は、オレのホームグラウンドだ。
ここでなら、玉座に座ったままでも十全に力を振るうことが出来る!
だがしかし、うかつなことをすれば、目の前に整列している十二魔将を敵に回すことになる。
勇者が十分な力を持っているなら、それでも良かったが……今の勇者を戦力に数えるのは無謀に他ならない。
ここまで予定と予想が狂ったのは、神々との戦いの時以来だが、事が成ってしまった以上どうしょうもない。
取り敢えず、声をかけるとしよう。
ここ謁見の間で、勢ぞろいした十二魔将に囲まれ動揺している、勇者一行へと……。
「勇者アレン。
僧侶マリアンヌ。
術師ブライトン。
戦士エミリア。
唾棄すべき神々の走狗よ……ここは人界に非ず……ここは我らが魔の域である!
心して聞くがよい!
我は、六百六十六万の同胞と、そこに並ぶ十二の魔将を従えた……魔と世界を統べる……王の中の王! 魔王である!
さあ、跪いて頭を垂れ……神を罵り! 民を見捨て! 我に慈悲を乞うが良い!
―――さすれば、我も考えぬでもないぞ?」
何と声をかけるべきか考えが纏まらなかったので、思いつくままアドリブでそれらしいセリフを述べてみた。
これで本当に勇者の心が折れて、降伏してきたら世界もオレも終了だな……と、内心恐々としているのは、オレだけの秘密である。
転移魔法があるため、魔王城と現場との往復は、さほど時間はかかりません。
ただし、転移は、拠点から拠点への転移のみなのが普通です。普通の転移は、ベルグラッドの能力ほど便利ではありません。
魔王城は、魔界にあります。ある種の異世界ですが、物理的に行くことも可能です。
これは、天界や冥界も同じです。
詳細は後々ということで……。
決して、まだ考えてないわけではありません。ほんとですよ?