<幕間:黒髪の勇者“オレ”>
―――と、いうわけで現在オレは、ここまで辿り着いた訳だが……。
「いよいよ魔王とご対面ですわね……腕がなりますわ!」
「対魔王用遅延術式の準備は出来てる。問題ない」
「僕とマリーが速攻で切り込んで牽制。
ブライトンが超級複合魔法の準備。
―――そして、アレンが[封咒の杖]を使って[闇の帳]を剥ぎ取る」
「後は、魔王の再生能力を超えるダメージを、断続的に与え続ければ……それで勝ちだ!」
魔王の間の立ちふさがる最後の魔将……吸血皇“アルト・ノワール”を、聖者の杖で増幅した渾身の“サンシャイン”で消し飛ばしたオレたちは、今まさに、魔王の居る部屋の、扉の前にいた。
ココマデ来るのは大変だったが、もうすぐその苦労も報われる。
巨人の国で、国王とガチで殴りあった後で友情が芽生えたり。
霊木っぽいモノを守ったら、ハイエルフの女王にストーキングされたり。
人間至上主義者たちと、心と拳で語り合ってケモミミ萌えに目覚めさせ。遂には国法まで変えさせたり。
賢王から色々と戦術、戦略を教わって、なんか攻めてきた魔将だが智将だかを罠にハメて謀殺したり。
神の生贄にされそうになってた獣人の姫を助け。神の使いを名乗る天使っぽい奴を撃破したり。
なんか天罰食らわせてきたので、遠隔術式で返り討ちにして黙認させたり。
傭兵王と知り合い。無敵要塞奪還作戦で、戦友として共に戦ったり。
隠れ里に済んでたドワーフっぽい人の勧めで、亜竜を乱獲したり。
そうやって揃えた竜素材&ドヴェルグ謹製の武装を市場に流し、人類側の武力の底上げを計ったり。
裏でこそこそやってた、悪徳教皇をこっそり誅して闇に葬ったり。
魔族に操られ魔将をやってた二人の少女を開放して、妙に懐かれて困ったり。
聖者の英霊から、聖杖を授かり。マース大森林の氏族からも秘宝の弓を貰ったり。
―――てな感じで色々あったが、おかげで準備は万端だ!
ゲームで言うなら、今のオレはLv99とかLv256とかLv65535、と言った感じでカンストした状態だ。負ける気がしないぜ!!
――――
―――
――
ごく普通の一般人だったオレが、気がついたら深い森の中に放り出され。問答無用でサバイバル生活を余儀なくされた時は焦ったが……この肉体。
―――勇者“アレン”の潜在能力は素晴らしかった。
戸惑うオレに追打するかのごとく鳴り響くアラートとポップアップ。
提示された緊急クエスト。
わけがわからないまま、ただ座して死ぬのはごめんだったので、オレは、生きるために頑張った。
それが今や、真の勇者として成長して、遂に魔王の目の前まで来ているのだから……我ながらよくやったものだと思う。
思えば森でのサバイバル生活も、サンシャインを始めとする豊富な魔法があったので、それなりに快適だった。
しばらく森で生活を続けて、試行錯誤しながら魔法を磨いた。
魔法の独自研究にも目処が立ち、生活に余裕が出来てきたら……今度は人恋しくなってきた。
だからオレは森を出て、街に行った。
遠見の魔法で街を探し、しばらく観察してから―――
人間の街であること。
言語は通じること。
オレ自身の能力がチート級だと言うこと。
文明レベルは、それなりってこと。
―――常識を学ぶためにも、力を隠す事を選んだ。
よくある戦災孤児の一人と言うことにして、孤児院に入った。
そこで常識を学びながら、友人を作った。
最終的に元の世界に帰るつもりだが……だからと言って、“今”を放棄する気はない。
別れが辛くなるので、深入りはしないが……それなりに人間関係を作っておくことは大事だ。
英雄は孤独なものだと誰かが言ったが……オレは“勇者”なので問題ない。
むしろ、絶望に喘ぐ人々を勇気づけ。希望の星と成るのが勇者の役目なのだと、オレは考えている。
そう、現在人類は滅亡の危機に貧している。
世界の3割が、魔王軍によって陥落しているのだ……。
たかが3割と言うなかれ、軍隊における全滅は、3割損耗した状態を指す。
例えはアレだが、ようするに人の集団は、3割も瓦解すれば、十分致命的状態になると言うことである。
これが自然災害なら、復興すれば良いだけだが……。
“敵”の“進軍”があるなら話は違う。
現在進行形で、3割損耗は取り返しがつかない。係争中に復興なんて出来るわけがない。
すで人類は詰んでいると言って良い。
―――勇者がいなければ、だけどね!
まあそんなこんなと、この世界での常識を学んだオレは成人として扱われる16才を目安に勇者として活動を始めることにした。
だが、だからと言ってそれまでの間に、何もしないつもりはない。
この世界には、超常的な力として、魔技だけでなく武技と呼ばれる必殺技っぽいものがある。
幸いなことに才能があったらしく……武技も魔技も問題なく極めることが出来た。
ついでに、仲間も出来た。
お転婆マリーこと、マリアンヌ。
残念なイケメンこと、ブライトン。
ツンデレっぽいエリーこと、エミリア。
孤児院の経営はハッキリって芳しくないため、それを補うために裏でこそこそしてたらマリーに見つかった。
それから二人でひっそり動いてたが……そこにブライトンが割り込んできた。
ブライとマリーの会話を聞いて、事情を悟ったオレが、青春って良いよな~とニヤニヤしてたらブライに殴られた。
当然殴り返したが……最終的には、切れて涙目に成ったマリーから、二人纏めて〆られた。思えばコレが、マリーに頭が上がらなくなった原因かもしれん。
なにはともあれ。
これが青春!? ……と言った感じで、元おっさんのオレは、密かに感動してたらトラブルに巻き込まれ。エミリアと知り合った。
それからもなんだかんだあって、4人の悪ガキ軍団として各地で暴れに暴れることになったのは遺憾だった……。
当初の予定とは異なり。16になる前にそれなりに名が売れてしまったが……まあ、良いだろう。
おかげでクエストを前倒しで進めることができたので、魔王軍側の勢力もだいぶ削れた。
―――“祝福”を受ける前に“魔将”と出くわした時は、死ぬかと思ったが……今は良い思い出だ……。
時がたち、16才になり。
聖光教会に神託が降り。オレが晴れて勇者認定され……大聖堂で枢機卿による祝福の儀を受けた。
天使の羽が乱舞する光景は中々神秘的だったので、興奮したマリーとブライに詰め寄られてちょっと引いた。
中の人が乾いた大人であるオレは、神秘的な光景の影で頑張ってる下っ端天使たちの努力を、神眼の魔術でウッカリ覗いてしまい……感動が0だったので仕方ない。
冷静沈着なエミリアですら……表情に出ないのでわかりづらいが……普通に感動してるようなので、舞台裏を口に出して茶化すのは止めておこう。
しかし、そんな事よりオレが気になってたのは祝福そのものだ。
[神々の祝福]と称された勇者認定による強化は……はっきり言ってチートだ。
例えばだ、このゲームにしてはリアル過ぎる妙な世界で唯一。デジタルな式で表せる魔力値で例えよう。
びふぉー
魔力内包値:4292
あふたぁ
魔力内包値:783024
―――うん。チートってレベルじゃないね☆
魔将と戦った経験からして、桁が変わるのは予想してたけれど……二桁変わるとは思わんかった……。
ソレ以外でも、身体能力が軒並み強化され。
なんと言うか……こう……ね? よくわからない金色のオーラっぽいモノを出せるようになった。
どこのスーパーな異星人だよ!? と、うっかり叫んだオレは悪く無いと思う。
突如で奇声を上げたオレをみる仲間たちの目が生暖かいが……今さら気にしたら負けだ。
ついでに云うと、祝福を受けたのは勇者だけだが……仲間たちにも恩恵はある。
それは祝福と一緒についてきた“加護”のおかげだ。
[勇気の翼]
[友情の羽]
むず痒くなるような加護だが、有用性は高い。
勇気の翼は、恐れずに立ち向かう事で、都合の良い偶然などによって状況が好転する。
友情の羽は、友人の数がそのまま力になるらしく。その強化対象には、仲間も含まれる。
愛は? 愛は何処に行った?! ……と、茶化したくなるくらいチートだ。
一応デメリット的な制約として、臆病者やボッチには使いこなせない加護だが……。
リア充的な、今のオレには……全く問題はない!
仲間と呼べるのはいつもの3人くらいだが……友達レベルで良いなら100人以上いる。
それらは全て、これまでの間に起こった―――
トラブル発生! (クエスト含む)
オレたちが首を突っ込む!
巻き込まれた人々と交渉!
牙を向く黒幕をぶっ飛ばす!
ドタバタしながらも事件解決ッ!!
――――とかやってた時に知り合った人々の事だ。
おかげでオレだけではなく。仲間たちも、かなりパワーアップしたようだ。
それにだ、6年近く連れ添った仲なので……ぶっちゃけ、こいつらも大概異常だ。
マリアンヌは、武僧の奥義である聖撃を自己流で昇華させ―――
―――聖天神撃を編み出した。
ブライトンは、魔術と魔道を複合させた―――
―――森羅万象を創り出した。
エミリアは、先天的な器用さとオレの唆しに乗って―――
―――四刀流を極めた。
うん、オレもオカシイが……こいつらも十分オカシイ!!
聖天神撃は、光気だか、神気だかを……拳に纏わせて殴るだけの技だが、威力が尋常じゃない。
勇者になる前にクエストクリアで手に入れてしまった……勇者用の天剣である……[光輝之剣]と大差ない威力の一撃を繰り出せるのは、ちょっとオカシイと思う。
ブライの森羅万象もイカれてる。
オレが冗談で―――
火と氷とか組み合わせて、相殺させずに昇華させたら凄くね?
―――と、か言ってみた数日後。
本当に某漫画に出てきた極大消滅呪文を完成させたのだ!
まあ、さすがに本家のようにガチで消滅させるようなチート技ではないが……ようは対消滅によって生じるマイナスを、繊細なコントロールと整美な術式によってプラスに転じたものらしい。
ぶっちゃけよくわからんが、とにかく! すごい!!
数人がかりで唱える……超級魔法を遥かに超える火力を、単独で叩き出すことに成功させたのは事実であり……ありえないと云わざるをえない。
エミリアはエミリアで―――
器用貧乏より、特化のほうが強い!
数の暴力は有効でだ。そこで、手数が増やすてっとり早い方法として……三刀流とかどうだ?
―――と、某漫画の海賊狩りや、某ゲームの六刀流とかを進めてみたら実現させやがった。
なんか実力不足で煮詰まってたので気分転換も兼ねた小粋なジョークのつもりだったんだが……マジで使えるようになるとは……解せぬ。
まあ内容は、4つの魔剣の柄と両腕を、紐で結び。剣を振ると言うか、紐を持って振り回すと言った感じで扱っている。
経緯はどうあれ、地水火風の4本の魔剣が縦横無尽に、四方八方から襲いかかると言った、その戦闘法は脅威でしか無い。
そして、オレはオレで、108あると云われている勇者必殺剣を全部覚え。さらに、オレ式の必殺剣である―――
「サンシャインブレイクッ!!」
天地空の全てを切るとされた初代の必殺剣“サンシャインストラッシュ”に、魔力を上乗せした……全てを砕く……竜の騎…げふげふん。
勇者であるオレだけが使えるオリジナル技である。
―――魔将すらも倒せるチート技を会得してたりする。
そう、コレは、祝福を受ける前に出会った……魔将を仕留めた技でもある。
あの時はまあ、正直運が良かった。
魔将でありながら武人肌で、なんかやたら長い名前の将軍だったが、正々堂々と戦ってくれた。
おかげで……バックアタックが成功した!
うん、どっちが悪党か分からないので、この時の闘いの詳細は墓まで持っていくつもりだ……。
まあなんだ……歴史は勝者が創るものだと良く言うことだし、細かいことは気にせず先に進めるとしよう。
―――でまあ、そんなわけで……閉ざされた魔王の間の扉を、肩慣らしも兼ねてオリジナル (笑)な必殺剣で粉砕してみたのだが……。
あれ? 魔王がいねーよ?!
「誰もいない……だと?」
「まさか……逃げ出したのではないですわよね?」
「はは、まさか魔王が逃げるわけが……ないよな?」
「配下の魔将は全滅。
有象無象の下っ端魔族も、ほぼ全員が敗走。
世界の3分の1に及んだ魔王の支配も瓦解済。
しかも、城に残っていた。最強と謳われた魔将も……瞬殺。
―――僕が魔王なら、逃げる。全力で逃げる」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あははは……そりゃまそうだわな……万全の状態で攻めてきたチート勇者を、馬鹿正直に玉座で待ち構える必要は無いわな……。
一応念の為に玉座の裏側の床を調べたが、隠し階段などは無い。
オレたちは、がらんとした魔王の間で、空の玉座を前に、お互い見つめ合い。微妙な顔で力なく笑うことしか出来なかった……。
ざんねん!! オレの ぼうけんは これで おわってしまった!!
てれれんれんれんれんてんてんてんてんてんれんれんれんてってってん♪ ……て、どうしてこうなった?!
即興で仕上げた、エイプリルフールネタですw
一応、IFにはなっています。
主人公の性格や口調が微妙に違うのは、魔王と勇者の立場の違いによる影響です。
ちなみに、この勇者なら、本編の魔王とガチで互角以上に戦えます。つか、歴代ぶっちぎりで最強の勇者ですw




