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 幽玄の檻“ベルクラッド”に封書を渡す。

 

 こういった伝令に使う手紙は、封書として送られるので原則的に部外者に読まれる事はない。

 

 ましてや幽玄の檻“ベルクラッド”の場合。影から影へと渡ってから、直接手渡すために……途中で妨害されて、すり替えられたり、盗む読まれたりされる危険性は低い……低いのだが……。

 

 内容が内容なので、当人以外にはわからないように符丁を使うことにした。

 

 さほど難しくはない暗号だが、キーワードを知らなければ解けないタイプであり。


 そのキーワードは……オレの母国で使われた単語を流用する。

 

 

 [はにゃーん様]

 

 

 意味不明だろう? オレにも分からん! 

 

 とある埴輪王子の口癖を、某札蒐集少女と、某魔法王女に似た髪型を持つ摂政の名前をミックスした造語だと思われるが……。

 

 これは何かといえば、なんとなくオレの頭に残っていたフレーズであり。恐らく大した意味のないものだと思われる。

 

 それでいて、オレにとっては妙に耳に残った単語であり、この世界にあるはずのない言葉でもある。

 

 魔王(オレ)影武者(オレモドキ)との共通認識を利用した暗号であるため、破られる心配は無い。

 

 その頭に残るキーワードは、実際に口に出した事は一度もないため。第三者が知ってる可能性は皆無だ。

 

 寝言で喋った可能性もない。魔王就任からこれまでオレは一度も寝たことがないので当然だろう。

 

 また、読心術やサトリ妖怪的な能力があろうと、魔王(オレ)抵抗(レジスト)を抜けるような奴はいない。

 

 もしいたとすれば、それはそれでどうしょうもないので、このさいソレはどうでも良い。


 

 ―――何が言いたいかというと、ナルシア付きの影武者(オレ)に、ベルクラッドを付けるって事だ。

 

 倒すべき邪神の御子の二人が、女勇者一行がいるリケイド大陸で活動してることが判明したので仕方がない。

 

 巨人の堕慧児は、こっちの大陸に居るので、予定通り吸血皇を向かわせればよいが……あっちの大陸ではそうはいかない。

 

 だとすれば必然的に、ナルシアか……オレオレ軍団に任せる事になる。

 

 ナルシアの相手だけなら専任しても良かったのだが……邪神の御子が絡んでるならば連携は必須だ。

 

 迂闊に御子の数を減らさないように、互いに配慮して行動する必要がある。

 

 そこで、ベルクラッドの出番だ。

 

 一件が片付くまでオレオレ軍団内及び、魔王(オレ)との連携を密にするために頑張ってもらうとしよう。

 

 邪神の御子が一人なら……ナルシア&影武者(サーたん)に任せても良かったが……二人だとそうもいかない。

 

 一人は……精霊の愛兒“フラムソワーズ”

 

 そして、もう一人は―――


 

 「うん、そうだよ~! 勇者が現れたってリサリサに聴いたから、里を飛び出してきちゃった。てへっ」


 

  ―――鎮守森の巫女“マリッサ”である。

 

 どういう偶然か……それとも必然なのか? ソレは分からない。

 

 ハッキリしているのは、女勇者の存在の影に、邪神の思惑が見え隠れしているってことだ……。


 

 「幼なじみ……ってことか?」

 

 「うん、小さい頃はよく一緒に遊んでたよ~」

 

 「仲が良いのだな……私と幼なじみ(ラックス)とは違って……」

 

 「うん、仲が良かったよ(・・・・・)~」

 

 「……なぜ過去形なのですか? ミリー?」


 「う~ん? なんか巫女に成ってから言動がオカシイくなっちゃたんだよね」

 

 「ほう? 具体的に、どうオカシイんだ?」

 

 「え~と……なんて言うか、ね?

  ―――電波?」

 

 「神託(オラクル)啓示(ディビネーション)とは違うのか?」

 

 「さあ? 時々だけど、意味不明な事を言い始めるんだよね……」

 

 「神霊の齎す予言は、詩的で抽象的であると聞くが……それとは違うのか?」

 

 「うーんとね……そう言った謎解きや謎かけみたいな事も言うけど、それとは違うかな? かな?」

 

 「意味が理解できないのではなく……根本的に何を言ってるか分からない……って事か?」

 

 「そうそう! 言葉が言葉になってなくて~ほんとわけわかんないの!」

 

 「言語(・・)が違うってことか……? ううむ……」

 

 「げんご? なにそれ?」


 「サーたん。それは、方言の事か?」

 

 「蛮族などの辺境の民とは、訛りがきつくて会話が成り立たない時もあると、聞いたことが有りますけど……それですか?」


 は? なんだと?!

 

 「…………外国語って分かるか?」

 

 「外国の言葉? 頭痛が痛いみたいな感じ?」

 

 「母国だろうと、外国だろうと言葉は言葉ではないのか?」

 

 「それこそ意味が分かりません。何が言いたいのかしら……サーたん?」


 共通語以前に……他言語の概念が無い……だと?

 

 オレがこの世界にきてから“言葉”で困ったことはない。

 

 会話は通じる。

 文章の読み書きも可能。

 

 オレの元いた世界での母国語がそのまま使える。

 

 単語レベルでは多国籍的な言葉も使われているが……基本は、オレの母国語だ。

 

 さすがに固有名詞や、はにゃーん様などの流行り廃りのある単語は通じない。だから、秘すべきキーワードとして使うのに問題はないが……。


 一般的な、カタカナ語とでも言うべき単語や言い回しは普通に使われ。

 

 諺や格言なども、ある程度はそのままで通じる。

 

 だからオレは、なんか不思議な力で自動翻訳されてるものだと考えていたが……前提が間違っていたのか?

 

 この世界では……誰も不自然に思わないレベルで、共通する言語を使っているのか?!

 

 バベルの塔とは何だったのか?

 

 ―――まあ良い。

 

 これでこの世界が……作られた世界(・・・・・・)である可能性が強まっただけだ。

 

 女神との会話から、上位存在がいるらしいって事は解ってる。

 さらに“上の人”の存在も確認できているならば……ソレくらいは想定の範囲内であり……問題はない。

 

 ただ……新たに生まれた可能性として、オレの世界の何者か……。

 

 より具体的に言うならば……オレの母国に関わる何者かが……この世界に、深く関わっているって可能性だ。

 

 そいつが何者かは不明だが、今、ココでオレが魔王をやらされてることに無関係だとは思えない。

 

 女神の口ぶりからすると、その上位存在が“単体”である確率は低い。

 

 複数体いるのならば……協調、対立、傍観。様々な利害関係が予想される。

 

 上位存在だろうと、その精神性までもが上位とは限らない。

 

 多様性が予想されるなら……オレにとって都合の良い思考、嗜好、志向を持つ個体がいてもオカシクはないはずだ……。

 

 問題は、都合の良い上位存在と交渉しようにも……取引材料に成るモノが無いどころか―――

 

 そもそも、接触(コンタクト)する機会も無いってことだ。

 

 ―――でもまあ、上の人=上位存在の手駒と仮定するなら、向こうから干渉する意思があるってことだろう。

 

 後はソレが益か、無益か、はたまた害と成るかを見極め。望む結果を……未来を選び取るだけだ。

 

 

 それが出来れば苦労はない……と、苦笑しながら、オレはワインを飲み干し、メリーにおかわりを頼む。

 

 仮定に仮定を重ねた話はココマデにして、現実を観るとしよう……。


 何か変化があれば、ベルクラッドを通じて報告があるだろうから、こっちはしばらく放置で良い。

 

 さて、遠見の水晶球を操作して、視点をナルシアからアレンに切り替えて……。


 

 「こ、これが緋緋色金之御劔(ヒーローブレイド)……」

 

 「鉄より硬い亜竜(ドレイク)を一刀両断。上級の魔剣を超えたな……」

 

 「これなら……アノ魔王だって、タダではすまいないはずですわ!」

 

 「楽観は危険。でも、希望は見えた。頑張りましょう」

 

 「後は[闇の帳]をどうにかすれば、十分イケるはずだ……」

 

 ―――おお?!

 

 隠れ里で、ドヴェルグの鍛冶師から剣を打ってもらうことに成功したんだな!

 

 ふむ、亜竜を一撃なら……魔将相手でも、それなりに戦えるだろう。

 

 うんうん、ミリーではないが、良い感じだ!

 

 銘と言うか、剣の名称(ルビ)は、誰のセンスで付けられたかが気になるが……まあ良い。

 

 この調子ならば、魔王(オレ)を倒せる日も近いだろう。

 

 順調で、実に素晴らし……い……ッ?!



 「コレならどんな相手だろうと……負ける気がしない!」

 

 「ああ、アレンには光翼飛踊(エアリアルダンス)が有るからな……長身相手でも問題ない」

 

 「そうして足元が疎かに成った所を……ワタクシが聖撃(ホーリータッチ)で仕留めれば良いのですわね?」

 

 「戦略としては正しい。細々とした部分のサポートは、俺と……」

 

 「僕とで抑えれば良い……闇衣(コレ)も、ソレに向いてる」



 ―――ちょっとまて、お前ら。

 

 誰と……何と戦おうとしている?


 

 「里の民から聞き出した特徴からすると、そこの未開地にいるのは間違いない」

 

 「先手必勝……ってことだな?」

 

 「これまで後手に回っていたのだから……たまには、こちら仕掛けるべきだっ!」

 

 「人質はどうしますの?」

 

 「そのための奇襲……だよ?」

 

 「ああ、難民保護は俺がやる。ある程度、避難させたら転移で直で合流するから問題は無い」

 

 

 ―――いやいや、激しく嫌な予感しかしないんだが!?


 

 「待ってるが良い……邪神の御子!

  ―――今度は、こっちが先手を打つぜ!」

  

 「デカイだけで鈍いのなら……私の魔法の良い的でしかない!」

 

 「そうね……ワタクシが、下から急所を、突き上げるのも良いのではなくて?」


 「……エグい。でも、有効だと思う」

 

 「きゅっとするからあまり想像したくないが……巨人であろうと、人体構造は大差ない。

 

  有効は、有効だろうが……まあ良い。

  

  それに、邪神の御子相手に、加減など不要っ!

  

  ―――ならば、全力で、仕留めるぞッ!!」

  

 「「「「おお―っ!!!」」」」

 

 

 ―――おいバカやめろ!? 死ぬぞ?

 


 ああそうか! 相手の……巨人の堕慧児の詳細な情報が伝わってないのかっ!!

 

 そりゃそうだ、遠見の水晶球を使えるのは、魔王(オレ)だけで……影武者(オレモドキ)は使えない。

 

 情報格差がここで響いたか……いや、ならば情報を共有すれば良い!

 

 ベルグラッドを呼んで………ああ!? ナルシアー!?

 

 しまった!? あっちに送ったので手元にいねええええッ!!?


 

 ココらへんから、影武者と主人公との認識の齟齬が顕在化し始めます。

 影武者によって、主人公の手数は増えましたが……。


 同時に、問題も増えました。


 主人公=トラブルメーカー。

 影武者=主人公。


 つまり……?




 魔王の中の人: \(^o^)/


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