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邪神の御子とはつまり……古き神の祝福を受けた“勇者”である。
ならば……オレが倒されるべき勇者に、邪神の御子も含まれるのか?
―――それは否だ。
緊急クエストとして、邪神の御子の討伐が指定されている以上……オレが、倒されてやるべき勇者のはずがない。
ならば何故勇者……元勇やアレンたちと敵対しているのか?
その答えは単純だろう。
神々と旧き神は敵対関係に有る。
ならば、その走狗である勇者と御子が敵対するのも当然だと云えよう。
そして、それならば“女勇者”と、御子が敵対していない理由も分かる。
女勇者は……“精霊”に選ばれた勇者だ。
精霊とは、世界の根源にも繋がる。大自然そのモノの化身であり……善でも悪でもない中立的な存在である。
故にその精霊に選ばれた女勇者もまた……神々や旧き神々と敵対する理由はないはずなのだ。
―――だが、現実は違う。
月光教会と聖光教会は敵対関係にあり。
女勇者は魔王の命を明白に狙っている。
魔王と勇者は……(ついでに、勇者と女勇者も)……敵対関係に有る。
―――何故だ?
魔王と勇者と言う言葉から、当たり前のように受け止めていたので考えもしなかったが……どうして魔王と勇者は戦わねばならないのだ?
オレ個人ならば、クエスト完遂のためだと言い切れるが……そもそもクエストとはなんだ?
神々と魔王軍が敵対してる理由は分かる。
神々は原則的に人々の味方であり……人々と魔族は敵対関係にあるからだ。
人々と魔族が敵対してる理由は価値観の違いと……概ね魔族側の素行に原因が有る。
魔族は享楽的で、本質的には……“暇と力を持て余した若者”と同じである。
暇つぶしに魔族は人々にちょっかいを掛けて騒ぎを起こす―――
「暇なんでちょっと人間の国に逝ってくるわww」
「いってら~」
「おみやげキボンヌ」
「全裸待機余裕」
「なんかエラソーな女がいたんで攫ってきたww」
「それって姫じゃね?」
「バロスwwww」
「あーあ、やっちゃたなwww」
「なんか武装した集団が押し寄せてきた件」
「騎士団かな? 傭兵団かな? 潮騒」
「姫どうしてる?」
「テラバロスwwwオワタなwww」
「姫ならオレの横で寝てんよ?
―――なんか豪華そーな鎧着てたから騎士団っぽい。
ま、軽く蹴散らしたけどなwww」
「騎士団www壊滅wwwwギガバロスwwwwwww」
「あれ? フラグ立ってね?」
「姫の画像うpはよ!」
「うpりかた知らねーよwww
―――アレ? なんだ? なんか変なの来たぞ?
勇者……だと?」
「あーあーオワタな」
「ザマァwww」
「だから早く姫画像うp! 間に合わなくなっても知らんぞ―」
「…………」
「乙華麗~ご愁傷さまですwww」
「無茶しやがって……」
「返事がない。タダの屍のようだ……ってか? ww」
-意訳-
―――それもやたらと軽いノリで、惨事を引き起こす。
だからまあ、魔族と人々が敵対する……と言うか、人々から魔族が嫌われるのは理解できるどころか、当然の帰結だと言って良い。
そして次に、邪神と魔王軍が敵対してる理由なのだが……。
勇者を殺させるわけにはいかないので、魔王が御子を排除しようと考えるのは当然だろう。
それに、クエストクリア特典にあった邪神の祝福も蹴ったのだから、邪神がオレを快く思ってないのも理解できる。
だがおかしなことに……クエストを前提にするならば、邪神は“最初から魔王軍と敵対していた”……っぽいのが理解できない。
魔族と邪神の親和性は高いはずなのだが……なぜだろうか?
また、最大の疑問は……精霊だ。
精霊は完全に中立であり。敵にも味方にもならない。
誰かに使役されることで、一時的に敵対することあっても……本格的に敵対することはありえないと言って良い。
なのに何故……精霊に選ばれし女勇者は、魔王と敵対しているのか?
これは簡単だ。
“精霊に選ばれし女勇者”
それ自体が、デタラメだからだ。
女勇者を選定、継承する仕組みは理解した。近くで見て確認したので間違いない。
解析して理解したが故に断言できる……コレは“作為的に作られた術式”である……と。
女勇者の選定は、無作為だ。ある程度……素養のある人物が選ばれるようにはなっているが……そこに“精霊の意思”は関わっていない。
そもそも“精霊の意思”は、“大自然の意思”と言い換えても良く。極めて超然とした思考をしている。
善意も悪意も入り込む余地は無く……分かり合おうと考えること自体が間違いだ。
だからこそ“精霊に選ばれし女勇者”など欺瞞でしか無い。
欺瞞であるならば……誰がソレを成したか? ……そこが問題だ。
聖光教会も色々と暗部がありそうだが……月光教会は怪しすぎる。
精霊を掲げた教義自体は構わない。自然崇拝は、当たり前といえば当たり前の事でありソコに疑念はない。
だが、その精霊を、人の味方と位置づけ。魔王に敵対するモノとして定義している月光教会には、疑念しか浮かばない。
しかもそこに深く関わる人物として……巫女姫。
精霊の愛兒“フラムソワーズ”
邪神の御子が居るのはあまりにも解せない。
月光教会は精霊教である。
精霊は中立故に、啓示や神託を与えることはない。
ただし、地震や噴火などが起こる場合。その予兆として精霊が騒ぎ始めるので、それを察知して民衆に危機を知らせるために巫女が存在するのは不思議ではなく。
ある程度組織化されているなら……それを束ねる長的な存在として“姫巫女”が居るのも道理だろう。
現にそれを裏付けるように―――
「ふむ、つまり……月光教会とは―――
聖国の聖王。
月光教会の教皇。
そして、聖女である姫巫女との三権分立体制にあるわけか……」
「ええ、その中でも特に、精霊様のお声を聞ける姫巫女様の役割は重要よ」
「勇者の誕生を示唆したのも……その姫巫女なのか?」
「そう聞いている。
あと、サーたん。姫巫女を呼び捨るにするのは止めろ」
―――水晶球の向側で、女勇者一行がタイムリーな話題について話している。
ほうほう、つまり邪神の御子が……女勇者の誕生に一役買ってるってことか?
もともと胡散臭い話だったが、さらに怪しさが増してきたな……。
やはり女勇者は……作り物で、言わば偽勇者か?
いやだがしかし、それでは派生クエストの―――
[アレンとナルシアの仲を取り持ち、覇王を誕生させよう!]
―――として、名指しされた事が解せない。
後付なのか、最初から予定されていたかは不明だが……“クエスト”として、ナルシアの存在が承認されたのは確実だ。
それに疑念は、まだある。
初代女勇者である……月光士“セレスティア”
彼女は……何時の時代の勇者なのか?
元勇者たち存在があったため。漠然と昔の話と考え重要視していなかったが……。
もしかしたら……女勇者の歴史は浅いのではないか?
女勇者の術式の仕組みを鑑みるに……元勇者たちと同レベルの歴史を刻んで、継承され続けていたのならば……今頃は、化け物に成ってるはずだ。
精神的にも、実力的にも、人外に匹敵する……まさしく化け物とでも称するしか無いほどの強さと精神性を身につけていなければおかしい。
それ程に、女勇者を構成する術式は強力であり……えげつないシロモノなのだ……。
だが現実のナルシアは、多少病んでいるが……人間性は損なわれておらず。
実力も……祝福を受けていない割には強いが、人の枠を超えてはいない。
今の女勇者であるナルシアは……化け物とは程遠い。
考えられる理由は二つ。
歴史が浅いか……途中で継承が断絶しているか……そのどちらかだ。
しかし、断絶してると仮定するなら、矛盾が生まれる。
術式は……言わば呪いだ。
女勇者を媒体にした……魔王を殺すためだけに創られた呪詛みたいなものである。
ならば魔王を打ち倒せば……そこで術式は終了する。
つまり、歴代魔王を、歴代の女勇者が打ち倒したのなら……初代から継承される力が断絶しているのは、むしろ当たり前だ。
だが、歴代魔王を倒したのは、元勇者たちである。
そこに女勇者が加わる余地はない。
―――ならば、継承が断絶しているのではなく……歴史そのものが……女勇者の発生自体が……つい最近の事であるとしか思えない。
つまり、女勇者を組み上げた……“何者か?”が狙う命は……魔王の命では無く……。
―――魔王の命を、狙い済ましているってことか?!
ええ!? なんでだー?
魔族の人類への悪行は過去の話しです。
現在は魔王の進めた政策によって―――
はた迷惑なDQNから……はた迷惑なオタクへ……。
―――見事に更生したのですッ!!
青い狸<いや、そのりくつはおかしい(AAr




