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拳闘
オレが元いた世界では、かなり有名な格闘技だ。
こっちの世界にも似たような格闘技の流派は存在するが、まあそれはどうでも良い
本題は、階級についてのことだ。
ボクシングは体重別にライト、フェザー、バンダム、ヘビーとかなり細かく分けられている。
それは何故かと言うと、体重差が強さに直結しているからだ。
ヘビー級とライト級が戦えば、両者の技量によっぽどの差が無い限り。ライト側に勝ち目は無い。
ヘビー級から見れば、ライト級渾身のストレートで、牽制ジャブ程度にしかならず。
ライト級から見れば、ヘビー級の牽制ジャブが、渾身のストレートと同じになる。
柔能く剛を制す。
蝶のように舞い蜂のように刺す。
ヒット&アウェイ。
これらは全て……幻想に過ぎない。
もちろん多少の差ならひっくり返すことも可能であるが……根本的にダメージが通らなければどうしょうも無い。
小が大を倒すと言う幻想を、現実にするには、大を打ち倒せるだけの火力が必須なのだ。
体格差の火力差を埋める手っ取り早いの方法は、刃物や銃器を持つことだ。
凶器が有れば、子供でも大人を殺せる可能性が生まれる。
―――だが、それはあくまでも、可能性だ。
火力では並んでも……耐久、間合い、体力、移動速度など、肉体的な部分の全てが違う。
小柄な人は素早く
大柄な人は遅い。
これはタダの思い込みに過ぎない。
足の長さの違い。体格の違いは、間合い……つまり、攻撃範囲にも影響する。
同じ一歩でも、歩幅の差があれば移動距離は異なる。
筋力が同じなら、体重の軽いほうが早く動けるのは事実だが……それはつまり、大柄な方が貧弱なのか、小柄な方が剛力なのかはわからないが、体格と筋肉が釣り合っていないというだけの話である。
互いに同等であるのならば……小が大に勝つのは不可能に限りなく近いのだ……。
なぜならば……小の実力が高く。大がウドの大木であっても……体重差で押しつぶされたら、小が負けてしまうからである。
―――と、まあ何が言いたいかと言うとだな……。
全長98mの大巨人パネェっす! ……ってことだ。
筋骨隆々なので、貧弱ってことは無い。
銛を使う姿から推察できる白兵戦の実力も高い。
爽やかイケメンでありながら……どうやら性格も良さそうだ。
性格が何故分かるか……って?
対策を練るためにしばらく観察してたらな……難民キャンプ的な場所でボランティアやってたんだよ!!
どうやら度重なる戦火で住むところを追われた人々が、辺境とかで集落を創って生活しているのは知っていたが……。
その生活を支えているのが、邪神の御子である……巨人の堕慧児その人らしいのだ!
元々巨人は、体格に応じて食べる量も多いが……同時に、その間隔も大きい。
具体的には、食事は数ヶ月に一回くらいの頻度で良いそうだ。
然るに……巨人の堕慧児の場合。避難民の食事を優先していため……ここ数年。マトモに食事をとったことがないらしい。
つまり、己の食い扶持を削ってまで、人々の生活を優先するような、ナイスガイなのだ。
しかも、どうやら集落を創るための土地の開拓や魔物の撃退なども率先して行っているようで……住民からも、気の良い頼れる兄ちゃんとして親しまれているっぽい。
観察していると実際に……子供たちと遊んでたり。若者たちに混じって雑談していたり。感謝する老人たちに謙遜したり。女性からの声援に照れて逃げたり。などなど……良好な関係を築いているようだ。、
、
―――なんなんだ! この完璧超……巨人は!?
まあ考えてみればだ……。
邪神とは即ち。現在君臨する神々に地位を追われた旧き神々の事であるが故に……“邪神”と銘打たれていても、その性質が“邪悪”であるとは限らないわけだ。
それに実際に今の神々と戦ったオレから言わせれば、ぶっちゃけ五十歩百歩でしかない。
むしろ、輪廻の輪から意図的に掬い上げ。自分たちの手駒と成る“天使”として生まれ変わらせたりしてる分。今の神々の方が質が悪い気もする。
―――だったら邪神と手を組むのもアリだったのでは?
答えは否だ。
初手の時点で敵対していたことを除外しても……手を組む事は無いだろう。
魔王軍は、魔王を頂点とすることで成り立っている組織だ。
そこに邪神信仰が加われば……神と魔王で、頂点が二つと成り。魔王軍……と言うか、魔族自体が二分される恐れがある。
いや違う。二分されるだけならまだ良い。
邪神と手を組むと事は……言わば信者に成る。つまり、傘下に降る事を意味する。
つまり、魔王であるオレが中間管理職に降格する事を意味するわけだ……。
オレ自身は魔王の権力や地位が低下しようと、魔族全体で見て繁栄するならソレはソレで良いと思うが……。
仮にそうなった場合。
[勇者に討たれ、世界平和への礎となれ!]
邪神の性質と、人間社会の性質は相容れない。
邪神を長とするなら、その走狗に成り下がった魔王を倒しても、世界平和に繋がらない。
―――つまり、クエスト完遂が不可能になる。
これはオレの個人的な都合でもあるが……人類秩序のためにも必要なことだ。
ふむ、話が逸れたな……。
巨人の堕慧児は、個人的には、リア充爆発的な意味で含む思いが無くもないが……好ましい人物である事は変わらない。
神々の後援を受けた御子には自由意志が有る。
与えられた祝福も、加護も、貰った以上、ソレはすでに自身の力と言って良い。
つまり、御子が神々に下克上噛ますことも可能なのだ。
まあ、神の力の一部である祝福と、神の力そのものを操る神々とでは根本的な実力差が大きいので、下克上なんて不可能なんだが……。
下克上を試みることは可能であり……それを未然に防ぐ方法は無い。
与えた力を取り上げる事も不可能だ。
食事を振る舞った後で、今食べたものを返せと言っても不可能であるのと同じ理屈である。
つまりだ……邪神は兎も角。御子ならば、味方に引き込むことも可能だと言うことだ!
え? 巨人の堕慧児にビビったのか……って?
ははははっ!
―――そのとおりですがなにか?
いやそりゃまあね? 魔王だったら勝てると思うよ?
巨人の一撃食らっても……[闇の帳]と、防御魔法とか神気とかを併用すれば、余裕で耐えれるさ……。
相手の持ってる加護によっては戦闘時間が変わるけど……最終的に勝つのは、明白にオレだと言い切れる。
でもな……その場合。巨人の堕慧児を倒した頃には、魔王軍が壊滅してるのも明白なんだよ!
それじゃあ今後の行動にも困るし、心情的にも嫌だ。
幸いなことに話し合いが通じそうな相手なので、出来れば協力体制。最低でも不可侵条約は結ばせたいところだ……。
上手く行けば脅威が除かれるだけではなく……残る二人の御子に割り当てられる加護の数を減らす事にも繋がるわけで……下手に戦うよりも、明らかに和平を選ぶべきだと思われる。
思われるのだが……懸念は有る。
そうやって首尾よく残る二人の御子を仕留めた場合。巨人の堕慧児に加護の全てが集中することになり……究極大巨人が爆誕する事になる。
味方か中立であるなら無問題だが……万が一。牙を向かれた場合が厄介過ぎる。
これは想像であり。推測というか妄想に近い予測なのだが……最後の一人になった場合。
全邪神の加護が集約されるだけではなく……+α的なボーナスも発生しそうな気がしてならないのだ……。
素でも強い巨人の堕慧児に、それらが合わさると最強に見えるどころか……ガチで最強に成りかねない。
それこそ……全力全開の魔王を、ぶち殺せるくらいに……。
ううむ……悩ましい。
まあ良い。別に切羽詰まってるわけではない。他の御子の様子も見てみよう。
さすがに巨人の堕慧児のように厄介過ぎる人物ってことはないだろう……。
―――そう思っていた時期が、オレにも有りました。
精霊の愛兒“フラムソワーズ”の様子を観てみると……何処かの荘厳な教会っぽいところで、女勇者一行と相対しているようだが……。
「よくぞ戻られました蒼天の勇者“ナルシア”。
―――各地で、魔王の手によるものと思われる騒ぎが起きているのは知っていますか?」
「はい。
敗れたとは云え……魔王軍の中枢に入り込めたのが良いあぶり出しになったのでしょう。
―――速やかに排除いたします」
「よろしい。ならば巫女姫である私の……フラムソワーズの名に於いて命じます。
この大陸に巣食う……魔王の脅威を駆逐するのです!」
「それは魔王討伐に連なる道です。
―――私達、勇者の名と身命に賭けて……必ずや成し遂げてみせます!」
「期待していますよ……ふふふ」
ちょっとまて。
なんで月光教会及び聖国の超重要人物に……邪神の御子がいるんだよ!?
邪神と勇者は……敵対してたんじゃなかったっけ!?
主人公は幻想と切って捨ててますが、実際は急所や弱点を狙えば小が大に勝つのも容易だったりします。
某進撃的な作品の巨人vs人類みたいな感じですねw
もっとも巨人の堕慧児の場合は、98Mに及ぶ巨体でありながら。自重で自壊することない強度の骨格と筋肉を持ち。さらに、それらを支える各種細胞片の存在を踏まえると。眼球などの急所部分ですら、㌧単位の自重による自壊に耐えれるだけの強度があると言えます。
……つまり、人体的に急所であろうと、弱点とは呼べないくらい頑丈だと言うことであり。弱い急所部分ですら鋼鉄並に硬いってことです。
だから―――
Ω<人類は巨人に駆逐されるしかないのだよ!
ΩΩΩ<な、なんだってー!?




