表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/67

<幕間:蒼天の女勇者 中編>

さらに分割~

 三度目の挑戦は、月食の女勇者(エクリプス)“マルチナ・フォン・イルグレード”とその家臣でした。


 ワタクシは、氷河山脈の麓にある氷麗湖を囲むように広がる男爵領を治める……女男爵(バロネス)だったからです。


 たとえ貴族であろうとも……精霊(・・)様に選定され、勇者と成った以上……仕方が有りません。


 従兄弟に家督を譲ったワタクシは、前回の教訓を踏まえ……家臣の中から腕利きを二名。


 青の(アジュール)正騎士(キャバリエール)“ラックス”

 赤の聖騎士(レッドパラディン)“サリアス”

 

 考えてみれば、迷宮は、遺跡でもあるのですから、遺跡調査の専門家を呼ぶのは当然のことだったのかもしれません。


 そこで、外部から著名な冒険家(エクスプローラー)を迎え。


 蛮勇の冒険家(スペランカー)“イェーアー”


 迷宮近くの街で、私達が来るのを待っていてくれた……アレスと合流したのです。


 「二人は用事ができたと言って、どっか行っちまった。

  ……ああ、俺は逃げたりしないさ。

  

  魔王を倒すまで……最後の最後まで……君達(・・)に付き合うよ」


 そう言って……私達(・・)に、笑いかけてくれた事を覚えています。


 専門家を迎え入れた私達は、中層に仕掛けられた数多の罠を潜り抜け。最下層に続く道を発見したのです。

 


 ―――そこが、ワタクシの終着駅と成りました。

 

 中層を守る門番が亜竜クラスの難敵でしたので、次の門番はさらに手強いだろうと、予想はしていましたが……本当に、亜竜そのものが出てくるとは予想以上でした……儘ならないものです。

 

 「ダメや! 数が多すぎますぞ!?」

 「マルチナ様! 撤退を!! 正道騎士剣術……ブランディッシュ!」

 「退路の抑えは私が!


  戦神の名に於いて、汝の進退を封ず……。

  

  ―――聖輪陣(ホーリーサークル)ッ!」

 

 「イ゛ェアアアア!?」

 「ああ……先生が段差から落ちた!? クッ……マルチナ様! ご決断を早く!」

 

 「少数精鋭も…多勢に無勢には敵わない……か、退くぞ! 殿(しんがり)はワタクシが務めるッ!!」

 

 最下層に続く扉に立ちふさがったのは、闇色の鱗を持った亜竜“リザードレイク”でした。

 

 亜竜(ドレイク)と言うだけなら……強敵では有りますけれど……負けることは無かったでしょう。

 

 ―――ですが、そこに、眷属である大蜥蜴“ホブリザード”の集団が加わるなら話は変わります。

 

 亜竜相手でも臆すること無く前進した私達の……退路を塞ぐように、前後左右から大蜥蜴が湧き出してきました。


 ワタクシ達は、敢え無く囲まれ……このままでは、数の暴力で圧殺されるのも時間の問題です。

 

 領主としてのワタクシは、己の命を最優先にするべきであると思いました。

 

 ―――ですが、私達(・・)は、()に備えて、彼ら精鋭を活かす事が最優先だと提案しました。

 

 そして、ワタクシは……無念を飲み込み。

 

 自分が犠牲に成れば良い……と、決断したのですが―――





 「ダメだ! 君も逃げるんだ!!

  ―――血路を開く!! “ガイラス”流必殺剣……奥義ッ! ブレイブストラッシュ!!」



 ―――そこに、アレスが割り込んだのです。



 彼は囮と成った私達を見捨てず。出口に繋がる道を塞ぐ敵を奥義で斬り伏せ。ワタクシの退路を切り開いたのです。

 

 

 ―――ワタクシ(・・・・)は、知っていました。



 私達(・・)が、放たれた魔弾であると……退路など最初から無い。魔王の心臓目掛けて、一方通行をひたすらに走り……勇ましく、(タマ)(タマ)として砕けるだけの存在であると……知っていたのです。

 

 ―――だから私達(・・)は、伸ばされた彼の手を払い。

 

 ワタクシ(・・・・)は、予定通り……魔物たちに、飲まれたのです。



 ――――

 ―――

 ――


 

 四度目の挑戦は、蒼天の女勇者(ブルームーン)“ナルシア”

 

 農奴から勇者に転身した私の元に、仲間が集まりました。それは―――


  光の王宮戦士(テンプルファイター)“アレス”

 赤の聖騎士(レッドパラディン)“サリアス”

 戦う賢人(ワイズマン)“アンディ=ショーンズ”

 弓聖(ボウマスター)“ミリアム”

 槍使い(スピナー)“エルトラン”


 ―――3人の友人(・・)との出会いでもありました。



 「我が忠誠は、勇者ではなく、マルチナ様に捧げたものだ」

 「私の忠誠も、マルチナ様に捧げたものだ……故に、その意思を継ぐ勇者を助けなければならない」

 

 「そうか……ならば、貴公はそうするが良い」

 「ああ、そうさせてもらう」

 

 青の正騎士は去り。赤の聖騎士は残りました。

 

 「…………どうして君は……君達は……。

 

  ―――いや、なんでもない。

  さあ、今度こそ……中層を抜けよう!」

 

 アレスも残りました。


 一瞬、憂い顔を浮かべた気がしますが、すぐにいつもの様に、歯を見せて見せて笑ったのです。



 ―――なぜか、それが痛々しく見えたことを私達(・・)は覚えています。

 

 「ふーん、なんか難しいこと考えてるでしょ? でしょ?」

 

 そんなアレスに、無邪気な悪意を持ってミリアムは話しかけています。

 アレスは、それを苦笑で返しました。

 

 そんな気安く楽しげなやりとりを見て、私は……何故か、目を逸らすように天を仰いだのです。



 「へへへ、まあ、金さえもらえりゃ……おれたちゃ文句はねえよ」

 

 数の暴力には、数の暴力。

 傭兵ギルドに支援要請を行い。一組の傭兵団を雇いました。

 

 団体の指揮など、()には出来ませんが……私達(・・)なら問題はありません。

 

 懸念ある罠の対処も万全です。


 「中層の罠は私に任せて貰って結構だが―――

  

  ―――やめてくれ。悪いが、()と戦うような無謀な真似には付き合えない。

  

  亜竜(ドレイク)であろうと……竜は竜ってことだ。

  英雄に成れない凡人(・・)の私は、途中で引き返させてもらう」

 

 彼に求める力は、敵を倒すことではありませんから、それも仕方がないことでしょう。


 賢人である彼の知識は、大変素晴らしいものです。

 それ故に理解してるのでしょう。

 

 ()を冠する生物の恐ろしさを……。

 

 ―――ですが、私達は恐れません。

 

 恐れより……憎しみが……胸を焦がす悪夢と、魔王へと湧き上がる……油虫への嫌悪も超えた。苦くて狂しい思いが、私達の後押しするからです。


 そして、四度目の挑戦と、二度目の決戦が始まりました。


  

 ―――宣言通り。賢人は中層の途中で離脱しました。

 

 私は感謝を持って、それを見送り。

 残った罠に多少手こずりながらも、私達は再び。最下層に続く道……亜竜の元に戻ってきたのです。



 「先ずは、出足を止める!


  詠唱破棄(スペルキャスト)―――


  ―――聖炎炸光(ホーリーフレア)ッ!」

  

 サリアスが先手を打って、敵の出足を挫きました。


 「うぉおお! 行くぞ! 倒せば金貨100枚だ!! てめえら!! ヤッちまえ!!!」

 

 「「「「「おおおおおぉおうッ!!!」」」」」

 

 湧いて出る大蜥蜴を傭兵団の方々が迎え撃ちます。

 

 「穿け! 血煙穿孔突(ブラッディスクラッド)ッ!!

 「いっけー! 貫いちゃえ! 妖精弓(エルフィンボウ)ッ!!」

 

 槍使いの人と、ミリアムが亜竜に先制打を放ちました。

 

 「今度こそ……仕留める!

  ―――“ガイラス”流必殺剣……秘技! ブレイ・ブレイクッ!!」

 

 「ええ……仕留めましょう! ムーンサルト・カッターッ!」


 刹那を見切り。二撃を一撃に束ねて放つ。アレス必殺の剣に合わせて、私もまた……勇者の力(・・・・)を乗せた……必殺の剣を放ったのです。


 先制打に続いて放たれた二筋の剣は、吸い込まれるように亜竜に直撃しました。

 

 はい……直撃したのです。

 

 それなのに与えたキズは……あまりにも浅すぎました。

 

 「なん……だと!? わ、我が魔槍が効いてない!?」

 

 前回の敗北は、多勢に無勢が原因。

 ―――だったら、こちらも数を揃えれば良い。

 

 それがどれだけ甘く……()の力の限界を知らないモノの考えだと……。

 

 「亜竜(・・)であろうと()(ドラゴン)」……その言葉の意味を、私は身を持って知ることになりました。


 「グギャアアアアアオオオオッ!!!」

 

 竜の咆哮(ドラゴンロアー)によって、彼らも、私達も……生物的に格下である事を……嫌でも思い知らされたのです……。

 

 


 や、やってやる、やってやるぞ。ドレイクがなんだ!


 リザードとは違うのだよ、リザードとは!


 こ、こいつ、違うぞ。リザードなんかと装甲もパワーも!?



 ―――でっかい蜥蜴と亜竜では、雲泥の差があります。


 魔王が、亜竜をでかい蜥蜴と同一視して、纏めて雑魚扱いしてるのは、自分が強すぎて、普通の人達の基準を、正しく測れていないからです。


 そして、その致命的な齟齬に……まだ、気づいていません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ