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<5>


 この世界にレベルと言った概念は無い。

 当然ながらステータスと言った存在もなく、配下や勇者一行、自分などの能力を客観的に測る方法はない。

 

 ただし、魔法は違う。

 魔法は、魔力で管理されるため、ある程度デジタルな値を算出できる。

 

 そのため、マジックアイテムの鑑定なんかは、かなりゲーム的に処理でき、分かりやすいといえば、分かりやすいのだが……どうにも後付け感がして、妙な違和感がある。

 

 そうのためどうしても“物理法則が支配する普通の世界に魔力を持ち込んで、誰かが(・・・)強引にゲームっぽくなるようにした”……と言った疑念が湧いてくるのだ。

 

 ―――それはまあ良い。今は(・・)考えるだけ無駄だろう。

 

 どうせなら、筋力や敏捷度なんかのステータスも分かればよかったが、体調や疲労などのコンデションで大幅に変わるデータが分かっても、あまり意味は無いだろう。

 

 ゲームではないのだから、それで当然といえば当然なのだが、そんなことよりむしろ、レベル制の方が実装されて欲しかった。


 それなら勇者に雑魚を大量に送りつけ、レベルアップ作業を促し、半強制的に経験値を稼がせ、強くさせることもできたからだ。

 

 現実は違う。


 敵を倒すことで……敵と戦うことで、戦闘経験を詰むことで、ある程度の向上は望めるが、劇的な強化はありえない。

 

 つまり、勇者たちを、十二魔将を蹴散らし、魔王であるオレを倒せるくらいまで、大幅に強化するには、超常能力である“加護”や“祝福”を受けるか、神器級の強力な魔道具の入手は必要不可欠なことだと言い切れる。

 

 だがしかし、神々の大半はぶち殺したし、神器級の品の殆どは、サブクエスト報酬として、オレが横取り&使用済である。

 

 ――――すでに、勇者の強化案の8割は潰えているのだ。

 

 この手遅れ感漂う、絶望的な劣勢を覆すには、真の意味での奇跡が必要かもしれない……。

 

 前途の多難さを再確認したオレは、軽くため息をつき、メリーが持ってきた、金杯に注がれた、見た目は上質の赤いワインっぽい……材料不明の液体を喉に流し込み、水晶球に目を向けた。

 

 そこに映しだされた光景は、勇者一行が、神父を交えて作戦会議を行ってる姿だった。


 「神聖な退魔兵装が効かないと言うなら、それはアンデットでは無いのではありませんかな?」

 「そうかも知れない。サンシャインで怯みもしなかったからな……」

 「いいえ、ワタクシが断言しますわ。アレは間違いなくアンデットです」

 「マリーが言うなら、その通りなんだろう。だが、ならばなぜ私の魔法も効かなかったのだ?」

 「……効いてないと言うより、回復してたように思えるけど?」


 おお?! 成長した!!


 何度全滅しようと、引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! とばかり、なんの対策もせずに吶喊とっかんを繰り返していた勇者一行が遂に、立ち止まって考える事を覚えてくれたか!!


 「そうだ! サンシャインが効かないなら……剣で切り倒せば良い!!」

 「いい考えですわ。ワタクシも、聖撃が通じないなら致し方ありませんわ……不得手ですが、トゲ付き鉄球(モーニングスター)を使うとしましょう」

 「うむ、では早速向かうとしよう……なあに、私の魔法が効かなかったのは、何かの間違いだ。次は仕留める! 行くぞエミー!」

 「うーん? もしかして正負が逆転してる?……って、え?! ……逝くの?」

 「ちょ、ちょとお待ち下さい! 急いては事を仕損じますぞ!?」


 ―――と、思っていた時期がオレにもありました。

 

 どうやら、ボス戦全滅、強制帰還後。目を覚まして直ぐに、懲りずに再突撃しようとしたところを、神父さんが押しとどめ、事情詳しく聞いているところのようだ。

 

 ―――成長してねえぇぇぇ!?

 

 そして、神父さん……ありがとうぉぉぉ!!

 

 「神聖な力で回復するアンデットなど、効いたことがありませんぞ?」

 「だが、実際には居た。どういうことだ?」

 「部屋……墳墓自体に、何か仕掛けがあるのかも知れませんわね」

 「……少なくとも、私が見た限りでは魔術的な仕掛けは無かった」

 「ん……僕が見た感じでも、仕掛けがありそうには見えなかった」

 

 「「「「「うーん?」」」」」

 

 だが、話し合うのは良いが、めっちゃ悩んでるようだ。

 うん、まあ、そりゃそうだろう。墓室に仕掛けなんて無い。

 

 まさか聖属性のアンデットと言う、珍奇な存在が居るとは、普通は考えないよな……。


 仕掛けた罠が、十全な仕事してくれた事は、製作者的には嬉しいが……困った。マジ困った。


 勇者一行が、ハインを攻略するビジョンが見えない。

 

 そもそも、闇とか呪いとかを扱う品は、殆どが禁制品で、入手自体難しい。


 さらに、入手できたとしても、そう言った、負のオーラを放つ品を持って、アンデットの巣窟に足を踏み入れること自体が自殺行為だ。

 

 負の相乗効果で、呪具の呪いが強まって持ち主を蝕んだり、アンデットが大幅に強化されたりするからな……。

 

 さすがはテキトーにデザインされたダンジョンだ。


 まさにクソゲー。

 

 誰だこんなの作ったのは……って、それはもういい。

 

 ぐぬぬ……どうしたものか?

 

 事前に雑魚アンデットを一掃してから、対ボス用の呪具に持ち替えて再出発って手段は……ハインが健在な限り、アンデットは無限湧きするから使えない。


 上位アンデットであるハインには、普通の武器では、全く効果が無い。だからと言って、銀製品などの聖属性の武器は逆効果だ。


 純粋な魔法の武器なら、普通に効くのだが……そういった魔法の品の特産地である、魔導帝国“アーカロン”は滅亡済みだ。



 ―――うん、またなんだ。



 魔導帝国は、世界有数の大国で、その国力武力は侮れなかった。


 その証拠に、十二魔将でも上位に位置する、戮戦の単眼鬼“ゲラルチョス”に攻略を任せたところ―――

 

 「オデ、ツヨイ! オデサマ、オマエラ、マルカジリ!」


 「「「人間舐めるな化け物どもが!!」」」


 「安全装置解除!」

 「二時方向、目標補足! 大型一○、小型多数!」

 「魔導機関全開!! 燃料を惜しむな!」

 「魔力充填完了!!」


 「よし! 討て(ファイエル)ッ!!!」

 

 ―――って感じに、帝国の誇る決戦兵器。三十八式魔導列車砲“デンドロビュームバスター”の砲撃で、単眼鬼率いる一軍まるごと、消し炭にされてしまったほどだ。

 

 ……まぁ、その結果。

 

 優秀な参謀でもある、智将“ドライセン=ドライセン”の進言に従い、手の開いていた魔将を、彼も含めて7体程。惜しみなく戦線に追加投入したところ―――

 

 「ほっほっほっ……さあいざ逝け! いざ進むのじゃ! 列車砲なんぞ、レールが無ければ動けぬ欠陥兵器じゃわい!!」

 「破れぬ壁なぞ存在せぬ成。徹甲轟掌破(シェルインパルス)!!」

 「我らは一にして全、全にして一の天空の覇者! 空飛ぶ軍隊蟻“フライアンツ”! 今だに地べたを這いずる事しか出来ぬモノなぞ恐れるに足らん!!」

 「……闇に滅せよ」

 「ま、魔王さまの命令は、ぜ、絶対ですぅ……だ、だからボクのことを恨まないで下さい……爆裂炸裂殲滅魔法(フレアブラスデッド)ッー!!! ふぇぇ……こわいよぉ……」

 「おうどんたべたい」

 「貧弱脆弱惰弱情弱虚弱孔雀! 弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱ッ!!!!」

 「ボオリ、ボオリ……ペッ。ふん、やはり人間は、肉も骨も柔らかく歯ごたえが足りん……ふむ、ならば焼いてみるか?」

 

 「「「「「「「「ぬわー!?」」」」」」」」


 ―――と言った感じに、オーバーキル。帝都諸共、軽く滅亡させてしまった、苦い記憶がある。

 

 なんか変なのが混じってた気がするが……ま、いいや。

 

 と、ともかくだ!


 勇者たちの自力での攻略が難しいと言うか、不可能に近いことが分かったならば……再び、オレが介入するしかない。

 

 幸いなことに、ゴブリンの聖地に送った吸血皇は、まだ、その近くにいるはずだ。


 いつものように、側近であるベルクラッドに伝言を持たせ、聖者の墳墓の攻略を頼むとしよう。

 

 これもまた、クエスト外の命令になるので、側近に持たせる指令文の内容には注意せねばなるまい。

 

 目的は、ハインの粛清か抹殺で良いのだが……理由が難しい。

 

 聖者の墳墓をダンジョンにしたのも、聖者を聖邪に作りなおしたのもオレだからな……。

 

 なにか不始末があったと事すると、オレの失態にも繋がるので拙い。


 翻意を持っていた事にしようにも、現場で事情聴取されたらあっさりバレて、よりヤバイことになるだろう。

 

 魔将と魔王の関係は、かなりドライだ。

 

 オレが弱さや隙を見せれば、下克上を喰らう可能性は高い。うかつなことは出来無い。


 配下の者たちは、“オレ”に従っているのではなく“魔王”に従ってるにすぎないからだ……。

 

 配下は居ても、誰一人として“オレ”の味方は居ない。そんな殺伐とした世界が、今のオレの全てとなる。

 

 だからこそ、早く元の世界に帰りたいと願い続けている。


 ―――そのためなら手段は選ばない。

 

 選ぶ余裕もない。


 「魔王様。吸血皇より伝言を持って参りました」

 

 そんなことを思い返しながら黄昏れていたオレの前に、ぬらりとベルグラッドが現る。


 どうやら、吸血皇からの伝言である、封管を持ってきたようだ。

 

 オレはまだ指示は出していない。何かトラブルでもあったのだろうか?


 封管を開き、中の手紙を広げながら、水晶球を起動して現地の様子を観てみる。

 

 水晶球に映ったのは、無数のゴブリンどもが聖者の町に一斉に襲いかかる光景であった。


 そして、開いた手紙に書かれていたのは――――

 

 「ご命令通り、制圧完了いたしましたが……

  一部の矮躯なる者共が、我輩に恐れをなして大森林より逃走致しました。

  

  魔王様。いかが為されますか?」


 ―――聖者の町、終了のお知らせだった。

 

 テレパシーと言った遠隔通信手段は存在しますが、距離の制限あります。

 そのため、魔王城から動けない主人公が前線と直接話すのは不可能です。


 ただし、側近の影から影への移動に制限は無いので、ほぼリアルタイムで書簡の交換や、短い伝言の伝達は可能です。


 問題は、それをこなせるのがベルグラッド、一人だけってことです。


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