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 「きゃー! サーたん!! 来てくれると信じてたー「ひょい」 ぶーぶー! だからなんで避けるの……?」

 「今は何も聞かないが……後で必ず説明してもらうからな!」

 「ここまで来て、出直すなんて……」

 

 女勇者一行の脱獄逃避行を先導するオレは、当然偽物だ。

 

 オレはもう、玉座から簡単には離れられないので当たり前である。

 

 かつて魔王軍に演説した時と同じようなモノだが、ただの幻影ではない。

 

 幻影のみだと、ミリアムが抱きついてきた時に、物理的な意味で華麗にスルーしてしまって拙い事になる。

 

 そこで、オレが用意したのが肉人形(フレッシュゴーレム)だ。

 

 オレの体格に似せたゴーレムに、幻影をかぶせただけだが……バレる確率は低いはずだ。

 

 なぜなら、肉人形の材料は……オレ自身だからだ。

 

 魔王の肉体が超再生する事を活用して―――

 

 1:右手の手刀で、左手をスパッと切り落とす。

 2:落ちた方の左手を素材に使う。

 3:超再生で、ニュルっと左手を生やす。

 4:1に戻る。

 

 ―――と、言った感じで、オレの左手を増殖させ、それを肉人形の材料に使う。

 

 それは我が事ながらシュールな光景だった……とだけ言っておこう。

 

 人払い……と言うか悪魔払い? と、とにかく、奇行の目撃者が出ないようにしておくべきだったと後悔したが……もう遅い。

 

 心なしか、オレを観る雑用の小悪魔たちの目が、バケモノと言うか……危ない人を観る感じになり。

 メリーはメリーで、妙に優しくなった気がする。

 

 取り敢えず……その可哀想な子を、遠目で生暖かく見守る感じの視線はやめてもらいたい。

 

 ―――オレは正気ですよ?

 

 真顔で淡々と自分の腕を切り落とすような猟奇的な姿を見せた後では説得力なさそうだが、肉人形を組み上げた事でタダの自傷行為ではなかったと、分かってもらえたと信じたい。


 

 「うーん、何もいないね?」

 「魔王城なら、魔物で溢れかえってると思ってたのだが……」

 「………魔王ぅ」

 

 「そりゃ見回りのいないルートを選んで通ってるから当たり前だ。


  さあ、もう少しで転移陣に付く。

  気を抜くなよ?」

  

 ま、今度こそ抜かり無く人……悪魔払いしといたから、何も誰もいなくて当然だろう。

 

 女勇者一行の処遇だが……とりあえず、リケイド大陸に帰ってもらうことにした。

 

 考えれば考えるほど、女勇者をライラリス大陸に連れてきた事自体がミスだったとしか思えないからだ。

 

 幸いながら、オレが向こう側にいた時。念の為にと、リケイド大陸側にも転移魔法陣を構築しておいたので、魔王城からの行き来は難しくない。

 

 もっとも、女勇者一行には、脱出専用の一方通行だと説明しているが……まあ、それはどうでも良い。

 

 ―――どの道、転移魔法陣は、オレの許可無しでは使えない。

 

 リケイド大陸側に送り届けた後も、女勇者一行は、オレが望まない限り。魔王城どころか、ライラリス大陸に渡ることすら難しいだろう。

 

 ―――これで当面は、放置安定のはずだ。

 

 それに、オレの分身と言うか影武者と言うか、新たに作った肉人形は、そのまま、女勇者一行に同行させる予定である。

 

 しょせんはゴーレムなので、オレ自身に比べればザコもイイトコだが……材料が魔王の肉体なのはダテではない。

 

 普通のゴーレムでは有り得ない。受け答えする程度の知能と、ブライトン程度の魔術能力を有している。これならギリで、足手まといにはならないはずだ。


 

 弱体化した理由も―――

 

 「お前らを助けるため。魔王の結界を破るのに無理したからだ……」

 

 ―――と、でも言っておけば納得してくれるだろう。

 

 さらに言うならば、女勇者一行には、魔王……つまり、オレを倒す方法も伝えてある。


 

 「十二魔将は通常。世界各地に散らばっている。

  それぞれ与えられた役割を果たすために、指定された領域に派兵されてるからだ。

  

  だが、魔王城で有事が発生した場合。具体的には、魔王がピンチに成った時は、即座に集結するようになっている。

  

  つまり、魔将を放置して魔王に挑んだら……駆けつけてきた魔将に、背後から挟撃されると言うことだ。

  

  ―――そうだ、

  

  対策は単純明快。

  各地に点在する十二の魔将を、一体ずつ各個撃破して、先に全滅させれば良い。

  

  魔王に挑むのは……その後だ」

  

  

 まあ大体こんな感じで説明しておいた。

 話した内容に嘘は無いが……実はあまり意味が無い行動だったりする。

 

 すでに知っての通り。魔将が減ったとしても、再編成するだけなんで魔将の数が減ることはない。

 

 ただし、再編の度に質が下がるので、それなりに意味は有るが……それは本質ではない。

 

 なぜなら魔王のピンチに駆けつけると言うか……動員されるのは魔将だけではないからだ。

 

 有事の際には、当たり前だが……魔王城内部や周辺の魔王軍関係者“全員”が集まってくる。

 

 つまり、各個撃破したところで……意味が全く無いとまでは言わないが、焼け石に水状態なのである。


 意味を持たせ、本気で増援を防ぐなら、魔王以外を全滅させるしかない。まさに無茶ぶり。出来るわけがない。


 

 もっとも、オレは“倒されること”が目的なので“動員”をかける予定はない。


 動員を掛けなかった場合。配下が自発的に集まってくる可能性は低い。

 

 ―――ソレは別に、オレが嫌われてるとか、カリスマ (笑)だからではない。

 

 “最強”の“魔王”を助けようなんて奇特な魔族は、いないってだけだ。。


 むしろ、危機に陥った最強を……有象無象の雑魚がどうやって助けようと言うのか聞きたいくらいである。

 

 ま、中には……「魔王様のお手を煩わせるまでもありませぬ!」とか「魔王と戦いたければ俺様を倒してからにするんだなぁ!」とか「魔王様! 今お助けしますぞ! 我が名は***! ***である! 魔王様! 観てて下され……***が、お助けしますぞ!」とか……。

 

 色々と個人的な理由で救援……と言うか、参戦・乱入しようとするモノがいても、せいぜい数体ってところだろう。

 

 それにその時は、その時で、結界でも張って「知らなかったのか? 魔王からは逃げられない」 ……とか言いながら、こっそりと部外者を排除する予定だったりする。

 

 “魔王VS勇者と仲間”の図式は、王道であると同時に、オレを倒すための必要条件だから……上手くやらないと、二重の意味で詰むのが現実だから仕方がない。


 要するに現状では、オレが……“倒されてやろう”と思わない限り。人類側に、魔王討伐の芽は無いと言い切って良い。


 

 そんな事、こんな事を徒然なるままに考えていたら、女勇者一行と“影武者(オレ)”は、転移魔法陣の有る……[出会いと別れの間]に着いたようだ。

 

 「さ、方陣に乗るが良い。

  ―――俺もすぐに行く」

  

 「うん! 待ってるからね!」

 「……信じてるからな?」

 「むううう……私だけでも残って……」

 

 「ナルシア。急がば回れだ……そら一度帰るぞ」

 

 未練がましい視線を向けてくるナルシアを無視して、転移陣を起動する。

 

 女勇者一行が転移したのを見届けたオレの影武者は、誰もいない虚空ぬ向かって一礼した後で、追いかけるように転移していった。

 

 たぶん、オレに向かって挨拶したつもりだろうが、オレが居るのは、そっちじゃないぞ?

 


 ―――まあ良い。水晶を切り替えると、無事にリケイド大陸で四人とも合流出来たようだ。

 

 影武者と言っても独立した擬似生命体なので、オレとの感覚共有や意思疎通などの便利機能は無い。


 なので時々は、水晶球で動向の確認を取る必要がある……が、まあ、当面は放置して良いだろう。


 

 それに……影武者が、1体だけだと誰が言った?


 

 水晶球をさらに切り替えると、そこには聖王国跡地で、途方に暮れる勇者一行と……それに問いかけている“オレ”がいた。

 

 「―――見ての通りだ。

 

  聖王国は滅んでしまった……」

 

 「なんてことだ……せめて、復興の手伝いを……」

 

 「やめておけ。勇者アレン。お前に期待されているのは慈善事業じゃない。

  

  ―――ヤルべきことは、一刻も早く魔王を倒すことだッ!

 

  全ての元凶が魔王であるなら……それを一秒でも早く倒すのが、勇者(おまえ)の役目じゃないのか?」

 

 「……ああ、わかってるさ」

 

 ああ、そういうことだ。

 せっかく出来たアレン達との繋がりを断ち切るのは、もったいないだろ?

 

 まあ、こんなこと出来るんなら、もっと早くやれよと思うかもしれないが……出来るように成ったのは、つい最近なのでしょうが無い。

 

 具体的には、聖王国からオレがパチって……保護してきた資料の中にあった魔法書のおかげだ。

 

 ただのゴーレムなら、前から作れたのだが……メリーアンのように“自我”を有する魔法生物を造る方法は知らなかった。

 

 生命創造に関わる魔法書なので、当然のごとく禁書扱いされていたが……聖王国そのものが、ああなった以上、気にする必要は無い。

 

 むしろ気にするなら別のことだが……それはもう手遅れだ。


 

 な、何にせよ。これでようやくオレは、神々に等しく……創造主(クリエイター)と成れた。

 

 限界や不可能はあるが、それでも必要な“能力”を持った配下を、必要な“数”だけ用意出来るようになったのは有り難い。

 

 実のところ。これ以上魔王軍本体を弱体化させるのは拙いと思っていたところだ。

 

 使い捨てしても惜しくない配下を量産できるのは、ある意味革命と言って良いだろう。

 

 人類や神様的には、フザケンナ!? って感じだろうが……オレは気にしない。


 

 そういうわけなので―――

 

 「俺は魔王だ!」

 「俺が魔王だ!」

 「俺って……魔王?」

 「奇遇だな! 俺は魔王だ!!」

 「いやいや、真の魔王は俺だし!」

 「俺だって魔王でござんす!」

 「魔王は、俺にこそふさわしい……ふふっ」

 「ああん? 俺が魔王に決まってるだろうがッ!」

 「おうどんたべたい」

 「魔王なら俺のベットで寝てるよ?」

 「俺こそは魔王の中の魔王! 大魔王だ!!」

 「ほほう……なら俺は、大々魔王だ!」

 「え? 魔将じゃなくて良いの? ……じゃ俺も、魔王になろうかな?」

 

 「「「「「「「「「「「どうぞどうぞ!」」」」」」」」」」」

 

 「……え!?」

 

 ―――と言った感じに、量産してしまった。

 

 オレによるオレのための、オレだけが造れるオレたちで構成された、オレ謹製のオレの影武者。通称:オレオレ軍団を持って……リケイド大陸を、サクッと制圧させて貰うとしよう。

 

 ―――さあ、ナルシアよ。


 ここからは、オレ式・(サタン・)新鮮十二魔将(フレッシュゴーレムズ)とでも呼ぶべき……オレたちが相手だ!

 

 なあに、そっち側にも、サーたん(オレ)が居るから心配はいらん。

 

 マッチポンプと言うにも酷すぎる気もするが……気にしたら負けなんで諦めてくれ。

 

 情報収集と、女勇者一行の動向をコントロールするには、これが最適なんでしかたがないのさ……。

 

 リケイド大陸での活動は、クエスト外なんで、地盤も基盤も0だ。制約は大きく難度も高い。


 未知の大陸攻略は、今の魔将に任せるには無理があり過ぎる。

 

 なんかドサクサで復活した吸血皇なら、実力的にも任せられたが……残った邪神の御子も放置してはおけない。

 

 そこで、吸血皇は魔将としてではなく。融通の効く、対邪神専門の遊撃員として動いて貰うつもりだ。

 

 そんなわけで……本来なら人材不足が原因で、リケイド大陸での活動は諦めざる得なかった。

 

 ―――だが! そこで登場するのが……オレオレ軍団である!

 

 こいつらならオレの分身みたいなモノなんで、オレの裏事情も知っている……なので、オレ個人の細かい事情を踏まえた活動を、誰よりも上手くやってくれると信じている。

 

 まあ、独立してる故に、暴走の懸念もあるが……基本思考パターンは、多少劣化してるぽいが、オレそのままなので、たぶん大丈夫だろう。

 

 万が一。仮に暴走して敵対しても、所詮は魔将以下の性能なのでどうとでもなる。


 外見も魔王(オレ)がベースではあるが、面影しか残らないくらいに変えてあるので、混同される心配もない。

 

 具体的には……初期の十二魔将とオレを混ぜて、二で割った後で120%程、美化した感じだ。


 ぶっちゃけ見た目だけなら、本家本元の十二魔将より威厳あるので、女勇者の目を逸らすためのハッタリとしては十分だろう。


 そんな創美で大丈夫か?


 ―――大丈夫だ! 問題ない!!


 

 なんかフラグが立った気もするが……違うよな?



 オレオレ軍団は、基本性能は同じですが、外見や特性を一体一体変えてありますので、同一の存在はいません。


 また、個別に自我も有していますので、状況によっては裏切る可能性も、しっかりと有ります。


 裏切られたところで対して強くないからと主人公は油断していますが……ブライトンと同程度と言うことは、その気に成れば[風林火山・陰雷]で、金の魔力を扱える事を失念してたりします。


 窮鼠に猫を噛まれないと良いのですが……w


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