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「運命とは綴られた一冊の書物に書かれた物語に等しいの。現在過去未来。それらの全てが描かれ記載されている。ならば、未来予知とは、その書物の開かられた現在ではなく、読み進める先の頁を読む事……では無いのよ? 未来予知は、未来に頁に書かれた事象に繋げるための伏線でしかない。預言者も予知能力者も、その書に書かれた登場人物の一人にすぎないわ。だから、語られる言葉。未来の光景。予知もまた、決められたセリフでしかない。予言に抗い、未来を変えたと勝ち誇ろうと……それは“予言に抗い運命を変えた”と言う結果が最初から決まっていただけのことよ。運命に真の意味で介入出来るのは、書物に書かれた登場人物ではなく。その書物を俯瞰して読むことの出来る。一つ上の次元存在だけなの」
「つまり、今ココでこうやって話している事もまた、一言一句、その全ては決められている。
……って、ことなのか?」
「そうよ。個人意思や思考。僅かな事象……その全てが決められているの。でも、決められている事だからと言って、それが確定してるわけではないわ。書物の書かれた内容は変らない? いいえ。運命の外にいる存在。つまり、一つ上の次元の存在なら……“改竄”できる。現在も過去も未来も、好きな頁を開いて読める存在なら、加筆訂正削除を行い。歴史を……“物語”を変えることが出来る」
「だが、そこに、登場人物の意思は絡まない。
結局のところ我らは運命に翻弄されるしかないと言うことか……」
「半分は正解よ。本の中の人物が、本の内容を直接変える事なんて出来無い。でも、間接的に変えることはできるわ。本の読み手は一人じゃない。本の内容を“改竄”出来るのは一人じゃない。ワタシ達にそれを知覚する術はないけど……現在進行形で、運命は……歴史も未来も修正されているはずよ」
「運命は決まっているが、確定はしていない。
読み手の好みで、物語は変容し未来は変化する……ってことか?」
「ええ、つまり。未来を変えたいなら……読み手に好かれること。そして、望む未来が“偶然”ではなく“必然”となるように振る舞うことね」
「……」
「……」
なるほど―――わからんッ!!
ようするに、所謂。キャラが勝手に動き出す状態に持って行き。作者の思惑を超えた結末に導く。そうすれば、未来は変わるって事か?
―――バカバカしい。
例えそれが真実だとしても、結局のところ。それを登場人物が知覚する事は不可能だ。
メタ視点と呼ばれる手法で、あたかも登場人物が、読み手の世界を知覚してるように描写された作品もあるが、それも所詮は机上に書かれた内容であり。本当に、真の意味で知覚出来ているはずがない。
間接的にすら知覚できないのなら……それは無いも同然。
結論として、予知能力を便利に使って未来を思い道理に変えることなど不可能だと言う。当たり前の帰結となった。
だめだ、やはり、この女神は使えない……。
「だから対策なんて無駄なこと―――。
“魔王であるあなたは……勇者によって倒される”
―――これは決まったことなのよ! ふふんっ!」
「……」
いやいやいやいや……なんか、ドヤ顔で女神が死の宣告をしてきたが、オレ的には、それで万々歳なんだが?
自分が拐われた事の意趣返しだと思うが……クエスト完遂を運命の女神が保証してくれるのは、オレ的にはまさに、願ったり叶ったりだ。
「あら? 反応が……? なんで笑ってるの?
もしかして、信じてないの? 信じなさいよ!! 運命の女神が断言してるのよ!?」
「お前の言を信じるなら。
上の存在が我を気に入り。定めを改竄するならば、外れることになる」
「……!?
魔王が気に入られるわけ無いでしょ!!」
「さあて、どうかな? くくくくっ……」
ま、そりゃオレも、オレが誰かに好かれるとは思ってない。ドヤ顔女神がなんか癇に障ったので言い返したまでだ。
それにだ……元の世界に帰るためだけに、夥しい数の命を奪っておきながら、平然としているような人物が好かれるはずがない。
しかし、俯瞰して物語に……世界に介入する。異なる次元の上位存在……か。
オレを、この世界に連れてきて、無理難題を与えて放置した存在と同一なのだろうか?
女神は書物に喩え。改竄するとは言っていたが……この世界は、平坦な本に描かれたにしては現実的すぎる。
書物というよりも……“箱庭”と称した方がしっくり感がある。
だとすると、改竄。つまり“介入”するには、同じ次元に……箱庭であるこの次元に、堕ちて来る必要があるのではないか?
ブライトン。そして、双子嬢“サラとサララ”。
―――共通するのは……“上の人”が居たことだ。
上位存在による改竄……その干渉手段が、上の人である可能性がある。
いや少し違うか?
「クエスト」を口にした上に、それの達成に「失敗」したらしい事を踏まえると、上位存在そのものではなく。
―――その走狗。
つまり、オレと同じような存在だった可能性が高い。
ちらりと上を見る。
そこには、誰も居ない。
―――オレに、上の人など居ない。
魔将やメリーアンに聞いた話と、勇者たちの態度から考察すると……。
上の人は原則的に見えないが、ある程度の力を持ったモノならば、存在を感じ取る事くらいは出来るようだ。
現に、元勇の仮面の勇者は、双子嬢の上の人の存在に気づき。見事に排除した。
また、暴走していたとは言え。獣神姫も、ブライトンの上の人をあっさりと撃退してみせた。
ならばコレまでに、誰一人として、オレの“上の人”の存在を指摘したものがいない現状。
気付かぬ内に……オレ自身が、上の人に操られている可能性は低い。
むしろ、あえて言うならば……“魔王”から見れば、“オレ”は“中の人”とでも呼ぶべきだろう。
―――そうなると疑問が生まれる。
この身体。本来の持ち主である“魔王”の“魂魄”はどうなった?
いや違うか?
一つの肉体に、二つの魂は入らない。
だから、上の人と言った形態を取る必要があったのだろう。
オレの場合は、最初から魔王の魂魄など……無かったと考えるべきだ。
魔王の肉体は、他の純粋な魔族と同じく。瘴気を集めて現世に“受肉”したモノ。
だとすると、オレ自身の魂魄を核として、魔王の肉体は作られた事になるのか?
いや、それだと“外見”が説明つかない。
オレの魂魄が核になっているならば……魔王の肉体の外見はオレの魂に沿った形になるはずだ。
―――角と鬚の強面系のおっさん魔族。
これがオレの魂の形だと? んっなわけねーだろッ!?
儚げで繊細な美青年……とまでは言わないが、こんなガチムチ姿がおっさんが、オレの真実の姿なんて認めれるか!!
……冗談は置いておこう。
7割本気だったが、敢えて考えまい。
と、とにかくだ!
オレは、異世界人であり、魔王であると、それが分かってれば問題はない。
次元の違う存在の思惑なぞ知った事か……オレは、自分の意思でしか動かない。
―――それだけだッ!
「あー、もう下がって良いぞ?」
「はぁ? ちょっと! ワタシは女神なのよ! 魔王相手に、神を敬えとまでは言わないけど……もう少し言い方ってものがあるでしょう!!!」
「あ、分かった分かった。
身の安全くらいは保証してやるから……力を取り戻すまで、後宮でオトナシクしていろ」
「だから言葉遣いを……え? 後…宮?
―――ちょっと!? えええッ?!
だ、ダメよ!? いくらワタシが天上の美の化身で、輝くほどに美しかろうと……妻にしようなんて認めないわ!!」
「ああ、勘違いしなくて良い。
そもそも魔王の座は、血筋ではなく純粋に力でのみ継承されるのだから、後継者を作る意味など無い。
後宮とは言っても、実質上。ただの捕虜収容所でしかない」
「う、嘘よ! そんなこと言って安心させようとしてもダメよ!!
やめて! ワタシに乱暴する気でしょう? 神眼でチラッと見えた……ウ=ス異本みたいに! ウ=ス異本みたいに!!」
「捕虜に与えるにしては、破格の厚遇となるであろう後宮よりも、薄暗い地下牢に封じられるのが好きなのか?
―――ならば、ご期待に答えるとしよう。
メリーよ。女神様に相応しいところに案内してやれ」
「ごめんなさい。後宮でお願いします」
女神とオレの、軽口の応酬を交えた神魔の会談は、女神が折れた事で終わった。
格上が相手なら、敬意を払う必要が有り。
格下が相手なら、威厳を示す必要が有る。
―――つまり、同格が相手なら、遠慮はいらないと言うことだ。
そんなわけで、オレは、後宮連れられる女神を見送り。緩んだ思考を切り替える。
些か懸念はあるが、当面は無力なので女神は後宮に放置で安定だろう。
それに、今の状況で女神を、かつて捕らえていた地下牢に連れ戻すのは問題が有る。
―――地下牢には今、女勇者一行が囚われてるからだ。
宗派が根底から異なるナルシアから見れば、女神も邪神と変わらない。
武装解除してるから大丈夫だと思うが、万が一。女神が狩られたら詰む。ならば、物理的に距離を話しておくのが正解だろう。
さて、次は、その女勇者一行の処遇だな……さあて、どうしたものか?
1話から、43話までの全ページを改稿しました。
改稿内容は、誤字脱字。難解な表現。固有名詞の間違いなどの修正が主です。
つまり、物語の内容は、基本的に同じですので、一から読みなおす必要は有りません。
それでも、変更部分に興味があったり。
前半の内容を忘れたって人は、読みなおしてみるのも良いかと思われます。




