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<43>

「魔王様……ワインをお持ちいたしました」

 

 「うむ」

 

 「ご帰還とご戦勝を記念した特別品で御座います。

 

  デンガッチュの生き血(ブラッド)とベルベロロンの落涙(ドロップ)のブレンド品です。


  ―――どうぞ、ご賞味下さいませ」

  

 「お、おう……」

 

 名称から想像も出来無い。得体のしれない素材が使われている事にドン引きしながらもグィっと一飲みする。


 まあ、鬼すら殺すと云われる神便鬼毒酒みたいな劇物であっても魔王(オレ)には効かないから気にしない。……気にしたら負けだと思う。思うよね?


 ―――

 ――

 ―

 

 

 さて、魔王城に戻ったわけだが……想定通り。一波乱? あった。

 

 脳筋魔族に相応しい対応として、迎え出た十二魔将と挨拶もそこそこに……殴り合う事になった。

 

 喧嘩の後に芽生える友情……なんてのは幻想だが。脳筋魔族相手にはそれなりに有効だから問題はない。

 

 男女の性差や種の違いによる価値観の相違は少なからずあれど、魔王軍内ならば……肉体言語が手っ取り早い。

 

 「まおうさまにむけるやいばを、わたしはゆうしておりません」

 「ま、魔王様ッ! ボクを恨まないで時代を恨んで……く、下さい。そら死んじゃえ! 対消滅波動(ディストーション)魔砲(ブラスター)ッ!」

 「zyhkぅいyさっっbっさs……?」

 「お父様のか・た・きッ!! 対魔王用聖魔銀(アンチ・エービル)の杭打ち(バンカー)をどーうぞッ! ズドドンッ!!」

 「おぉぉぉおおおおおぉぉぉおぉおおおぉぉ……!? ヴぉぉ? 聖魔相克術(アークディスアピアー)

 「わんわんお!! わふーっ!!(魔王さまぁ!? お覚悟ですぅ!……幻夢・変異なんちゃら抜刀牙ッ! ですぅ!)」

 「行き違いがあったのは不幸だけどさ……あんたのカリスマが足りなかったんじゃないのかい? 漢を見せてもらうよ!! 緋牡丹灯籠・雪月花(クリムゾン・ダスト)ッ!」

 「乙女の尊厳を守るためです……魔王様。尊い犠牲と成ってくださいませ! ブヒヒッー!! [首狩り三日月鎌(ハルペー)] その首戴きます……ですわ! ブヒンッ!!」

 「むんッ! ぐぐぐっ……ふんッ! ふんっ! キラッ(ええ分かっています。筋トレが終わったのですね? さあ見せてください! その鍛えな直された新筋肉を! 筋肉抱擁爆砕(マッスル・ハグ)ッ!)」

 「おうどんたべたい? たべたい!」

 「ふむ……、逆キレですな、我ながら青いものです……ですが、それの対応如何で、一国の王である度量と器量が図れるというもの。今一度、確かめさせてもらいますぞ! 玄鬚鬼気一發(サドンデストロイ)ッ!」

 「ラララ~免罪原罪~極悪非道ぉ~罪を問われるは~何れかや? 課された罰の免罪符は何らかや? ラララ~ 捧げる曲は~審判夜想曲(パニッシュセレナーデ)~」

 「にゃ! にゃにゃにゃ~にゃ~!!(ディーちゃん思うの! 下品じゃなくても男は苦しんで死ねば良いの? 嫌雄猫(ヘイトメイル)双拳打(ツインパンチャー)……って、キャハ!)」


 

 何気に本気で下克上を狙ってるのが何人かいるようだが……甘いわ!


 「我に逆らうことの愚……その身を持って知るが良い!!

 

  無詠唱(ノンスペル)―――


  多重展開(マルチブラー)


  ―――旋風刃(ツイスターブレード)

  ―――水華樹槍(コーラルランス)

  ―――炎舞(フレイムダンサー)

  ―――岩山割破(ロックブレイカー)


  四重合成魔法(クアッドコンフリクト)


  ―――風林火山・(ススキターティオー)陰雷(ゲニウス)ッ!」


 うん。また(・・)何だ。


 バカの一つ覚えのようだが、無双するには、現状これが最も手っ取り早いから仕方がない。

 

 それにだ……ここらで一度、オレの強さを教えておく必要がある。

 

 オレの戦ってる姿を見たことのある古参は兎も角。新参はオレを……“魔王”の“強さ”を、舐めてるフシがあるからだ。

 

 ならばココは、一切合切。手加減抜きで、圧倒的実力差を見せつける場面ってわけだッ!

 

 不敵な笑みを浮かべ。肩に担いだ女神を空高く投げる。

 それを合図に戦いが始まり……唐突に終わる。

 

 金色のオーラを纏ったオレに、新参レベルの魔将が対向するなど不可能だ。

 

 強敵である獣神姫と怪生物の二人が戦意を見せなかったのも助かった……が、容赦はしない。

 

 「え? ひっ! め、めぇ……!?」

 「ええ!? ボクの切り札を……か、かき消した!? さ、さすがは魔王様! だからボクは、み、みんなに止めるように言ったんでs……グワシッ!?」

 「うyてsh!? あえgふ……ぴぎゃ?!」

 「対魔王用の調整してたんですのよ!? 助けてお父様……!!?」

 「愛娘に呼ばれて我輩参上! フハハッ我輩大復活しましたz……メメタァ!!?」

 「くぉぉぉおおおん?!」

 「わふ!? ぎゃんっ!? くーんくーん……(牙が砕けたですぅ!? 痛いですぅ ごめんなさいですぅ……)」

 「さすがだねぇ魔王様……やっぱり良い男だよ、あんた……ぐふっ!?」

 「ブヒっ!? 首狩りが砕けた?! わたくしのコレクションが……ブヒんっ!?」

 「これが……魔王様の肉体? 金色の筋肉……ふつくしい……ばたんきゅぅ~」

 「おうどn……プチッ」

 「いやはやさすがで御座りますな魔王様。これでこそ我が(キス)を捧げるに相応し……い……ぱたり」

 「ラララ~ソは魔王~罪も汚れも悪徳も~飲み下して覇の道を往くのが運命なりや? 爪弾く唄は~ ……うぼぁッ!?」

 「にゃふ?! ふにゃーん……(あ、あれ? 効いてない? ……ディーちゃん思うの! 女を殴る漢は最低だよね? ……って、ミャァ!?)」

 

 手加減抜きとは言ったが、ホントに全力で殴ると御子みたいに爆散四散するので、寸で止める。


 寸止めでも、軽く無い衝撃波が十二魔将。それぞれ個別に襲いかかる。金色の拳圧は、彼女らの敵意と戦意をあっさりと挫き。地べたに這い蹲らせる。

 

 そして、魔将全てが地に倒れ。万有引力に惹かれ堕ちてきた女神を、オレが優しく両手で抱きとめたところで……周囲から歓声が上がる。

 

 「「「「「す、すげー魔王様! パネェっす! マジパネェ!!」」」」

 「「おお、これが魔王様……我らが総大将! パネーっす!! マジパネェ!」」

 「「「パネェ! マジパネェ!! ギガパネェ! テラパネパネっす!!!」」」

 

 二体の強敵が無防備だった今なら……普通にやっても勝てただろうが……女神も邪魔だし……それなりに苦戦は免れない。


 ―――だったら初手から切り札を切るのが上策ってこと。

 

 そしてオレは、思惑通り。一瞬にして十二魔将全員を平等に打ち倒す事に成功する。


 なんか妙なのが二体ほど混じってたようだが……たぶん気にしたら負けだ。

 

 ちなみに、戦意の無かった二体の魔将も、平等に張り倒した。

 

 いつもの謁見の間ではなく……魔王城の前。つまり、衆人環視のまっただ中だから仕方がない。スマンが泣いてくれ。


 魔王らしい……絶対的な強さと、問答無用的な容赦の無さを、周囲に魅せつける必要があったからな……。

 

 どうも留守中。変な噂が流れ、オレのカリスマが陰ってるっぽいので、パフォーマンスも兼ねてみたのだが……観客の反応を見る限り。オレの試みは成功のようだ。


 ―――騒ぐ観客の、ボキャブラリーの貧困さから、魔王軍の将来にオレの不安が募るが……ま、まあ良い。脳筋魔族だし……いまさらだ。

 

 「本来なら我に逆らった罪は死を持って贖わせるところだが……勇者名乗る輩を捕らえたらしいな?

 

  よかろう……我が一撃で死ななかった事と合わせて、此度の一件の全てを不問に処す!


  

  ―――皆の者一同。改めて我に付いてくるが良い!!」


  

  「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」


  

 ワーワーと盛り上がり。鳴り響く魔王様コールを背に受け魔王城に戻る。

 

 ―――戻るというか、勝手に体が玉座に向かう。

 

 チッ……やはりこうなったか。

 

 だが、これは十二魔将からオレへの殺意が霧散した証拠とも言える。ならば堂々と凱旋を果たし玉座に腰掛けるとしよう。

 

 定位置にオレが戻ると、スッと現れ。頭を垂れて最敬礼するベルグラッドとメリーアン。


 変わらぬ忠臣に「うむ」とだけ頷き返す。

 

 それで察したらしい二人は、影と陰へと消えて行った。

 

 ―――さて、問題は山積みだ。

 

 聖王国跡地に戻った勇者一行然り。

 魔王城地下牢に囚われた女勇者一行然り。

 変わり果てた魔王城の装飾然り。

 

 ―――と言うか、魔王城変わりすぎだろ?!

 

 なんで内装がショッキングピンクに成ってるんだよ!?


 しかもなんかフリフリのレースで、玉座がコーディネートされてるんだけどっ?!

 

 あと、壁に落書きされてる文中に、オレへの謂れ無き中傷と、微妙に間違ってなくて焦る悪口が書かれてるんだが?!

 

 ま、オレがなにか言う前に……小悪魔どもが大慌てで掃除してるから良しとしよう。

 

 魔王城の外見に関しても元に……え゛?

 

 オレが出て行く前から変わってない? 賢王亡きの国からオレの進めた新文化が浸透するに従い……自然とそうなった?


 え……と?

 

 あれ?

 

 んんっ………?!

 

 …………ど、どどどんまいだ! オレッ!

 

 さすがにアレはないので、旧来からある本来の形に戻すように新たに指示を出す。


 いや、オタク文化は広めたけど……魔王城と城下町がポップでキュートにリニューアルされてるとは思わんかった……思うか? 思わんだろ普通ッ!?


 魔王城を水晶球を使ってまでも、わざわざ観る必要なんて無いから、気が付かなかった……灯台下暗しって奴だな……ぐぬぬ。

 

 考えなしに異文化を推し進めた弊害か……これじゃ賢王の懸念が大当たりじゃないか!? 


 こりゃ、威厳を取り戻すためにも、統制を一から取りなおさないとダメだな……。

 

 さて、魔王城や城下町の惨状については、後で何とかするとして……。

 

 勇者二人も気になるが……最大の問題は、目の前の床に無造作に転がしている女神の問題だ。

 

 神々しいオーラは見る陰もなく。今なら魔将でなくとも幹部クラスなら余裕で殺せそうなくらい弱っている。


 以前のように監禁軟禁に苦労することは無いだろう。

 

 しかし、問題はそういうことじゃない。

 

 どうしてこうなった……比喩ではなく、本当に、どうしてこうなった(・・・・・・・・・)のか? ソレを尋ねる必要がある。


 

 天眼測(ゲイザー)“ヴェルディ”


 

 未来を見通す眼を持つ彼女。

 

 どうしてこうなったのか……わからないとは云わせぬぞ?

 

 「立たぬのか?

  目覚めているのは分かっている。

  

  それとも地べたを舐める趣味でもあるのか?」

  

 「……失礼な事を、言わないでちょうだい!」

 

 挑発じみた呼びかけに答え、女神は立ち上がる。


 ―――さすがに、今度は気絶したりしない。


 虚勢か、これが本来の姿か知らんが……弱さを一切見せず。毅然と佇む姿は絵になる。

 

 女神とオレは、目と目を合わせて睨み合う。両者ともに、泰然とした格好を崩さぬまま……駆け引きだらけの会話が始まる。

 

 さーて、マジで、どうしてこうなったか……そして、今後どうなるか? 今度こそ聞き出させてもらうぞッ!!



 デンガッチュは、蛇っぽい“何か”です。

 ベルベロロンは、蛙っぽい“何か”です。


 結局正体は不明です。シカタナイネ……。


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