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 祝福(ブレッシング)

 

 神やそれに類する種によって与えられる恩恵(フェイバー)の総称である。


 具体的な内容は様々だが、概ね―――

 

 膂力、五感、体力や生命力も含む……総合的な能力強化(リーインフォース)


 幸運(ラック)。純粋に運が良くなる。邪神の場合は、悪運(プラック)か?


 祝福を与えた存在に相反する要素からの守護(プロテクション)。疫病や呪詛や瘴気に対する耐性など?

 

 また、神の力の一部が与えられるため、副次的に金色の魔力。つまり、神力が扱えるように成る……かも?

 

 ―――などなどの、特殊な効果が得られる。

 

 曖昧ながらも、純粋に強化、優遇される祝福と比べて、加護(ブレス)の場合は、より具体的だ。

 

 ぶっちゃけた話。与えられた加護に応じた特殊能力(スペシャルアビリティ)が手に入ると思って良い。

 

 実例を上げるなら、オレが、つい先程倒した……虚栄の邪神“イリーテュム”の御子である、僭称せし者“ダルカン・ジー”に与えられていた加護。

 

 [理想の投影(イデアル)] の場合。

 

 己の理想とかけ離れた現実を、己の妄想に基づいて改竄する能力となる。

 

 無残な己の死を認めない。故に、復活した。

 自慢の得物が砕かれた。故に、復元した。

 

 魔爪を食らっても生きてた由縁であり、砕かれた斧が一瞬で元に戻ったのも全て、この加護の力だったワケだ……。

 

 しかもどうやら、己自身も理想化してたらしく。


 オレの黄金の拳(ワンパン)を食らって消し飛ぶ直前に見えた姿は、矮躯で見窄らしい老人の姿だった。

 

 まあそんな感じで、加護と言うものは、祝福の一部ではあるが、より先鋭的な能力が得られるために……ある意味では、祝福を受けただけの者より厄介な存在だと云えよう。

 

 ……で、今後は、そんな凶悪な加護を複数持った御子が相手となるわけだ。


 しかも、人数が減れば減るほど加護は集中してよりいっそう凶悪になるって事らしい。

 

 ―――これ、なんて無理ゲー?


 

 あ、すいません。


 やっぱりイエスを選びますので、邪神様の祝福をオレにもください! え? ダメ?! そこを何とか! ついでに加護もお願いします!!

 

 あはははははっ! ……ふぅ。冗談も現実逃避もここらで止めておこう。ツッコミ役(メリーアン)もいないので自重しないとダメだ。

 

 しかし実際問題として、邪神の御子は脅威だな……。

 

 だが、オレはオレで、大概反則的と言って良い存在だから脅威ではあっても、なんとかなるだろう。

 

 ―――そうなると問題は、勇者アレンだ。

  

 “勇者”の固有能力(パーソネイション)である“サンシャイン”を使えるので、アレンが勇者であることは間違いないのだが……。


 生まれた時点で与えられた才能(タレント)。それも天与の才(ギフト)とでも言うべき黒髪持ちであるが……逆に言うと、それくらいしかないのだ。


 加護どころか祝福すら受けてない以上……勝ち目なんて無い。


 ―――だとすると、やはりここはオレがどうにかするしかない。

 

 水晶を取り出し、勇者一行の様子を見てみる。

 

 どうやらオレの進言を無視して、一度聖王国に戻るつもりらしい。

 

 んーさすがに怪しすぎたか?

 

 それに聖王国崩壊も、伝聞のみで自分で確認したわけでもないから、直接確認しようって考えも間違っちゃいない。

 

 女神の回復待ちになってしまった現状なら、無理してこっちに来る必要もないな。

 

 渡した素材の加工も……里の惨状を見るに、すぐにとは行かないだろう。

 

 それ以前に、加工できる鍛冶師が生きてるかどうかもまだわからん。

 

 だったら、一度出なおしてもらったほうが良いな。

 

 その間にオレは、この里の復旧をできるかぎりやっておこう。

 

 死んだヤツラも、いまならまだ、蘇生が間に合う可能性が高い。

 

 御子は排除したが、ここに放置は拙いので、女神を抱きかかえる。……今度こそ邪魔が入ることはないようだ。

 

 お姫様抱っこだと両手が塞がるので、小脇に抱える……のも何だし肩がけにするか? ま、どっちでもいいや。

 

 重くはないが安定させやすいので、肩にかけて持つことにして。

 

 運搬体勢のまま、開いた手に持った水晶球を動かし、視界を切り替える。

 

 ―――こんどは女勇者一行の様子の確認だ。

 

 あの船の術式はかなり高度だったから、彼女らにどうこう出来るとは思えないが……大人しくしてるとも思えない。

 

 下手に実力がある分、アレンたちとは別の意味で目を離すのは危険だからな……。

 

 どれどれ、と……おや?

 

 水晶球の向こうに写った女勇者一行は、どこかの森の中にいた。

 

 ―――船から降りたのか?

 

 目的地として設定したリケイド大陸に付くには早過ぎる。

 

 ハッチをこじ開けて飛び降りたか?

 

 落下の衝撃を緩和する方法は無数にあるし、女勇者一行の実力なら有り得なくもないか? ……って、ちょ!!!?

 

 水晶球の視界を切り替え、女勇者一行の周辺を見ると……神々の鳥船(ノーア)が、地面に突き刺さっていた。

 

 は? どうしてこうなった!!?

 

 ぅなッ!? よく見ると女勇者一行もボロボロじゃないか!?

 

 一応、傷の治療はしてあるようだが、どうみても災害かなんかにあって命からがら逃げ出したって感じなんだが……。

 

 あ! 船が墜落したのかッ!?

 

 ―――何故だ?

 

 オートパイロットに切り替えてたし、そもそも簡単に墜落したりしないような安全装置も付いてたぞ? ……なのに墜落?

 

 不可解な状況に困惑するなか、オレの観てる光景に変化があった。

 

 そしてそれを観て、何が起きたかオレは瞬時に理解した。

 

 ―――理解したと同時に、己のミスに気がついた。

 

 あーあーあー! そりゃそうだわ!?

 

 魔王城を眼下に見下ろす位置まで接近してたんだから、向こうからも神々の鳥船(ノーア)が丸見えに決っている。

 

 だとしたら墜落の原因は、一つしか無い。

 

 ―――魔王軍による対空砲火。ソレに決まってるじゃないかッ!?

 

 そんなオレの予測を裏付けるように、臨戦態勢を取った女勇者一行の前に姿を表したのは……オレの配下たちであった。

 

 水晶球を通してオレが見守る前で、女勇者一行と魔王軍との戦いは始まった。

 

 斥候も兼ねた雑兵相手の時は無双していた女勇者一行だったが……幹部級が出始めてから苦戦し始めた。

 

 そして、魔将が現れた辺りで完全に戦況が逆転してしまい。

 

 ―――あっさりと捕えられてしまった。

 

 魔王軍が、女勇者をなぜ殺さなかったかと言えば、オレが出しておいた指示が、まだなんとか有効だったからだろう。

 

 だいぶ前に、明白な指示のない状況で、突発的な戦闘になった場合。出来るだけ生け捕りにするように全軍に通達していたからな……。

 

 理由としては、情報収集とあえて泳がせたりして利用できるからと説明していた。

 

 本音としては、単純に人類側に無駄な犠牲者を出したくなかったってことと、勇者一行の身の安全を守るための方便だったと言うことは、オレだけの秘密だ。

 

 ―――しかし、コレは困った。

 

 今のところオレの命令は生きてるようだが……反乱(クーデター)に限りなく近い現状。いつ、オレの命令(オーダー)が破られるか分からない。

 

 このまま放置していたら、女勇者一行は、魔将の独断で……いつ処刑されてもオカシクはない。

 

 もっとも、女勇者は……存在自体が元々使い捨てだ。

 

 見殺しにしても、問題無いといえば問題はない。

 

 ナルシアから、別の見知らぬ誰かに変わるだけだからな……。

 

 だが、それでは女勇者の仲間であるミリアムとサリアスは助からない。

 

 あの二人はオレの目から見ても十分優秀だ。切り捨てるには惜しい。

 

 さらに言うなら、女勇者の存在(・・)は不滅だが……女勇者“ナルシア” 個人(・・)は、普通に死んで終わる。

 

 ぐぬぬぬ……。

 

 今のこの自由に動ける稀有な状況は、非常に惜しい。

 

 まさしく望外の……千載一遇の好機だと言い切って良い。

 

 それを捨ててまでも、魔王城に戻る必要があるのか? そこまでして、三人を助ける必要があるのか?

 

 ―――ぶっちゃけ無いな。

 

 女勇者一行は、アレンたち勇者一行と違って代え(・・)が効く程度の存在だ。

 

 “ナルシア”と名指しされている追加クエストは消滅するかもしれないが、元々成功の難しいクエストであり、他の選択肢となるクエストもある以上。そのクエストごと見捨てても問題はない。

 

 それらを踏まえて考えた。オレの決断は―――

 

 ――

 ―――

 ――――

 

 「ま、魔王様!? 魔王様がお帰りに成られたぞ!!」

 「おお、魔王様!! よくぞご無事で!!」

 「わーわー!」

 「魔王様? その者は一体? なんと!? 逃げ出した女神を囚えたのですか!!」

 「さすがは魔王さまだ!!」

 「そうか、魔王様は十二魔将から逃げたのではなく、女神を探しに行っておられたのですね?」

 「チッ……戻りやがったか……」

 「魔王様! ご帰還為されたぞ!! 伝令を飛ばせ!! 祝だ! 祝いの席の準備をするのだ……急げ!!」

 「わーわーわーわー!」

 「わーい、魔王様だー! わー本物だ! あれ、禿げてないよ?」

 「おうどんたべたい」

 「魔王様。我ら西方辺境軍“ガルド=ランド”一同。貴方様の帰還をお待ちしておりました!」

 「魔王様! 魔王様! 新刊が! 週刊ダンプの続きが早く読みたいです……! なんとかしてください!!」

 「あ? 魔王様! 冬コミは好評のまま終わりましたよ? 次は夏コミ……じゃなく春コミですね! 期待しています!」

 「わーわーわーわーわーわー!」

 「そう言えば、魔王様の留守中に勇者を名乗る小娘が魔導船に乗って来ましたぞ? 今は捕えられ。後日公開処刑するそうです」

 「魔王様! 魔王様! 魔王様! 魔王様! 魔王様! 魔王様ー!! きゃーこっち向いて!!」

 「ふひひひ……魔王様。これを御覧ください。この秘薬はあらゆる内疾患を癒やす妙薬ですじゃ。これなら魔王様の職業病……王座に座り続ける者特有の病もたちどころに治りますぞ! ……え? いらない? なぜですじゃ?!」

 「ま、魔王様。ワシは以前から魔王様のことをお慕いしており申した……ここでこうして会えたのも、魔王様が同好の士であったのも運命の導きでしょう。さあ、わしと熱い夜を……あ!? 魔王様!! 急に走ると危ないですぞ?!」

 「わーわーわーわーわーわーわーわーわー!!」

 

 

 ―――魔王城への帰還だった。

 

 

 隠れ里を一周りして、手早く治療と蘇生を施し。残っていた別働隊と思われる輩をサクッと殲滅した後、オレは魔王城に帰還した。

 

 ―――なんの事はない。

 

 メリーアンの持ってくるワインが飲みたくなったからだ。

 

 短期間とはいえパーティを組み、会話をしてことで、女勇者一行に情が芽生えたなんてことはない。

 

 さ~たんなどと珍妙な名で呼ばれるなど、屈辱的だが何処か懐かしい……。

 

 ―――そう、人間らしい(・・・・・)会話を交わしたことで救われた気になったわけでもない。

 

 あくまでも……そう、あくまでもオレは、メリーアンのワインを飲みに戻って来ただけなのだ!

 

 なんだかんだ言って、外に出てからも気苦労は多かった。その間にオレのストレスは溜まりっぱなしだった。

 

 ここらで気分転換するのが道理ではあるまいか?

 

 それに、魔王城をこれ以上放置するのも不安だったのも事実だ。主にポップに仕上がった魔王城の外見的に考えて……ハヤクナントカシナイト。


 

 忘れてはならない。

 

 ―――我は魔王也!

 

 その威厳を失うような真似はできない。

 

 だから情に流されて戻ったわけではないのだよ?

 

 誰とは無しに、ニヤニヤと生暖かい目線で見られているようなむずかゆさが不快だが……気のせいだろう。


 

 ―――気のせいだよね?


 祝福の主効果は、能力の底上げです。

 だから、元から強かったり。複数の神々から同時に祝福を受けても、あまり意味は有りません。


 それに対して加護は、効果が千差万別で、限定的な力ですので、複数の加護を持つ意味は大きく。加護が増えれば増えた分だけ手強くなると考えて間違いは有りません。


 ただし、加護の場合。その特性によっては恩恵というよりも呪いに近い場合や、相反する効果の加護で相殺されたりする場合もあり。加護を得ることが必ずしも“幸運”だとは限らないので注意が必要だったりします。


 また、加護には制約が付き物で、加護を与えた神によって内容は異なりますが、強力な加護ほど厳しい制約が付いているのが基本です。


 つまり、祝福はメリットしかないので受けて損はありませんが……加護は、場合によってはメリットよりもデメリットが上回る事もありえるのです。


 ちなみに、主人公の場合はY/Nの選択肢が出ましたが、通常はそんなものはなく。与える側の気まぐれが全てです。


 祝福ならともかく。加護の場合。

 役に立たない加護を押し付けられ、課せられた制約に苦労する人も少なくはないのが実情だったりしますw


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