<番外編:聖なる夜の魔王城>
お約束のメリークリスマスネタです。
メリーとついてますが、メリーアンは出ません。仕様です。
「聖者の前夜祭だと?」
「ええ、年に一度。このくらいの時機に世界規模で行われるお祭りです。
さりとて、聖光教会の祭りですから、魔王様方には関係ないでしょうが……個人的に尊敬していましてね」
傭兵王“ガルディアス”を含む何人かの魔将たちと、重要度の低い軍議と当たり障りのない雑談を交わすなか、ふとそんな話題が出た。
聞くところによると……紅の聖者と呼ばれる赤帽子をかぶった初老の聖者が、清貧なる者に……年に一度の贅沢とばかりに施しを与えたのが始まりらしい。
どう考えても聖夜です。本当にありがとうございました。
……と、まあ、冗談はさておき。
真っ赤なサンタ服が、紅い法衣に変わり。トナカイではなく天馬。ソリではなく飛行船と言った違いはあれど、やってることはサンタクロースと大差ないようだ。
ただ、オレが知るサンタ像と大きく違うのは、後ろに背負うのはプレゼントの入った白い袋ではなく……真っ赤な十字双剣だと言うことだ。
どうやら、その“清貧なる者”に、聖者本人も含まれていたらしく。ぶっちゃけ金が無かったらしい。
そこで彼が思いついたのが……魔獣狩りだ。
思い立ったが吉日とばかりに、魔物の住まう森に単身乗り込んで、聖歌を口ずさみながら……夕方から明け方まで、一晩中狩り続けたそうだ。
そうやって獲得した獲物を捌いて、朝めし前に貧民たちに振る舞ったのが“聖者の前夜祭”の始まりらしい。
うん。お分かりの通り。
紅の聖者の名は……夥しい数の魔獣の返り血を浴びて帰ってきた聖者の姿が由来なのだ……。
ちなみにベレー帽の元の色は緑だったらしい。
なんだその、アグレッシブなサンタは!? どこの特殊部隊だよ!?
貧しき人々のために体を張れる……善人であり、まさしく良い人なんだろうが……怖すぎだろ! 子供が泣くぞ!?
「……ん? ああ、平時はそうらしい。
親が子供に、悪いことをすると……紅の聖者様がお仕置きにやってくるよ! ……って、よく叱ってる」
―――とか思ってたら、傭兵王がいらん補足をしてきた。
つか、どこのナマハゲだよ!? マジで子供が泣いてるじゃねーか!
「……ケーキやツリーはないのか? ボソッ」
「ん? ケーキってのはアレか? 最近、賢王亡き国で流行ってる甘味かな?
―――そっちはしらないが、モーミィの祭木を飾る習慣はありますぜ? 魔王様」
ふと漏らしたオレの呟きを拾われ、答えられてしまった……って、クリスマスツリーあるのかよ?!
あ、でも詳しく聞くと別モンだわ。
将来への希望……転じて、願い事を護符に託して祭木に吊るし、神に祈るのが基本らしい。
―――七夕も混ざってるじゃねーか!?
「ふむ、そう言えば……吉方とされる、神々の住まう霊峰の方を向いて、肉巻きを切らずに丸かじりすると言った風習もありましたな……じゅるり」
―――恵方巻きじゃねーか!?
驚愕するオレに、悪食大公“カバドン”が追撃を入れてきやがった……つか、涎垂らすな!
「そ、そうです! ぼ、ボクも聞いたことがありますぅ!
好きな人や子供の、長寿を願って……飴を……義理とか本命とか、よ、用途別に色の違う。病魔払いの矢を模した飴を……お、送る……らしいです。バカみたいですよね?」
―――おい、まて! 七五三とバレンタインデーが混ざってるぞ!? しかも、シレッと正月の破魔矢も混じってないか?
追撃を受け慄くオレに、小魔法使い“キリト”が止めを刺しにきやがった!
―――オレの腹筋は、もう限界だぞ!?
「そう言えば吾輩の配下の南瓜頭提灯霊が騒いでおりましたな……。
トニック&イート……健康は食事から……と、口にしながらおこぼれを漁りに行くつもりのようです。
なあに、ようは狩られた魔獣の屍肉を掠め取って来るだけです。
魔王様が気にかけるほどの事もございません」
―――さらに、ハロウィンもコラボしてんのかよッ!? どんだけだよ!
気絶ったところに、連続技完走を食らった気分だ……。
吸血皇“アルト・ノワール”に悪気がないのは理解しているが……オレの正気度はレッドゾーンなんだぜ?
さ、さすがにもう無いよな?
「ふむふむ……儂も聞いたことがありますな……。
なんでも、聖夜に意中の異性を攫って、代わりに取ってきた獲物を置くことで、身分を無視した婚姻が成立するとか……いやはや、人の世とは可笑しなもいのですなぁ……ふぉふぉふぉ!」
―――どこの風習だよ!? ただの誘拐じゃねーか!!
え? ああ、同意は一応必要で、獲物も相手の身分に相応しいシロモノじゃないと、後で普通に裁かれる? ああ……実質上形骸化してる風習なのな……。
ま、まあ……なんだ! ワイルドな内容だが、これはこれでロマンがあって良いかもしれん。
―――それに、オレたち魔族には関係ない事だ。
人は人で、勝手に盛り上がってくれれば良い…………そう、思っていた時期がオレにも有りました。
「おお、そうじゃ! 魔王様……儂に良い考えが有りますぞ?
ほら、魔王様がおっしゃていた獣神姫ですじゃ!
今なら……聖夜なら、掻っ攫っても問題にならないかもしれませんぞ?」
「ほほう? さすがは智将“ドライセン=ドライセン”殿であるな……吾輩、感服しましたぞ!
そうですな……さすれば、姫君に相応しき獲物は、いかが致しましょうぞ?」
「ひ、姫と言っても……じ、獣人でしょ? だったら黒狼の牙とかで、良いと、ぼ、ボクは思います。どうでも良いし……」
「ただの黒狼では不足である成。
ならば、黒き牙王を名乗る群れの主を……我が、狩って来ましょうぞ!」
「いやいや、隻腕辣腕豪腕鬼将軍の手を煩わせるのならば、より良い獲物を狙いたいところです。
吾輩は、たかが毛色の違うだけの狼男よりも、幻と謳われる……幸運の銀兎を進めますぞ!」
「えー!? そ、それはちょっと無理じゃないの? 逃げ足速いし、ゴーレムより硬いし、魔法も効かないし……。本当に狩れたらボクが貰うし……!」
「あー、銀兎だったらこの前。少し離れた森の中で、頂いた魔剣の試し切りをしてた時に仕留めたぞ?
一応貴重品なので、戦利品扱いで軍に納付しといたぜ?」
「ほっほっほ。ならば決まりじゃ! 後は、誰が姫を攫うかじゃが……」
「;ふldtxdzsvjkぉ97dんsbzんh!」
「非弱無弱癒石情弱破折……弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱ッ!」
「我輩にお任せあれ! 獣神姫は、かなりの美女と聞きますからな……それに、姫を迎えるなら貴公子たる吾輩こそが相応しいでありますぞ!」
「ぼ、ボクが行きます……よ? だって銀兎ですよ?! 熟練者でもめったに狩れないレア中のレアですぅ……も、もったいないじゃないですか?」
「横取りは関心しないな……、しょうがない。気が進まないが、狩った本人として俺が行こうか?」
「否である成。決めるは魔王様である由……魔王様。いかがなさいますかな?」
「銀兎とな?! じゅるり。一口で良いから頂いてもよろしいかな?」
あははは! なんかヤバイ方向に話が進んでるぞー?!
聖夜に姫を攫うって、人類や教会に喧嘩売ってるってレベルじゃねーわ!!
―――俺は、できるだけ穏便に済ませたいんだよ!!
「ふむ、話は分かった……。
魔王の名において―――
――却下するッ!!」
「「「「「えー?」」」」」
「ふん! 聖なる夜である今日と明日くらい好きにさせてやれ
いずれ人類は、我のもとに跪くことに成るのだ!
限りある自由だ! せいぜい謳歌させてやろうではないか! クハハッ!」
つかさ、聖夜を無意味に踏みにじって、神々と争うのも馬鹿らしいわな……。
効率よく世界制覇するのためにも、敵は最小に。ついでに人類のダメージも最小になるように、気をつけないとねっ!
獣神姫の救出クエストか……やっぱり、隻腕辣腕豪腕鬼将軍に任せるかな?
智将と吸血皇には、他のクエストをやってもらう予定だしな……。
―――しかし、クリスマスかぁ……懐かしい。
うん、そうだ! オレは帰るんだ!! 元の世界に帰って……リア充生活を送るんだ!!
ぶっちゃけオレが、リア充に成れる可能性は低いけど……それでも、絶対に元の世界に帰るんだッ!
そのためにも、メインクエストを進めないと―――
[空亡の果実を入手せよ!]
[“マース大森林”に済むエルフ氏族を殲滅せよ!]
[おうどんたべたい]
[北方の巨人族の王“鉄紺のガミューサ”を屈服させよ!]
[天使と悪魔、禁断の愛を応援せよ!]
[西氷原の主。海竜“シューロン”の魔眼を奪え!]
[深海に沈む幽霊船を引き上げよ!]
[ダンジョン“聖者の墳墓”を構築せよ!]
[霊峰の裾野に生える霊草“ブランハイト”を採取せよ!]
[神聖帝国“ヴォーケンハイム”の聖帝を仕留めよ!]
[“大草原に巣食いしモノ”を殲滅せよ!]
etc..
―――先は長いな。
だが、少しずつでも進めれば、何時かは終わるはずだ!
さーて、頑張るぞッ!!
これは、在りし日の風景。
勇者がまだ、両親と共に有り……魔王もまた、世界制覇を目標としていた頃のお話です。
ちなみに魔獣は、適切に処置すれば、普通に食えます。
件の聖者のイメージは、サンタコスのア○デルセン神父です。
それでは皆さん……聖なる夜に! エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!!!




