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勇者一行だが、あれから20回程全滅を繰り返した後、ようやく墳墓の最奥にある[聖者の棺]に辿り着いたようだ。
「ココハ…クライ…サムイ……クルシイ……ダレカ……
オオオオォオ……!?
アアアアアアアアアアアアアアアアッーーーーー!!?」
「これが聖者? どうみてもタダのアンデットだな」
「悪霊と成り果ててますわね……墳墓の状況からそうではないかと思ってましたけど……」
「元聖者であろうと、魔物に成りはてたなら、討つしかあるまい」
「聖水に、霊符、銀の矢と銀のナイフ。対アンデット装備には、まだまだ余裕があるよ」
さすがにこれだけ全滅すれば、学習しない勇者一行でも、対アンデット装備の重要性に気づいてくれたらしい。
領主からの資金援助と教会の協力で、対抗装備を整えた彼らは、21回目の突入でようやく、ボスまで辿り着いたようだ。
このダンジョンに配置されてるモンスターは、アンデットばかりだ。
そのため、対アンデット装備を固めていれば、ボスまでは楽に攻略できるようになっている。
デザイナーのオレが言うのだから間違いない。
このダンジョン作成のサブクエストを受けた時は、精神的にあまり余裕が無かったので、かなり適当に作った。
聖者の墳墓=墓=アンデットと言った極めて単純な思考でデザインした覚えがある。
墳墓の拡張と施行は、パペットマスターのメデューサ。遺志人形遣い“アポネ”に任せた。
その作業風景である。視線で量産した石像を、魔力の糸で操る姿は、かなりクルものがあった。
なにせ、固まった石像を動かす訳だから、手足などのパーツはパキッと折れて取れるだろ?
それをそのまま、本物のパペットの様に、カクカクと魔糸で操る理由だから、不気味な事この上ない。
―――だが優秀だ。
一度に数十体を自在に操れ、さらに普通のゴーレムと違って、術者が直接操ってるものだから繊細な作業も行える。
人海戦術にはもってこいの能力を持った逸材だったが、件の神々との戦いで戦死してしまった。
ゴーレムは飛べないから、空からの爆撃であっさりと全滅したのだ。……調子に乗るな対空装備を忘れるなと忠告してたがムダだった。
モンスターの配置は、死霊使いで哭女郎の、無限機雷“ネネミン”に頼んだ。
[死の叫び]で発狂死した無傷の死体から、新鮮な屍鬼を作ることが生きがいの困ったちゃんだ。
涙を流し、嗚咽を漏らして蹲る、儚げな女の姿は同情を誘うが、だからと言って慰めようと近づいてはいけない。
どうしても近づきたいなら、万全の精神攻撃対策をしておくか、耳栓をすることだ。
また、離れてるからと安心してはいけない、彼女には放浪癖があるので、向こうから近づいてくることもある。だから地雷ではなく、機雷と呼ばれているのだ。
余談だが、彼女が常に泣いてる理由は、自分の名前が気に入らないかららしい。
だから、うかつに名前を呼ぶと、本気で泣き喚き。精神攻撃対策してても死にかねないので注意が必要だ。
感情的でウザったい厄介者だが、ソコだけはちょっと同情している。
そんな彼女もまた、神々との戦いで戦死した。
技巧神“パラキウス”の作ったゴーレム……と言うか巨大ロボット兵の、|
機甲神兵に精神攻撃は効かない。新鮮でも所詮ゾンビでは巨大ロボを止められず、そのまま圧殺されてしまった。
もっとも、その機甲神兵は、技巧神諸共。隻腕辣腕豪腕鬼将軍の[徹甲轟掌破]によって、纏めて粉砕された。これも諸行無常と言うやつだろう。
ちなみに将軍は、純和風の武者姿に、隻腕に大仰な西洋風ガントレットを付けた、異様な姿と異様な名前をしている。そんな変な姿の割に、戦い方に捻りはなく、とてもシンプルだ。
走って殴る!
どこぞの猪突猛進な僧侶娘とよく似ているが、こっちは指揮能力も高く、戦術戦略もこなせるナイスガイだ。
パーティを入れ替えることができるなら、勇者にぜひともお勧めしたいものだ。
まあそんな、ありえない話は横に置き、華……毒花かもしれないが、ダンジョン作成の立役者二体に話を戻そう。
この二体は、魔将ではなく。キッパリ言って、あまり強くないが……人間視点で見れば十分脅威なので、ドサクサで死んでくれたのは、僥倖だったと思う。
―――と言うか、神々との大戦の時に、もうちょっと手を抜いて、勇者のためにも、魔将をせめて半分くらいにまで、減らしておくべきだったかもしれない。
さりとて嘆こうと、後の祭りだ。当時は知らなかったし、うかつに手を抜いて戦に負けても拙いから、なるようになった結果として諦めるしか無い……諦めてくれ!
過ぎた過去は取り戻せない。
だから……こうなるのも仕方がないと、オレは思うんだ……。
「なぜだ!? なぜ俺の“サンシャイン”が効かないんだ?!」
「ワタクシの聖拳を受けて何故……笑えますの!?」
「ば、バカな……私の炎煉弾は直撃したはずだぞ!?」
「……ねぇ。気のせいか……回復してるような気がするんだけど?」
「オォォオォォオオオオオオオオオオオ……!!?
ヒカリガァ……ヒカリガミ……エルルルゥ………
モット……モット…ヒカリヲォォォォオォォオオオオ……!!!」
「「「「のわー!?」」」」
対アンデット装備があれば余裕でクリアできるダンジョンだと、さすがに温すぎるよな? と茶目っ気出したオレが、最後に仕掛けた罠が効いたようだ。
世にも珍しい……“聖”属性のアンデット。
聖者の墳墓の主であり、守護役となった……聖邪“ハイン”その人だ。
聖属性のため、これまで有効だった。対アンデット攻撃の全てが通じないどころか、逆に回復してしまう凶悪な魔物だ。
倒すには、対アンデットの定石の逆。つまり、闇とか邪とか呪とかの、負の属性攻撃を仕掛けるしかないと言う、嫌がらせのような……と言うか、嫌がらせ以外の何物でもない存在だ。
おまけに倒したところで、報酬の杖はすでに無く。
負に類する力を使えば倒せるとは言っても、それだと、浄化されるどころか、闇とか呪いに包まれ、倒したところで、聖者の魂は救われず。逆に地獄に堕ちると言う救いのなさだ。
誰だ? こんな悪質なダンジョン作ったのは―――
………………
…………
……
―――「オレだよ!? チクショーメ!!」
「ま、魔王さま。どうかなさいましたか?」
おっと、声に出てたらしく傍使えの、竜牙冥土の“メリーアン”を驚かせてしまった。
「いや、なんでもない。
そうだな、喉を潤すものでも持ってきてくれ」
「畏まりました。直ぐにお持ち致します」
水晶球の向こうで、勇者一行が全滅したが見えたので、パチンと指を鳴らす。いつものように流れるログから目をそらし、なんとなくメリーの方に目を向ける。
白と黒を基調とした、質素ながらも要所を抑えた可愛らしいエプロンドレスに、ホワイトブリムとカチューシャを付けたどこからどうみてもメイドさんとしか言い様のない竜牙兵。
ぶっちゃけメイドコスのスケルトン。それが彼女の外見だ。
脳無しで、まさにアタマからっぽの割りには明晰で、非常に優秀な傍使えであり、ただの骨ではなく竜骨製のため、並の魔族では太刀打ち出来ないくらい強い。
さらに言えば、見た目は骨であり。骨格標本でしかない癖に、女らしい仕草と立ち振舞は色気を感じさせ、殺伐とした魔王城でも、カラカラとよく笑って、オレを和ませてくれる、実に出来た女だ。
これで皮と肉付きだったら惚れていたと断言しよう。
―――だが骨だ。
いくら魔王と成って、人外に成ったとは言え、そこまで上級者には成れない。
時折うっすらと、生前? の姿を幻視することがあるが……実に可愛らしかった。
凛とした風貌に、色気と可愛らしさを両立させた立ち振舞いが、実に素晴らしい!
立場的にも状況的にも、据え膳美味しくイケるから、いっそ押し倒して―――
―――やめよう。この方向に思考を向けすぎると、色々な意味で後戻りできなくなりそうだ。
気を取り直したオレは、水晶球に意識を戻し、努めて冷静に、勇者一行の様子を伺うのだった。
カタカタと、はにかむ笑顔が可愛らしい…メイドのメリーアンは、メインヒロインです。
嘘です……たぶんw
勇者一行は、現時点でもかなりの強者です。
若さ故に短慮だったり無鉄砲だったりするのもご愛嬌の範囲です。
国々の重鎮から、人類の未来を託されるだけの実力は、すでに有しています。
ただ、それはあくまでも常識の範疇での話であり、人外相手には力不足です。
気とか魔力とか使って無双しようと、うっかりナイフが急所を刺されれば、普通に死にます。
人間なんて、そんなもんです。
だから、神器とか加護とか奥義とか使ってようやく、人外たちと対等に戦えるのです。
――ーですが、その神器とか加護を与えるはずだった神々は……。
が、ガンバレ勇者!
まだあわてるような時間じゃない。
魔王なら……魔王ならきっと何とかしてくれる(AAr