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<37>

 女勇者と旅が出来たのなら……勇者とも旅が出来無い道理はない! ……と思う。思うよね?


 「……………」

 「……………」

 「……………」

 「……………」


 「……………」


 き、気まずい……。

 

 ――――

 ――

 ―

 

 竜人をぶっ飛ばした後、返す刀でオレは、魔力弾(マジックミサイル)を蜥蜴頭ども目掛けて斉射する。

 

 一度に撃てる魔力弾の数は、術者の力量によって異なり、一級の魔術師で最大10数発って感じだが……オレなら30発以上でも余裕だ。


 だから、放たれた魔力の弾丸は、一撃一殺とばかりに20~30体いた蜥蜴頭を、あっさりと狩り尽くした。

 

 魔力弾は誘導弾でも有るため、回避は非常に困難であり……初歩的な魔術ではあるが、力量によっては、かなり有用な魔法でもある。

 

 目の前で使われた魔法技術の高度さに気づいたらしいブライトンが、引きつった表情でオレを凝視しているが敢えて無視して、マリアンヌの蘇生を行う。


 魂魄がまだ離脱していないなら……前準備の反魂(リターンソウル)は不要だな……ならば!

 

 「無詠唱(ノンスペル)

 

  ――――復活(レイズデッド)ッ!」

  

 時間を巻き戻すようにマリアンヌの傷が癒えていく。そして、顔に赤みが差し呼吸が再開され、意外と大きな胸が僅かに上下し始める。

 

 なんとか蘇生が間に合ったようだ……さて、ついでに、瀕死のエミリア含めた……勇者一行全員の治癒を行おう。

 

 「無詠唱(ノンスペル)

 

  ――――広域快癒(マス・リフレッシュ)ッ!」

 

 オレを中心に光の輪が広がる。


 暖かな治癒の光に包まれた勇者一行は、突然の光に慌てはしたもののそれが強力な回復魔法であると気づくと、静かに成り行きを見始めた。

 

 目を白黒させ事態を飲み込もうと辺りを見渡すエミリア。

 息を吹き返したものの未だ眠ったままのマリアンヌを抱えたまま、唖然というか愕然としているブライトン。

 

 それらの様子を見て取り、剣こそ下ろしているものの、あからさまに警戒の視線をオレに向けるアレン。

 

 そして、人仕事終えたとばかりに、汗を拭うフリをしながら安堵の溜息を付く魔王であるオレ。

 

 ふう……よし、これで危機は脱した!

 

 なんか色々間違ってる気がしないでもないが、これはこれで良し!

 

 ………そのはずなのだが、空気がめがっさ重いぞ?

 

 「……………」

 「……………」

 「……………」

 「……………」

 

 ち、沈黙が……視線が痛い。


 「……………あ、なんだ、その、な?

  聞きたいことは山ほど有るだろうが、とりあえず、この場を離れないか?」

 

 「あ、ああ。そうだな。

  一つ前の階層に戻って、休息を取るとしよう……」

 

 「神託魔法(オラクル・ロウ)呪紋魔法(ルーン・ロウ)を……同時に操る? しかも、詠唱破棄(スペルキャスト)ではなく……無詠唱(ノンスペル)だと? バカな……」

 

 「よくわからないけど……まずは、マリーの容態を確認しないと……」

 

 「あ……なんだ。その、な?

  ―――蘇生は成功してるので、普通に寝てるだけなんで心配はいらない。

  

  そうだな……蘇生直後で体調を崩してるだろうから、安全なところに避難して一息入れるのは正しい」

 

 「お、おう……」

 

 アレンはそう……ぎこちなく答えると、一つ前の階層に向けて歩き出す。

 信じられないモノを見るような目でオレを見るブライトンも、それに促され。マリアンヌを抱きかかえたままその後を歩き出す。

 

 未だ状況を飲み込みきれてないエミリアも、釣られるように……それでいてブライトンたちをオレから庇う護衛のように、自然に立ち位置を変えた。

 

 さて……。

 

 勢いでやってきて、ドヤ顔を決めたは良いが……これからどうすりゃいいんだ?!


 どうやら、ここは古い地下神殿のようだが……。

 

 それにブライトンが神託魔法だの呪紋魔法だの分類していたが、オレからすればそれらは全て……魔術(ソーサリィ)魔道(ウィザードリィ)の範疇に収まる。


 神々の奇跡的な感じで思われてる神託魔法も、所謂普通の魔法使いが使う呪紋魔法も、根源的には同じものだ。

 

 極端な話。魔法(マジック)とは“意志を持って魔力に干渉する方法”であって、その具体的な手段は千差万別と言って良い。

 

 呪紋詠唱(スペル)呪紋言語(ルーン)

 (スタッフ)などの発動体(キャタライザー)

 指印(サイン)魔法陣(マギグラム)

 魔術回路(ソーサルサーキット)魔道装置(ルーンマキナ) etc..

 

 魔力(マナ)干渉(アクセス)する方法は無数にある。

 

 もっとも、それは魔を極めし者……つまり、魔王であるオレから見た場合の理屈だ。

 

 人類の常識レベルで語るなら。

 

 魔術回路の仕込まれた発動体を触媒に、呪紋詠唱を持って魔力を魔法に変換して、指印や魔法陣で指向性をもたせ、対象に魔法をかける。 ……と、言った感じで使用するのが魔法の基本だ。

 

 詠唱(ロアー)は、術式(マトリクス)で代用可能だが、それを行うには魔術回路を体内に有する必要がある。

 

 星輪(チャクラ)や仙骨、魔獣の心臓でもある魔核などの、魔術回路を内包した……ある意味人外的な内臓器官を有する者のみが行えるのが無詠唱である。

 

 先天的才能が9割を秘めるこれらは、妖精種や魔族などの人外特有の特殊能力だと認識されているはずだ。

 

 ……ちと、拙いか?

 

 人類でも超が付くレベルなら無詠唱も可能だ。


 だからと言って、目の前のオレがその伝説級の人物だと認識する確率よりも……人外であると認識される可能性の方が高いだろう。

 

 妖精種(スプライト)や魔族も、人型ではあるが……亜人と呼ぶには人外すぎる存在だ。

 

 妖精種なら、ある程度は人類とも交流がある。特に森妖精(エルフ)地妖精(ドワーフ)などは人権を認められ、人類と対等の存在として扱われている。


 問題は、オレ自身の今の姿は……何処からどうみても“人間”だと言うことだ。

 

 我ながら、いくらなんでも怪しすぎる。不審者ってレベルじゃねーわ……いっそ開き直るか?

 

 それにだ、仮に信用を勝ち取っても……女勇者一行の場合は、ちょうど魔術師枠が開いていたから良かったモノの……勇者一行の場合は、魔術師のブライトンが存在する。

 

 このままオレが仲間に加わった場合……ブライトンが要らない子になるのは確定的に明らかである。

 

 さらに言うなら、オレは回復魔法も使えるし、前衛も後衛も全て十二分に熟せる。

 

 つまりだ……極端な話。勇者一行自体が、要らない子となってしまう。

 

 ―――これは由々しき事態だ。

 

 勇者は一応、サンシャイン系の固有魔法を使えるため、辛うじて要らない子に成ることは無いと言いたいが……実のところ、オレも使おうと思えば、サンシャイン系の魔法を使うことは可能だったりする。

 

 ただ、根本的に相性が悪く。擬似陽光の能力は、剣術などの体術と併用して使うことが多い業であるため。武技(アーツ)を覚えてないオレでは、効率的には、到底扱えない。


 特訓でもして、首尾よく武技を覚えたとしても……根本的な部分で、変換効率がよろしくないので、実質的に使えないと考えたほうが良い。

 

 やはり、勇者は、勇者にしか出せない力を持つと言うことだろう……。

 

 しかし、それでも影が薄くなることは否めない。

 

 アレン達は、魔王の祝福 (笑)のお陰でかなりパワーアップはしたが……まだまだ力不足だ。

 

 先ほどオレがぶっ飛ばした竜人の御子も、女勇者一行だったら、オレがいなくても……苦戦はすれど……普通に勝てただろう。

 

 ただ、ここで少し気になるのが……女勇者の固有魔法であると思われるムーンライト系の存在だ。

 

 どうも根本的に術法系(フィロ・マギカ)が違うらしく、オレにも使えそうにない。


 世間一般的な意味で言われている精霊魔法は、魔術の範疇に有り。実質的には属性魔法(エレメント・ロウ)とでも呼ぶべきシロモノだが……女勇者の使う魔法は違う。

 

 アレは、魔術や魔道とは明らかに異なる……より根源的な力を扱う。正しい意味での精霊魔法(エレメンタル・ロウ)とでも呼ぶべきモノ……。

 

 つまり、魔術(ソーサリィ)でもなく。魔道(ウィザードリィ)でもない……妖術(ウィッカ)とでも呼ぶべき系統なのだ。

 

 そう考えるとやはり……勇者は……オレが倒されるべき(・・・・・・)“真の勇者”は……女勇者なのか?

 

 オレにも使える業を持つ―――黒髪の勇者(ブルネット)アレン。

 オレには使えそうにない業を持つ―――蒼天の女勇者(ブルームーン)“ナルシア”

 

 神に選ばれし勇有る者―――勇者(ブレイバー)

 精霊に選ばれし勇有る淑女―――女勇者(ピュセル)

 

 ―――どっちが正しい? どちらに倒されるのが正解なのか?

 

 それともまさか……どこぞの石破らぶらぶなんたらビックリ拳のように共同作g……合体攻撃かッ?!

 

 男女コンビの合体攻撃で、ラスボスを撃破するってのは熱い展開であり……まさしくロマンだ。

 

 ロマンではあるが……現実味は薄い。

 

 憎しみの種を埋め込まれてるため、復讐鬼的な思考しかできない女勇者は言わずもがなだが……。

 

 ―――アレンに、恋愛要素は無い。

 

 別に鈍いワケではなさそうなのだが、とぼけているわけでもないと思われる。

 

 マリアンヌのツンデレっぷりは傍目から見てバレバレであるが……肝心のアレンは、恋愛感情よりも親愛や友愛的な感情の方が強く。二人っきりに成ったところで、甘い雰囲気になることも無い。

 

 ―――と、まあ。いかような状態であるため、アレンとナルシアが出会っても恋愛状態なる可能性は低い。

 

 ましてや、ナルシアにとってアレンは、親友でもなく、強敵でもなく、正しい意味での……仇敵(ライバル)に当たる。

 

 言わば、異端審問官(インキュイジター)異端者(ヘレティック)との間柄だ。過去に「ピコン!」あった、天使と魔族の恋愛応援クエストとは難易度が違いすぎる……って、ちょとまて、今なんか聞こえたぞ!?

 

 目を閉じ、黙って考え込んでいるオレを、遠巻きに見ている勇者一行の視線も気になるが……それどころではない。

 

 アラートでは無いので緊急クエストではないが……確実に[システム]のポップアップ音だ。

 

 ―――嫌な予感しかない。

 

 緊急クエストではないと言うことは、邪神の御子がらみのような大問題ではないだろう。

 

 だとすると……タイミング的に勇者一行との直接的な接触がトリガーになった追加イベントの可能性が高い。

 

 おいおいおいい!? まさかとは思うが……アレンとナルシアの仲を取り持つキューピッド的なクエスト追加とかじゃあるまいな?

 

 魔王は魔王でも、オレはどこぞの少年漫画的な魔王になる気はないぞ?!

 

 戦々恐々としながら開いたログに視線を向け、起きたイベントを確認してみると―――



 [条件が満たされたので、派生クエストが開放されました!]

 [エンディングルートが追加されました]


 [マルチエンディング化に伴い、メインクエスト完了条件が変化します]


 [勇者と結ばれ、大魔王を誕生させよう!]

 [アレンとナルシアの仲を取り持ち、覇王を誕生させよう!]

 [勇者に討たれ、世界平和への礎となれ!]


 [ルート確定後、他の派生クエストは消滅します]

 

 ―――なんか、選択肢が増えてたッ!?

 

 つーか、オレは、とある少年漫画的な恋愛相談役的魔王に成る気はなかったが……だからと言って、成年漫画的な、それも腐った方向の魔王に成る気も無いぞッ!!?



 

 この作品のジャンルはコメディです。


 シリアスなようで、やっぱりコメディです。


 ラブロマンスでも、バトルモノでも、熱血モノでも、ダーク系でもありませんが……コメディの中にそれらは内包されています。


 シリアスな部分があるからギャグが映えるので、正当なハーレム展開やラブコメ要素は期待しないで下さいw

 

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