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ドラゴン。
“竜”とも“龍”とも称される力の代名詞でもある……究極の幻想存在だ。
そのために古今東西、人種を問わず憧れと畏怖を抱く者は多い。
かくいうオレもその一人であった。だから、魔王と成ってある程度余裕ができた時……遠見の水晶球を使って探してみたことがある。
首尾よく竜が見つかったら、魔王軍に勧誘しようと呑気に考えていたが……その結果は分かったことは、竜族は絶滅寸前だと言う現実であった。
孵化する予定のない卵は数十個。雛と言える幼竜はわずか5体。老竜どころか……成竜すら居やしない状態だった。
一応、亜竜に属する。グリフォンと馬の、間の子であるヒポグリフのような存在である……|竜と亜竜の間の子の半竜とでも呼ぶべき劣等種はそれなりに要るようだ。
……と言うか、すでに竜=亜竜と言った認識が広まってるらしい。
竜騎士と呼ばれる者は、亜竜である飛竜に乗っているのが普通だそうだ……。
また、竜騎兵は地竜と呼ばれる大トカゲに乗り、竜騎兵銃と呼ばれる銃剣……と言うより剣に銃を付けたって感じの武器を使っている。
竜殺しと呼ばれる英雄が、竜殺刀や竜退砲を使って倒すのも、竜ではなく劣等種である亜竜らしい。
タイトル詐欺と言いたいが、亜竜も竜の一種ではあるので嘘とまでは言えない辺りが微妙ではある。
さて、そして現在。我らの勇者アレンくんと対峙している……竜人族とは何か?
普通に考えたら、竜と人間の間の子。つまり、半竜人だと思うだろう?
それか、竜の血を引いた一族とか、だいたいその辺りを想像するはずなのだが……現実は違う。
これは本人達も知らないであろう事なのだが……竜人族とは、亜人。それも、獣人族の亜種でしかないのだよ!
人間をベースに神の手で作られたのが、獣人であるように……竜人族もまた、人をベースに作られた種でしか無いのが真実である。
ただし、作ったのは神ではない。
―――“龍”である。
ドラゴンを“竜”とするなら、“龍”は“ナーガ”と称される種だ。
トカゲに竜鱗と翼と竜角を付けたのが竜族なら、ヘビに龍鱗と龍角と龍腕を付け、龍玉を持たせたのが龍族である。
龍族は、龍神。つまり、神族に含まれるらしく神気を扱い天変地異を起こす事ができる。
他にも人化したり、呪いをかけたり、祝福を与えたりなど特殊能力も豊富なため……“竜”よりも格上の存在とされている。
ちなみに竜の特殊能力は、体表の色に応じた、炎や冷気などの竜息を吐けるくらいだ。
その代わりと言っては何だが、純粋な身体能力や生命力は、龍より遥かに上である。
だから、単純な戦闘力で言えば“竜”の方が圧倒的に上だと言える。故に両者はある意味互角とも言えよう。
龍の現存数に関しては、卵や亜種も含めればそれなりに数がいる竜より、さらに少ない。
確認した限りでは、世界に7匹しかいないようだ。しかも、基本的に温和な上に人外魔境の秘境の奥に住んでいるため。伝説上に語られるのみで、実際に遭遇した例は極端に少ないそうだ。
だいぶ前に、興味本位で、遠見の水晶球を使って確認した時は―――
めがっさ遠い海の深海で、竜宮城っぽい館を劇的にリフォームしようと頑張ってるのが一匹。乙姫っぽいのが泣いてるが良いのか?
成層圏に浮かんで人工衛星よろしく衛星軌道で周回しているのが一匹。目が死んでて、なんか考えるのを止めてるっぽい?
地中のマントル? の中を悠々と泳ぐのが一匹。時々くしゃみをして、火山を噴火させている……。
人化して人々に紛れて暮らしているのが一匹。ちなみに龍人族とは、宝珠に力を封じて人化した龍を指す言葉らしい。
彷徨う雷雲の中でまどろんでいるのが一匹。時々目を覚ましては、癇癪を起こし嵐や雷雨を招いている。
極寒の永久凍土で氷漬けになってるのが一匹。生きてるのか? ……あ、鼻ちょうちんが弾けた? なんで?!
冥府の奈落の底でひとりでスゴロクっぽいモノに興じてるのが一匹。他にもじゃんけんや、かくれんぼをしている。むろん、一匹で……だ。
―――こんな感じで、様々な極地に棲息していた。
色々とツッコミを入れたい気分だろうが、敢えてスルーして欲しい。
ここで重要なのは、勇者を今まさに殺さんとする竜人の御子の事だからだ。
龍の化身である龍人と違って、所詮は人に毛と言うか角や翼や鱗や尻尾が生えた程度の存在だ。
五竜。厳密に言うなら五色竜帝。それ即ち……朱竜、青竜、黄竜、白竜、黒竜の五匹の竜王を指していたが―――
―――ぶっちゃけ滅んだ。
竜牙兵用の竜骨材料に使うために、メリーアンの製作者である“当時”の“魔王”によって狩り尽くされたらしい。
現在残る五竜帝の末裔は幼竜状態であり、庇護するはずの親が全滅したため……同胞の絶滅回避のために、親の代わりに子育てする存在として、龍族の王族である……龍神族によって作られたのが竜人族である。
竜を崇め、竜を信仰する彼らは竜の血を継いだ竜帝の末裔だと信じ込んでいるが……ぶっちゃけ、デタラメだ。竜の血を引いてると言う部分は間違いではないが、輸血や臓器移植されたのと大差なく、其れを持って子孫を僭称するのはどうかと思われる。
同じく竜を信じ、竜に成りたいと願う種族に蜥蜴頭が存在するが、彼らもまた竜とは無関係であり真実を知る身としては滑稽さを禁じ得ない。
ちなみに外見的には、蜥蜴頭に、翼と鱗を付けたのが竜人となる。
どうでも良い事だが、一部の獣人が使う獣化と呼ばれる変身能力同様に、竜人もまた、竜化によって竜の姿を取る事もできる。
ただし、原則的に女性のみの能力で、男性が獣7割人3割の姿なら、女性は逆に獣3割人7割の姿となり。人に近い分、女性は弱いと思われがちだが、獣化することで補えるため、侮ることはできない。
もっとも、獣化することで精神性も獣に近づくため、理性的な行動が難しく。さらに、主に武装的な意味で、人型のメリットも失われるため状況によっては、獣化することで逆にピンチになることもある。
さらに獣化は、月齢や感情などによって暴発する事もあり、強力だが……色々と厄介な能力だと云えよう。
それらを踏まえて、総合的な評価としては、龍族>=竜族>越えられない壁>亜竜>=竜人族>蜥蜴頭……と成る。
纏めると―――
竜人族とは? 龍族に作られた、竜族に対する奉仕種族である。
現存する奉仕対象である竜族は少数。その中でも崇拝&庇護対象となる五色竜帝の末裔の五匹は、幼竜状態でさほど強くはない。
だから、蜥蜴頭を従えて、竜人の里を全体で全力で保護・養育活動を行う必要があるはず……。
な・の・に! ……なんで子育てサボって、邪神の御子に成って、勇者と戦ってんのー?!
―――と、言う事になる。
「―――絶界竜息ッ!!」
「「「ぬわー!?」」」
「やらせませんわッ! 聖光爆熱掌ッ!!
……くっ!?」
「「マリー?!」」
洒落にならない威力のブレスに飲まれんとする勇者一行。その直前、マリアンヌが飛び出した。
そして自身の持てる最大の武技を持って相殺を試みたようだが……まがいなりにもドラゴンブレスである。そう簡単に相殺出来るものではない。
だが、捨て身で放ったその一撃は見事に相殺して退けた……しかし、その代償は大きく。激突の閃光が収まった時。マリアンヌもまた、崩れ落ちたのだった。
………やべえ!?
いつもの様に、指を鳴らそうとしてハッと気づく。あれ? そういや遠隔術式……今どう組んでたっけ?
ログを開き確認すると、聖王国で“回収”に使った時のままだった……。
ちょ!? 組み直すのに最速でも3時間はかかるんだが!? 間に合わねええええ!!!?
場所は……思ったよりは遠くないが、それでも通常の魔法の射程外なのは変らない……オレにできることは……無い?
魔将を送ろうにも、内紛? 中の現在、説得してる暇は無いので無理だ。
この船なら、数分で現場に行けるが……女勇者をどう説得すれば良い?
女勇者的には、星光教会の勇者であるアレンは異端者に当たる……出逢えば高確率で戦闘になるだろう。
つまり、この船も女勇者も頼れない。
だとするとやはりオレ自身でどうにかするしかないが……遠隔術式が使えない以上、どうしょうもなくね?
やっべえ!? どうすんだよ、オレ!?
設定厨の血が騒ぎ、うっかり竜と龍について熱く語っていたら本編が全然進まなかった罠。
次はちゃんと進みますよ?
たぶんw




