<33>
神々の鳥船
魔導技術の粋を極めた、空中魔導戦艦である。
卵から生まれた生物兵器? ……でもあるようだが。実質、魔導飛行船と考えて良さそうだ。
対地対空対魔を前提として設計された決戦兵器であったが……陽の目を見る前に魔王が討伐されたため、いずれ使う日が来るまで封印されることになったらしい。
船内に有った日誌によると、どうやら設計者が独断で封印したようだ。
彼曰く。魔王軍から平和を取り戻すために作った船なんだから、人同士の戦争なんぞに使われてたまるか! ……ってことらしい。
ふむ、中々良い気概を持った人物だったようだ。
こういう人材がオレの配下にいてくれれば、もう少し、色々と楽なんだろうが……。
―――いや、まてよ?
雇い主の意向をガン無視して、個人の我を通してるわけで……あ、うん。やっぱダメだわ。
個人としては称賛できるが……上に立つ主としては迷惑なだけで、苦労するだけだ。やっぱイラね。
さて、そんな彼の、平和を祈る強い思いを載せた|魔導飛行船は今……聖王国を蹂躙していた。
「な、なんだアレは!?」
「鳥か? 魔物か?! ……違う!! アレは魔導飛行船だ!?」
「バカな!? 現存する十二隻? の機体は全て魔王軍に破壊されたはずだ!!」
「幻の零号機じゃないのか?」
「都市伝説のアレか? ありえん……」
「ま、まあいいじゃないか! 魔王軍相手の戦力が増えたんだ! 喜ぼうぜ!」
「………だったらなんで、主砲をこっちに向けているんだ?」
「……」
「……」
「……」
「「「敵襲だー!?!!!」」」
巨大で不審な飛行船が突如、街の上空に現れたのだからパニックになるのはあたりまえだ。
しかし、別大陸の勇者一行参上の場を飾るには調度良いのかもしれない。
男尊女卑的な考えは薄いが、それでも男の勇者が当たり前だった土地の住民にとって、多少強い力を持ってようと、ぽっと出の女性が……女が勇者を名乗っても信用される確率は低い。
だったらいっそ、こういう風に派手に登場するのもアリかもしれない………そう思っていた時機が、オレにもありました。
「前方ニ○四七ヤード、二時の方向に敵影確認。敵性反応多数」
「魔導エンジン出力98%安定。風霊スラスター正常。主砲及び副砲の装填完了したよ~」
「システムオールグリーン。なんら問題無し……って、え? ちょ!? おまえら何するつもr……」
「良し! 手加減はいらない……全門開放! 薙ぎ払えッ!」
「だから待t「「了解ッ!」」と言って……い…る?!」
魔導式30mmガトリングが唸りを上げて火線を吐き出し、城下町の大通りをなぎ払う。
シュポン! シュポン! ……と、何処か気の抜けた音を出しながら魔導式127mmミサイルポッドから、爆烈火球に匹敵する火力を秘めた筒……ぶっちゃけ対地ミサイルっぽいモノがばら撒かれ。城砦や塔などの重要施設を破壊していく。
七砦とも称される[聖光七陣結界]の要となる塔が破壊され、聖王国を被う結界が解けた。
その瞬間、オレに掛かっていた重圧も解けた。
七陣結界は7つの塔を使った結界陣で、効果は結界内の魔族や魔物の力を制限するものだ。
この影響圏内では、魔将クラスでも、そこらのちょっと強い程度のザコまで弱体化する。元々ザコい相手は、そもそも足を踏み入れることすら出来無い。
そういった強力凶悪なシロモノで。実際に、オレ自信もかなり弱体化していた。
だがまあ、弱体化していても魔術が封じられたわけでもなければ、闇の帳や超再生も健在なので、オレ的には、まだまだ余裕なんで……いざと成れば、転移して逃げればいいやくらいに考えていたのだが……。
まさか、こうも簡単に結界が解けるとは思わなんだわ……。
やはりすでに、2つの塔を……今は亡き、隻腕辣腕豪腕鬼将軍が破壊していたのが大きかったのだろう。
術式の要となる塔の3分の1が壊れれば、そりゃ結界の維持なんて出来るわけが無い。
「227kg級魔導爆雷投下準備終了!」
「船底隔壁の開放を確認したよ~」
「副砲加熱。冷却処理開始。主砲発射準備完…了……じゃねえよ!?」
「暗黒大陸に君臨する邪悪なる魔都を討ち滅ぼせッ! 討てッ!」
「は? おま、なにを言っ「「了解ッ!」」のだッ!?」
主砲である魔装艦砲“フリーデ・サリュシュース”
460mm精霊充填式縮退砲。それは、対魔王城用決戦兵器。
多重術式を組み込んだ精霊石をふんだんに使った弾頭を、アダマンニウム製の砲身から空間魔法を使って電磁誘導に似た仕組みで撃ちだす霊子滑空砲である。
人類の仇敵である魔王を、魔王城ごと粉砕! 玉砕! 大喝采! ……するために作られた。
世界平和への祈りを込めた。この船の製作者渾身の逸作なのだが……。
そんな彼の思いとは裏腹に、放たれた核級の弾丸は……人類の最後の砦であると思っていた聖王国の王城。
700年以上の歴史を誇る白磁のお城。
神々がまだ地上に居た頃……神代の時代に作られた神聖なる城砦を、木っ端微塵に吹き飛ばしたのだった……。
――――
―――
――
[着火]
[爆烈火球]
[雷撃]
[落雷]
さて、これらの魔法の違いは分かるだろうか?
着火は、文字通り指先や杖の間近にある可燃物を発火させ、火をつける魔法だ。ライターの火を押し付けるような感じと思ってもらって間違いない。
爆烈火球は、典型的な攻撃魔法だ。指先や杖などの先から火球を打ち出す。着弾した火球はその場で炸裂して周囲を吹き飛ばす。まあ、手榴弾みたいなものだ。
雷撃は、指先や杖の先から一直線に電気を飛ばし、範囲内全てを感電させる魔法だ。
落雷は、大気中の静電気をかき集めて、指定した場所に人為的な落雷現象を起こす魔法だ。自然の雷より規模は落ちるが、十分強力だ。
この四種の魔法を分類するなら―――
着火と爆烈火球
雷撃と落雷
―――こう分けると思うだろう?
属性的に考えるならそれで正解だが、魔術の仕様を踏まえて正確に分類する場合は―――
着火と雷撃
爆烈火球と雷撃
―――こうなるのが正しい。
爆烈火球や雷撃を、油の詰まった樽や、海など水中にぶちかました場合どうなると思う?
普通なら、油に引火して大爆発を起こしたり。水中の魚などの水棲生物が浮き上がると思うだろう……。
だが、現実にぶちかました場合。爆発などで油が撒き散らされることはあっても、引火することはなく。
水中で使おうと……火球は消火されることもなく、雷撃が拡散して広範囲を感電させることもないのだよ!
それがなぜかと言えば、魔法は、物理法則とは全く異なる現象だからだ。
ぶっちゃけた話。属性を帯びていて、それなりに相性差や、感電などの副次効果が発生はするが、見た目が炎であろうと雷撃だろうと一切合切関係なく、本質的には魔力の塊でしかないからだ。
そのため、鎧や壁などの物理的な障害物は、魔法には意味を為さず。魔法障壁魔法抵抗でのみ防げる。
魔法が、重戦士殺しと呼ばれる所以でも有る。
もっとも、対魔法装備なども存在するし、純粋な戦士であっても、ある程度熟練者であるなら、ある程度の抵抗能力を身につけているのが普通なので、絶対的と言うほどの優位性は無い。
ただし、障害物を無視できる遠隔攻撃って時点で十分凶悪なので、魔法使いが重宝される現実に変わりはない。
さて、ここで一つ疑問が浮かぶだろう。
物理法則を無視するのが魔法なら……何故、着火と言った魔法が存在するのか? ……そう言った疑問だ。
―――答えは単純。
魔法によって、擬似的ではなく。本質的な現象を起こすことも可能だからだ。
創造魔法
鉱物や火、水などの“物質”を作り出す魔法であり、錬金術系に含まれる。
無から有は生み出すほどではないが、近い事ができるので重宝されているが……魔力を直接運用するより、遥かに効率が悪いので、攻撃魔法として使われる事は少ない。
現に、爆烈火球と着火の消費魔力は殆ど変らない。
だったら、攻撃に爆烈火球を使うのは当然と言えよう。
ちなみに、落雷は厳密には創造魔法ではない。
魔力を物質に直接変化させる創造魔法の派生に当たる……“変異魔法”に類する。
変異魔法は、すでに存在する物質に影響を与える魔法の総称である。
落雷の他にも―――
土槍
倒撃
窒息
大渦潮
―――などが、それらに当たる。
これらは、その場に触媒となるモノが無いと使えないため、精霊魔法と呼ばれることもある。
ちなみに、土槍に似た魔法として、地槍が存在する。
土槍が、指定位置の地面を隆起させ、鋭い槍として足元から突き刺すのに対して、地槍もまた同じく足元から土塊がせり上がり、目標を貫くのだ。
だが、地槍は所謂、普通の攻撃魔法である。
土槍は、物理的攻撃であるため、鎧や壁が有効であり。さらに隆起した地面はそのままである。
それに対して、地槍の方は、見た目が槍なだけなので、当然の如く、鎧や壁は役に立たず。効果時間終了で槍は消え。地面は平坦なままとなる。
土槍も地槍も、単純な威力は、ほぼ同じである。
ならば、ダンジョンや密室などで使う場合は、二次被害を防ぐために地槍が使われ。
敵や周囲の被害拡大のみを考えるなら、土槍の方が有効なのだ。
もっとも、創造魔法ほどではないが、変異魔法も効率は悪く。
何も考えずに使うなら、地槍の方が手っ取り早いので、魔法戦士などの兼業系が、創造魔法や変異魔法を使うことは少ない。
ついでに言うなら、地槍などの構成魔法は、対象の指定も可能なため。乱戦状態でも敵だけを正確に狙えると言う利点もあるので、殆どの攻撃魔法は構成魔法が使われる。
だから、概ね。魔法攻撃=構成魔法であると考えて支障はないだろう。
纏めるなら―――
爆烈火球、雷撃、地槍などは、攻撃魔法(構成魔法)
落雷、土槍、倒撃、窒息、大渦潮などは、変異魔法
着火、氷作成、偽剣創造などは、創造魔法
―――となる。
魔術と呼ばれるのは構成魔法であり。
変異魔法と創造魔法は、魔道の一分野である……錬金術に属するのが正しい分類となるわけだが……。
ぶっちゃけた話。物理法則に従う魔法と、無視する魔法の二種類があると覚えておけば十分だ。
魔術=構成魔法。魔道=錬金術や魔導を含む、その他。 ……って感じか?
ちなみにオレがよく使う魔力衝は、魔術未満の力技で、効果的には、物理衝撃を与える魔道に近い。
ようするに、魔法は、魔道器も含めて、ピンポイントにも、無差別にも、どっちにも使える便利な技術だと言うことだ。
まあ、そんな理由で……オレの眼下に広がる悪夢のような光景。
主砲爆心地である王城跡に残るは大きなクレーター。
質素ながらも堅実に、大きく繁栄していた町並みは……瓦礫の山。
逃げ惑う人々に、容赦なく降り注ぐ焼夷弾っぽい魔導炎弾と、行く手を遮るように燃え広がる紅蓮の炎。
まあ、だいたいそんな感じで……聖王国が業火に包まれ燃え落ちる様をもたらしたのは、偏に魔導船の武装が構造物破壊を重視した設計であったためと云えよう……。
うん、こうなると最早、魔法の分類なんて関係ないね。ははは……。
乾いた笑いを漏らしながら、オレは真顔で参上を見つめていた。
そんな、半ば方針していたオレの耳に飛び込んできた異音は、戦勝に浮かれる女勇者一行の嬌声ではなく……災禍に見舞われた人々の叫声でもなく……無機質なポップアップ音だった。
[サブクエスト“七陣結界を無効化せよ!”のクリア条件を満たされました]
[サブクエスト“聖王国を攻め滅ぼせ!”のクリア条件が達成されました]
[ライラリス大陸。主要都市の全攻略が終了しました]
[攻略特典として“魔王”に、邪神の祝福が与えられます]
[祝福を受けますか? Y/N]
―――おい。
受けますか? ………じゃねええええええ!?
だからどうしてこうなったー!!!?
人類終了のお知らせ。
勇者が早く来ないから……w




