表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/67

<幕間:竜牙冥土>

 魔王様は……お優しい御方です。

 

 配下の非礼や失態に、非道な厳罰を与えることはなく。

 むしろ、汚名返上……名誉挽回の機会を与えてくれます……。


 

 魔王様は……公平な御方です。

 

 信賞必罰を心得。

 上辺に惑わされること無く。あたかも全てを見通しているかの如く……不平や不満を汲み取り。

 

 それらを正当に評価するのです……。


 

 魔王様は……恐ろしい御方です。

 

 十二魔将筆頭であり、怪力無双の魔将軍“ゼルガスティア”卿の奸計によって、魔王軍そのものが二分割される危機を迎えても動じることなく。

 まるで全てを予測していたかのように先手を打って、逆に魔将軍を孤立させたのです……。

 

 そして、怪力自慢の心を折るが如く。

 

 魔王様の真骨頂である魔術を使わず……純粋な“暴力”と“暴力”のぶつかり合いで勝利したのです……。


 

 魔王様は……甘い御方です。

 

 味方だけでなく、敵方であろうとも死者が出ることを望まず。

 降伏の申し出は……それが罠である可能性が高かろうと構わずに受け入れるのです……。



 魔王様は……厳しい御方です。

 

 命令に応じた配下が失敗を犯しても、それに失望することもなく。怒ることもありません。

 

 淡々と、失敗の原因と結果を冷静に判断。次の方策を考え沙汰を下します。

 

 配下のミスは、それを命じた自分のミスであると……そう断じているからです……。


 

 魔王様は……狡猾な御方です。

 

 深謀遠慮な外交は、これまでの魔王軍には無かったモノでありました。

 

 策を巡らせようと、内通者を忍ばせようと、罠を張り巡らせようと……その全てを看破して退け、利用するのです……。


 

 魔王様は……奇妙な趣味を持つ御方です。

 

 何も映さない曇った水晶球を眺めるのが好きなようです。

 また、時々叫声を上げたり、物思いに耽て……心ここにあらずな時が多々あります……。


 

 魔王様は……動じない御方です。

 

 吉報が齎されようと、凶報が齎されようと、決して動じることはありません。

 まるで他人ごとのように淡々と執務を取って事態の終息を図るのです。


 そう、見えるように振舞っています……。


 

 

 魔王様は……義を尊ぶ御方です。

 

 天使と悪魔の実らぬはずの恋を認め。

 理不尽を押し通さんと圧力をかけてきた神々を真っ向から退け。

 

 終には前人未到の聖地にある……天の国の門を内から閉ざさせたのです……。


 

 魔王様は……恐れを知らぬ御方です。

 

 世の理に真っ向から挑み。

 冥界の門を打ち破り、歴代魔王の中でただ一人。

 

 冥府に兵を進ませた愚者として、後の世にも語り継がれるのです……。



 魔王様は……容赦の無い御方です。

 

 目的のためには手段を選ばず……手段のためには恥も外聞も厭わない。

 

 たった一人の人間を殺すために、十二魔将全員を遣わせるなど本来ありえません。

 

 それを躊躇なく命じたのです……。



 魔王様は……苦労の多い御方です。


 24時間休むこと無く執務を行い。些細な報告にも耳を傾け、あれこれと思慮を巡らせています。


 そして、それが報われることは少ないのです。


 魔王様は……分かりやすい御方です。

 

 周りの者は皆言います。

 魔王様の心が読めない。何を考えてるか分からない。付け入る隙も……歩み寄る隙も見当たらない、と……。

 

 私には理解できません。

 

 魔王様は……良いことがあれば、口元を綻ばしてワインを注文します。

 

 魔王様は……悪いことがあれば、眉をひそめてワインを注文します。

 

 魔王様は……悲しいことがあれば、目尻を下げてワインを注文します。

 

 魔王様は……楽しいことがあれば、鼻をふくらませてワインを注文します。

 

 魔王様は……何もなければ、とりあえずワインを注文します。


 

 ほら、分かりやすいでしょう?

 

 

 ―――そんな魔王様と“私”が出会ったのは、喜ばしい運命であったと確信しています。



 「お初にお目にかかります。

  魔王様付けの側仕え……“メアリー01(ワン)”でございます。

  

  今後とも宜しくお願い致します」



 私は竜牙(ドラゴントゥース)兵士(ソルジャー)の一人です。

 四代目に当たる魔王……竜滅の魔王様によって生み出された……魔法生物なのです。


 造魔実験体“メアリーシリーズ”にナンバリングされた試作機であり……現在、唯一の成功例でもあります。



 「メリーアンさん?

  良い名前だね……それじゃ、よろしく頼むよ」



 本来は、私のデータを元に量産化される予定でありましたが……その前に、魔王様が勇者に討ち取られてしまいました。


 だから……無機質な識別番号だけが、残された私を表す全てなのです。



 「お褒めに授かり真に光栄でございます。

 

  ……ですが。僭越ながらお言葉遣いが少々柔らかすぎます。

  

  私共の上に立つお方なのですから、それに相応しい言葉をお使いになられるが良いと存じます

  

  それと、私めに敬称は不要でございます」



 そんな私の全てを……()は、あっさりと否定しました。



 「お、おう。気をつけるよ……じゃない。

 

  メリーアンよ。立場を踏まえた忠言……褒めて使わす。

  我は忠臣の言を虚ろにするような愚王に成り果てる気はない。

  

  故に許可しよう。

  今後もまた、何かあれば好きに進言するが良い!」



 他意の無い……純粋に、私の名を聞き間違えただけであることは承知しています。

 そして、本来なら……間違い訂正して名乗り直すべきであることも理解していました……。



 「魔王様がそう望むのであれば……仰せのままに従いましょう。

  こちらこそ……何時でも如何なる時でも、好きな時にお呼びくださいませ」



 ……ですが、何故かそうする気になれず。現在までも、訂正はしておりません。



 「う、うむ。ならばそうだな……早速ではあるが……飲み物が欲しい。

  軽く酔いたい気分なのだが……?」



 どうしてなのか? ……それは私にも分かりません。



 「はい、ただ今、お持ちいたします」



 ただ……そう、他愛もない事ではありますが……。


 その時、初めて……名前(・・)を呼ばれたような気がしたのです……。



 これが、私と7代目に当たる稀代の魔王……7つを数える世界の全てに挑んだ―――


 

 魔界 魔王城を中心とした魔王軍の本拠地。魔族中心だが、多種族もそれなりにいる。

 冥界 冥界門で区切られた死後の世界。ここを経由して、天界や魔界や人界とかに転生する。

 天界 霊峰の頂きに聳え立つ天界門の先にある……神々の住まう世界。

 精界 精霊界とも称される世界。精霊の巣であり、異次元にあると言われている。

 人界 現界とも呼ばれる……人々の住まう世界。

 異界 妖精界とも称される世界。妖精族の故郷とも言われている。

 深界 海の底より、さらに深いところにあるとされる深淵世界。

 

 ―――魔王の中の魔王で有りませる。

 

 世に厭う理不尽を是とする法則(ルール)に逆らう……敵対者(サタン)と後に呼ばれし御方との出会いと馴れ初めで御座います。





 はい。ですから私は……魔王様を信じております。



 魔王様は……くじけぬ心を持つ御方です。


 例え十二魔将全員を敵に回すような……初代魔王まで遡ろうと過去に例のない由々しき事態であろうと……諦めたりはなさらないでしょう。


 城から逃げ出した魔王として、三下からすら嘲笑されていようと……。

 調子に乗った小悪魔や召使などが、玉座や謁見の間に落書きや悪戯仕掛けていようと……。

 

 勘違いさせた魔王様が悪い! ……と、開き直った十ニ魔将が、魔王を討つ方法を真剣に協議していようと……。


 魔王軍は魔王軍で、魔王様不在を良いことに―――


 魔王様は変態だ! 魔王様はむっつりタイプだ! 魔王様は幼女好きだ!

 魔王様は勇者マニアだ! 魔王様は痔主だ! 魔王様は露出狂だ!

 魔王様は男色家だ! 魔王様は紳士 (笑)だ! 魔王様は不能だ! 魔王様は………。


 ―――などの、いわれのない噂が流行っていようとも……魔王様は、決して挫けたりはしないのです。






 ……しませんよね?


 メリーアンは魔王の理解者です。




 

 ダメな子を、生暖かい目線で見守っている感じの理解者ですw


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ