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 妖精族(エルフ)と、上位妖精(ハイエルフ)の関係はシンプルだ。人間で言う、貴族や王族がハイエルフに当たる。


 もっとも……能力的には大差なく。血の尊さなども無関係であり。種としても全く同じだったりする。

 

 ならば、何が違うかと言えば、重ねてきた年月だ。

 

 古代種(エルダー)と称されるように、千年単位で生きたエルフが、ハイエルフと呼ばれるようになる。

 

 エルフは不老不死と言われているが、それは正確ではない。単純に、寿命で死んだエルフが確認されてないだけである。

 

 1919072年間。長い時を生き抜いたハイエルフが、老衰で枯れ木のような状態になったことまでは確認されているが……その後、普通に病死したため詳細は不明らしい。


 なんか、年の単位が狂ってる気がするが……深く考えるとこっちも狂いそうなので気にしてはいけない。



 そして、オレに懐いている彼女はハイエルフである。つまり、外見が良かろうと、その中身は……?

 

 まあ、何が言いたいかというと……ロリババア、乙! ……ってことだ。

 

 

 だが、例えそれでも、背中に感じる温もりと視界に収まる外見は、オレの好みにド級ストライクである。


 ―――よって、オレの内面が大変なことになっているのは仕方ない事だと思う……思うよね?

 

 長年を通して鍛え上げた……[外面を取り繕う(ポーカーフェイス)程度の能力(っぽい何か)]のおかげで内心の葛藤は悟られてはいないだろうが……それでも焦りは否めない。

 

 このままでは、色んな意味で拙い……クールダウンしなくてはならない!


 

 考えるな、感じろ! ……じゃなくて!? 逆だ逆! 

 

 感じるな、考えろ! 考えるんだ、オレ!



 エルフの外見は、基本的に男女問わず中性的である。

 ソレに対して、古代種でもあるハイエルフは、男女の差が色濃くでるのが特徴だ。

 

 ぶっちゃけるなら、男性はスタイリッシュなガチムチで、女性はボン・キュッ・キュと言う。スレンダーなのにムチムチボディと言う奇跡を体現しているのがハイエルフである。

 

 今考えれば……ライラリス大陸のハイエルフを、サブクエスト[“マース大森林”に済むエルフ氏族を殲滅せよ!]をクリアして、エルフ共々。文字通り殲滅してしまったのが悔やまれるが……過ぎたことだ。それに、生き残りもそれなりにいるから、復興は可能なはずなので、これからの頑張りに期待しよう。

 

 ―――殲滅を指示したオレが言っても白々しいだけか……ははっ……。

 

 そういや勇者が、大森林の精霊樹“アルシア”を復活させてたな……どれ、ついでに勇者の様子をみてみるか?

 

 最後に確認した時点では、ブライアンの上の人は失踪。勇者一行は、真の意味で賢王亡き国となった荒れ地で、復興作業を手伝っていたはずだ。

 

 水晶を通して観てみると、難民や聖王国の兵士に混じって、がれき撤去や炊き出しなどをしているようだ。


 勇者がする仕事ではないような気もするが……まあいい。

 

 オレも状況が状況なので、勇者一行を注視し続けるも厳しかったところだ……。


 渡りに船として、お互い骨休めと行こうじゃないか!

 

 ―――だから、主に加害者側であるオレが言うセリフじゃねーわ。ははっ……。


 

 

 ち、ちなみに、魔王軍にいる。闇妖精(ダークエルフ)は、普通のエルフが魔族化した姿である。

 

 魔族化した時点で、肌が浅黒くなるなど、身体的特徴が変化する事も少なくないが、変化前の姿をそのまま受け継ぐのが基本だ。

 

 そのはずなのに……オレの配下である。新鋭の魔将の一人。


 練筋術師“エレシアナ”は、女ダークエルフでありながら……ガチムチ姿である。


 [練筋術師(セントマッスル)]


 聞きなれないこの職分(クラス)は、錬金術(アルケミー)ならぬ……錬筋術(ビルドアップ)と呼ばれる妙技を扱うらしい。


 なんでも、専用の秘薬(プロテイン)軟膏(ワセリン)を使って筋肉を練り上げることで真理の扉を開き。解除魔法(ディスペル)(物理)で魔法を粉砕。飛行魔法(フライト)(物理)とか言って、重力を筋力でねじ伏せて空飛んだりなど……世界の理(物理法則)に真っ向から挑むのが、その真髄だとかなんとか言っていたが……。

 

 練筋術師特有の肉体言語(ボディランゲージ)で話されても……理解に困るので勘弁して下さい。マジで!

 

 そもそも練筋術師に聞き覚えが無いのも当たり前。どうやら彼女の祖母が創始者らしく、歴史がめっちゃ浅いので、当然と言えば当然のことであろう。

 

 ―――というか、こんなガチムチの女エルフが、もう一体いるのかよ!?

 

 オレ的には、ぜひともこの流派は断絶してもらいたいところだが……彼女を超姉貴(グル)と呼んで慕う。若いエルフ中心とした門下生の集団がすでにいるらしいので、将来は安泰っぽい。

 

 ―――絶望した!?

 

 どうやらエルフは種族的に華奢なため、筋肉に対するある種の憧憬のようなものがあるらしい。実際に、ガチムチになった男のハイエルフは、若いエルフの男女問わず人気を集めると聞く……。

 

 そういえば、オレも魔術師の姿はしているが……元の体格が体格なので、十分ガチムチと呼べるな……?

 

 もしかして……ミリアムが懐いてるのって……何かの奸計とかじゃなく……そのせいか?!

 

 それに思い当たると同時にオレは焦りを顔に出さないまま……。


 頬を染めて上気した、なんとも悩ましげな顔で縋り付く少女……と言うか熟女? ……を、自分から引き離す。


 いろいろな意味で残念だが、あまり密着されると違和感を持たれ、幻影による偽装(カモフラージュ)がバレるかもしれないので仕方がない。

 

 それに……仲間(・・)骨矢(ボーンアロー)に撃たれるのを、黙って観てるわけにもいくまい?

 

 「危ないから離れていろ……」

 

 中ボスが居た部屋から階段を降りた先は、色々な瓦礫が散乱している広場だった。そして、その奥に見える扉の前には骸骨戦士が4体と骸骨弓兵が2体いる。


 ―――だが、オレは知っている。


 その6体とは別に、左右の瓦礫の影に1体ずつ……2体の骸骨弓兵が、挟撃しようと潜伏していることを……。

 

 骸骨戦士に気を取られ、背後や側面に隙を晒した間抜けな探索者(シーカー)を狙った。ありがちな挟撃であるが……その効果は高い。

 

 こいつらは死霊術で生み出された守護兵(ガード)である。

 

 戦闘力は、並みの戦士と同じくらいはあるので、数が揃えば侮れない。ましてや、不意打ち強襲なら危険度は跳ね上がる。

 

 生きていないために“気配”がなく。潜伏不意打ちを得意とするのがこいつらアンデットの嫌らしさである。

 

 ただし、聖邪“ハイン”のような高位のアンデットならば、濃厚な“負の気配”を放つので、余程の鈍感でも無い限り。不意打ちの心配はない。


 危険な相手ほどわかりやすいと云うのは皮肉的だが、救いでも有る。


 しかし、動く骸骨(スケルトン)シリーズのような下級のアンデットは、負の気配も小さく。そういった負の要素に対して感覚が鋭い熟練の聖職者でもない限り。微動だにせず潜伏しているこいつらに気づくのは難しいだろう。

 

 現に五感が鋭いと云われるエルフや、負の気配に敏い聖職者である……赤の聖騎士“サリアス”も潜伏に気づいていなかった。

 

 故に、奇襲に対して反応を示したのは、水晶球による偵察の成果で、この伏兵を予め予想していたオレと……直感か、超反応か分からないが、直前に察知した女勇者だけであった。

 

 オレが、狙われたミリアムを射線から引き離し、飛来した骨矢を[斥力を宿した障壁(レプリション)]で弾くのと、ほぼ同時に……。


 蒼天の女勇者“ナルシア”の放った蒼い剣閃(ブルーインパルス)が、片側の骸骨弓兵を打ち砕いた。

 

 「良い反応だ。流石は勇者だな……」

 「ありがとう。でも、あなたも大したものよ?」

 

 障壁で弾いた後。二の矢を放とうとする残った骸骨弓兵に向けて、オレは魔力衝(マジックブラスト)を放った。


 これは魔法以前の、技術と言うにも稚拙な原始的な魔力を使った攻撃方だ。

 

 以前、勇者を溶岩に叩き込んだモノと理屈は同じである。ただ、これは攻撃(・・)なので、込める魔力は最小。威力は最大限になるように調整してある。

 

 魔力を扱えるモノなら、獣ですら使える単純で大雑把な攻撃だが……オレ(・・)が使えば話は別だ。

 

 拳大(こぶしだい)の魔力を、米粒ほどの大きさに握りつぶすように圧縮。それを指で弾いて撃ちだす。


 きらめく魔力の光の尾を引いた魔力の塊は、狙い通り骸骨弓兵に着弾。

 

 ズドンッ! っと、重々しい爆音が響き骸骨弓兵はバラバラに……と言うか木っ端微塵に消し飛んだ。

 

 「……やはり、非常識だ」

 

 「さっすがサーたん! きゃー! 「よっと」 ぶー! なんで避けるの?」

 

 魔王は揺るがない……が、オレの理性は有限なんですよ? すり減るような真似はやめてもらいたい。

 

 つーか、恥ずかしいだろ言わせんな!?

 

 おけおけ、落ち着こう。……よし、落ち着いた。


 さっきのオレの攻撃は、俗に魔力衝(マジックブラスト)と呼ばれている攻撃法だ。


 魔力をそのまま運用する力技的な手段なので、呪文(スペル)指印(サイン)による補助を前提とした魔術(ソーサリー)に比べて効率が悪いが……逆に言えば、余計な手間を省ける分だけ、発動が早いと言った特徴がある。

 

 だが、魔力操作は才能と熟練がモノを言うので、原始的故に誤魔化しが一切効かず……魔力衝(マジックブラスト)の使い方を見れば、魔術の技量が分かるとも言われている。

 

 サリアスがオレに言った。非常識ってセリフは正しい。


 爆風(ブラスト)と称されてるように、普通なら圧縮(サプレス)からの開放(レリーズ)による爆風で、周囲を無差別に吹き飛ばす……っと言った。緊急回避的な使い方をするのが当たり前だからだ。

 

 ぶっちゃけるなら、STGのボムとか、ベルトアクションのアレみたいな感じに使うのが常識なので……オレがやったような……魔力弾(マジックミサイル)に似た使い方は、かなり珍しいはずだ。

 

 それに、そう言った使い方が出来る魔法使い(マジックユーザー)も少なく……出来るのはそれこそ、大魔道士(アークウィザード)魔導師(ウォーロック)などの、一国に一人。居るかいないかと言った……超級魔法を扱える等級(ランク)に達した稀有な才人くらいだろう。

 

 もっとも……魔の王であるオレと、才人であろうと人の枠内収まっているモノを同じに考えるのは間違いだ。

 

 ―――オレはコレでも十二分に……手加減(・・・)しているんだぜ?

 

 本気でぶちかませば遺跡が余裕で崩壊するから……ほどほどに威力を抑えている。


 自重する気はないが……わざわざ全力を出す必要も無いってことだ。

 

 

 余裕といえば余裕。必然といえば必然。

 

 こいつら女勇者一行は、正しい意味でも、比喩的な意味でも……オレの敵じゃない(・・・・・・・・)


 強いは強いが……闇の帳が健在であるオレには届かない。

 

 それに、臨時といえど仲間であるなら。下手に自重して……うっかり死なせてしまっては目覚めが悪い。 ……ま、魔王に睡眠は不要だけどなッ!


 

 そうなのだ―――

 

 アレンたちと違って……こいつらは、死んだらソレでさようなら(・・・・・)っ!


 そして、新しく(・・・)選ばれた女勇者に……こんにちわ(・・・・・)っ!


 ―――まさしく、現実は非情だ。


 現在の(・・・)女勇者。


 蒼天の女勇者“ナルシア”は、今年に入ってから(・・・・・・・・)数えて14人目(・・・・)らしい。



 リケイド大陸の勇者は……使い捨て(ディスポーザブル)が基本だとさ。

 

 ………なんだそりゃ!?

 

 さんざんやらかしたオレが言えたことではないが……この世界は、やはり何処かオカシイ……。

 

 

 元ネタと言うわけでもありませんし、詳細も違いますが……作中の「練筋術」と同名の魔法が存在するTRPGが実在します。


 事実は小説より奇なりとは、よく言ったものですねw


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