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<3>


 勇者一行は、あれからさらに数十回の全滅を経て、ようやくゴブリンの聖地を抜けた。

 

 勇者たちが無鉄砲さを反省して、戦術を変えたわけではない。


 「よ、よし、見えたぞ! アレが聖者の町“ルイセン”だ!!」

 「これでようやく、聖者様に会えそうですわ」

 「私の魔法の恐ろしさにゴブリンどもが逃げ出したおかげだな!」

 「………何らかの事情で、数が減っていただけじゃないの?」

 

 エミリア正解。やっぱこいつが一番マシだわ。現実をちゃんと見てる。

 

 ブライトンが言うような都合の良い事実はなく、ゴブリンの数が減ってたのは、オレが配下の魔将の一人、吸血皇(ノスフェラトゥ)“アルト・ノワール”に―――

 

 「我が意に沿わぬモノがいる。

  我が威に合わぬモノがいる。

  

  我が畏の恐ろしさ……汝が武を持って知らしめよ!」

  

 「御意に御ざります魔王さま。

  吸血皇の名において……我輩、矮躯なる者どもの心胆震え上がらませしょうぞ!」

 

 ―――ってな感じで大仰に命じて、ゴブリンの聖地を蹂躙させたからだ。

 

 ゴブリンの聖地

 

 それは俗称であり、正式名称は無い。

 概容は大森林であり、ゴブリンを抜きにしても危険は大きい場所だ。

 

 それでもやはり、最も脅威となるのはゴブリンである。

 まず、数がめちゃくちゃ多い。

 

 単純な数なら、ぶっちゃけ、我が魔王軍の雑兵より多い。


 ―――そう、こいつらゴブリン共はオレの配下ではない。

 

 実のところ、魔王軍と正式に呼べる配下はさほど多くはない。


 うっかりやってしまった神々との戦いで、雑兵の大半がいなくなったのも大きな理由だが、元々少数精鋭だったからと言うのが正しい。

 

 人間の認識ではあらゆる魔物(クリーチャー)怪物(モンスター)は、魔王の配下だと誤解されているが、実態はそんなもんである。

 

 そもそもだ、命令を聞くような知能を持たない奴や、そもそも聞く気もないやつをどうやって従えろと言うのだろうか?

 

 ゴブリン共が良い例だ、こいつらは悪知恵はそこそこあるし、拙いながらも指揮系統もしっかりしている。


 個体差も大きく、武に長けたモノ、魔に長けたモノ、賢に長けたものと多種多様にいる。

 

 原始的ながらも国として、軍として成立するだけの要素はあるが……実際にゴブリンが国を作ったと言う例は無い。


 王種(キング)君種(ロード)がいても同じだ。


 なぜかというと、後先考える能力が種族的に欠落してるからだ。

 

 目先に美味しいものがぶら下げられると、全力でそれを奪いにいくのだ。

 その後の報復や混乱などを一切考えずに、だ。

 

 力を持ったリーダーが、目の届く範囲で指揮する分には優秀なのだが、目を離せばすぐに暴走する。


 ~するようにと命じていても、その場から目を離せば、好き勝手やり始める。


 命じられた事をやっておかなければ、あとで怒られるのが分かっていても、お構い無しなのだ。

 

 上下関係のみで、保護や対等と言った概念はなく、信頼や約束と言った言葉も無い、そういったどうしょうもない輩がゴブリンという種なのである。


 まさしく、使えるようで使えない。

 

 そういう理由で、軍略的にも、クエストにも無関係だったため、オレはこれまで放置してたのだが……。


 勇者の進行ルートに障害として立ちふさがってしまった以上、介入せざる得ないだろう。

 

 クエストとは無関係に、オレの独断で魔将を動かすことになったのが、少し不安であるが、このままだと、いつまでたっても勇者が先に進めそうになかったので仕方がないと、諦めた。

 

 それにだ、サブクエストが残り少ない今、クエスト外の行動を模索する必要がある。


 メインクエストに悪影響を与えないように注意しながら、勇者のためにもオレのためにも、なんとか現状をひっくり返す必要があるのだ。

 

 そのための一手。それが今回の派兵だ。

 

 吸血皇は、プライドがバカ高く、挑発に乗りやすいことを除けば、普通に優秀だ。


 吸血鬼固有の弱点であり、致命的な欠陥でもあった[日光を浴びると灰になる]と言う特性も、サブクエストの報酬である[不死王の禁輪(ノーライフリング)]を与える事によって、克服済みである。

 

 ―――勇者固有の特殊魔法で、日光と同等以上の輝きを放つ、退魔浄霊魔法“サンシャイン”の存在意義が危ぶまれる気が激しくするが……今は忘れよう。忘れる!

 

 そ、そのため、義理堅い性格の彼なら、裏切られる心配も低く、クエスト外と言う、不安要素の大きな作戦行動を任せるには適任と言えるだろう。

 

 もっとも、今回の場合、ようはゴブリンの群れの討伐ってだけだから隻腕辣腕豪腕鬼将軍でも良かったのだが、彼には、別の任務を任せてある。

 

 別の任務。それもまた、クエスト外の行動で、成功率は極めて低い。


 だが、主目的は、聖光七陣結界(セブンス・フィールド)の攻略を遅らせる事にあるので、失敗しても問題はない。

 

 任務の内容は、天界の門(ヘブンズゲート)の破壊だ。

 そう、引きこもった主神を引きずり出して[封咒の杖]を奪うためだ。

 

 いろいろ考えてみたが、やはり、魔王の肉体の自動治癒能力は脅威だ。


 自動治癒だけなら、魔族なら大抵もってる能力で、敢えて特筆するまでもないが、魔王のソレは桁が違う。

 

 完全に即死しないかぎり、致命傷からでも、ものの数秒で全快するのは反則すぎる。


 勇者に倒されるためにも、自分自身で、自分に向けて[封咒の杖]を使ってでも能力を封印しなくては、勇者に勝ち目はない。


 だからダメ元で、隻腕辣腕豪腕鬼将軍を天界に送ったわけだ。

 

 成功すれば良し。失敗しても、時間稼ぎにはなるので、それも良し。

 一石二鳥の妙手だと自画自賛しても良いのではなかろうか?

 

 ―――嫌なフラグ立ちそうなので、自賛はここらでやめておこう。

 

 何はともあれ、隻腕辣腕豪腕鬼将軍の件も含めれば、これで二つ、クエスト外の手を打ったことになる。

 

 これからどうなるのか?

 

 文字通り、座して待つしか無い身の上なのがもどかしい。

 

 執務の間も開いたので、町でのんびりしてるはずの、勇者の様子でも見てみるかと水晶球に目をやると―――


 「気合だ! 気合を入れろ! 強い意志があれば、邪霊如き跳ね除けれるはずだ!」


 「ちょこまかと小賢しいですわね……。一撃で終わらせて差し上げますから大人しくなさい!」


 「マリー! 無茶しないで!!」


 勇者アレンの必死の呼びかけを鼻で笑い。


 肉体もろとも除霊せんとばかりに、唸って光る拳を振り舞わすマリアンヌの聖拳を、ヒラリと躱す一人の男。


 その男を、なんとか取り押さえようと背後に回って様子を伺う軽戦士エミリア。

 

 その全てを悪あがきと嘲笑うよう、死霊(レイス)に憑かれたその男……魔術師のブライトンは、自分もろとも吹き飛ばさんと爆裂呪文(エクスプロード)を繰り出した。

 

 ―――その瞬間。激しい閃光が迸り、爆音と悲鳴が鳴り響いた。




 うぉ! まぶしっ!? とか言いたくなるような、激しい閃光と爆音ではあったが魔王の肉体を持つオレを怯ませるには及ばない。


 冷静に、勇者一行全滅劇の一部始終を見届けたオレは、ため息を一つ漏らし、パチンと指を鳴らし、遠隔術式を励起させた。


 ―――目を外した隙に全滅するのだけはやめてくれと、オレは切実に願う。

 

 なぜなら、遠隔術式による救済は、万能ではないからだ。

 

 どこかの熾天使様のように、再生の余地が無いほどに肉体が消滅していたら救うことが出来ない。


 宿るべき肉体がなければ……魂があの世に逝ってしまっては、復活はできないのだ。

 

 こいつらの無鉄砲ぶりを甘くみていた。


 どうやら、町に入ったから安全だろうと油断して、ちょっと目を外していた隙にダンジョンアタックを敢行してくれたようだ。

 

 水晶球を操り、周囲の様子を伺い情報を集める。

 

 この遠見の水晶球には、反則級の探査能力がある。


 結界の中だろうと、水中や土中だろうと、天界だろうと、冥界だろうと、魔界だろうと、この世界の中で見通せない場所は無いと言って良い。

 

 つまりだ、その気になれば、国家中枢で極秘の作戦会議中だろうと、前人未到の秘境の奥。超強力な結界に囲まれた庭園で、だらし無く眠る大地母神“アーシャ”の鼻提灯姿だろうと、天界の自室で、灯りも付けずに毛布かぶって膝を抱えたまま、マナーモードで眼が死んでる主神の姿だろうと、自由自在に見聞きすることが出来るのだ。


 これを反則と言わずして、何を反則と言うのだろうか?

 

 あとはこれで複数の場所を同時に、マルチモニタリングできれば完璧だったが、それが出来てもオレ自身の処理能力を超えそうなので、出来ないことに不便はない。

 

 残念というか、幸いというか、水晶球はオレしか扱えず、内容を見聞きできるのもオレだけのようで、水晶を見て一喜一憂してるオレの姿を周りがどう思っているかが気にならなくもないが、些細な事だと割愛する。

 

 なにはさておき、この水晶球の情報収集能力は有用だ。そうやって集めた情報を整理すると……。

 

 聖者の町に辿り着いた勇者一行は、教会から領主へと挨拶回りを行い、その時に[聖者の墳墓]と呼ばれる地下迷宮の攻略を頼まれ、二つ返事で引き受けた勇者は、休息もそこそこに、足早に迷宮に足を踏み入れ、墳墓に住み着いた、彷徨う亡霊(スペクター)と出会い、仲間が取り憑かれ、ああなったらしい。


 そんな流れで、質素な教会に、突然転移してきたズタボロな勇者一行を見て、神父が悲鳴を上げてるが、まあ、その内慣れるだろう。

 

 ……何度全滅しようと、まるで成長していないのが清々しく、ある意味称賛しても良い気もしてきたが、やっぱり気のせいだろう。


 迷宮に挑むなら迷宮の情報ぐらい集めろよ! そうすりゃ対アンデット装備が必要な事が分かっただろ?! とか。


 敵の心身ともに破壊する武僧の奥義、退魔必倒の聖撃(ホーリータッチ)を気軽に使いすぎだ! それだと仲間も一緒に昇天するぞ!? とか。


 根性論より実利だろ? 意味の無い励ましより“サンシャイン”を使えよ!? とか。


 そもそも精神攻撃にも有効な、万能の魔法障壁を持ち、素の心理抵抗も高いはずの魔術師が、まっさきに取り憑かれんなよ!? とか。

 

 言いたいことが色々有るが、オレが彼らに言うべき言葉は一つしかない。




 ごめんなさい、だ。


 

 サブクエスト[ダンジョン“聖者の墳墓”を構築せよ!]を受けて、クリアしたのはオレです。


 オレが何もしてなければ、一般人のAさんでも、徒歩3分程度で、安全確実に目的地の[聖者の棺]まで辿り着けたと思います。

 

 クリア特典の[聖者“ハイン”の杖]は、神聖系魔法の効力300%上昇と言うチート武器でしたが、魔族だらけのオレらには使い道がなかったので、魔王城の宝物庫に死蔵しています。

 

 ……………

 ………

 ……

 

 過去の偉人の墓参りに来た、勇者一行の前に現れた聖者の御霊から、聖杖を直々に託され。


 それ持った勇者と僧侶が、強化されたサンシャインで、吸血皇を一撃で消し飛ばす王道的な光景を幻視したような気がするけど、夢と思って忘れよう。

 

 人の夢で儚い。

 

 人生なんてこんなもんだと笑うとしよう。


 

 

 

 

 また、やらかしてたよ!? ……はははっ……はぁ……。

 

 勇者一行が受け取るべき特典(チート)を、サブクエ報酬として主人公が横取りした結果がコレです。


 勇者一行の性格はアレですが、本来受るはずだった特典があれば、戦略戦術ダメダメでも余裕でした。


 そういうわけで、勇者一行に非はありません。

 悪いのは主人公。つまり全ては魔王の仕業だったんだよ!


 な、なんだってー!?(AAry

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