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「この街の活気ある姿は、魔王に創られた虚偽の繁栄に過ぎぬ……。
娯楽を与え、古き良き価値観を砕き。
偶像を仕立て、神々への信仰を削り。
毒蛇の如く、奸智を民に与え統制を乱す。
平和を装い進められた魔王の奸計……愚かな私はソレに気づけなかった。
この街は既に……魔王に呪われているのだ……。
さあ、勇者よ……私を殺してくれ……ワタシをスクッてくれ……」
デュラハンの如く、刎ねられた首を脇に抱え、勇者の前で淡々と語るオルデバーン14世。
小難しい言い方をしているが、要約するなら―――
この国は平和に見えるけど、実際は、堕落の一途をたどっている。
全ては魔王の手の上で踊らされてるだけで、このままだと人類がヤバイ。
だから、既に手遅れっぽいけど、それでもまだ希望は捨てたくないので、さっさと自分を殺して楽にして欲しい。
―――と言った感じだろうか?
いやいや、誤解だって!?
確かに文化侵略の側面があることは否定しないが……これは、人類と魔族がWIN-WINの関係になる、最善の方法なんだ!
しかし、さすがは元賢王だ……。
人魔ともに、全く新しい共通の価値観を持たせることで、無力な人類に、クリエイターとしての価値を与え。DQNでニートな魔族を、無害なオタクに、クラスチェンジさせると言う……オレの深謀遠慮な企みを見事看破しようとは……やるじゃないか!
だがもう遅い……人も魔も、すでに禁断の実の味を知ってしまった……。
時代は変わる! オレが変える! オタク文化は……新たな概念は、世界を救うッ!!
あ、これは確かに、悪魔の所業だわ……っと、冗談は、ここまでだ!
オレの真の狙いは、人魔に多様な価値観を与えることで、異種族関にある確執を解消させ。
お互いに共依存するような関係を作り上げ、戦争が双方ともに不利益となるように流通を促すことで……争いの芽をそのものを摘み取ること。
とどの詰まり。人魔の終わりなき戦乱を、完全に終わらせようってのが、オレの描いた未来図だ。
オタク文化の伝導など、その一手段にすぎない。
もちろん、それらを推し進める事で起こる弊害も理解しているが……最終的には、丸く収まるはずなので、多少の問題は、必要な犠牲だと割り切ってもらうつもりだ。
オレが予想してる未来と、元賢王が想定する未来は大差ない。そのの是非は……変化を受け入れるか、拒絶するかの違いでしか無いだろう。
もっとも、オルデバーン14世は、オレの元いた世界で言う……キモオタどもで、世界が満ち溢れる事を懸念しているようなので拒絶して当然かもしれない。
まあ確かに、元賢王の予想が当たれば、それは正しく悪夢でしか無いが……オレはそこまで悲観視していない。
オタク文化はサブカルチャーであって、メジャーになるとは思ってない。
強力な個性は、一部を熱狂的に引き寄せるが……決して、それが主流になる事などないからだ。
一時的に流行になったり、緩やかに浸透する事はあっても、それ一色に染まるなど、ありえないだろう。
―――だが、懸念はある。
注意すべきは、その“一部”に権力者が含まれることだ。
独裁者の暴走ほど恐ろしい物はない。
ならば、逆説的に独裁者がいなければ問題ないと言える。
つまり、システム的に独裁が出来無いようにしてしまえば良い。
その具体的な内容は後回しだ。公平な選挙制度の設備と、民間の意識改革が必須なので、どうせ、一朝一夕で出来ることではないからだ。
今現在すでに、独裁者に最も近い魔王であるオレが、半ば暴走してて手遅れじゃね? ……と言った自虐的な疑念が浮かんだが、心の奥の広い棚に収めて、一旦忘れよう。……忘れた!
そ、それにだ! オタク文化が強調されてるが、実際にオレが進めてるのは、単なる文明開化でしかない。
獣人などの亜人に対する差別感情を消すために、猫耳萌えなどの概念を持ち込みはしたが……それは些細な事である。
―――些細なことだよね?
何れにせよ、未来なんてなるようにしかならない!
賽は投げられた。覆水は盆に返らない……魔法ならなんとかなりそうだが、これはモノの例えなので気にしてはいけない!
だから、現実は現実として受け入れるしか無いのだ……例えそれが、これまでの苦労を無に帰すような内容であろうと……。
「うわあああ!? ば、バケモノがでたぞッ!」
「モフモフ―! キタコレ!! ……って、え?! ぎゃーす!?」
「クソッ! ガキどもが急にオトナシクなったかと思えば、次はコレかよ!」
「うわーん! 怖いよー! ままー!? ブオン! ベチャ……!」
「おらおら! 泣いてる暇があったら逃げるだべ!!」
「おうど……ブオン! ヒョイ! 「避けた!?」……たべt……「と思ったら溝に落ちた!?」 いぃぃ……チャプン」
「ふざけんなこのクソアマがッ! ……ゲハっ!?」
「た、大変だ!? 狂豹隊長がヤられた!? みんな逃げろ―!!」
「可愛い獣っ娘とヤれると聞いてキマスタ……って、字が違うじゃないですか!? やだー! ブオン! グシャ」
「血に濡れた美女とは素晴らしい! [●REC] まさにご褒b……ガシャン! あー!? 魔導ビデオがっ!!」
「無茶しやがって……だが、その思いは受け継ごう! シャッターチャンスは貰ったッ!! ……あ、やべ。フラッシュで気づかれた……オワタ」
「いつかはこうなると思っておったわ……たたりじゃ~! これは魔王のたたりじゃ~!!」
「もう、おばあちゃんたらボケちゃって……ほら、逃げますよ」
「魔導部隊! 足元を氷弾で狙え! 民間人が避難し終わるまで足止めをするんだ! ソレ! 撃て!!」
「「「「氷霊、水霊、奉りて! 我が前の敵を凍てつくせ! 氷柱弾ッ!」」」
「メェエエエエエエエエエッ!!」
「「「「「なんだと!? 剣で魔法を弾いたッ!?」」」」」
…………こうして、オレの野望? は、賢王亡き国と共に潰えたのだった。
ちなみに、眷属“オルデバーン14世”と勇者一行は、傭兵王の血肉を取り込んで剣技に目覚めた獣神姫に……その他大勢と一緒に葬られましたが何か?
どぼちでごうなっだー?!
指を鳴らして遠隔術式を励起。流れるログを読み、とりあえず勇者一行の安否を確認したオレは、やけ酒とばかりにワインをがぶ飲みする。
魔王の肉体に生理現象は、本来無縁だが、食うもの食えば、出るものは出るのが道理。
その結果……玉座から動けないのに膀胱がヤバイ事になったので、どこぞの超能力少女的な方法を魔法でリスペクト。そして、魔王城近辺の一角に、黄色い雨が降るといった珍事の目撃報告が来たが……余談なので詳細は割愛する。
なんかこう、オレのヤること成すこと全部、裏目に出てる気がする……何故だ?
主人公はオタクではありませんが、ある程度の知識はあります。
俗にいう内政チートもひっそりと行っています。
ただし、もともとこの世界の文明レベルはそこまで低くはなく、科学の代わりに魔法学が発達してるため、内政チートはあまり意味をなさないだけです。
ただ、オタク文化。サブカルチャーは別で、娯楽に乏しいこの世界ではかなり貴重な知識となります。
それ故に、その最先端を逝っていた賢王亡きの国の崩壊はもったいないと言わざるを得ません。
……もっとも、世界の根底を揺るがす野望でもあったので、潰えてよかったかもしれませんねw




