<幕間:黒髪の勇者>
別視点です。
メリーから見た魔王様とかも、気が向いたら書きたいと思ってます。
黒髪の勇者。俺はそう呼ばれている。
自分が特別だと自覚したのは、修道院に入ってからだ。
子供が一人で、深い森の中で生活を続けていたこと事態がすでに異常なことだと、そこでようやく気がついた。
戦禍に焼け出され、両親と死別した俺は、森の奥深くに放り出された。
森林での生活は、今思えば苦痛であり過酷な暮らしだったと思う。
当時は、不幸だとかそんなことを考えてる余裕なんて無かったから気づけなかった。
泥水を魔法で浄化して飲み。サンシャインで実を咲かせ。錆びて、もはやただの鉄の棒となった剣で、力任せに獣を狩る。
大きな木のウロで、虫にたかられながら浅く眠り。勝ち目のない魔獣との遭遇を避ける。そんな荒んだ生活だった。
何年か経って、人の言葉を忘れかけた頃。
騎士による魔獣討伐隊が森にやってきて、魔獣の掃討作業を始めた。
そんな彼らに、俺は保護された。
修道院での生活は楽しかった。
似たような境遇の子たちとの交流で、人の暖かさを思い出した。
簡単な読み書きと算術を教わり、知らない事を学ぶ重要性を知った。
外敵に怯えることも無く、虫に煩わされることもなく生活できる事の素晴らしさに気がついた。
そして、そういった。人として当たり前の生活を奪おうとするモノの存在―――
人類の安寧を脅かす……あらゆる悪徳の権化。
―――魔王と、魔王軍の事を知った。
俺の黒髪は稀有な色らしい。
万象の魔を内包すると言われ褒められるも、黒色が魔を連想するため、忌み嫌われる程ではなかったが、俺は微妙に浮いた存在になっていた。
野外生活で鍛えられた肉体と、感覚と共に生きるために磨かれた魔法。どちらも同年代からすると破格の能力を持っていたからだ。
……優れた能力に対する評価が、称賛から畏怖に変わるのにも時間はかからなかった。
周りの俺を見る目が変わった事に気づいた時は手遅れだった……だが、それでも俺が孤立することが無かったのは、二人の友人のおかげだろう。
修道院に入ったばかりの時。激変した生活に戸惑っていた俺の手を引いて導いてくれたマリアンヌ。
初対面の時に喧嘩を売ってきて、結果的に俺にボコボコにされたのに、それを根に持って貴族の力で報復したりせず、純粋な喧嘩友達のままであろうとしてくれたブライトン。
―――この二人には、今も深く感謝している。
ある日突然、聖光教会から神託が降りたと、俺が“勇者認定”された時もそうだ。
周りの見る目も変わり、生活そのものが一変した……めまぐるしく廻る日常の中。彼ら二人だけは、全く変らなかった。
いや、当時の俺が気づいていなかっただけで、実際には変わっていたのだろう。
戦いを忌避していたはずのマリアンヌも、いつの間にか力を身につけ。勇者の仲間候補を選抜する、傍目から見ても危険な大会に出場。そして、並み居る猛者をなぎ倒して、見事に優勝して見せた。
ブライトンもまた、いつの間にか魔術の腕を磨き、実力は俺を超えていた。それを裏付けるように魔法学院を主席で卒業。勇者の仲間候補として推薦された。
「か、勘違いしないでくださいませ? ワタクシが立候補したのは自分の力を試したかっただけですわ。あ、あなたの旅に付き合うためじゃありませんことよ!」
「か、勘違いするなよ? ワタシが主席を取ったのは、実力と才能が正当に評価された結果であって、決して努力の末の結果ではなければ、おまえの旅に付き合うために頑張ったわけでもないからな!」
そんなふうに笑って語る二人に、俺は苦笑で返した。その時流れた一粒の涙と、心に満たされた感情を俺は忘れない。
―――忘れていないからこそ、俺は、何度でも立ち上がる。
世界のためでも無く。自分のためでも無く。
幼なじみのマリー。親友のブライ。そして、新たに加わったエミリア。
大事な俺の仲間たちのためならば……俺は何度でも起き上がろう。
ゴブリンになぶり殺されようとも。
操られた仲間の手にかかろうとも。
必勝の手を破られ、無残に殺されようとも。
敵に操られ、守るべき人々を手に掛けてしまおうとも。
―――俺は諦めない。
倒すべき魔王に、あっさりと返り討ちにあおうとも。
―――俺の心は折れない。
いつの間にかに落ちた冥界で、先人の勇者たちから乱雑だが、有り難い手ほどきを受けた。
文字通り、魂に刻まれた“業”は、長いまどろみを経て、俺の中で自分の“業”として昇華した。
運命に導かれるように、聖都に死に戻りした俺たちは、何かを掴んだらしい……。
これまでの苦戦が嘘のように、快進撃を続けている。
マリアンヌは、心の奥に秘めていた戦うことの恐怖を、本当の意味で乗り越えた。
これまでは、内なる恐怖を振り払うように、無謀な突撃を繰り替えしていたが、恐怖を克服した今は、機を図る余裕さえ持つように成った。
エミリアも、戦いに慣れたのか、遠慮が無くなったのか、コレまでとは見違えるほど良い動きをするようになった。
ブライトンを見る目が、以前に比べて険しいモノになっている事が気にかかるが……それは些細なことだろう。
そして、そのブライトンが一番変わったと思う。
覚悟を決めたのか、開き直ったのか分からないが、あれほど拘っていた通常詠唱と広域魔術を捨て、詠唱破棄からの臨機応変な魔術の使い方をするようになった。
そのお陰か、いつの間にかにブライトンの指示で連携を組むようになっていたが、結果がでているので文句はない。
むしろ、俺が勇者として、パーティリーダーとして、やらねばならなかった事を、代わりにやってくれているのだ……感謝するしかない。
感謝するしかないはずなのだが……奇妙な胸騒ぎを感じるのは何故だろう?
そんな、自分でも意味不明な焦燥感を抱きながら、俺は皆といっしょに旅を続けている。
魔王を倒すために“勇者”は存在する。
魔王の強さは、身を持って理解した。それだからこそ断言できる。
―――俺たちは……“まだ”勝てない。
根本的に地力が足りていない事が分かる。分かってしまう……。
このままでは、[闇の帳]を破る方法を見つけたとしても、それを活かす前に負けるだろう……。
どうする?
努力ではどうにもならない“人”としての限界に届こうとしている。
超えられない壁。
―――限界突破の鍵は、どうなっているのだろうか?
魔王を討つ旅に出る直前。
大聖堂で、枢機卿による祝福の儀を受けたが……何も起きなかった。
本来なら天使の羽の舞う絢爛豪華な情景の中、俺は神々しい光に包まれるはずだったらしいが……何も起きなかったのだ……。
それでも、枢機卿が無事に儀式は終わったと告げたので、そういうものかと納得していたが……。
今思うと……張り付いた仮面のような笑顔の向こうで、瞳は泳ぎ。額に冷や汗が流れていた気がする。
えっと、まさか……だよな?
本来なら、枢機卿の呼びかけに答えて、天使が光臨するはずでした。
魔王によって、神々が引き篭もってなければ……の話です。
祝福を無事に受けてた場合。
寿命半分と引き換えに得た、魔王の祝福 (半笑)と同じくらいの効果が、ノーデメリットでありました。
………(´・ω・)カワイソス




