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<24>


 一方で対峙するのは―――


 魔王の眷属“オルデバーン14世”


 黒髪の勇者“アレン”

 拳撃の僧侶“マリアンヌ”

 無名の闘士“エミリア”

 

 ―――眷属と勇者と仲間二人。

  

 もう一方で対峙するのは―――

 

 邪神の御子“オルデバーン15世”


 傭兵王“ガルディアス”

 獣神姫“セーレス”


 七色の術師“ブライトン”


 ―――御子と“上の人”付きのブライトンと魔将二人。

 

 アレン、マリー、エミーの三人と、オルデバーン14世の対決は分かりやすいが、もう一方の方はカオスだ。

 

 本来なら、ブライトンと魔将二人 VS 邪神の御子となるはずなのだが……。


 

 「味方だと言うのなら……邪魔をするな!


  詠唱破棄(スペルキャスト)―――

 

  ―――雷磁槍(プラズマランサー)ッ!」


 「おっと!? おいおい、お前一人で、アレ(・・)に勝てると思ってるのか?」


 「ねーねー、コレでもまだヤッちゃダメなの? なの? ねー?」

 

 「邪魔するなと言いたいのは、こっちの方だ!!

 

  三人纏めて消し飛べッ!

  神霊の拳(ゴットハンド)ッ! 奈落穿咆(アビスクリュー)ッ!」

 

 

 どうも、ブライトンの上の人は、バトルロイヤルがお好みのようだ。

 

 この状況で、魔将二人の助っ人を拒否する理由は何だ?

 

 魔将である以上。信用できないのは当然だとしても、それにしてもあからさまに拒否するのは愚策すぎる。


 これまでの行動からすれば、上の人に、それが分からないはずがない。

 

 だとすると、自分……ブライトン以外の手で、御子が倒されると困る事情がある……と考えるべきだろう。


 つまりは、それが奴のクエストのクリア条件である可能性が高い。

 

 オレのクエストである [八邪神の一柱“イラ”の御子を打ち倒せ!] と同じなのか?

 

 いや、オレの方は“~の手で倒せ”などの、手段は一切指定されていない。

 

 勇者だろうと、魔将だろうと、天災だろうと、自爆だろうと、いずれの手であろうと、御子が倒されてしまえば、クエストクリアになるはず……だよな?

 

 ―――だが、根本的な問題がある。

 

 ぶっちゃけ、ブライトン単独で御子に勝てるとは思えない。

 

 たしかに今のブライトンは、その能力が十全に発揮され、本人(・・)よりも強くなっている。


 それでも、御子……つまり裏勇者とは、地力が違いすぎる。

 

 ましてや、魔将二人を相手しながら、御子を討つなど……不可能に決まっている。

 

 ―――何を考えている?

 

 それとも、やっぱりブライトンは、自信過剰(ブライトン)でしかないのか?

 

 あ、御子の大技がブライトンに直撃した……。

 

 オレのブーストに加えて、さらに上の人が操作してると言っても、ブライトンの身体能力は、たかが知れている。


 これでリタイアか? ……むしろ、死んだかもしれん。

 

 オレは親指と中指を合わせ、いつでも指を鳴らせるように手を少し挙げる。


 そして、水晶球の向こう側。爆炎が過ぎ去った後に残された、倒れ伏すブライト……ン!?

 

 「うぉおおおおああああっー!!


  詠唱破棄(スペルキャスト)―――

  多重詠唱(マルチプル)

  

  ―――旋風刃(ツイスターブレード)

  ―――水華樹槍(コーラルランス)

  ―――炎舞(フレイムダンサー)

  ―――岩山割破(ロックブレイカー)

  

  四重合成魔法(クアッドコンフリクト)

  

  ―――風林火山・(ススキターティオー)陰雷(ゲニウス)ッ!」


 「な!? はやッ ガハッ!!?」

 

 「ちょ!? ……マジか!!! グッ!?」

 「え? え? ガル? え?」

 

 オレの予想の斜め上の展開だった。


 ブライトンは、四属性の融合魔法といった離れ業を披露し、その結果。髪の毛を逆立て、金色のオーラに包まれた。

 

 そして、御子と魔将二人に……殴りかかった(・・・・・・)のだ。

 

 技でもなんでもない。無造作に繰り出された、ど素人のパンチは、金色の魔力による補正を受け……必殺必倒の一撃に進化する。


 黄金の鎧を貫く、黄金の左(ボディーブロー)が炸裂。民家の壁を突き破って、御子を結界の端まで吹き飛ばした。

 

 続いて、裏拳と呼ぶには無様な……それでいて、必殺の威力を秘めた一撃を傭兵王に繰り出す。


 だが、傭兵王は、熟練の勘に従い、紙一重で避ける。


 ……が、その先に、状況を把握できず、棒立ちになっている獣神姫の姿を認めると、回避を中断。強引に身を割り込んだ。

 

 その結果……傭兵王は、致死級の威力を秘めた、裏拳の直撃を受ける事となった。


 

 傭兵王は、神殺しすら成し遂げた歴戦の猛者である。


 しかし、勇者や御子のような、守護や加護は受けていないため、人間の枠を超えてはいない。

 

 だから本来なら、かばったところで己が四肢は爆散。金色の魔力を纏った拳の前には、かばう意味もなく無駄死にでしかないはず……だった(・・・)

 

 信じがたい事に傭兵王は、バキバキとアバラを折り、口元から血反吐を漏らしながらも……その一撃を耐え切ったのだ。

 

 「ク……くはははっ……なるほどな。

  たしかにこれなら、加勢なんていらないってもんだ……」

 

 そんな風に、自嘲混じりに笑う傭兵王が、本来なら耐えれない一撃を耐えた理由は幾つか考えられる。

 

 闘気(プラナ)で筋骨を一時的に強化。

 単なる根性。気合一発。

 神殺しを成した事による祝福(カース)

 

 ……考えられるのだが、敢えて答えるなら。

 

 “背に守る者(セーレス)”が居たからだと答えよう。

 

 傭兵王は、金で人類を裏切って魔王軍に付いた極めつけの外道だ。


 だが、傭兵“王”の名は伊達ではなく…… 一度、懐に入れたモノ(・・)をむざむざと手放すようなマヌケではない。

 

 守るべきモノが有る限り……“王”が膝を屈する事はない。




 ちなみに、現役だった傭兵王の部下をサクッと全滅させたのはオレの指示です。


 彼を慕い集った傭兵団を皆殺しにして、守るべきものを失ってヤケになった彼を、魔将にスカウトして膝を屈させたのもオレです。

 

 ………どうやら極めつけの外道は、傭兵王ではなかったようです。


 

 言い訳の効かない過去の悪行を思い出してしまったが、もう一度忘れよう! 忘れてしまおう!!

 

 そ、それよりも大事なのは今だッ! 過去を振り返るのは終わってからで良い! ……良いよね?



 「ガ……ル? ………あ、ああああああああああああああああああああああっ! よくもッ!!」

 

 だがしかし、かばいきったものの、それで力を使い果たした傭兵王は、言葉もなく、うつ伏せに倒れる。


 そんな傭兵王の姿を見て、獣神姫がキレたようだ。

 

 「メェエエエエエエエエエッ!」


 獣神姫の魂に埋め込まれた獣神の心臓…… [666獣の因子(ハウルス・ハート)] が、悲痛な叫びに煽られ覚醒する。


 全身の毛が逆立ち、もふもふからゴワゴワに変貌を遂げ。肢体の全てが、淡く輝く金色に包まれた。

 

 

 金色とは、特別な色だ。

 

 万象の魔を内包する“黒”

 万象の魔を合わせた“白”

 

 それらの一段上に位置するのが、神の色である“金”となる。

 

 黄金率、黄金比、錬金術の“理”の極み。


 至高の頂にある色であり、その色を纏う魔力は、真なる神の力。それ即ち“神威”であり……“神力”とも称される。

 

 勇者専用技である“サンシャイン”の陽光。

 邪神の御子の御業である“神衣天象”の黄金鎧。

 

 両者ともに神の子である二人なら、これらを扱えるのは必然であって不可思議はない。

 

 神の心臓を食らった獣神姫もまた、神力を扱えても不思議ではない。

 

 ―――だが、ブライトン。おめーはダメだ!

 

 “上の人”が神の自身だったり、その眷属とか言うならまだ分かるが……それならば“糸”も光るはずだ。


 つまり、あの黄金色の魔力は、ブライトン自身が生み出したモノって事になる。

 

 ―――どうやって?

 

 直前に唱えられた魔法。

 オレの知らない術式だと言うことは、オリジナルか?

 

 合成魔法は、組み合わせで千差万別に変化するから、魔の王であるオレでさえ、その組み合わせを知り尽くす事など不可能だ。


 だから、オレの知らない魔法が使われても、殊更驚く必要はないが……これは、さすがに驚いた。

 

 恐らくだが四属性を対消滅させず、上手く“率”を操って調和させて、一段上。つまり、黄金色に昇華させたのだろう。


 しかも、それを単発ではなく、持続型の強化魔法としたのだから大したものだと唸るしか無い。

 

 まさかブライトンに、ここまでやれるだけの資質があるとは思わなかった。


 ―――以前、こいつを秀才と称したが……誤りだったかもしれない。

 

 この魔術制御のセンスは、天才と言って良いだろう。

 

 「ああああああああああああああああああああああっ! 死んじゃええッ! 死んじゃえ!」

 「うぉおおおおッ!!」


 互いに金色の魔力を纏った者同士の戦いは壮絶だ。


 ブライトンのバランスの悪い蹴りが、神力の後押しを受けて必殺必倒のキックに昇華される。


 その神撃と言うべき蹴りを、獣神姫は同じく黄金に輝く前あs……両腕で受け止める。

 

 そして、そのまま足を掴みとり、力のベクトルを真下に向け、地面にブライトンを叩きつけた。

 

 だが、衝撃で陥没した地面にブライトンの姿はなく。文字通り神速で獣神姫の横に回りこみ、渾身を込めた肘を横っ腹に叩きつける。


 打ち込まれた肘を起点に、くの字に折れて吹き飛んだ獣神姫は、結界に激しく叩きつけられた。

 

 それでも倒れ留まること無く、獣神姫は、ゆらりと立ち上がってブライトンを睨みつける。

 

 「うらああああッ! よそ見してんじゃねえよ!!

  神霊の拳(ゴットハンド)ッ! 天地開闢(ディバイグニッション)ッ!」

 

 狂気を帯びた眼で睨まれようと怯むこと無く、追撃をかけようとしたブライトンの背中がいきなり爆ぜる。


 地べたを舐めさせられた屈辱をバネにするように跳ね起きた御子は、その勢いのままに両手拳を、背を向けたブライトンに叩き込んだのだ。

 

 しかし、それでもブライトンは怯まない。

 

 同じ力を使っているのなら……後は単純に、その強さで勝敗は決まる。

 

 神の心臓を食った獣神姫。

 神の加護を受けている御子。

 

 そして、自力で神の頂に登ったブライトン……まて、おかしいぞ!?

 

 人と人外の差は大きい。

 

 たかが……天才(・・)程度で、人の殻を破るなど不可能だなはずだ……。

 

 だが現実にブライトンは、同じ力を持つ二人を相手取り、対等以上に戦って見せている。

 

 ならば、その不可能を可能としたカラクリはなんだ?

 

 オレは水晶球に手を伸ばし、視界を……波長(チャンネル)を切り替えた。

 

 途端に、オレの視界が精霊で満ち溢れ、騒がしくなる。


 精霊は何処にでもいる。ソコに“現象”があるなら、それを司る精霊は“ソコ”にいる。

 

 逆に言うなら……“ソコ”にいる精霊を見れば、ソコで起きている“現象”を識ることが出来るわけだが―――

 

 倒れた傭兵王の命に火が消えないように、野太い声でエールを送っている。学ラン鉢巻姿の火トカゲ。

 唸りを上げて繰り出された、獣神姫の鉄拳の上で仁王立ちしている。金箔でまぶしたようなギラつく肌の裸漢。

 荒れ狂う人外共の余波を受け、縦横無尽にヒビが走る地面を、台風にはしゃぐ子供の様に飛び跳ねる。木槌を持った髭親父。

 展開された結界の見えない壁に、蜘蛛様に張り付いて、モップを掛けたり、雑巾で拭いたりしてる。小さな羽の生えたお婆さん。

 

 ―――と、言った風な、相変わらずカオスな光景から、冷静に分析する必要があるのが難点だ。

 

 頭痛が痛いとでも表現したくなる気持ちになったオレは、思わず水晶球から目を逸らしそうになったが、何とかこらえて観察を始める。

 

 上の人から、ブライトンの胴体に伸びる糸の先を辿る。


 伸びた糸の先は、丹田と呼ばれる下腹部の、ある一点に存在する精霊に繋がっているようだ。

 

 その精霊の姿は、童女を模した洋風人形。クリクリとした可愛い瞳のビスクドールは、手に持ったハート型のキャンディをぺろぺろと舐めている。


 手に持った。脈動する(・・・・)ハート型のキャンディを、ぺろぺろと舐めている……。

 

 甘味に酔いしれ、太陽のような微笑み(・・・・・・・・・)を浮かべる無垢な姿は、美しくも危うい……。

 

 …………

 ………

 ……

 

 ああ、そういう事か……。

 どうやら、極めつけの外道は、もう一人いたらしい。

 

 凡人が天才に、天才が人外に、与えられた枠組みを破る、唯一の方法。それは、魂を守る鎧であり、命そのものでもある“魄”を削って力に変えること……。

 

 つまり寿命を削って、力に変える禁呪……。


 

 上の人よッ! 己のクエストのために……ブライトンの命を、使い潰すつもりか!?







 やめろよ! ただでさえ、オレが[遠隔術式“チート”]の代償に[寿命半減]させてんだぜ?


 このままじゃ、ブライトンの寿命がマッハでヤバイぞ!!





 

 ……うん。


 ブライトン本人に 「玉座からフライハイして、ロープレスバンジーからの、高高度落下傘無し土下座して謝罪しろ」 ……とか言われても、オレは断れんね……ははっ……。




 風林火山を始めとする、様々な中二的なルビは、意訳です。

 また、基本は英語ですが、ラテン語やドイツ語も混ざってます。


 中には意訳というか異訳というべきルビを振ってるのもあります。


 ルビの選定基準は、意味が7割、語感が3割ってとこです。

 ある程度法則性はありますが、カッコ良さを優先してますので、矛盾してる箇所があっても、生暖かい目でスルーしてください。


 ただし、明らかなミスや矛盾が会った場合の指摘は、ご自由にどうぞ。


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