<23>
世の中には光もあれば、闇もある。
魔王軍統治による急速な変革によってもたらされた。空前の好景気に人々は、未来への展望を広げ、希望に満ちた生活を送っている。
―――だが、例外もいる。
時代の変化についていけない頭の硬い人々や、貴族などの元・利権者である。
彼らは魔王統治下の人魔平等政策によって、その地位と権利を失った。
奪われた者の不満は大きい。
そこに邪神復活によって活性化した邪教徒が、既存の神殿を乗っ取りを始めたことで状況は加速した。
神々から見放された神殿は落ちぶれ。好景気に浮かれた民衆は神を見限った。
そうして、多くの敬虔な信者が露頭に迷う状況に、邪神が付け込んだのである。
その結果、世界各地の神殿は、邪神教団の手に落ち。
落ちぶれたモノ同士、元・時の権力者たちと手を組んで、各地で反政府活動を始めたのだ……。
そして今、旧体制と新体制の覇権を競う争いが始まろうとしている。
……あれ? どうしてこうなった?
オレの水晶球は、王宮の展望台から見下ろす元賢王を始めとして。
王宮を取り囲む邪神教団+元貴族の面々と、その王宮を背に守るように立つ勇者一行と、それらを少し離れた位置から見ている傭兵王と獣神姫の姿を捉えている。
「勇者がなぜ、魔王の傀儡となった王を守ろうとするのだ!
魔族を倒すのが勇者の役目ではないのか!!」
「ぐぬぬ……だ、だからと言って、わざわざ平和を乱すのは良くないことだ!」
「ワタクシも色々と釈然としないのですけど……あなた方が正しいとは思えませんわ」
「………カオスだ。これは予定に無い(ボソッ」
「魔族は……悪? 善? 真実はどれ?」
「これは困ったな……両軍のど真ん中に、勇者がいるとはねえ……」
「ねーねー! どっちをヤるの? ヤッちゃうの? ね? ね?」
「神々に見放された勇者一行と、神を僭称するモノに魅入られた邪神教団か……忌まわしきことよ。
魔王よ……どこまでワシらを嘲るつもりなのだ……?」
―――めがカオスな状況。
一応は、勇者一行VS邪神の御子になりそうなんだが……元賢王のセリフが不穏すぎる。
いやいや、オレは不幸を見て嘲ったりするような、そこまで腹黒くないから!? もっとシンプルだって!
むしろ最近は、オレってもしかして無能なんじゃね? とか思い始めてるとこだから!
そんな感じで慌てているオレを無視して、事態は推移していく。
「私はオルデバーン15世! 神に選ばれし、この国の正当なる後継者である!!
勇者であろうと、何であろうと関係ない……道を開けよ!
さもなくば、魔に堕ちた父もろとも……討つまで!」
一歩前に出て、そう宣言したのは、どこかオルデバーン14世に似た風貌の少年だった。
そして、その宣言に呼応するように、街のアチラコチラから銃声と叫び声が聞こえ始める
「我らは願う天と地と海に捧げよ……我らは祈る天と地と海に捧げよ……我らは諮る天と地と海に……身を捧げる」
「な、なんだこいtら!? パンッ! ガハッ!?」
「おい、こいつら……銃を持ってるぞ!?」
「あああ!! おらっちの店があああ!?」
「け、警備隊は何をやってるんだ!!」
「おうどn ……パンッ!」
「な? ガキじゃねーか?! ……やべっ!? パン! パパンッ!」
「ビッグス!? クッ……ガキだと思って怯むな! 警告はいらん! 叩き潰せ!!」
「海に捧げ……え? わーん!? なにコレ? いたいよ……おかあさ……グシャ」
「スタァァァァァァアップ!! 乱暴狼藉はそこまでdっ……パンッ!」
「ウェッジ副長!!? 副長が撃たれたぞ! 応戦しろっ!! 撃ち返せっ!!」
「捧げ……え? なにこれ? ……あ、痛っ……パタッ」
「クソガキ、一匹撃破ッ! 次の目標を中心に入れて……そのきれいな顔をぶっ飛ばしてや……ひ!? 火がああっ!」
「うははははは! 汚物は消毒だっはははっ……!? パンッ ドカン! うわらば!?」
「E地区で爆発及び、火災発生だと?! ……魔王軍は何をやっているんだ!!」
「うわあああ!? 俺の嫁が萌えじゃなくて、燃えるううう!?」
「バカが! 何やっている! そんなポスターと命のどっちが大事だ!!」
「もちろん嫁ですが何か? 作水魔法! うおおお! 今助けに行くぞおおお!!!」
「……だめだこりゃ。おい! 魔王軍の魔導隊はまだか!?」
「クソがッ! メディック! メディィィィーック!!」
「落ち着くんだ! 銃なんてめったに当たりはしなぃ……パンッ! ……いてえじゃね―か!! このクソがきゃ!!!?」
「た、大変だ!? 狂豹隊長がキレた!? みんな逃げろ―!!」
―――ぎがカオスな状況。
水晶球で街を俯瞰して見る。どうやら、街中に散っていった邪神に教化された子らが騒ぎを起こしてるようだ。
こちらはこちらで放置するのは拙そうなんだが……。
「神に踊らされ、街を混乱に陥れ、民を踏み台にしてまでも……私を許せぬと言うのか?
勇者よ! 魔を討つ定めに縛られし者よ!
ここは、私に任せて欲しい。
そして、愚かな私達親子に代わって、民を救ってくれ……」
オルデバーン14世の悲痛な声が響き、勇者は顔を歪め。邪神の御子。オルデバーン15世は激高する。
やはりメインはこっちだよな……。
「ふざけるなッ! 戦わずして膝を屈した敗北主義者が! 反省もなく再び許しを請うか……。
やはりキサマは愚王であり、ただの裏切り者であった!!
殺せ! 吊るせ! 勇者など幻想よ! 魔に染まった愚民もろとも焼き尽くせ!!」
御子が剣を振り翳し、その切っ先を、王宮と、正面に立つ勇者に向ける。
それに呼応するように鬨の声が上がり、元貴族とその私兵が駆け出そうとした、その瞬間。
「目から怪光線」
王宮と勇者、そして彼らを割くように、一迅の閃光が走り、僅かに遅れて地面が爆ぜる。
動揺で足の止まった御子と勇者の間にオルデバーン14世が舞い降りた。
そして、勇者に背を向けたまま、穏やかな声で告げる。
「これは時代に翻弄された我々の……哀れな親子喧嘩に過ぎませぬ。
勇者さま……“敵”を誤らぬように……」
「どういうことだ?! 一体何を言っている?」
「民の助けを呼ぶ声が聞こえませぬか?
私達親子には、もう……聞こえないのです
もはや逃げることもままならぬ、彼ら民を守ってやって下さい」
道を違えた親子の争い。なんという悲劇。
……概ね、俺のせいだな、うん。土下座すべき相手が増えたよ! やったね! あはは……。
「アレン……どうしますの?」
「……………ぃ」
「ブライ……トン?」
「そうだな……まずは住民の避難誘導を………って、ブライ!?」
「ウザい! クエストの邪魔をするな! 纏めて爆ぜろッ!
詠唱破棄―――
―――爆縮魔砲ッ!」
元賢王の意を汲んだ勇者が、この場から離れようとした時。ブライトンが不幸な親子と、ついでに反逆貴族めがけて魔法をぶっ放した。
そうきたか……。
有象無象の下っ端を倒すより、騒乱の原因である邪神の御子を倒すのが先決なのは、オレも同意する。
心情的には元賢王に任せてやりたいところだが、実利を取るなら、割って入って御子を先に潰し、返す刀で元賢王を狩るのが一番だろう。
そう考えると、ブライトンの纏めてドッカ~ン! は、悪手とまでは言わないが、あまり良い判断とは言えない。
一撃で消し飛ばせる自信と実力があるなら別だが……案の定、吹き飛んだのは元貴族軍のみで、御子も元賢王も、ほぼ無傷だ。
どうするつもりだ?
何を考えているブライトン……いや、上の人よ……?
「乱入するなら今!……ってな。そら死になッ!」
「わーい! らんせんっらんせん!!」
あ、傭兵王と獣神姫が割り込んだ!?
「なんだキサマラ!? 傭兵? いや……魔王軍か!?」
傭兵王の放った一撃は、完全に不意をついたはずだったが……さすがは御子と言ったところか、あっさりと捌いて見せた。
なるほど。ブラ……上の人の狙いはコレか?
様子を伺ってきた傭兵王に乱入の機会を作ったってわけだ……やるじゃないか!
「邪魔するなと言っている!
詠唱破棄―――
―――線光弾ッ!」
ブライトンが魔杖を袈裟斬りに振り下ろす。振り下ろされた杖の軌跡にそって一条の光線が放たれ、魔力の刃となって傭兵王に襲いかかる。
だが、傭兵王はそれを、無造作に避ける。
僅かに掠った頬に血が滲み、それを見て苦笑する傭兵王と、憤慨する獣神姫……って、あれ?
―――なんで全方位に喧嘩売ってんの?!
「おいおい!? 勇者さんよ……怪しいかもしれないが、今のところは味方のつもりなんだぜ?」
「むー! ねえねえ! ヤッちゃっていい? いいよね? やっちゃうよ!」
「まてまて、俺らのターゲットはそこの、おこ……御子さまだ。勇者じゃねえよ。
あ……そういうわけなんで、悪いが勝手に援護させてもらうぜ!」
「え? あ、ども」
「アレン……少しは疑いなさい!」
「……“今”は味方……嘘ではなさそう」
―――てらカオスな状況。
「愚かな……どこまでも愚かなのだ……
いや、盤上の駒でありながら、指し手に抗おうとしたワシが最も愚かだったのかもしれぬな……」
あ、なんかオルデバーン14世の心が折れた?!
……もしかして、オレが何か仕組んだって思ってる? 嵌められて詰んだとか考えてる?
いやいやいや! 違うから! これらの流れは、オレの作戦とかじゃないから!
……なんか拙い気がする。
元賢王は、オレの知らない。想定してないことまで考えてるはず。
そいつの心が折れた?
つまり、オレの想像を超えるような、ヤバイ事態に成ってるってことか?
「邪魔をするなとは……こっちのセリフだ!!
いいだろう、さんざんコケにしてくれた報いをくれてやる!
神の怒りを受けよッ!
――――神衣ッ天象ッ!!」
天から堕ちた、光の柱に御子が包まれ、衝撃波と眩い金色の光が辺り一帯を蹂躙する。
一面を更地とした御子は、なんか金に輝く無駄に豪華な全身鎧姿に変わっていた。
ここで変身……だと?
邪神の御子のくせに生意気なぐらい格好良いじゃないか……こいつ、あなどれん!?
……というか、コレか? 元賢王が懸念していたのは?
「アレン! 愚王を仕留めるぞ!
マリアンヌとエミリアと一緒に王を討て!
ワタシが残った邪魔者を抑えている間に仕留めるんだッ!
詠唱破棄―――
―――決戦境界ッ!」
ブライトンが展開した結界は、御子と傭兵王とブライトンを包み込む。
結界の強度は大したことはないが、一時的に隔離するには十分な性能に見える。
やるなブライトン……って、おい、ちょいとまて!? そういや今さっきなんて言った……?
“ウザい! クエストの邪魔をするな! 纏めて爆ぜろッ!”
ブライ……いや、上の人は“難題”を認識しているのか!?
状況的に、都合よく二分できたのだから、傭兵王&獣神姫と一時的に手を組んで、御子を討つのは上策のはず―――
「……の邪魔はさせん!
詠唱破棄―――
―――冷凍線弾ッ!」
「おいおい?! だから俺らは味方だって言ってるだろ?」
「ねえねえ、だからやっちゃおうよ! あたし、アイツきらい!」
「どういうつもりかしらんが……父を誅する邪魔をするなら、纏めて神の怒りで焼きつくすまでだ!
神霊の拳ッ! 業火絢爛ッ!」
―――にも関わらず、三つ巴を狙うのは何故だ?
クエストのためか?
“勇者が、魔王の眷属である“オルデバーン14世”を討つ”それが目的なのか?
オレ以外に……クエストを持ってる者がいたということか?!
……まさか?!
顔面ブルーレイになったオレは、慌てて自分の手足、腰、頭上を見てみるが、懸念していた糸も、上の人も見当たらなかった。
深々とため息を付いて、メリーになんでもないと手を振って、軽く深呼吸を行う。
さすがにソレは無かったか……だが、奴が“上の人”なら、言わばオレは“中の人”になる。
そして、クエストの認識。
どうやら、ぺたカオスとか言って茶化してる場合じゃなさそうだ。
上の人の正体も気になるが……今オレが見極めなくてはならない事はハッキリしている。
オレのクエストとソイツのクエストが競合するかどうかだ。
競合するなら、綴やかに排除する必要がある。
―――さあ、どっちだ?
魔王の中の人は、天才でもなければバカでもありません。
有能かどうか怪しいですが、無能ではないと言ったところです。
ちなみに、元賢王も、勇者一行も天才揃いで、ブライトン(笑)も秀才であって、十二分に有能です。
つまり魔王の肉体と水晶球が無ければ、主人公は……
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