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<21>


 突然だが、この世界には銃器が存在する。

 

 文明レベルも大国なら、オレの元の世界で言う発展途上国程度はあるので考えてみれば当然の事だろう。


 ただし、蒸気機関や電気、ガソリンなどはなく、代わりに魔力や魔石が使われているのが、元の世界との大きな相違だと言える。

 

 産業革命的な発明もあり、大量生産、大量消費の時代もあった。

 その最たるものが帝国と魔導技術である。

 

 魔物や怪物の存在があってなお……人口増加と資源をめぐる人同士の争いなどは当たり前だった。

 

 だが、オレが魔王となった時。それらの時代は終わった……。

 そして、銃器は役割を終えた。

 

 人類VS人類なら、銃器は極めて有効なのだが……人類VS魔王軍の戦いでは、あまり役に立たないからだ。

 

 銃器の構造や造りは、オレの元いた世界と異なるが……仕組みは同じだ。


 火薬の代わりに、銃身に火晶石と風晶石を使い。

 薬莢の無い、剥き出しの弾頭……鉛弾を打ち出すのである。

 

 薬莢を使わないので、弾丸は、オレの元いた世界で言う弾頭部分だけで良いので量産しやすい。


 さらに火薬を使わないので、硝煙をまき散らすこともない。

 

 晶石は消耗品だが、数千回から数万回は利用可能で、オレの元いた世界の銃器より、遥かに高性能なのだが……。

 

 それでも、人外を相手取るには“火力”不足となる。

 

 何の変哲もない普通の弓でも、魔力を通して撃ちだされた矢は、光弾となり魔族を打ち倒せる。


 だが、幾ら強かろうと、ただの鉛弾では、魔族の肉体を傷つけることは難しいのだ。


 ある一定段階より上の人外種相手は、魔力を帯びていない。純粋な物理攻撃では効果が薄い。それこそ、中には[通常武器無効]とでも言うべき特性を持つ魔物すらいるのだから仕方がない。

 

 銃弾に魔力を通せない原因は晶石にある。


 銃身の晶石と干渉するため、射手が銃弾に魔力を載せることができないのが致命的な欠陥となった。


 銀弾など、弾丸を工夫することで、その欠陥は補えるが、銃の利点であった生産の容易さと、コストの低さが失われ。それならば、弓の方が手っ取り早いとなったのも、仕方が無い事だろう。

 

 こうして、対人戦で猛威を振るっていた銃器は一気に廃れたのだ。

 

 もっとも、対人前提の治安維持部隊や、一部のコレクターには需要があるため。完全になくなったわけではなく。


 ワンオフの特注品や、特殊な弾丸を使えば……対魔族でもかなり有用なので、一部では今だに好んで使われている。

 

 だが“弱者の牙”としての銃が、その存在意義を失ったワケではない。


 上位存在には効果が低くとも、中位や下位の魔物。小鬼(ゴブリン)豚頭(オーク)角猪(ホーンボア)刃魚(ソードフィッシュ)などには、十分効果がある。


 満足な戦闘力を持たない。普通の人間が使うには、最強では無いが……最良の武器であることは変らないのだ。

 

 だから、水晶球の向こうに見た。

 その銃器が大量にある光景は、オレを不安にさせるには十分だった……。

  

 「A班、量産型長銃(マスケットライフル)の準備は整いました」

 「B班、配布準備完了しました」

 「C班、刻印術式(ルーン)入銀弾(バレット)の整備終了しました」


 「A班とC班は、そのまま陽動工作に移れ!

  B班は、武器を纏め。実働部隊に物資と共に届けよ!

  

  勇者の到着までに、すべての準備を終わらせるのだ!!」

 

 おいおいおい!? こいつら何をする気だ?


 刻印術式入銀弾か……対魔族用の最新式のようだが、どこから手に入れた?

 

 ここは、賢王亡き国の城下町の一角。旧貴族街と呼ばれる現貧民街にある、修道院跡地の半壊した建物の中だ。


 普段は人気が無い。この寂れた場所に、不自然なほど多くの子供たちが集まっている。

 

 銃器を見る子供たちの目が、キラキラと輝いているのが空恐ろしい。


 欲しかったオモチャを与えられ、ソレで、全力で遊ぶ時を待っているようにしか思えない。

 

 銃身の先が斜めに削られ、刺突にも使えるように作られた凶悪な銃を、子供たちが次々と手に取り。そして、見覚えのある黒いフード付きのローブで全身を覆い隠すと、誰知られる事無く町の中に散らばっていった。


 キラキラと輝く瞳をフードで隠し、オモチャを大事に抱えたまま路地裏から路地裏に消えていく。


 「我らは願う天と地と海に捧げよ……我らは祈る天と地と海に捧げよ……我らは…い…と…と…に……る」


 楽しそうな表情とは裏腹の、何処か悲しげに聖句を唱えながら……彼らは王都の闇に消えたのだった……。

  

 

 

 なにコレ、怖い!?

 


 子供たちがブツブツと呟いてるフレーズには聞き覚えがある。


 間違いなく邪神教団のヤツラが言ってた聖句……と言うか、邪句?

 

 ならば、銃器の出処は魔都……魔導帝国跡地で、ソコを荒らした謎の勢力は、邪神教団で確定か?

 

 しかし、どういうことだ……こいつらの目的は、何だ?

 

 元勇である初代勇者と敵対していたっぽい事は分かっている。


 だとすると、狙いは今勇……アレンの命か?


 ―――ならば先手打って、今オレが潰すか?

 

 いや、今の勇者は十分に強い。

 銃殺するのは不可能ではないが……ハッキリ言って難しいだろう。

 

 流れ弾一つ。運悪く脳天ぶち抜かれたら即死するので油断は出来ないが、今の勇者一行のような強者相手に、そうそう当たるものではない。


 それにだ、そもそも対勇者を前提にするなら……刻印術式入銀弾は不要のはず。

 

 ならば、狙いは、勇者では無く。賢人から魔人に成った……“元オルデバーン14世”の命なのか?

 

 ―――ダメだ、さっぱりわからない。

 

 情報が足りないので、とりあえず指揮官っぽい男の顔を確認する。

 フードの奥に隠れていても、オレのチート水晶球なら余裕で見れる。

 顔が判れば、調査は一気に楽になる。

 

 どれどれ……? ん? 見覚えのある顔だ。


 こいつは確か、賢王が降伏を選んだ時に反対意見を出し、いざ降伏したら私兵を持ってクーデターを起こそうとしてた貴族じゃないか?


 名前は……なんだっけ?

 たしか、侯爵のザル、なんとかさんだったと思うんだが……まあいいや。

 

 しかしこいつ、まだ生きていたのか……クーデター起こした輩は、即座にサクッと潰したつもりだったんだが……。


 敢えて見逃していた連中に、紛れていたのか?

 

 ………あ゛

 

 そうか、死体が残っていたんだ。

 冥界門破壊時のドサクサ復活組ってことか!

 

 だとすると、コイツの狙いはクーデターのやり直しで確定だ。

 問題は、邪神教団と何処で知り合い。何時の間に手を結んだのか? ……って事であり。

 

 そして、クーデターの旗印を、誰にするつもりなのかが重要だ。

 

 こいつ自身が名乗りをあげるのか? それとも生き残りの王族を担ぎあげるのか?

 

 ―――まさかとは思うが、教団の関係者を担ぎ上げる気か?

 

 可能性は低くない。

 それだったら、邪神教団が手を貸す理由にもなる。

 

 あぁ……なんか面倒くさくなってきた。

 いっそ、十二魔将全投入して、何もかも無かった事にするか?

 

 全てを灰燼に帰して、勇者だけ遠隔術式で復活させれば……それであらゆる問題は解決だッ!



 「……って、それができれば、苦労しねーよ!?」


 「魔王様……?」

 

 「い、いや、なんでもない。

  そうだな……メリー。冷たい飲み物を頼む」

   

 「はい、すぐにお持ちいたします」

 

 手違いやうっかりで、大量殺戮をやらかした事は何度も有るが、それを意図してやったことは無い。


 ―――意図しないでやらかす方が、より性質が悪い気がしないでもないが、それはそれとして心の棚にそっと置こう。


 と、とまあ、オレは元の世界に戻るためなら何でもやるし、犠牲も厭わない。


 だが、厭わないと言っても……わざわざ被害を拡大させる気はない。

 

 クエストのクリア条件が殲滅だった時も、可能な限り最小限の犠牲で済むように采配してたのに、ここで短絡的にやらかしてどうするって話だ。

 

 ―――もう一度、冷静に考えよう。

 

 名がいまいち思い出せない侯爵だが、勇者が到着する前にどうのと言っていたな? ……勇者と共闘するつもりなのか?


 それとも、勇者が来る前に、何か(・・)を終わらせるつもりなのか?

 

 どっちだ?

 

 そもそも邪神ってなんだ?

 

 天の神々は、すでに打ち倒した。


 ついでに言うなら、生贄を求め、それが履行されなかったら天罰を落とすような、邪神っぽい神。少なくとも祟り神と呼ぶべき輩も纏めて仕留めた。

 

 つまり、天の神々=邪神の図式は、もはや成り立たないのではないか?

 

 だとすれば、天の神々とは別に、邪神が存在するのだろうか?

 

 字面から考えると、むしろ魔王であるオレの上に、邪神とかが潜んでそうな感じだが……そんな事は聞いたこともなければ、会ったこともない。

 

 ―――だとすると、人の生み出した虚構の神か?

 

 むう、ここで考えていても、答えは出そうにないな……。

 

 せめて名前だけでも判れば、水晶球でサーチできるんだが……残念な美人(スキュラ)のルナリアの調査報告を待つしか無い。


 さあて、答えも出ない事だし、そろそろ勇者の様子でも見てみるか?


 強くなったからって、オレが油断してる隙に、ころっと死なれたら困るからあまり長くは目を外せないからね。

 

 冥界門破壊なんて裏技は、何度も使えるものじゃない。これまで以上に、うっかり死なせないように注意しないと……。

 

 水晶球の視点を、勇者に切り替える。

 どうやら、賢王亡きの国の領土には入ったようだ。

 

 相変わらずだが、以前とは比べ物にならない巧みな連携で、危なげなく道中のノラ魔物を蹴散らしている。

 

 ―――通称“上の人”


 一体コイツは、何を考えてるのだろうか?

 

 真意を問いただすために、ベルグラッドを送るか?

 

 いやダメだ。

 

 今の勇者たちと敵対したら、ベルグラッドでは勝てない。

 万が一にでも、ベルグラッドに死なれたら……困るってレベルじゃなくなる。

 

 ならば……傭兵王でも送ってみるか?

 彼なら、同じ人間だから、いきなり襲われる危険性は低い。

 

 また、襲われたとしても彼なら返り討ちに出来るだろう。

 傭兵王って、ぶっちゃけ人外級に強いからなあ……。

 

 トータルでは、元勇ほどじゃないが……攻撃力だけなら、魔剣もあるし人類最高峰と言って良いくらいには、強いんじゃなかろうか?

 

 よし、今から間に合うかは怪しいが……傭兵王とついでに獣神姫を、賢王亡き国に派兵しよう。

 

 ―――名目はどうするかな?

 

 不審な動きがあるから調査してこい。 ……で、十分か?

 

 ん………?

 

 突如、オレの耳に警報(アラート)が響いた。

 

 そして、目の前に無機質なシステムメッセージが浮かび上がる。

 

 [緊急クエストが発生しました!]

 

 このタイミングで、クエスト発生だと?! バカなッ!?

 

 数年ぶりの緊急クエストだ。

 逸る気持ちを抑えながらディスプレイウインドウを開き、詳細を確かめる。

 


 [八邪神の一柱“イーラ”の御子を打ち倒せ!]

 魂は冥界に、魄は天界に、それぞれ施された封印は魔王によって解かれた……。

 

 世界に返り咲いた八柱は、それぞれが、それぞれの思惑を果たすために動き始める。

 

 このままでは、世界がヤバイ!?

 

 世界に散らばる8人の御子を打ち倒し、邪神の“肉体”の復活を阻止せよ!


 まずは手始めに、賢王亡き国にいる。

 怒髪の邪神“イーラ”の御子“オルデバーン15世”を倒すのだ!

 

  

 …………

 ………

 …

 

 まさかのまさか、システムメッセージで、邪神のネ・タ・バ・レ だと?


 ―――斬新すぎるわッ!?

 

 

 

 そして、またやらかしてたぜ、オレ……!?



 思わぬところからネタバレを喰らうのは良くあることです。

 特にネットやっていて、ニュースサイトめぐりとかしてると、高確率でネタバレ喰らいます。


 ネタバレ注意と書いてるなら回避できますが、掲示板なんかで脈絡のないコピペ爆撃でのネタバレは、回避しようがないのが困り者です。


 もっとも、推理小説なんかでも、犯人探しより、ストーリー展開を楽しみにしてる私には、ネタバレで致命傷なんてことはありませんから、関係ないですけどねw


 

 ……負傷はしますけど('A`)


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