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 賢王の国。改め、賢王亡きの国“オルデバーン”

 

 オレが[賢王の国を武力制圧せよ!]をクリアした結果。滅びこそしなかったが、オレの……魔王軍の支配下に落ちた。

 

 当代国王だった“オルデバーン14世”は、オレが配置した魔王軍の布陣を見て、戦が始まる前に、全面降伏してきた。

 そのため、魔族に屈した愚王。世間的には、賢王 (笑)と評価されている。

 

 だがオレは、その判断を下した賢王を、さすがだと極めて高く評価していた。

 

 当時のオレは、賢王の国の攻略に、魔導帝国“アーカロン”の二の舞いとならないように慎重を期した。

 

 水晶球の力を十全に使い。


 賢王の国の戦力を丸裸にした上で、相手の取れる戦術・戦略に柔軟に対応できるような布陣を組んだ。

 

 オレからすれば、賢王の国の攻略は、詰将棋と同じだった。


 なぜなら、賢王の国が密かに配置した、伏兵や切り札。そして諜報隠密部隊の配置すら……完璧に看破済みだったからだ。

 

 チート水晶球、バンザイである。

 ぶっちゃけた話、負ける要素は皆無だ。


 たとえ配下たちが―――

 

 「おいら、帰ったら幼なじみのハナちゃんと結婚するんだ!」

 「俺は生きて帰ると約束をした……俺は約束を破らない」

 「……? 靴紐が切れた。 おーい、誰か予備をくれないか?」

 「おうどんたべたい」

 「ハハハッ! 見ろ! 敵がゴミのようだ! 勝てる! 我が軍は勝てるぞ!!」

 「隻腕辣腕豪腕鬼将軍がいるんだ、負けるわけ無いだろ?」

 「え? 手紙だって? そうか、生まれたか……帰るのが楽しみだ」

 

 ―――死亡フラグを乱立させていたとしても、だ。

 

 味方の士気を確かめようと、水晶球の映像を自軍に向けた時に見た光景に、そのセリフはやめろー!? ……と、嫌な予感をふくらませていた時に届いたのが、賢王からの親書であり、全面降伏の知らせだった。


 そんな理由で、無血開城となった賢王の城は、オレが率いる魔王軍の手に落ちたのだった。

 

 もっとも、無血開城と言っても、全く血が流れなかったわけではない。

 

 後々の遺恨を断つためにも、王族に連なるもの全員の処刑は当たり前のように決まり。


 全面降伏を受け入れられず。クーデターを起こした貴族も、速やかに潰した。

 

 そして、英断を下した賢王のオルデバーン14世と話をしたいと思ったオレは、処刑前に、こっそりと魔王城に招聘して話を聞いたのだ。

 

 ―――話を聞いた結果。オレが思ったことは……賢王パネェ!? の一言だった。

 

 彼は、オレと違って、戦場の全てを俯瞰して見ることなどできないはずなのに、こちらの意図を完全に読みきっていた。


 伏兵に対して、極秘に配置した、こちらの伏兵の位置も言い当て、オレの想定していた戦況の展開を見事に言い当てたのだ。

 

 それはつまり、もしも彼が降伏せずに徹底抗戦を選んでいたら、配下の立てた死亡フラグが現実になっていた……と、言うことにほかならず……魔王に成ってから、ここまで背筋の冷える思いをしたのは始めてだった。


 それでも彼は降伏を選んだ。それも、自分らの処刑を見越した上で全面降伏を選んだのだ。

 

 ―――理由は二つ。

 

 一つは、なんだかんだ言っても、最終的には負けることになるなら、被害が広がる前に降伏した方が良いってこと。


 もう一つは、オレが……民間人の被害が最小限で済むように配慮していた事を見ぬいたからだ。

 

 「……我が圧政を引いて、民を奴隷化するつもりだった。

  だから、被害を最小限に抑えようとした……そう、考えなかったのか?」

 

 「貴君の描いた此度の絵図。実に合理的でありました。そう、ほぼ(・・)完璧といって良いでしょう……。

 

  そこに疑問を感じたのですよ。

  

  どうして“完璧”ではなかったのか? とね」

 

 つまりだ、民の犠牲を度外視すれば、もっと良い方法があったのに、敢えて最善では無い次善策を選んだのは何故かって事だろう。

 

 いずれ自分のモノとなるなら、民の犠牲は避けた方が良いと言う。先を見据えての判断であるが、それは、後に圧政を引かない理由にはならない。そう思って反論したが……。

 

 「ここまで合理的に先を見て考えられる人物が、非合理的な圧政を引くなどありえませぬ。


  たとえ奴隷化したとしても、むざむざと、反発を招くような非人道的な扱いをするとは思えなかった事が、ワシが降伏を選んだ理由です

  

  それにです。

  攻めこまれて負けた国は、植民地となって圧政を引かれるのはよくあることなのですよ。

  

  ……やはり降伏して良かった。

  

  愚かな支配者なら……わざわざ“確認”しようなどしませぬから……」

 

 むう……色々と見透かされてるっぽい。


 魔王やってると言っても、中身は一般市民だからな……本物(・・)の為政者に、腹芸は効かないか……。

 

 降伏の理由が、ただ包囲された状態を見て、ビビっただけなのか? 

 それとも、すでに負けが確定してる事を見抜いたのか?


 無能か有能か、それを確認するために、こうやって極秘に会談の場を設けたことまで、きっちり見ぬかれているようだ。

 

 だとすれば、有能だったらスカウトするつもりだったことにも、気づいているんだろうな……。

 

 「ふむ、さすがは賢王……と、いったところか。

 

  一応問うが……我に仕える気はないか?」

  

 「ありません。

  それに……国を守れなかった無能な王など、役には立ちません」

 

 「そうか……予想通りの答えだ

 

  だが、甘い。

  

  我は魔王ぞ? 断られたくらいで諦めると思うか?」

 

 「思いませぬが……かといって、私が意思を翻すことはありません。

 

  それとも、偽りの忠誠をお望みですかな?」

  

 現時点ですでに、配下からの忠誠は、偽りだらけですが何か?

 

 それはさておき、これは、脅しても、モノで釣っても、イエスとは言いそうにない。


 吸血皇の[支配の紅玉眼]のような、精神操作を使う方法も有るが、それは避けたい。

 

 人道的な意味でもそうだが、実利的にも向かない。


 精神操作って、何がきっかけで解けるか分からないんだよね。予測もできない。また、解けたことを察知する方法もない。

 

 操ってるつもりでいて、ここぞと言う時に裏切られてはたまらない。

 

 一時的に操る分には有効だけど、長期的に考えると精神操作は選択肢から外れる。


 だから、説得するのが一番良いんだけど……。正攻法ではムリッっぽい。


 ならば……。

 

 「忠誠に真も偽も無い。我は、結果に見合った信賞必罰を与えるだけ……。

 

  だから、おまえが“有能”である限り。

  ……我は、おまえを認めよう」

  

 「……?」

 

 賢王は怪訝そうに眉をひそめ、オレの言の意味を推し量ろうとしているようだが……無駄だ。

 

 合理的な判断に基づいた“正攻法”であるなら、誰が考えようと、最終的な答えは同じになる。


 だが、それは前提条件が“全く同じ”場合の話だ。

 

 前提条件。それは切れる“手札の数”だ。

 

 オレが賢王と同じく、人間同士(・・・・)であったのなら、勧誘は手詰まりだった。

 

 「彼の国に、もはや賢王は要らぬ。

  だが……“賢き為政者”は、必要である。

  

  故に、我はこうするのだ!」

  

 「な?! 何を……? ガハッ!?」

 

 伸縮自在の魔爪を伸ばし、対面にたたずむ賢王の胸を……心臓を貫く。

 己の身に突如起きた悲劇に、あっけに取られたまま、バタリと倒れる賢王。

 

 オレは口角を歪ませ、宣言する。

 

 「さらばだ、素晴らしき賢王“オルデバーン14世”……。

 

 

  

  ……そして、歓迎しよう。

  

  新たなる我が眷属(・・)、魔人“オルデバーン14世”よ!」

  

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 洗脳は不安定。

 脅しも賄賂も、たぶん色仕掛けも効かないなら……仲間(・・)にしちゃえ!

 

 ―――ゾンビ的な発想だと、我ながらドン引きである。

 

 魔族は瘴気を浴びることで、魔族と“成る”のだが、こういう風に“眷属”として迎え入れることで、強制的に、魔族化することも可能だ。

 

 さらに“眷属”として迎え入れた時点で、親子関係が生じ、子は親には逆らえなくなる。

 

 精神操作だと、いつ解けるか分からないが……眷属化なら自然に解ける心配は無い。


 また、逆らえないだけで、別に思考がおかしくなることも無いので、精神操作と違って、能力低下の心配もない。

 

 欠点を上げるなら……眷属化は、あくまでも“逆らえない”だけなので、上手く立ち回れば、かなり自由に行動できると言うことだ。

 

 それこそ、やりようによっては……親を殺せるくらいに。

 

 ―――なのに、自分より頭の良い奴を、強引に眷属に引き込んだのは、勝算あってのことだ。

 

 国を乗っ取られ、血縁者を殺され。自分自身もバケモノにされたのなら、オレを恨まないはずがない。


 だが、オレの最終目的は“元の世界に帰ること”だ。

 

 賢王の国を落としたことで、世界の6割は手中に落ちる。


 メインクエストのクリアは、間近なのだ。

 

 だから、下克上を喰らう前に、賢王の頭脳を借りて、早々に世界制覇を成してしまえば全解決。これなら、オレは勝ち逃げ出来る!


 

 ―――そう思ってた時機が、オレにもありました。

 

 これで、メインクエスト完全クリア条件が“勇者に倒されること”だと判った時の、オレの絶望が少しは理解できてもらえたと思う。

 

 ついでに言うと、賢王亡きの国の守護役は、その彼である。


 賢王亡きの国は、実は賢王がいない言う意味ではなく“魔人化した元賢王が治める国”って意味である。

 

 そんな理由で、現状。賢王亡き国とは、ある意味、オレにとっての火薬庫だと言える……。

 

 そこに勇者が向かうこと自体は問題ない。むしろ、オレ的には歓迎すべきことだ。


 勇者が守護役を倒してくれれば“潜在的な脅威”が、一つ減ることになる。

 

 ―――だが、今のオレには不安しか無い。

 

 そこに向かうことを“提案したのは誰か?” ……それが答えだ。

  

 

 魔人“オルデバーン14世”本人。

 隠れ生き延びた、王族。つまり、賢王の子とその支持者。

 暗躍してるであろう邪神教団。

 

 そして、そこに向かう勇者一行+元魔将の通称“上の人”

 

 ………………

 …………

 ……

 

 オレ……なんか悪いことしたかな?

 

 いや、まあ、色々やらかしてるけど……コレはさすがに、なくないか?! ねえ?



 眷属化は、普通は同意を得てからやります。

 異種族の恋人がいる場合なんかに使われること多いです。


 また、魔族化したのは、魔族の魔王が使ったからです。

 吸血鬼が使えば、吸血鬼化します。


 強制力があるので、隷属化目的で、魔王がやったように強引にやることも可能ですが、後々のリスクを考えて、やらないのが普通です。


 魔王の誤算は、勝利条件。クリア条件が変わってしまった事です。

 そのため、リスクが倍増しました。


 こんな感じで、魔王に振りかかる不幸の7割は、自業自得の自爆ですw


 残る3割は……。



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