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<2>


 この世界がなんなのか?

 

 魔王や魔物が実在して、物理法則をねじ曲げる魔法が存在する世界。

 そして何より、オレの目の前に表示されるディスプレイウインドウと、クエストの存在。

 

 未だ実用化された覚えはないが、仮想空間(ヴァーチャルスペース)。所謂ゲームの中ではないか? そう、思ったこともあるが、それは否定したい。


 どちらかと言えば、何者かが、現実にある世界に、後付で魔法を持ち込んで、無理やりゲームっぽくしている世界だと考えた方がしっくりと来る。

 

 なぜかと言えば、ヴァーチャルリアルティにしては“揺らぎ”が大きすぎるからだ。


 全てが0と1のシステムで管理されてるにしては、あまりにも自由奔放で杜撰すぎる。

 

 隠しパラメータの存在や、その揺らぎすらも計算ずくだという可能性もあるが、さすがに違うと思う……思いたい。

 

 ここは異世界。

 オレはとりあえずそう考え、それ以上考えることを止めた。

 

 深く考えれば考えるほど絶望しそうだからだ、

 

 何はともあれ、オレにできる事はさほど多くはない。

 

 ―――つーか、ぶっちゃけ少なすぎる。

  

 魔王の身体と力は強大だが、クエスト上必要な場合を除き、魔王城からどころか、玉座から立ち上がる事(・・・・・・・・・・)すら出来無い。


 安楽椅子探偵宜しく、玉座にふんぞり返ったままだ。

 

 幸いなことに生理現象は無く、食事や睡眠も原則不要なため、動けないことの精神的なストレス以外のデメリットは無い。

 

 クエストの攻略も、自分自身で動く必要のあるモノは少なく、殆どの場合、配下に命令を出すだけで良い。

 

 ―――だからこそ、命令の内容と、命令を出す部下の選択には、細心注意が必要だったと今は思う。

 

 例えば、以前、囚われの獣神姫を救い出すと言ったクエストに、敵国の守りが堅いので、それを確実に破り、姫を乱戦に巻き込むこと無く安全に救出できるようにと、武人であり質実剛健な人格者の“隻腕辣腕豪腕鬼将軍”に、任務を命じたところ……極力被害を出さないように言い含めてあったにも関わらず、姫を“匿って”いた国は滅んでしまった。


 隻腕辣腕豪腕鬼将軍は、真正面から仕掛け、ものの見事に敵軍を中央突破して、銃神姫を救出した。

 

 奇襲をよしとせず、宣戦布告を真っ向から行い。

 敵が準備を万全に終えるのを待った上で、小細工なしに真正面から先陣きって進軍を行い。

 

 その名に相応しく、片腕一本で堅牢な城壁や市壁を破り、堅実な陣頭指揮を採りながら、敵軍を見事に打ち破り、獣神姫を無事に救い出したのだった。

 

 問題は―――

 

 万全の準備=全軍出撃。

 中央突破=守りの堅い場所=最も兵士が多い場所。

 

 ―――そう、敵軍をものの見事に“壊滅”させたことにある。


 この世界は物騒で、オレの配下である魔王軍だけではなく、野良の魔物もいっぱいいる。わんさといる。


 そんな世界で、国を守るべき国軍が壊滅した場合どうなるか?

 さらに、市街の生命線とも言える市壁が破壊されたらどうなるか?


 そういうことである。

 

 隻腕辣腕豪腕鬼将軍は、武人であり、かなり真っ直ぐな性格をしていて、人間基準でも好感を持てるナイスガイだ。


 だから、コイツなら大丈夫だろうと思って任せた結果がコレだ。

 

 将軍曰く「主命通り“無辜の民”の被害は最小限で済ませましたぞ!」とのことだ。

 

 うん、コレはアレだ……。


 オレの命令と人選が悪かったと言うより、見通しが甘かったと言うべきだろう。

 

 その後は反省して、作戦内容まで細かく命令するようにしたので、それから壊滅させてしまった国は……少ししか無い。

 

 …………………

 …………

 ……

 

 と、とりあえず、過ぎた事は心の棚に仕舞いこみ、現在に目を向けよう。

 

 水晶球を通して勇者たちの様子を覗き見る。

 

 前回の敗戦など無かったかの如く、意気揚々と妖魔の大森林……通称“ゴブリンの聖地”に向かって出立したようだ。


 その希望にあふれた輝く笑顔の勇者一行に、死の淵を除いた者特有の悲壮感など欠片もない。

 

 いくら“勇気有る者”の体現者である勇者といえども、全滅したばかりの態度ではない。


 普通ならトラウマになってもおかしくはないはずだろう。

 

 それがなぜかと言えば、オレが術式に、心を平常に保つ[サニティ]を含めておいたからだ。

 

 ただ単純に、蘇生&転移させただけでは重篤なトラウマ持ち、心が折れてしまう危険性が高い。


 そうなってしまってはオレも困るので、予め対策をしていたわけだが……かと言って、少々脳天気過ぎないだろうか?

 

 全滅の記憶が消えたわけじゃないんだから、敗戦を糧に、戦術や戦略を見直そうとは考えないのだろうか?

 

 そりゃ確かに、全滅するたびにオレが遠隔術式で蘇生&安全圏に退避させているから、死に慣れたって部分もあるかもしれないが、それにしても考え無さすぎる。

 

 全滅しても容易にリトライできる謎現象を怪しむこと無く、神様の祝福か何かであり。さすがは勇者様だ! ……と、周囲も含めて認識してくれてるのは有りがたいが……神様なんて居ないよ?

 

 ―――だってオレが、クエスト攻略の時、うっかり壊滅させちゃったからな!

 

 …………

 ……

 …

 

 我がこと故に、痛恨のミスだったと後悔している。

 

 神々が健在だったら、勇者の難易度は、現在のベリーハードではなく、ただのハード、もしかしたらノーマルくらいまで下がっていただろう。

 

 だが、言い訳させてもらうなら、まさか―――

 

 [天使と悪魔、禁断の愛を応援せよ!]

 

 配下のさらに配下の配下といった下っ端悪魔の“ジキルス”と文字通り神の使いである天使“ハイエル”とのラブロマンス!

 恋の結末はいかに!?

 

 ―――と、言った風な、ぶっちゃけどうでも良いようなサブクエストが、まさか神々との全面対決になるとは思わないだろ……思わないよね?

 

 クエストを始めた動機も、配下の忠誠心を上げるのに使えるかなと? 軽い気持ちだったわけだが……。

 

 神様嫌い天使も嫌いな、痛撃の堕天使(フェイタルストライク)“ジャムシャエル”が暴走して、内乱が起きそうになったり。


 裏切り者を粛清せよ! ……とばかりに断罪の熾天使(パニッシャー)“ウズラエル”が単身で魔王城に突っ込んで来たり。

 

 断罪断罪叫んでるわりに、行動がおかしかったので調べてみたら、天使ハイエルに横恋慕してるだけだったり。


 そのくせ地位は高いらしく、神様側から上から目線全開で、引き渡し要求が来たり。

 

 恋の負け犬となった熾天使様(セラフィム)を引き渡そうにも、再度暴走したジャムシャエルが全力でぶち殺したため、死体すら残ってない。


 さすがに二度の暴走は見逃せないので、処罰しようとしたけど、事情を聞くと、どうもジャムシャエルが堕天した原因に関わっってるらしく……詳しい事情を聞いた結果、神々のダメっぷりが露呈。こりゃしかたがないわって雰囲気になったので処分は保留。

 

 この時点ではまだ、メインクエストの達成条件を、オレが世界制覇だと誤認していたのと、神々の上から目線の言動と行動に苛ついてため、ついうっかり―――

 

 「常日頃から、善を語り、慈悲と慈愛を説く神々とは思えぬ所業……言語道断ッ!


  ―――悪道を征き、邪悪を成すは、我らが悪魔の専売特許!!

  

  我らが領分を侵すなら容赦はせぬ……許可する! 皆の者共、真の悪の力、見せてやれ!!」

 

 ―――と、啖呵を切った結果、全面戦争に突入してしまったのだ。


 

 むしゃくしゃして言った、今は猛省している。


 

 何はともあれ、始まってしまったものは仕方がないので、ジャムシャエルからの情報をもとに、相性とかを考え、部隊配置を行う。


 続けて、ここで負けたら拙いので、これまでのサブクエストで入手した特典を惜しみなくつぎ込んで自軍を強化。

 

 オレはオレで、玉座から動けないながらも、戦場を遠見の水晶球で俯瞰しながら指示を出した。

 

 普段あまり動かない配下も、ここぞとばかりに張り切って頑張ってくれた。


 中でも、サブクエストの特典を三つも使って作った[神殺しの魔剣“ヴァースライブ”]を持った、元傭兵にして現十二魔将の傭兵王(マーセナリーロード)“ガルディアス"の奮戦はすごかった。


 そんな理由で、戦況は終始コチラが優勢に進める事ができたが……それでも、十二魔将が3人ほど討ち取られた。

 

 だが、その代わり、天使軍はほぼ壊滅。三女神の一人は捕獲。相手の主力であった四天使全員と六大神の半分と地方神多数を討ち取ることに成功したので、魔王軍的に、空前の大勝利と言っていいだろう。


 さらに、敗走していった神々の軍勢に、おまけとばかりに覚えたての遠隔術式で追撃をいれた結果……。


 残った神々は天界の門を固く閉ざし、世界から手を引いて、完全に引き篭ってしまいましたとさ。


 

 ……正直、やりすぎた。

 

 なんというか、敵将の能力や性格などの完璧な情報と、遠見の水晶球の索敵能力は反則だった。


 さらに惜しみなく特典を注ぎ込んだため、パワーバランスが完全に崩れた結果がコレだ。

 

 ついでに言うなら、特典による十二魔将|(欠員は傭兵王とか獣神姫などを迎え入れて補充済み)の強化は“永続”だったりする。

 

 勇者から見て、十ニ魔将は、中ボスなんだが……おそらく、ラスボス並に強化されてると思う。

 

 以前、勇者がオレを倒す難易度をベリーハードと言ったが……ナイトメアかもしれない。

 

 …………

 ……

 

 いやいや、大丈夫だ!


 微妙に(オツム)が足りない気もするが、勇者パーティは才能もあるし、他の兵士とかより普通に強い!

 

 経験を積んで、各地に点在する味方と合流して、力を底上げすれば、いつかはオレを倒せるって!

 

 魔王であるオレには[闇の帳]と称される絶対結界が貼ってあって、オレが受けるダメージは全て100分1になるけど[光輝の宝玉]があれば無効化出来るから大丈夫さ!


 ……まあ、その[光輝の宝玉]は、オレがサブクエスト特典で貰ったので、件の全面戦争の時に、神殺しの魔剣の素材に使っちゃてもう存在してないけど、わずかでもダメージは通るんだから、いつかは倒せるって!

 

 ついでにネタバレすると、天界に引きこもっちゃた主神の、全知全能の神“オーディナス”が持ってる[封咒の杖]で阻害しないと、魔王の肉体は、オレの意思を無視して、ものすごい勢いで回復しちゃうけど、1ターンキルすれば問題ないさ!

 

 …………………

 …………

 ……

 

 うん、ナイトメアどころか、ファンタズム……無理ゲーだ、コレ……。

 

 

 神魔戦争の発端となった二人は、辺境で普通に生きてます。

 無性の天使と両性の悪魔のラブロマンスは、ひっそりと続いていますが―――


 ―――本編には、全く関係ありません。


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