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 水晶球の使い方は簡単だ。手のひらを玉の上に乗せ、見たい場所や人物、品物などの“対象”を思い浮かべるだけで良い。


 さらに、そこから視点を自由に動かすこともできるので、その気になれば……気になるあの子のスカートの中のさらに中身……の中にある。胃袋の内包物を見ることも可能なのだ。

 

 そう、物理的な壁や結界などに遮られることもなく、距離の制限もない。まさに万能……いや、厳密には限界はある。

 

 さすがに宇宙に浮かぶ、別の惑星を見ることは出来なかった。また、オレが元いた世界も……見ることは出来なかった。

 

 だが、それら以外の場所なら、何処であろうと見通すことができるので、文句はない。


 むしろ、チート過ぎて気が引けるくらいだ。

 

 なぜなら、見ることが出来るだけではなく、任意で音も聞けるため得られる情報は、そこに居るのと大差ないのだ。


 しかも都合の良いことに、覗き見してる事が対象らにバレることも無く、気軽に使えるのは有り難い。


 己の勘の良さを誇り、不意打ちを一度も受けたことが無いと豪語する。古参の魔将で、本当に気づかれないか、試した事が有るが、ソイツでさえ、観られてることに全く気づいていなかった。眼福であった。


 その名は、第三の目“エンクトヴァン”


 三つ目だが、十分美人と言える妙齢の魔人で、全てを見通す[第三ノ目(サードアイ)]と言う固有能力持ちだったが、オレの知る限り。一番最初に戦死したのがコイツだった。

 

 全てを見通すと言う割には、自分の死は見通せなかったようで……その勘の良さとやらも、いまいち信頼できない。……と、思うかもしれないが、それは間違いだ。

 

 こいつは、自分の死を見通した上で、仲間のために死地に向かう事を受け入れたのだ……。


 美人だけど、チャラくてウザいやつだったが、その高潔さと能力とボディスタイルは評価している。


 色んな意味で、惜しい人材を亡くしたモノだ……。

 

 そんな感じで、特殊な趣味をしてる一部の方々が聞けば、この水晶球を、血眼になり欲しがるだろうが……これは玉座から動けないオレにとっては、世界識るための必需品である。


 殺してでも奪いとる? 魔王相手にやれるものならやってみるが良い……手加減はせんよ?


 

 おっと、思考がそれてしまった。

 どうにも最近は、現実逃避したくなる出来事が多い。

 

 さて、こんなに便利な水晶球だが、邪神教団などの総称がわかっていても、“個人”を特定できるような情報が無ければ意味が無い。


 最低でも、固有名詞か、その姿形、顔の造形くらいは知っておく必要がある。

 

 そんな理由で、いくら万能な水晶球でも、情報不足の現状では、邪神教団を探すのは無理があった。


 ―――さすがに、虱潰しに探すには、世界は広すぎた。

 

 それと、今はそれどころではない。

 

 双子嬢“サラとサララ”の上の人(・・・)

 

 魔将の中でも、怪生物に匹敵する不気味な奴だったが、一応は大事な配下なので、生死不明、消息不明となった時に、水晶球で探そうとはしたのだが―――

 

 固有名詞:不明

 姿形  :一部しか見えてない。

 

 ―――探せなかった。

 

 サラとサララは、下の人の名前である。


 一応サーチした結果、下の人は普通に冥界に逝っていたので彼女らに問題ないのだが……肝心要の通称“上の人”は、探しようが無かったので、とりあえず、死んだものとして放置していた結果がコレなのだよ……。

 

 水晶球を操り、視点を俯瞰から、ブライトンに切り替える。そして、さらに視点を動かして、上の人を注視してみた。

 

 相変わらず、濃い毛の生えたふとましい手が、空中に浮かんでいる。


 腕から胴体に続くであろう部分は、空間が歪んでいて見通せない。

 

 以前と違う点は、腕に大きな傷跡が出来てる事と……下の人が、ブライトンに変わった事だろう。

 

 視点を戻し、ブライトンを良く観察すると……ハイライトを無くした死んだ魚のような目をしている。


 双子嬢の時のような腹話術的な何かではなく、普通に口を動かして喋ってるのだが……妙にハキハキと話し、よく聞くと、微妙にセリフもおかしい。

 

 エミリアは、さすがに異変に気づいている。


 だが……。


 変化に気がついているが、興味ないのか敢えてスルーしてるマリアンヌはともかく……。


 アレン……親友なら気づいてやれよ! 上の人を抜きにしても、どうみても普通じゃないだろッ!?


 それにしても、魔将相手だから仕方がないとは思うが……ブライトン。操られすぎだ!!

 

 ―――なんでコイツなんだ?

 

 勇者は言わずもがなだが、聖職者や魔術師は、心理耐性も高く、魔法抵抗も強い。


 普通なら、特に何の特性も耐性も無い。戦士系のエミリアが、一番操られやすいはずなのだが……?

 

 アレン:両親死亡。サバイバル生活経験有り。性格もポジティブ

 マリー:婚約破棄して修道院送り。性格もアグレッシブ。

 エリー:元盗賊。殺人経験有り。色々と覚悟してる。性格もリアリスト。


 ブライ:現役貴族の次男坊。色々と悩みや葛藤あり。性格もネガティブ。

 

 ああ……そういうことか……。

 

 彼を一言で表すなら……プライドが高い天才肌の秀才。と言ったところだ。


 天才でなく……あくまでも秀才。


 凡人の最高峰では有るが、天才には及ばない……それでも、学園主席の肩書があるように、十分優秀なのだが……。

 

 ―――比較対象が悪かった。

 

 親友のアレンは“規格外”の勇者である。

 想い人のマリーは、奥義とまで称された業を完璧に習得し、自己流でアレンジまでしている。まさに掛け値なしの“天才児”である。

 

 立ち位置が微妙なエミーも、目立っていないだけで、戦いのセンスは随一だ。


 ……というよりも、身体能力が追いついてなかっただけで、オレの術式で能力が底上げされた今は、普通に有能で、相手によっては無双できるだろう。

 

 ブライトンは……生粋の魔術師なので身体能力強化の恩恵は薄い。しかも、根本的な才能で3人に負けている。


 ブライトン……さすがは残念なイケメンだ!

 そこに痺れないし、憧れないけど、同情はしてあげよう……。

 

 だ、だが、彼は他の仲間には無い。貴族特有の高等教育を受けていると言うアドバンテージがある!


 総合的に状況を判断し、的確な助言を行うには最適の人材なのだが、しかしそれも、高いプライドと仲間に対する劣等感が妨げていた。

 

 そんなこんなで、結果的に、広域魔法一択のバ火力魔術師となっていたのだが、今は違う。

 

 「慌てるな! アレンッ! 7時方向、足止めを頼む!」

 「ああ、分かった! ここは俺が通さない!! 喰らえ! サンシャインッ!」


 「待てマリアンヌ! そっちじゃない! 4時方向を抑えてくれ!

  エミリア! マリアンヌのフォローを頼む!」

  

 「……了解」

 「了解っですわ! でも、12時方向はどうしますの?」

 

 「当然、ワタシが蹴散らすとも!

  

  詠唱破棄(スペルキャスト)

  多重詠唱(マルチプル)

  

  ―――石嵐雨(ストーンレイン)

  ―――暴風嵐(ウインドストーム)

  

  合成魔法(コンフリクト)

  

  ―――石乱(ストーン)暴風(・ストーム)殲滅陣(・ジェノサイド)ッ!」

  

 賢王の国“オルデバーン”に向けて勇者一行は平原を進んでいた。


 荒れ放題の街道をなんとか辿って進むも、突如。草地に伏せていた魔物の群れに襲われてしまう。


 だが、慌てる仲間を制して、ブライアンは的確な指示を飛ばす。

  

 ボスっぽいデカイ魔物が前方を塞ぎ。後方左右から雑魚が奇襲と言った、かなり凶悪な3方向同時攻撃だったが……。


 前にいるデカブツ目掛けて飛び出そうとした猪武者を、素早く制してバックアタックに対処させ、一対多に向いていないのを見越してエミーをサポートにつける。


 アレンは一対多でも問題ないので、挟撃を避けるためにバックアタックのもう一方を任せる。

  

 その結果、もっとも手強いであろうデカブツの相手をブライアンが受け持つことになったのは……白兵能力皆無で、紙装甲のブライアンが、前線に立つのは悪手を通り越して、自殺行為でしかない。

  

 ……自殺行為でしかなかった(・・・・)

  

 前方にいるデカブツ含む集団は、背後から奇襲をかけてきた集団より、少し離れた位置にいる。


 そして、その少しの距離があれば……無詠唱を選んだ今のブライトンなら……。

  

 間合いを詰められる前に、殲滅可能なのだ。

  

 詠唱破棄に続き、複数の呪文を同時に使う多重詠唱を行う。

 多重詠唱は高難度で、制御が難しいため発動するので手一杯で、威力も精度もおざなりになる、使い所の難しい技法だ。

  

 しかも、それを詠唱破棄と組み合わせたならば、魔法の威力は絶望的になるだろう……だが、それは杞憂に終わる。

 

 多重詠唱によって同時に唱えられた異なる呪文は、同時に使われることで、規定外の効果を表すことがある。


 これを、魔法属性の相生と相克と呼ぶ。

 

 その相乗相殺効果を、任意に引き起こし、それぞれを単体で使うよりも、より高い効果が出る組み合わせを、合成魔法と呼ぶ。


 これは本来、複数人で行うものなのだが……ブライトンは、それを多重詠唱を使うことで、一人で成したのである。

 

 投げかけられた小石が、巻き起こされる旋風に飲まれる。


 風とともに小石が舞い、対象を粉砕する……巻き込まれれば必死と云われる凶悪な合成魔術は、ブライトンを押しつぶさんと迫ってきたデカブツの集団を、余すこと無く飲み込んだ。

 

 それを見届けると、ブライトンは自ら放った魔法で出来た“道”に向かって駈け出した。

 

 「よし、みんな! こっちだ!

  アレン! 殿を頼む!」


 「ああ、なるほどな……よし、任せろ!!」

 

 アレンを残し、三人は旋風によって蹂躙された地に向けて逃げだす。

 

 魔物たちは当然だが、残ったアレンに向けて群がってくる。

 

 魔物の攻撃を巧みにいなしながら、勇者はブライトンの様子をうかがう。

 そして、ブライトンが手を振り上げたのを合図に……サンシャインで目潰しを行い、光翼飛踊で遥か上空に逃れる(・・・)

 

 「―天と――誘――えよ……

 

  ―――広爆烈火(フレイムバースト)ッ!」

 

 詠唱の終わるタイミングを、腕を上げることで知らせることで、アレンに退避のタイミング教えたのだ。


 おかげで、これまでのように誤爆を畏れ。詠唱をキャンセルすることもなく。


 全力全開で放たれた、自慢の上位呪文は、まんまと集められた、残った敵陣のど真ん中で炸裂したのだった。


 ―――そう、今のブライトンは、広域魔法一択なのは変わってないが、極めてクレバーな魔術師に変わっていたのだ。

 

 ……………

 …………

 ……

 

 何このイケメン!? ブライトンさん、素敵すぎる!! 目が死んでるけど(ボソッ

 

 

 あれ? これって、このまま上の人に任せた方が良くね?




 今現在の勇者一行なら、魔将クラス相手でも、ある程度の勝算が期待できるくらいの強さが有ります。


 また、上の人は、文字通り“操ってるだけ”なので、戦闘力は純粋に本人の実力です。


 本編中。色々とディスってますが、ブライトンは本当は、優秀なんですよ?


 ただ……周りが、それ以上に優秀ってだけでw



 誰だお前は!?


 欄外でもディスられる男……ブライトンッ!(AAr


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