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 「行きますわよ! 聖光拳(ホーリーブロウ)ッ!」

 

 一足飛びに間合いを詰める“即歩”と言う技法から、流れるように繰り出された拳が弧を描き、身の丈3m超の巨兵(ギガント)の顎を撃ち抜く。


 「いくぞ! サンシャイン! ビクトリーッ!!」


 己の半身程度の小娘……マリアンヌに顎を打たれ、天を仰ぐように仰け反った巨兵の目に飛び込んできたのは、己が巨体を上回る高さから切り下ろされる斬撃だった。


 光翼飛踊(エアリアルダンス)で空を舞う、勇者アレンに肩口から足元まで袈裟斬りにされながらも、巨兵は膂力を振り絞り、反撃を試みるが……それより早く、勇者に∨字を描くように逆袈裟と切り上げられ、そのまま離脱されてしまい……巨兵から舌打ちが漏れる。


 「狙うは……いま! 影縛り!」


 そして、そのほんの僅かな隙に割り込んで、エリーは巨兵の影に銀杭(シルバーパイル)を打ち込み動きを止めた。

 

 「良いぞ! アレン、エミリア、マリアンヌ! 予定通り、下がるんだ!

  あとは……ワタシに任せろ!

 

  詠唱破棄(スペルキャスト)―――

 

  ―――雷光渦線(エネル・ボルテッカー)ッ!!」

 

 掛け声と、ほぼ同時にバックステップで距離を取ったマリアンヌの姿をブライトンが見届け。


 エリーによって動きを止められた巨兵に向かって、無詠唱で、渦巻く雷撃を撃ち放つ。

 

 迫る雷撃を避けようと、巨兵は、影縛りによる拘束を力任せに打ち破る。


 ブチブチと肉や血管が裂ける音が響き、カラン、カランと杭が抜けていき、拘束は破られる。

 

 だが、巨兵のあがきはそこまでだった。


 拘束を破ると同時に、雷撃が直撃。全身を巡る雷に肉を焦がされ、意識とともに……命まで絶たれたのであった。

 

 「なん……だと?」

 

 二度見どころか、水晶球を三度見して、オレは確認するが……見間違いではなかった。

 

 勇者一行が……普通に強い……だと?

 

 遠隔術式で大幅に強化してるので、強くなるのはわかっていたが……これは違う。


 ―――この強さは、戦術……連携の強さだ。

 

 マリアンヌが猪突猛進なのは変わってないが……ヒット&アウェイをちゃんと覚えたようだ。


 これまでは、多少食らおうと、自己回復できるからって、前線に張り付いていたため。結果的に、後衛の邪魔になっていたが……タイミングを合わせて引くようになったので、後衛の援護攻撃が生きるようになったのは大きい。

 

 特に、ブライトンの魔法が役立つようになった効果はテキメンで、純粋な殲滅力の上昇に繋がっている。

 

 しかも、これまでのように悠長に詠唱したりせず、魔法を無詠唱で使うようになったのも良い。

 

 詠唱をした方が安定するし、威力も上がるのだが、詠唱終了=呪文発動となるため、敵の動きにタイミングを合わせ難いと言った欠陥がある。


 だが、詠唱破棄の技術を使うことで、任意のタイミングで魔法を放てるようになるのだ。

 

 これまでのように、長々と詠唱しておきながら、放つタイミングが合わず、泣く泣く呪文中断するようなマヌケな事は、今後はもう無いだろう。


 後衛にしては火力が低く、前衛にしては脆すぎるとといった感じで、中途半端な立ち位置だったエミリアも、牽制、かく乱といった。堅実なサポート役をこなすようになった。


 そして、勇者アレンが、光翼飛踊による大幅な機動力の上昇を活かした、状況に応じた的立ち回りを的確に行い。パーティ全体を支えることで、コレまでに無い連携を、破綻させることなく機能させている。

 

 これぞまさに、勇者一行。魔を討ち、世界に平和をもたらせる……人類最後の希望に相応しい姿であった。


 


 ――――と、言う夢を見た。

 

 

  

 なんてことはなく……四度見しようと、五度見しようと……水晶球の向こうに映る結果は変らない。

 

 勇者一行は、守護役の中でも上位に位置し、次に十二魔将が欠けたら、繰り上げされる予定だった。


 岩窟巨兵“ガル・ガザス”を、見事に撃破して退けたのだッ!

 

 ―――ホワッツ?


 オーケー、落ち着こう。

 落ち着いて思い出すのだ。


 オレが見た……昏睡から覚めた後の勇者一行の足跡を……。

 

 ―――

 ――

 ―


 マース大森林の奥地にある、精霊樹“アルシア”

 エルフ氏族が長きに渡り鎮守してきた、その霊木は……すでに枯れている。

 

 原因は、ご存知の通り……オレの仕業だ。

 

 サブクエスト[“マース大森林”に済むエルフ氏族を殲滅せよ!]をクリアした結果である。

 

 クエストクリア特典の、妖精の至宝“精霊弓”は、精霊力……つまり大自然の力を矢として打ち出す強弓だった。


 ようは、人や人工物の少ない場所で真価を発揮する。野戦専用と言って良い品で、強力だが微妙な武器だ。

 

 弓に適正がある、獣神姫にでも使わせようかと考えているが、現在はまだ、魔王城の宝物庫に死蔵している。

 

 たぶんだが……不定形生物で、魔法も物理も殆ど効かない怪生物“ゲ・レ・ゲーレ”を倒す。必須武器のような気がするので、魔将に与えるのを躊躇しているからだ。


 もっとも、気がするだけなんで、文字通り気のせいだということにしておいた方が、オレの精神安定に良いかもしれない。

 

 さて、そんなこんなで、オレが鎮守役のエルフ氏族を蹴散らし、代わりに守護役として配置したのが……岩窟巨兵“ガル・ガザス”だった。

 

 コイツは巨兵の名の通り、巨人族(ジャイアント)に含まれるが……外皮が岩のように堅く、ゴーレムに近い特性を持っている。


 分類で言うならトロール種に含まれ、岩状に丸まって休眠状態に入る能力を有している。

 

 普通に優秀な人材で、特筆すべき変人要素も無い、まさに平凡な守護役である。


 そんな地味だけど優秀なコイツを、守護役に据えた経緯はこんな感じだ。


 クエストのクリア条件が殲滅だったため、容赦なく里を殲滅。財宝の類は奪い尽くし、大樹の精霊“エント”の宿る精霊樹もへし折って、枯らした。


 その結果、生命あふれる大森林から……命乏しき枯木ヶ原に変貌させてしまったわけだが……。

 

 廃墟にも関わらず。何故か、守護役の配置ポイントとして指定されていたため。暇な時は寝て過ごせる、岩窟巨兵を派遣したのだ。

 

 ……したのは良いが、普通に考えて、ココは人類的に観ても攻略価値の低い不毛の地であるため、優秀な人材を配置するのはもったいので、魔王城に呼び戻すか? とか考えていたところ。

 

 そんな場所であるにも関わらず、目覚めた勇者は迷わずソコに向かったのだ。

 

 謎の行動だったが、一応、町に避難してきた生き残りのエルフから、マース大森林のことを聞いた勇者が―――

 

 「そんな事があったのか……。

  俺に考えがある。ちょっと試してみたいんだが……どうかな?」

 

 ―――と、意味深なセリフを吐いた後の行動なので、分からなくはない。


 いくら万能な水晶球でも、心の中までは覗けないので、いくらか疑問はあるが、理解できないこともなかった。


 そして、道中に現れた。

 獣から変異した、下級の魔物たちを危なげなく蹴散らし、真っ二つに裂けた大樹の元へと勇者一行は、やってきたのだった。


 ここまでは、まあまあ想定内だったが……。

 

 件の通り。守護役をアリエナイッ!? と絶句したくなるほど流麗な戦いで、真っ向から打ち破ったのは想定外だ。

 

 オカシイ……オレは、遠隔術式による強化で、拙い連携ながらも雑魚くらいは余裕で倒せるけど、守護役クラスには、2,30回は全滅。魔将クラスは無理ゲー。元勇の技をラーニングできてたとしても、かなり厳しいだろう。……と、想定していたのだが……。

 

 なんなんだ、コレ?

 何が起こっている? ……ナニが起こった?

 

 困惑しながらも、勇者の様子を観察していると―――

 

 「これがワタクシ達の、真の実力ですわ!」

 「ブライの言った通りに、ほんのすこし戦い方を変えただけで、ここまで楽に勝てるのか……」

 「言ったろ? ……アレン。戦術は、大事だ、って。

  それと、さすがはエミリアだな。いいタイミングだった」

 「……ありがとう。でも……いや、なんでもない」

 

 ―――なぜか、ブライトンがパーティを仕切っていた。

 

 魔術師ではあるが、ブライトンは貴族であり、上位騎士の家系だ。


 ならば、幼いころより戦術(タクティクス)戦略(ストラテジー)を、ある程度学んでるはずで、本来ならこれくらいの戦術アドバイスは出来て当然と言えば、当然なんだが……。


 冥界で、元勇者と、その仲間たちにフルボッコにされて、何かに目覚めたのか?

 

 勇者もいつの間にかに、天駆の勇者“アカシア”が使っていた、恥ずか……綺麗な羽で天を駆ける。光翼飛踊(エアリアルダンス)を使えるように成ってるみたいだし、冥界に落ちたことで、一回り成長したのかもしれない。

 

 何にせよ……これは嬉しい誤算だ。

 

 今の勇者一行なら、苦戦はするだろうが、下位の魔将なら十分倒せそうだ。


 ならば、このまま、各地を回って、数少ないが残ったフラグを回収していけば……いずれ、オレを倒せるくらいまで成長するのは確実だ。

 

 いいぞ! 希望が見えてきたっ!!

 

 ―――ん? 勇者が何かしようとしている?

 

 「おっと、忘れるところだった。

  それじゃ、ちょっと試してみるよ……サンシャインッ!」

 

 勇者が、枯れた精霊樹に向かって、勇者専用技を放つ。


 枯れ木に纏わりついた瘴気が払われ、ほんの一瞬だが……大樹が動いたようだ。


 しかも、よく見ると……新芽が生えてるのが分かる。

 

 「あれ? だめか……」

 「いや、恐らく水が足りないのだろう……天候変異(チェンジウェザー)恵みの雨(コールレイン)”」

 

 落胆する勇者の横に立ち、おもむろに上位呪文を唱える。


 すると、ブライトンの全身から立ち上った魔力が、天に届くと……にわかに天がかき曇り、雨がふりだしたのだった。

 

 「おおっ?! ブライ! こんな魔法も使えたんだ!?」

 「おいおい、ワタシを誰だと思っているんだ……主席を取り、天才と称された実力は、伊達じゃないんだぜ?」

 

 「正直、見なおしたわよ。ただの、火力バヵ……火力自慢かと思ってた」

 「………」

 

 マリアンヌの言に、オレも同意見だが、ブライトンも、猪武者のお前には言われたくないと思う。

 

 しかし……コレはまさに、大成長だな……特にブライトンの株がオレの中では急上昇中だ。

 

 ―――なんというビフォーアフター。


 あまりもの変わり様に“中の人が変わったのではないか?”と疑ってしまいたく……な…る?

 

 そう言えば、勇者一行が目覚めたのは、元勇者が全滅してからだ。

 

 まさか……中の人が居るなんてことは……。

 

 さすがに無いな! 確認したわけではないが、元勇者たちは冥界送りになったはずだ。


 もっとも、魂すら砕く……粉砕魔法(ディスインテグレート)を食らった仮面の勇者は、冥界送り以前の状態かもしれないが……どっちにせよ、普通に現世から去ったはずだ。

 

 アレン達が目覚めるのが遅かったのも、冥界でのフルボッコが原因で間違いなく。目覚めるタイミングも、さほどオカシクはない。

 

 ならば、中の人が違うかも? なんてのは、ただの世迷い言でしかない。

 

 ふっ……やれやれだ。


 オレとしたことが……いくら、吸血皇焼串事件や邪神教団登場などの、予想外の事が続いたからって、少々疑心暗鬼になりすぎてたようだ。

 

 いくらなんでも、想定外の状況がそうそうなんども起きるわけがない。

 

 ―――さて、気を取り直して、勇者の動向を探ろう。

 

 再度唱えられたサンシャインと、恵みの雨の相乗効果で、ものすごい勢いで、新芽が成長している。

 

 どうやら、アレンが試したい事とは、この事だったらしい。

 

 そう言えば、アレンが昔。森でサバイバルしてた頃。サンシャインを使って、実を成長させ、飢えを凌いでいた事があった。


 なるほど、それで、枯れた精霊樹の話を聞いて、試してみようと考えたのか……やるじゃないか!

 

 水晶球の表示を切り替えると、成長する若木の中に“エント”が居ることが確認できる。


 ―――これなら、数年もあれば、枯木ヶ原から元の大森林に戻るだろう。

 

 なるほどな……やりようによっては、オレがクリアしてしまったクエストも、リカバリー出来るのだな……。

 

 いいぞ! これでオレの望みが叶う確率が上がった。

 

 そうだよな……これまでが、ハードモード過ぎただけなんだ。

 おそらく、完全なる死から蘇ったことで、山場を超えたのだろう。

 

 あとはイージーとまでは言わないが、ノーマル程度で進めることが出来るはずだ!

 

 これなら、邪神教団の動向は気になるが……思ったより早く、メインクエストをクリアできるかも知れない。

 

 やった! テンション上がってきた!! 今なら勝てる! 何に勝つのかわからないけど、勝つるッ!

 

 「数年もすれば、ここも元通りになるだろう……さすがだな、アレン」

 「たまたま……さ。

  よし、それじゃ次は何処に行く?」

 「賢王の国“オルデバーン”に行こう」

 「そこは魔族の支配地ですわね……でも、いまのワタクシ達なら……」

 「………」


 「上手く行けば、魔王軍の支配から開放できるかもしれない。

  よし、やってみよう!」

 

 どうやら勇者一行も、次の目的地が決まったらしい。

 

 しかし、賢王の国。改め、賢王亡きの国に行くのか……不安要素はあるが、さっきの戦いっぷりを見る限り、勝算はある。


 念の為に、オレが事前に手回しておけば、問題はないだろう。

 

 賢王の国は、たしか王族の生き残りが潜伏してたはずだし、上手く立ちまわってくれれば、賢王の国の再建も可能だ。


 悪くはないな……。

 

 ブライトン。

 マジ、やるじゃないか! ………ん?

 

 その時、オレは気づいた。

 エミリアが、あまり喋らず、ジッとブライトンを見てることに……。


 元々無口だったので、気づくのが遅れたが、いつもの恋心を秘めた、乙女の熱視線ではなく……怪訝そうな視線でブライトンを観てる(・・・)ことに……。


 「……ん゛?!」

 「魔王様?」

 

 そして……オレは気づいてしまった。


 ブライトンの両手足、胴体、頭から伸びた……。



 “極細の糸の存在に……”

 

 

 

 


 中の人はいなかったが……ブライトンの上の人(・・・)は居るようです。


 想定外ってレベルじゃねーぞ!? おいッ!?


 ここからは勇者一行のターン!


 ようやく始まる……勇者一行の(上の人の)活躍に、ご期待ください!

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