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 地平の勇者“ロットバル”

 初代を名乗る初老の元・勇者である。

 

 百八を数える勇者必殺剣(ブレイバー・アーツ)の創始者でもある。


 勇者必殺剣は、代々引き継がれているようだが……百八式勇者必殺剣の全てを使えるのは初代だけらしい。

 

 もっとも、後継の勇者たちも、それぞれがオリジナルの勇者必殺剣を編み出してたり……そもそも、必殺剣に頼らない。全く違う独自の戦闘スタイルを確立させてるため。


 必殺剣の創始者としての有り難みは……ハッキリ言うと皆無だ。

 

 ―――だが、その実力は計り知れない。

 

 不死身になってしまった吸血皇を、ああも容易く無力化してしまうとは……予想外過ぎる。

 

 ―――そもそもコイツだけ、異質なのだ。


 他の元勇は、皆が若い。それこそ、老け顔の落日の勇者でさえ大学生程度……つまり未成年ばかりだ。


 もっとも、この世界の人間の成人認定は16才なので、成人してると言えば成人しているのだが……初老であるコイツとは、決定的に年代が異なると言い切れる。

 

 元勇者の肉体年齢=死んだ時の年齢であるならば、初代以外は皆、不自然なほど早く若死にしたことになる。

 

 そう言えば……「そうか……これが、魔族に情けを掛け、皆殺しにせなんだワシの罪か……」とかなんとか、気になる事を言っていた気がする。

 

 いくつか嫌な推測が脳裏を掠めるが―――

 

 初代はまさか、魔王を倒してないのか?

 魔王を倒した勇者は、死ぬ? 殺される?

 勇者と魔王、始まりは、どちらが先だ?

 勇者は現状7人。魔王は?

 魔王の“力”の継承と、勇者による封印の仕組み……誰が定めた?

 

 考えてみれば、勇者たちは、何故……転生しなかった? できなかったのか?

 

 つまり、勇者と魔王は……の…贄、なのか?

 

 ―――それは無いと思いたい。

 

 思いたいが……わずかでも懸念があるのなら、調べて備える必要がある。

 

 初代勇者の“ロットバル”

 こいつからは、色々と話を聞き出さねばなるまい……。

 

 予定を変え。話し合いの場を設ける方法考えながら、水晶球に手を伸ばし、思考を止めること無く、オレは水晶球に意識を向けた。


 そこに見えた光景は、またしても想定外だった。

 

 「…………ぐっ、また貴様らか!

  この時代にもまだ、生き残っていたのじゃな……」

 

 「我ら「は「願う「天と「地と「海に「捧げよ……」我ら」は」祈る」天と」地と」海に……」


 「「「「「「「捧げよ……」」」」」」」

 

 「無念……だがッ! ただでは死なぬ!

 

  勇者必殺剣……零式ッ! “ムメイ”!」

 

 風が駆け抜ける草原地帯。街道から少し外れた場所に……彼ら(・・)はいた。

 

 初代勇者を取り囲む、いかにもな風体をした、深いフードで顔の見えない、黒ローブの集団。


 夥しい傷を追いながらも、切り札を切った元勇。

 

 吹きすさぶ風が、一瞬の閃きとともに凪に変わり、静寂が場を支配する。

 

 無言で睨み合い、初代がニヤリと口角を歪ませた。

 

 ぐらりと血を吐いて、仰向けに倒れたのは初代勇者。


 だが、それに数瞬遅れて黒ローブの集団も、後を追うよに吐血して倒れたのだった。

 

 全員が倒れ伏すなか……ただ一人、吸血皇だけが立っていた。もちろん、アノ時のままだ。

 

 風が吹くたびに、ビクンビクンッと動くのがシュールすぎて見てられない……。

 

 オレは水晶球の映像をそっと閉じ、ベルクラッドを通して、近くに常駐している魔王軍に回収を命じたのだった。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 

 「魔王様……黒ローブの集団の正体が判明しました

  詳しくはコチラの資料に纏めてあります」

 

 「う、うむ。

  資料は後で読ませてもらう、下がって良いぞ」

 

 「はい、それでは魔王様。

  引き続き、元勇と歴代の魔王様についての資料を纏める作業に戻ります

  

  一週間ほどで終わる予定ですので、もう暫くお待ち下さいませ」

 

 ガラガラと音を立てて退室していく、涙目の淑女“ルナリア”を見送る。

 

 本来は水陸両用なのだが、下半身がわんこなのに、犬の毛アレルギー持ちの、水から上がれない欠点を持つスキュラ。そんなダメダメな彼女なのだが、執務能力は高く。こういった頭脳労働に向いている貴重な……本当に貴重な人材だ。


 どのくらい貴重かというと、執務能力のありそうな配下は彼女を含めて、魔王軍全体で4,5人しかいないくらいだ。


 ちなみに魔王軍は、色々合って数が減ったとはいえ万を超えている。


 魔王軍が、脳筋と変人しかいないと揶揄されても反論できない証左である。

 

 だから例え彼女が―――

 

 大きな金魚鉢の底に、魔力で動くキャスターが付いた。水質&水温の自動調節機能有りの妙にハイテクっぽい自走式水槽に乗り。ガラガラと音を立てて動きまわる。


 ―――と言った、ユニークな姿をしていようと、ツッコミを入れてはいけないのだ。

 

 その特製の金魚鉢に、どう見ても[100均]と書かれたシールにしか見えない何かが貼ってあろうと……。


 水中用ゴーグルに、スク水。さらに、密閉率100%と書かれた白のガーゼマスクを装着していようと……。

 

 スク水の胸のところに、白ラベルに黒文字で[るなりあ 17才+328ヶ月]と書かれていようとも……。

 

 ―――突っ込んだら負けなのだ。

 

 なんに対して負けるのかは不明だが、気にしたらやはり負けだ。


 

 真に気にするべきは……黒ローブの集団についての報告だ。

 

 想定外の展開だったが、初代勇者と、黒ローブ集団の亡骸の回収。ついでに吸血皇の焼串剣の回収は成功した。

 

 吸血皇は現在、医療解析班の眼眠鬼“マオリ”によって人体実ヶ……解析と治療を行っている。


 どうやら、かなり強固な封印式らしく。施術にかなり手を焼いているようだ。

 

 元勇の遺体も回収したが、残念ながら蘇生は無理だった。すでに魂は冥界に逝っているからだ。


 冥界門は修復済であり。さすがにもう一度、冥界を攻める気にはなれない。

 

 冥界戦は、オレ個人的には、予想外のこともあったが、一応は目的を果たせたので問題ないが……。


 魔王軍としては大問題となった。

 

 オレがゴリ推した冥界攻めは……成果は乏しく、被害は大きい。まさに失策だったと評され、不満が高まってきている。

 

 だが、反乱の旗印になれそうな魔将は、ほぼ全員が戦死済なので、すぐさまどうこうなる可能性は低い。


 けれども、魔族は良くも悪くも素直だ。

 

 コイツにはついていけないと本気で思えば、好き勝手に動き始めるだろう。

 

 それにだ、旗印になる魔将がいないと言うことは、裏を返せば、統率を取れる人材がいないってことだ。


 ―――魔王軍は今現在、土台が揺らいでいる。

 

 そんな状態で……なあ、磯○! もう一回、冥界攻めようぜ! などと気楽に言えるはずもない。

 

 しかし、それでもやはりここいらで一度、魔王軍の手綱を締めなくてはならないだろう。

 

 ―――ある意味、都合の良いことに、その目的と理由は揃った。

 

 真実3割、推測7割の内容だが、責任転嫁と動機づけ(・・・・)には十分だ。

 

 決意を新たに。オレは、魔将、及び配下を呼び集める。

 

 欠員を補充した、新々十二魔将―――

 

 傭兵王“ガルディアス”

 獣神姫“セーレス”

 小魔法使い“キリト”

 安楽死“ハニィマール”

 怪生物“ゲ・レ・ゲーレ”

 吸血皇女“エルザ”

 正邪“ハイン”

 わん子“シュヴァルツ”

 鬼眼蒼手“コウメ”

 オークの女傑“ビッツァー”

 練筋術師“エレシアナ”

 貴鬚后“エイミー”


 ―――そして、配下の巨人族、鬼眼族、鬼人族、獣人族、妖精族、人間族など、一同が、城下に勢ぞろいする。

 

 城下を見下ろす、バルコニーに立つオレは、もちろん本体ではない。

 演説用の幻影だ。

 

 謁見の間に自由に入れるのは、メリーやベルクラッドの様な側近と、十二魔将だけなので、こういった大掛かりな演説は、幻影に頼るしか無い。


 ―――慣れたとは言っても、玉座から自由に動けないのは、やはり不便だとつくづく感じる。


 水晶球と幻影を使えば、擬似的に動きまわることは可能だが、射程の問題で魔王城周辺が限界なので、演説くらいにしか使い道はない。

 

 遠隔術式を使えば、魔王領外でもなんとかなるかも知れないが……勇者が目覚めた今、その余裕はない。

 

 そう、今勇こと、黒髪の勇者“アレン”と、仲間たちがやっと目覚めたのだ!

 

 ヤツラ(・・・)の目的は不明だが……勇者に敵対してるのは確実だ。ならば、これまで以上に、勇者一行の動向には気を配る必要がある。

 

 「皆の者! 聞くが良い!


  冥界攻めに端を発した此度の騒動……数多の疑問、不平不満を飲み込んで、我が礼に従い、よくぞ戦ってくれた!

  

  少なくない犠牲を出したが……ようやく……そうだ! これでようやく真の敵(・・・)を炙り出すことが出来たッ!

  

  我らが魔王軍の倒すべき真の敵は……人ではない! 神でもない! 無論、魔物や怪物たちでもない!

  

  しかと聞け! そして、その胸に、その魂に刻み込めッ!

  

  我らが滅ぼすべき……真の敵。それは…………。

  

  邪神(デウス)教団(・エクス・マキナ)ッ!! 


  八邪神なる不明な輩を崇め。全にして個、個にして全の意思を持つ狂信者……邪教徒どもである!

  

  心せよ! ヤツラ(・・・)は……すぐそこにいるッ!」

 

 聴衆が静まり返る。


 唐突に聞かされた内容は、あまりにも奇想天外故に、咀嚼して飲み込むには、時間がかかるだろう。

 

 そりゃそうだ、演説内容の7割はデマカセだ。オレ自身、信じてはない。


 資料にあった内容は、邪神教団の名と、邪神の存在を仄めかす程度だ。敵の全容どころか、輪郭すら掴めてはいない。


 ―――だが、それでも良い。


 戸惑っている内に、一気に話を進めてしまえば、自然とその流れになる。

 

 「敵に備えよ!

  世界を征するは……我々魔王軍、ただ一つ!

  

  我は灯籠……我は標……我は魔王なりッ!

  

  我が指差す先に、我らが楽園……我らの未来がある!

  

  そして、そこまでの道を切り開くのは、汝らの自身であるッ!

  

  ヤツラを討ち取り。来へ続く道に……礎として捧げるのだッ!!」

 

 一瞬の静寂の後、ざわめきから大歓声が挙がる。


 ぶっちゃけると、最初に上がったざわめきは、オレが作った幻影、幻音だ。

 

 よくわからないけど、周りが騒いでるなら乗っておこう! と言う、脳筋思考を利用したわけだ。

 

 それに、演説内容はデマカセだが、言ってる内容は、概ね嘘ではない。

 

 ただ……“ヤツラを討ち取り。(オレの)未来への道に捧げよッ!“ と、主語が抜けてるだけである。

 

 邪神教団が何者か知らないが……オレの邪魔をするなら容赦はしない。

 

 詳細不明なので、場合によっては手を組むことになる可能性も有るが、現時点では敵と考えて良い。

 

 それにだ、これで勇者を、魔王軍の目から逸らすことが出来た。


 元勇の活躍で、勇者って実は強くね? ほっといたらヤバくね? と言った感じに勇者脅威論が生まれつつあったので丁度良い。

 

 敵も味方も……オレが元の世界に戻るための踏み台でしかない。

 

 ―――どちらも利用するだけ利用してやるよッ!

 

 口角を歪め、そうやって含み笑いをしていたら……こちらをジッと見ているメリーと、オレの目が合った。


 


 オレは思わず、目を逸らしてしまった。


 

 ――――

 ―――

 ――

 

 地平の勇者“ロットバル”………邪神教団の尖兵と相打ち。

 

 残りの元勇:0名

 

 今勇:目覚めたっぽい。

 

 

 新生、勇者一行の活躍はいかに?


 この世界の言語は日本語です。

 全世界、全種族共通語でもあります。


 少なくとも“主人公は”そう思っています。

 

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