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廃都“アーカロン”
最先端の魔導技術を持ち、十を超える国々を統治下に置く、人類側最大と言って良い勢力を誇っていた帝国の跡地だ。
オレが智将の進言を、うっかり許可したため7体の魔将によって、プチッと蹂躙され滅んだ国である。
完全に滅んだため、守護役や僭主を配置することもなく、放置していた。
その結果、魔物や怪物などが入り込み、帝都から廃都に、廃都から魔都にランクアップ? してしまったようだ。
帝国の誇る魔導技術の大半は失われたが、廃墟はそのまま残っている上に、魔物や怪物がいるため略奪者に荒らされることも無く。資料や現物が大量に残されている。
魔族的には、魔道具や魔導機械などは、弱者の欲しがるものと言った認識がされてるため、魔王軍として接収することもなく、そのまま放置した結果であるが……。
実際のところは、魔導理論が難しすぎて、脳筋が多い魔族では価値が理解できなかっただけじゃないか? とオレは疑っている……ああ、これは余談だな。
それならば、価値を理解しているオレが指示して、強制的に回収しておけば良かったのではないか? と、疑問に思うだろうが、オレもまた、あまり価値は感じなかったのだ。
もちろんそれは、魔王軍が使うことを前提にしての話だ。
ぶっちゃけるなら、魔道具や魔導機械でできることの大半は、魔族にとってはアタリマエのことで、わざわざ、道具に頼る必要はない。
鉄より硬く、よく切れる魔導剣――――魔族の爪は、素で鉄を切れますが何か?
障壁を展開し、軽くて堅いを実現した真銀の鎧―――魔族の肌は、素で鉄より堅いですよー?
誘導補正がかかり、着弾後爆裂する魔導弓―――魔族は皆、魔力弾くらい余裕で撃てるんですが……。
こんな感じであり、非力な人類にとっては必須だが、元から強い魔族にとっては、不要とまでは言わないが、需要は低いのである。
それでも、弱い魔族や、魔族ではない他種族の配下が使う分には有効だし、質の良い魔導機械なんかは、魔将クラスの性能を持っていたりするから、全く不要な訳ではないのだが……オレは放置することを選んだ。
理由はいくつかあるが、一番大きな理由は、人類の未来のためだ。
技術の研鑽には、時間がかかる。だが、失われるのは一瞬だ。
オレは元の世界の歴史から、それを学んでいる。
だから、オレが世界制覇を果たした後、改めて技術を研究し直させるのは非効率的である、と判断したのだ。
現在の魔導技術も魔道具も、戦闘用に偏重しているが、技術自体は平和利用も十分できるものばかりだ。
ならば、わざわざ0に戻す必要はないと、当時のオレは思っていた。
目的が180度、変わってしまった現在でも、その辺の考えは変らない。
むしろ、勇者のパワーアップに有効な手段であるため、需要は上がっている。
その事は、当然だが人類側も気づいている。
水晶球を見ると、落日の勇者“シグレ”が、廃都にちょうど足を踏み入れたところのようだ。
―――元勇は一人ではない。
元帝国領の衛星国家群の一つで、戦略価値の低さからか、サブクエストにも無視された……白樹の国“セラント”の兵士が随行している。
どうやら元とは言っても、勇者がいるならばと、魔都“アーカロン”の調査&回収を行うつもりらしい。
それらの依頼風景から、ここに至るまでの全ては水晶球で確認済だ。
だからこそ、十二魔将を送り込んで、待ち伏せることにしたのだが……。
今考えると、二重の意味で失敗だったかもしれない。
手薄になった魔王城を、元勇に奇襲された事もそうだが、ここで元勇をヤッてしまうよりも、技術や道具を持ち帰らせた方が、オレにとって都合が良さそうな気がしてならない。
一度や二度の探索で持ち帰れる量など高が知れてるが、それでも今勇ことアレンが目覚めた後のことを思えば、今のうちから人類側を少しでも強化しておくのは悪くないように思える。
―――今からでも、伝令を送って中止させるか?
いや、中止させる明快な理由がない。
ただでさえ、渋る魔将たちを説き伏せて、半ば強引にフルボッコ作戦を決行したのだ。半端な理由では中止にはできないだろう。
元勇が罠に掛からず。無事に帰還してくれることを祈るしかないか?
遠隔術式で、先に一撃入れるか? 仮面の勇者の時と違って今なら、ちゃんと対応するだろうから死ぬことはあるまい。
そうすれば、警戒して引き返してくれるかもしれない……。
なんだかんだと、色々と対策を考えていたら、水晶球の向こうで変化があった。
「おいおい……これはどういうことだ? 何も残っちゃーねーじゃないか……」
「これは一体? 魔族のしわざでしょうか?」
「いや、魔族が魔道具とかに興味を示したって話は聞いたことがない」
「気まぐれに破壊したのならまだわかりますが……根こそぎ回収されてるのは不自然です」
「てーこたぁ……先客が居たって事だな?」
「バカな?! ありえません! 遺跡荒らしの仕業にしては規模が大きすぎます」
「……勇者様の力を借りてようやく進める場所から、これだけの数を持ち出せる者がいるとは思えません」
「いいさ、どっちにせよ無駄足だったてことだ……いや、むしろ嵌められたか?」
―――どういうことだ?
元勇たちは、魔導研究所にたどり着いていた。
属国故にある程度情報はあったらしく、目的地に迷わず辿り着いたのは良いが……何故、荒らされている?
魔将たちか? いや、ありえん。
魔道具に興味を持ちそうなのは、一人もいない。
何を考えてるのか分からんのもいるが、それでも人の技術に興味を持つとは思えない。
水晶球を使って、他の主要箇所を見て回る。どうやら、その殆どが荒らされているようだ……。
誰の仕業だ? いや、マジで見当もつかない……。
魔王軍ではない。心当たりはない。
野良の魔族や魔物や怪物の仕業とも考え難く、ならば人間かと言うと、それもありえない。
こいつらが言ってたように、魔都と化したこの地をマトモに捜索できるのは歴戦勇者くらいなもので、それ以外は考えづらい。
だが、勇者アレンは気絶中であり。例え起きていても、ここにたどり着けるような実力はない。
ならば、考えられるのは、元勇なのだが……荒らされた場所の埃の積り具合から、元勇が復活するより遥か昔に荒らされたのは確実だ。
第一、落日の勇者“シグレ”が到達一番手であり、彼より早くここを訪れた元勇はいないはずだ……。
雷刃の勇者なら、魔王城の前に、ここに寄ることぐらいはできただろうが……単独行動の彼が、大量に回収するのは不可能だ。
さらに、荒らされ方からして、複数人の仕業であるのは間違いない。個人ではなく、ある程度組織だった犯行? としか思えない。
まさか……勇者以外に、勇者と同等の力を持った集団がいるってことか?
―――ありえない話ではない。
冥界の時を思い出してみよう。
あの時にいた、元勇者の仲間を見れば分かるように、勇者以外でも“ある程度”は、強くなることが可能だ。
だが解せないのは、それだけの力を持っていながら、現状。全く目立っていないと言うことだ。
少なくとも、オレに心当たりはない。
主要人物的な存在が、何人か各地に潜伏していることは知っている。
……そう、知っているのだ。
だが、魔都を荒らしたと思わしき集団に心当たりは無い……。
オレの知らない勢力が……存在する? これは由々しき事態ではなかろうか?
そんなことを考えてたら―――
「待ちぶせ……それも魔将全員でたぁ、豪気だな、おい!
いいぜ! 死地を歩むは勇者の常! いくぞ相棒ッ! ビャクヤッ!」
「刀使いの勇者か……ちとヤバイかもしれん。セーレス……お前は下がっていろ」
「え? はーい、ご主人様ぁ!」
「m気gジュfydbsjmc,zれdcrちぇysrむkぃlx!!」
「ほう……刀か……じゅるり。珍しいものよ! さあ、それをワシに献上せよッ!!」
「お父様ッ! 隙有りですわ! 逆十字型杭打銃器ッ!!」
「オゥフ!? む、娘よ……このタイミングで来るとは吾輩も思わなかったぞ? 成長したのだな……ぐふっ」
「な、なんで仲間割れしてるのか知らないけど……ぼ、ボクは魔王様の命には、さ、逆らわないからね?」
「まったく……ナニ遊んでるのさ! さあ、とっととやっちまうよ! 緋牡丹灯籠ッ!」
「非弱無弱癒石情弱破折……弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱ッ!」
「……滅殺」
「ああ……ひ……ひかりが……ひかりがみえるぅぅぅぅぅぅ……」
「わんわんわん、おッ!(絶天なんちゃら抜刀牙ッ! ですぅ!)」
―――戦いが始まってしまった。
あー、まあね。元勇たちに、保護して回収してもらうべきだった資料やアイテムは、すでに無いわけだから問題ないと言えば、問題ないんだが……。
いかんな……どうもこの頃。判断ミスが多い気がする。
以前からも、偶には裏目に出ることはあったが……最近は多すぎる気がする。
やはり、クエスト外だと言うのが大きいのか?
クエストの場合。なんだかんだ言って予定調和で終わる場合が多かったが……妙に勝手が違ってきてるように思える。
今後の行動を一度、じっくりと考えなおしてみる必要がありそうだ。
そうじゃないと、何処の誰とも知らない集団に“また”感謝しなくちゃいけなくなる。
貴重な資料と品々の保護をありがとう! ……なんてね。
水晶球を通してみる光景は、ある意味悪夢であり、必然でも有った。
考えてみりゃ分かったはずだよな……7体の魔将で帝都は滅んだんだぜ?
だからフルメンバーを投入すればどうなるかなんてさ……。
見たくない現実から目をそらすように水晶球から、オレは目を逸らす。
目を背ける直前に、映った光景は……。
帝都から廃都に、廃都から魔都に変貌した巨大都市が、何もない更地に変わって往く光景だった。
なんかさ……マジでやらかしてばっかな気がしてきた……。
――――
―――
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落日の勇者“シグレ”………死因:十二魔将にふるぼっこ。
残りの元勇:2名
今勇:昏睡状態。時々ビクンビクンと痙攣している
戦闘卿“スパシーダ”………死因:シグレの極技“アポロダイナミック”が直撃。
安楽死“ハニィマール”………死因:シグレの隠し技。懐剣“シラヌイ”によるカウンターが直撃。
吸血皇“アルト・ノワール”………死因:愛娘からの不意打ち。ただし、直後に復活した模様。
魔王の中の人は天才ではありません。基本的に、ただの人です。
クエストのサポートや、現代知識があったからこそ、それなりに成果を出せたに過ぎません。
だから、クエスト外の行動が上手くいかないのは、ある意味必然と言えます。
それでも、16年間魔王をやってきた経験は本物ですから、もう少し頑張って欲しいものです……。
ある意味、ムチャぶりですけどねw




