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 電刃の勇者“グラン”

 

 雷神、迅雷、雷速、紫電、電光石火……あまたの異名を持つ、元・勇者である。

 

 普段は地味だが、感情が高ぶると全身に静電気を帯び、髪の毛が金に輝き逆立つ。まるでどこかの戦闘民族のような姿をしている。

 

 剣術、魔術ともに“勇者としては”あまり強くはない。だが、たった一つ、他の勇者には無い特徴がある。

 

 雷化(トロン)

 

 肉体を雷に変化させる、極めて特異な能力である。

 これは予想だが、精霊と血族並みの関係があるものと考えられる。

 

 なぜなら、通常ではありえない能力だからだ。

 様々な特殊能力を持つ怪物や、魔術を極めた魔王であるオレでも、真似すら出来ないだろう……。

 

 凡そ、肉体を持つモノの所業ではない……可能性があるのは、精霊くらいなものだ。

 

 精霊は数多に存在し、自然現象や物理法則のその全てに、その役割を担う精霊が居るとされているが……真実は不明だ。

 

 一応、水晶球を通せば、精霊の姿を捉えることも可能なので、オレも精霊の姿を見たことが有るが……なんというかシュールだった。

 

 料理を煮炊きしている鍋の下。火の中でリンボーダンスっぽい踊りをしている……裸マッチョ。

 つむじ風の舞う草原で、クルクルと踊り狂う、社交ダンスにしては少々アグレッシブな……モヒカン幼女。

 田園風景。豊かに実った稲穂を水面に見立てて、マスゲーム並みの規模で、シンクロナイズドスイミングしている……人型の大根。

 街角の水たまりの中。きゃきゃとはしゃぐ子どもたちと、それを見守る母親っぽい水塊。そして……通りがかった人に踏み潰される子供と、泣きわめく母親っぽい塊。

 

 カオスとしか言い様のない光景に、オレは水晶球からそっと目を逸らし……無かった事にした。

 

 そういう理由で、オレは精霊には詳しくは無いし、関わりたくも無いのだが……。

 

 現在オレの前には……電刃の勇者が立っている。

 

 雷化による移動速度は、文字通り雷速だ。


 他の勇者に気を取られ、目を離していた隙に、この場……魔王城まで辿り着き。そのまま十三階段を超えて、この謁見の間に飛び込んできたのだろう。

 

 「おまえが今の魔王か?

  ……ああ、返事はしなくて良い。

  

  どうせ、魔族は全て……なぎ倒すんだからなッ!! シャイン! スパーキングッ!!!」

 

 元勇が裂帛の気合とともに、剣を通して薙ぐように雷撃を放ってきた。

 威力が落ちるはずの無詠唱でありながら、超級魔法に匹敵する威力だ。

 

 闇の帳によって軽減されているが、それでも片腕を焦がされた。

 

 超回復が無ければ、あっという間に削り殺されていたところだ……やはり、侮れない。

 

 「たった一人で我に挑むとは……その蛮勇。後悔するが良いッ!」

 

 戦いを挑まれたため、移動制限が一時的に解除された。そこでオレは玉座から立ち上がると、右手の魔爪で元勇を一閃する。

 

 「クッ……!? さすがに、一筋縄ではいかないか……


  ならば……雷剣操呪(ブレードダンス)ッ!」

 

 勇者の肩口を抉ったようだが、戦意は一向に衰えない。


 オレの魔爪には、猛毒、麻痺、痙攣、吸収、減衰、石化、魅了、呪殺などの追加効果があるのだが、どうやら効いていないようだ……。

 

 どこからか取り出した無数の剣を、元勇が宙に投げた。投げられた剣は、帯電して空中に留まると、周囲を飛び回り始める。


 そして、オレに向かって四方八方から襲いかかってきたのだった。

 

 戦いは熾烈を極めた。時間にして数十秒。一分足らずの間に、お互いに何度死んでいたか分からない程、ダメージを受け、与えていたが……両者は無傷のままであった。

 

 オレは超回復。

 元勇は、雷化による回復。

 

 戦いは膠着状態になっていた。

 

 ……と、言うかね。雷化した後、生身に戻った時に、受けてた傷が全快してるのってチートすぎないか? しかも、回数制限も無いっぽいんだが?

 

 ―――どんだけだよ!? おいッ!

 

 特殊能力なんて持ってない、アレンが可哀想になってくるだろーがっ!

 

 それともアレか? 光輝の玉みたいなキラーアイテムでもあるのか?

 

 チッ……カバ丼。もとい、悪食大公“カバドン”が居れば、瞬殺だったのだが、生憎と十二魔将は出払っている。

 

 具体的には、落日の勇者“シグレ”をフルボッコにするために、廃都“アーカロン”に待機させている。

 

 しくじった……。


 小手先の技を持たない、落日の勇者相手なら、9人もいれば十分だったはず……状況に応じて、いつでも自由に動かせるように、何人か城で待機させておくべきだった。

 

 まさか、一直線に魔王城に乗り込んでくるバカがいるとは……予想できるかッ!

 

 負ける気は全くしないが……ウザい。すごくウザい。

 

 魔王の身体は痛みにも耐性があるので、腕を焦がす一撃でも、デコピン食らった程度の衝撃でしかない。


 だが、それを何度も何度も何度も何度も、何度もッ! 喰らえば、いい加減キレたくなるってものだ……。


 それにだ、元勇の雷化は、装備品ごと雷化してるらしく。戻った時には装備品の傷も治っているの対して……オレの超回復は、魔王の肉体のみを回復させているため、身につけた[漆黒の王衣(ディープガーブ)]はすでにボロボロだ。

 

 つまり、このまま戦い続けると、いつしかオレは、全裸で戦うことになるのではなかろうか?


 魔王城の上層部が吹っ飛んで、満天の星空のベットもとい、玉座で執務をすることになるが、いっそ禁呪級魔術をぶっぱなすか? やっちゃうか? やっちまうか?


 ―――そんな感じで、別の意味で恐怖を感じ、思考がヤバイ方に向い始めた頃……オレと元勇の間を裂くように、影が割り込んできたのだった。

 

 「魔王様……お下がりくださいませッ!


  こんなところまで無造作に侵入を許すとは……門番は何をやっていたのでしょう?

  

  ここからは、私が相手でございます。覚悟なさいませッ!」

 

 「骸骨戦士(スケルトン)……いや、竜牙(ドラゴントゥース)闘士(ウォーリア)か?


  ―――ハッ! 雑魚がいくら増えようと、何の意味もないってことを……教えてやる!! 雷化(トロン)ッ!

  

  オラッー!!」


 「キャアア?!」

 

 メリー?!

 

 ―――まずいことになった。


 メリーは確かに魔将並に強い。だが、コイツの相手だと相性が悪すぎる。

 

 引けと命じても……メリーは引かないだろう。


 それが使命感によるモノなのか、それ以外の感情もあるのかは分からないが、メリーはそういう女だ。

 

 だが、このまま戦い続ければ。オレが元勇を殺す前に……メリーが先に死ぬ。

 

 ―――だからどうした?

 

 元の世界に戻ることを、至上の命題とするオレには関係ない話だ……。

 

 オレにとって魔王軍は、クエストを完遂して元の世界に帰るための手駒に過ぎない。


 そのため、配下や魔族たちに愛着と言った感情は殆ど無い……。


 

 

 

 そう……殆ど(・・)、だ。魔王軍への愛着は0ではない。


 人類に対して可能な限り被害が出ないよう配慮してるのと同じくらい。


 魔族にもまた、可能な限り被害が出ないように、じっくりと考えてから動かしている。

 

 ―――魔王軍への愛着は、決してゼロではない。

 

 ならば、ここで無為に死なせるのはオレの矜持が許さないッ!

 

 「メリー! そこから離れよ!」

 「……!? はい!」

 

 「おおっと、逃すかよッ! 雷化ッ!!」

 「させぬッ!」

 

 雷化した元勇を指差し[漆黒の波動]を発動させる。


 こいつは解呪効果があるが、ようは相手の状態をニュートラルに戻す特殊能力だ。これならば……。

 

 「な、なに? 雷化が解けた……だと?!」

 

 良し! だが、まだだ! まだ終わらんよッ!

 

 「そこだ! 魔糸捕縛(ルーンバインド)ッ!」

 

 動揺した一瞬を付いて、拘束魔法をかける。

 

 「チッ! だが、この程度の拘束などすぐに……」

 

 掌に魔力を集め、魔力風を巻き起こす。


 アレンの時とは違い、怪我させないような配慮は一切せず、ただ吹っ飛ばすことだけを考える。

 

 「この地より……否。この世から、失せよッ!!」

 

 「グッ!? うあぁああああ!!?」

 

 拘束を解こうとしていた元勇を、以前と同じよう(・・・・・・・)に魔力風で吹き飛ばす。

 

 謁見の間の扉をぶち抜き。正門をこじ開け。空のかなたへと元勇は吹っ飛んでいった。

 

 それを見届けたオレは、唖然としているメリーに声をかけながら、自然な動作で玉座へと戻った。

 

 「……魔王…様?」

 

 「メリー……ワインを一杯頼む

 

  ……お前の仕事は、それだ」

 

 「それは違っ……はい。ただ今、お持ち致します」

 

 動揺から立ち直り。流れるように埃を払い。優雅に一礼してから退室していくメリーを見送ったオレは、ため息をひとつ付いて、水晶球に目を向けた。

 

 そこに映しだされた光景は何時か見た絶望の光景―――

 

 ―――だが、今は希望となった。紅蓮の赤。

 

 そこに飛び込む一迅の影。

 

 結果を見届けたオレは、口角を歪ませ、笑ったのだった。

 

 

 「魔王様、お持ちしました」

 

 「ん? ワインはどうした?」

 

 「いえ……その……ワインはお持ちしますが……その前に御召替を願います」

 

 露骨に目を逸らし、心なしか顔と言うか頬骨が赤いメリーに言われ、視線を自分の身体に向ける。

 

 元勇との戦いでボロボロになったオレの服……王衣(ガーブ)は、最後にぶっ放した暴風の余波に耐え切れず霧散していた。

 

 つまり、オレは今……。

 

 

 

 

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 雷刃の勇者“グラン”………死因:マグマにて溺死&焼死

 

 残りの元勇:3名

 

 今勇:なんか良い夢見てるっぽい

 

 戦いはまだ、終わらない……。



 精霊の姿は千差万別です。

 例えば火の精霊だけでも、火蜥蜴、お婆さん、炎の魔神、火達磨、火車など、多様な姿をしています。


 主人公がみたのは、そのほんの一部に過ぎません。


 世の精霊使いが皆、ああいったシュールな光景を見ているわけではないと、精霊の名誉のために言っておきます。


 ただし、その比率は……。


 精霊の姿が見えないことを、我々は感謝すべきかもしれません。

 

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