表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/67

<13>


 オレの手元には、万象を見通す。遠見の水晶球がある。

 これを使えば、元勇者の行動を手に取るように知ることが出来る。

 

 「ま、魔物の襲撃だー! 魔王軍が攻めてきたぞ!!!」

 

 聖王国領土内、北方子爵領にある。星樹杜の町“クランストン”

 星の大樹と呼ばれる霊木を中心に広がる町である。

 

 町の外周には、市壁がそびえ立ち、魔物を含む敵襲を防ぐ役割を果たしている。

 

 だが、その街は今……混乱の坩堝にあった。


 魔王軍が来たとか言っているが、オレに覚えはなく、配下が動いた事実もない。

 

 ならば、何が起きてるか? と言うなら、大侵攻(グラン・スタンピード)と呼ばれる現象だと答えよう。

 

 この世界には、普遍的に魔力が満ちている。


 ―――だが、その魔力の濃度は一定ではない。

 

 薄い地域もあれば、濃い地域もあるのだ。

 

 基本的に人里は魔力が薄く、森林や洞窟などの秘境は濃いと考えて間違いない。

 

 そして、魔物や魔族。そして一部の怪物にとって、魔力とは空気と同じ扱いとなる。


 そのため魔力の薄い場所を魔物は嫌う。だから、人と魔物とで、生活圏が本質的に異なることになる理由だ。

 

 しかし、その境界は曖昧だ。


 人が海の幸を求めて、空気のない海に潜るように、魔物もまた、獲物を求めて人里へと来ることがある。

 

 だが、その頻度はあまり高くはなく。

 人が人の領分を超えない限り……魔物と遭遇する確率は低い。


 

 ―――ここまでが、一般的な認識となる。


 

 そして、件の大侵攻であるが、原因は人が増えすぎたからに他ならない。


 厳密には、人の生活圏が広がり過ぎた結果であると言える。

 

 魔力の濃い森がある。


 そこに人間が現れ、木々を切り倒し、魔物や動物を狩り、整地して新たな領土とした場合、魔力の濃度はどうなるか?

 

 ―――答えは薄くなる、だ。

 

 魔王であるオレが、世界の8割を制覇する前は、人類が世界の8割を制覇していた。


 これが何をを意味するか分かるだろうか?

 

 世界に存在する魔力の総量は一定だ。

 ……にも関わらず、魔力濃度の薄い地域が増えた場合どうなるか?

 

 極端に魔力濃度の濃い地域。つまり、瘴気に溢れた腐海が生まれることになる。

 

 だがそれは、まだ良い。


 人が何もしなくとも、そういった魔力の極端濃い、吹き溜まりのような場所は自然にできるものである。

 

 問題は、腐海にも許容限界があるということだ。

 

 ならば余った魔力は何処に行く?

 

 その答えが、大侵攻だ。

 

 薄まった場所へ、濃い魔力が逆流する現象。それを大侵攻と呼ぶのが正しい。

 

 そして、魔物は魔力の濃い場所を好む。

 

 ここまで話せば、大侵攻のカラクリも理解できただろう。

 

 だから――――

 

 「うわー!!!??」

 「えーん……! ママー!?」

 「痛い!? ……いてええええ!?」

 「ぎゃああああ!!?」

 「おうどんたべ……うわらばッ!?」

 「か、神よ! お助けくだ……アッー!?」


 「クソッ!! 魔王め! なんてことを……」

 

 ―――オレのせいじゃないってばよ!?

 

 そもそも大侵攻の予測は、オレでも不可能だ。

 魔力の偏位は、バタフライ・エフェクトと言って良い。

 

 とある国が領土を広げたとしても、その国で大侵攻が起きるとは限らない。


 全く関係ない。それこそ大陸の向こうにある国で、大侵攻が起きることもある。

 

 「危ないッ! ライディング・キックッ!!」

 「あ、あわわわわ……」


 「さあ、今のうちに逃げるんだ! ここは……俺に任せろ!!

  

  こい、魔王軍!!

  

  仮面の勇者“タカシ”! ここからは……俺が相手だッ!!」

  

 いや、だからオレは関係ないから!

 これは自然現象であり、ただの災害だから!

 

 ただの……と言ったらむしろ語弊があるな。正確に言うなら、人災だから!

 

 ……どーせ聞こえてないし、むなしくなってきたので愚痴はここまでとしよう。

 

 

 千を超える魔物の群れ。

 それの渦中に恐れること無く飛び込んだ元勇。

 

 謎パワーが篭められたキックが唸り、大地を穿ち、魔物の群れに穴を開けた。

 

 一瞬の静寂。

 

 ただの一撃であったが、魔物に理解させるのは十分だったようだ。

 

 即ち、コレが己の死であると……。

 

 魔物の反応は二つに別れた。


 生存本能に従い、踵を返して逃げ出すモノ。

 

 そして、戦闘本能に従い、一斉に襲いかかるものと、だ。

 

 「くっ……?! 数が多すぎる……」

 

 魔物と動物の違いは、魔力を帯びてるか否かの差だけではなく、その本能的なモノにも差がある。


 そのため逃げ出す魔物は少数で、残った大多数の魔物は……脅威と認識した元勇に殺到したのだった。

 

 これは死んだか? ……いや、甘いか。

 

 勇者は強い。それこそ人間のカテゴリーを超えることも、少なくない。


 未だ途上のアレンくんならともかく、一度は魔王を倒した元・勇者だ。これくらいで死ぬなら……苦労はしない。

 

 「うぉぉおおおおおおおッ!! 大車輪! 風車ロケットキーックッ!!!!!!!」

 

 ちゅどーん! と言いたくなるような爆発が起きた。

 

 だが戦いは続く。魔物の数が多すぎるのだ。


 

 ―――大侵攻の終わり方は二つある。


 

 一つは、魔力が逆流した土地に、十分な量の魔力が留まり安定した場合だ。


 この場合、その土地は魔物が闊歩する魔境となり、ひ弱な人類は生存不可となる。

 

 そこに人里があれば、当然壊滅する。

 

 二つ目は、大侵攻で殺到してきた魔物を大量虐殺することで、魔力の流れを変える方法だ。


 魔物は魔力の影響を受ける。

 裏を返せば、魔力は魔物の影響を受けると言い換えることも出来る。

 

 具体的な理屈は煩雑なので割愛するが、魔物を大量に狩れば、当面の危機は脱することが出来るとおぼえておけば十分だろう。

 

 もっとも、根本的な魔力の偏差問題は解決してないので、文字通り問題の先送りでしか無い。

 

 魔王のオレとしては、完全なコントロールは不可能だが、意図的に魔境を増やすことで大侵攻をなくす事は出来ないか?


 そういったふうに考えていたりもする。

 

 本来は、瘴気から生まれた、魔族の王が考えることじゃないけどな!

 

 「……はぁ……はぁ……い、いくぞッ! ライディングキック!」

 

 あれから数時間が経ったが、元勇と魔物の群れとの戦いは、まだまだ続いている。

 

 そりゃそうだ。言わば……自然災害を、たった一人でどうにかしようとしてるようなものだ。


 いくら元・勇者と言っても、そう簡単にできることじゃない。

 

 ぶっちゃけオレでも、油断したら失敗するくらい厳しい。

 

 ―――だが、元勇はやりとげた。

 

 昼から、明くる日の明け方過ぎまで延々と戦い続け……遂には、魔物を退けることに成功したのだ。

 

 ぐらりと倒れる元勇。それを見てとって、歓声を上げて駆け寄ってくる人々。

 

 これで、英雄の叙事詩に、新たなページが加わるだろう。

 

 だが、これは違う……と、オレの中で、ナニかが囁いた。

 

 この時代の英雄は“コイツ”ではない、と。

 

 ―――

 ――

 

 さて、話を戻そう。

 

 オレにとって重要な、今勇こと黒髪の勇者“アレン”は、今だに眠り続け、仮に目覚めたとしても数日はまともに動けないだろう。


 また、眠っている場所は聖王国の大聖堂の奥であり、24時間体勢で看護されているので、命の心配は無い。

 

 つまりだ……“今”なら、オレは遠隔術式を自由に使えるのだよッ!

 

 勇者は人間だ。


 根本的に肉体の作りが異なる魔族と違って、食事、睡眠、トイレは必要不可欠だ。

 

 ここまで言えば、察しはつくだろう……。


 仮面の勇者“タカシ”は、大侵攻を食い止めた後。引き止める人々を振りきって、次の戦場を求めて旅だった。


 現在は、愛用の機甲馬(オートホース)で、町から町への移動中であり。日が暮れてきたため、街道から少し離れたところでキャンプをしようとしてるようだ。

 

 遠隔術式による遠隔攻撃は、実のところあまり効率の良い方法ではない。

 

 魔力の消費がバカでかくなる上に、術式の効果範囲には予兆として、大きな魔法陣が出現する。


 そして、実際の発動まで、数秒から数十秒のタイムラグが発生する。

 

 そのため、奇襲的な使い方をしても、相手に察知され、適切に対応された場合。ほぼ無効化されることが多い。

 

 迅速な行動が不可能な軍隊相手や、拠点攻撃など戦術ではなく、戦略として扱うべき魔術なので、当たり前といえばあたりまえである。

 

 ―――本来ならば……だが。

 

 オレの冠する、魔の王の名は伊達ではない。

 

 数十人規模で行う魔術をオレ一人でまかなえるほど潤沢な魔力。


 そして、聖属性も含む、ありとあらゆる属性の魔法を行使できる技量と知識。

 

 それがあるからこそ、遠隔魔法の性能を120%引きだせる。

 ちなみに、+20%はチート水晶球の分である。


 水晶球の向こうでは、ふと思い立ち。周囲の様子を伺いながら、そっと草むらで屈んだ元勇の姿が確認できた……。

 

 そして……オレは、指を鳴らした。

 

 [遠隔術式の起動が“魔王”によって提起されました]

 [術式の起動が“システム”によって承認されました]

 [遠隔術式“滅殺”を起動します]

 

 [対物捕獲魔法“プリズン”が発動しました]

 [対霊拘束魔法“クロスバインド”が連動しました]

 [超級火炎魔法“ボルケーノ・ゲヘナ”交差しました]

 [超級雷撃魔法“プラズマカノン”が連鎖しました]

 [超級氷雪魔法“コキュートス”が始動しました]

 [超級暗黒魔法“ペンデュラム”が稼働しました]

 [超級神聖魔法“パニッシュメント”が順動しました]

 [超級粉砕魔法“ディスインテグレーション”が作動しました]

 

 [術式の正常起動が“システム”により確認されました]

 [遠隔術式“滅殺”を終了します]


 遠隔魔術の対象となった元勇のタカシは、取り込み中であった。


 周囲に浮き出た魔法陣と、膨らむ魔力の流れに反応して、反射的に、飛び退こうとして、脱いだ服が足が絡まりコケたのが見えた。

 

 そこで1つ目の魔法陣が輝き、周囲を被う半透明の結界が形成され、元勇の退路を断つ。


 続けて魔法陣が輝き、元勇の身体を、明滅する鎖が繋がった無数の剣で刺し貫いた。これで動きも封じた。


 残る魔法陣もまた、次々と輝きを放ち、豪炎、爆雷、冷却、斬首、審判と超級の魔術が降り注ぐ……。

 

 すでに黒いシミとかした元勇に、止めとばかりに“粉砕(ディスインテグレート)”が発動する。

 

 ………………

 …………

 ……

 

 これはひどい。

 

 自分で狙ってヤッておきながら、思わずドン引きしてしまう酷さだ……。

 

 仮面の勇者“タカシ”は、濃いタイプのイケメンで、どこか昭和テイストを感じさせる勇者だ。


 個人的には好感の持てる人物なんだが……オレの“敵”と成ったのだから仕方がない。

 

 一人目と同じように、タイミングを測って、十二魔将全員でボコったほうが確実なはずなんだが……どうも、嫌な予感が働いた。

 

 これはオレの勘でしかないが……こいつは逆境に強いタイプに思えてならない。


 十二魔将に取り囲まれると言った、絶体絶命のピンチであれば有るほど燃え上がり。なんだかんだと窮地を切り抜ける……そう言った。


 英雄的、お約束(・・・)の奇跡が、起きそうな気がしたのだ……。

 

 そこで、奇跡の入る余地のないシチュエーションで、問答無用に瞬殺することにした結果が、コレだ……。

 

 トイレタイムを狙って爆殺。

 

 暗殺を考えるなら、非常に効果的な方法ではあるが……実際に行うとドン引きだと言うことがよくわかった……。


 やはり、大侵攻で倒れたところにぶち込んだ方が良かったか?


 いや、それだと無関係の人々も巻き込んでしまう。何より、街を守ったヒーローを、その目の前で、爆殺するのもどうか? ……と言う話になる。


 

 うん。次からは、二重の意味で、もう少し上手くヤれるように、もうちょっと考えてから動こう……。

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 仮面の勇者“タカシ”………死因:トイレタイム中に、遠隔術式でフルボッコ

 

 残りの元勇:4名

 

 今勇:悪夢の中


 戦い? は続く……。



 今勇アレンがLV15とするなら、元勇はLV44~68くらいです。

 魔王はLV100。魔将はLV40~70くらいです。


 ちなみに雑兵でLV2~3、騎士クラスでLV10前後。歴戦の勇士でLV20前後です。


 これは目安であって、相性や状況で、LV差20くらいはひっくり返ります。

 そこに数の暴力を含めれば、倍くらいの相手にも勝てます。


 これはあくまでも、読者用の参考値です。

 本編でも述べましたが、この世界にレベルという概念はありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ