<11>
冥界攻略作戦は、無事に終了した……。
概ね、オレの思惑通りに事は進んだ……。
目論見通りに、勇者は見事に蘇り。魔王軍は大打撃を被った……。
しかも、うっかりオレが殺してしまっていた主要人物も、遺体が保護されていた数十人は復活を果たした……。
オレが折ってしまった、勇者の勝利フラグが、建てなおされたわけだ……。
実に喜ばしい……。
さすがはオレ……すごいぜオレ……やっちまったぜオレ……。
「魔王様……差し出がましい事でございますが……お疲れであるなら、少しお休みに成られた方がよろしいかと存じます」
「ん? ああメリーか……。
気遣いは要らぬ……が、そうだな、強いワインを一瓶頼む。少し酔いたい気分だ……」
「はい、ただ今、お持ちいたします」
魔王の肉体は毒無効だ。アルコールも当然のように無効なので、酔いたくても酔えない身の上だが、気分くらいは味わえるので、気晴らしにはなるだろう……。
飲み過ぎると拙いが……具体的に言うと“トイレに行きたいのに玉座から動けない!?”と言った事態になりかねないが、そんなことはどうでも良い。
今は酔ってでも、テンションを上げたい気分なのだ……。
思惑通りになったと言うのに、何故、オレは落ち込んでいるのか?
勇者は今、破竹の快進撃を繰り返している。
元々人類全体で見れば、死傷者の数はそこまで多くはない。
それはそうだろう……魔王軍の目的は“世界制覇”であって、人類の絶滅では無いからだ。
そのため、国のトップをすげ替える形での占領が殆どだった我らが新領土は、全く同じ方法で奪い返されていったのだ。
勇者たちの活躍に呼応して、隠れていた王族が出てきたりした。それは、冥界の門開放によって、不可能だった死者の蘇生が可能となった事が大きい。これは良い誤算と言える。
―――悪い誤算として、新鮮ではない死体や、そもそも自分の死体が残って無い人は、軒並みアンデット化したが、それはそれで勇者に狩られているので、問題はない。
元々、有力者は、よほどのことがない限り。霊廟や墳墓に“保存魔法をかけた”上で、埋葬されるのが常識だ。
つまり、魂が還ってきた時点で、蘇生可能となり、それに気がついた神官が、次々と蘇らせていったのだ。
結果的に現在。8割掌握していた魔王軍の領土は、6割まで激減している。
だが、それは、オレの真の目的からすれば喜ぶべき事であって、落ち込む理由にはならない。
―――ならば何を憂いているのか?
その答えは、水晶球の映しだす光景に合った。
「皆のモノ! 下がるのだ!、お前たちでは相手に成らぬ……!
流石は、伝説に名高き、日輪の勇者……相手にとって不足は無い成!!」
「魔将のお出ましか! 冥府では逃げられたが……今度は逃がさん!!
まがい物ではない……本物の光輝の剣の力! その身に刻めッ!!
サンシャインアローッ!!」
「よかろう! 真っ向から受けて立つ成ッ! 徹甲轟掌破!!」
「隻腕辣腕豪腕鬼将軍の隻腕が唸りを挙げる!
猛々しくも、愚直なる粉砕の意思が山吹色の心応鉱石を通して、無骨だが頑丈なガントレットに染み渡る!
張り詰めた筋肉から、渾身の思いを載せて解き放たれたのは、必倒必命……通魂の一撃ッ!
魔将の生み出した絶対の死! それに抗うのは……日輪の勇者“ウォード”ッ!
太陽光に限りなく近い力を宿す光輝の剣を上段から振り下ろすッ!
放たれる光波は、日輪に輝く! それは、絶対の死に抗う生命の……輝きッ!
……双方の力はまさに、互角ッ!?」
「良い一撃だったよ……だが、俺の一撃は、まだ終わっていない!! サンシャイン……クロスッ!!」
「拮抗し、競り合う衝撃波! そこに重ねられ…交差する……勇者の剣ッ!
これぞ日輪を射抜き、日食を終わらせる乾坤一擲の矢ッ!
拮抗は……今、崩れる……ッ!?
水晶球の向こうで力が弾け、視界が白一色に染まるッ!」
「魔王様。史上最凶と誉れ高き。清酒“龍神殺し”をお持ちしました……」
「……」
「はい、コチラになります……それでは……失礼致します」
「……聞いてた?」
「いえ? なんの事で御座いましょうか?
魔王様は……お疲れなのですね……ごゆるりと、ご養生なさいませ……」
「………」
落ち込んだテンションを上げようと、なんとなく実況していたら、メリーに聞かれたでござるの巻。
と、取り敢えずワイン瓶の蓋を指で弾き、中身を喉に流し込む。
焼け付けるような……つーか、実際焼けてね?! な感覚を味わいながら、一息をつく。
水晶球を次々と切り替えていく。そこに映しだされた光景は―――
「俺は雷刃の勇者“グラン”! 哀れな亡者よ……あるべきところへ還れ!! シャイン! スパーキングッ!!」
水平線を埋め尽くさんが如く、不気味に蠢く亡者の群れを、雷光を纏った聖剣でなぎ払う金髪碧眼の勇者の姿だったり。
「俺の封印は解かれた……永久の力…絶対零度の猛吹雪……相対する者は皆死に絶える……。
死神の腕抱かれ、安らかに眠れ……ッ! 正逆の陽光ッ!!」
白銀髪にオッドアイ、さらに蒼い炎っぽい羽を背にした、向こうからは見えないはずなのに、何故カメラ目線で妙なポーズを決めている勇者だったり。
「ふむ、一つ防いだか……さすがは日光という、致命的な弱点を克服しただけのことはあるようだ……。
じゃがなぁ……ワシの勇者必殺剣は、百八式まであるぞ?」
十二魔将最強かもしれない、吸血皇と互角どころか、余裕を持ってあしらうように戦っている初老の勇者だったり。
「正義は一つではない。だからこそ負けられない……勇者は、常に正しくッ! 正義の味方でなくてはならないッ!!
たとえ無様なあがきであろうと、そこに守るものがいるかぎり……俺は必ず勝つ!
大車輪! 風車ロケットキーックッ!!」
逃げ遅れた人々を背に守り、大群相手に一歩も引かず戦線を維持する。涙の跡が刻まれた、奇妙なマスカレードを付けた勇者の姿だったり。
「今勇が動けないなら仕方がないさ……さあ、出番だぜ相棒! 天戮の大太刀“ビャクヤ”!
なあ、大神官さんよぉ……時間稼ぎだけじゃなくて……倒してしまっても良いんだろ? 魔王をなッ!
落日の勇者“シグレ”……いざ参るッ!!」
リンッっと鈴のような音で答える妖刀“白夜”を手に、大神殿から魔王城へと旅立つ、軽装の勇者だったり、など。
―――どさくさ紛れにちゃっかり生き返り、各地で大暴れ……大活躍中の、元・勇者ズの姿であった。
ちなみに今勇こと、現在進行形の勇者である、ボクらのアレンくんは……気絶中である。
当然といえば当然だ。
いくら魂は不滅と言っても、傷つきはするし、不滅と言いつつ最悪消滅もある。
修行と言う名のシゴキによって、勇者6人にフルボッコにされたのだ……とうぶん目がさめることはないだろう。
つまりだ、オレの目論見どおり。
魔王軍は大幅な弱体化。
勇者は復活し、驚異的な力で、オレを殺しに向かって来ているわけだ。
―――“元”が付く勇者の話だがなッ!
クエストの内容は、勇者に倒されることであって“元”勇者に倒されることでは、断じて無いッ!
いくらクエスト達成条件が緩いと言っても、そこまで緩いとは到底思えない。
それにだ……アレンが目覚めた時。
オレが倒されて、世界に平和が戻っていたらどう思うだろうか?
これはまさしく私情だが……。
6年間ストー……見守ってきた経緯もあり、勇者一行には、それなりに情も湧いている。
そんなアレンにならともかく……ポッと出の元勇者どもに、むざむざ倒されてやる義理は無いッ!
さんざん悪行を成してきた自覚があるからこそ、最後の最後くらいは、ハッピーエンドで終わるべきだろ?
よし! テンション上がってきたー!
そうだな……良いだろう。元勇者たちよ……おまえたちに、加減はいらんよなぁ?
魔王軍の……いや、魔王であるオレの本気を見せてやろうッ!!
あっ……吸血皇が散った……。
やべ、本気を見せる前に、魔王軍が壊滅するかもしれない……。
歴代勇者の遺体は、英雄として墳墓に祀られていました。
当然のように保存魔法が施されていたので、死体に損傷はありません。
だから冥界の門と言う枷が無くなった今、必然的に、復活することが出来たのです。
ただし、疑問が一つ残っています。
この世界は輪廻転生が基本であり、自然の摂理です。
……ならばなぜ? 元勇者たちは転生していなかったのでしょうか?
その不自然さに、主人公はまだ、気がついていません。