ズルいズルいと私から何でも奪おうとする妹 VS 婚約者の(自称)病弱な幼馴染
「メリル、ちょっといいかな」
私がリビングで一人本を読んでいると、お父様から声を掛けられた。
「はい、何でしょうかお父様」
「うん、実は得意先のニャッポリート商会からこんなものをいただいたんだが、メリルに似合うんじゃないかと思ってね」
お父様が差し出されたのは、眩いピンクダイヤモンドのネックレスだった。
まあ、綺麗。
「これ、私がいただいてもよろしいんですか?」
「ああ、メリルにはその……いつもいろいろと我慢させてしまっているからね」
お父様は気まずそうに、頭を掻く。
うふふ、お父様ったら。
「ああ! お姉様! ズルいズルい!!」
その時だった。
甲高い声が、私の鼓膜を震わせた。
そこにはお父様が再婚して私の義理の妹になったオーレリアが、目を血走らせながら立っていた。
「お姉様だけそんないいものを貰うなんてズルいわ! 贔屓よ贔屓ッ!」
「い、いや、オーレリア、お前にはいつもこの手のものは買ってやってるだろう。この間だって、これと似たようなネックレスを買ってやったじゃないか」
「でも私はそれが欲しいの! それなのにお姉様だけズルいわ! ズルいズルいズルいッ!!」
オーレリアは地団駄を踏んで、子どもみたいに癇癪を起こしている。
こうなるともう、手が付けられない。
「お父様、私は構いませんので、このネックレスはオーレリアにあげてください」
「え? 本当にいいのかい、メリル?」
「わあい! やっぱりお姉様は話がわかるわね!」
オーレリアは私の手からネックレスを奪い取ると、逃げるように走り去って行った。
「まったくあの子は……。すまないなメリル、いつも」
「うふふ、私は大丈夫ですわお父様。ああ、そろそろジュード様とお茶会の時間ですので、出掛けますね」
「ああ、ジュード様によろしくな」
私は馬車で、婚約者であるジュード様のご実家である、ハンプソン家へと向かった。
「メリル、会いたかったよ!」
ハンプソン家に着くと、玄関先で待ち構えていたジュード様にギュッと抱きしめられた。
あらあら。
「先週もお会いしたばかりじゃありませんか、ジュード様」
「そんな! 一週間もメリルに会えなかったんだよ!? 僕は胸が苦しくて、今にも死にそうだったよ! メリルは僕にとって、太陽であり空気であり水であり栄養そのものでもあるんだから!」
私にいろいろと担わせすぎでは?
もしも私と長期的に会えないような事態になったら、このお方は本当に死んでしまうかもしれないわね。
「ああ、早くメリルと結婚したいなぁ。そうすれば毎日一緒にいられるのに」
「うふふ」
「ジュードオオオッ!!!」
「……!」
その時だった。
大地を震わせるほどの大声を上げながら、一人の若い女性がハンプソン家に走って来た。
それはジュード様の自称幼馴染である、マルヴィナさんだった。
「……また君かマルヴィナ。なんでいつも君は、僕とメリルが大事な時間を過ごしているところに現れるんだ?」
「そんなことより、今から私の買い物に付き合ってよジュード! 来週の、王家主催の夜会に着ていくドレスを選びたいの!」
「だから、なんで他人である僕が、そんなことに付き合わなきゃいけないんだよ」
「酷い! 他人だなんて! 大事な幼馴染である私に向かって!」
「いやいや、子どもの頃に何度か夜会で会ったことがあるだけだろ? それなのに幼馴染面とか、ハッキリ言って怖いんだけど」
「酷い! 酷いわジュード! ゴホゴホゴホッ! もう先が長くないかもしれない幼馴染に、そんな残酷なこと言うなんて! ゴホゴホゴホッ!」
マルヴィナさんはわざとらしく咳き込んだ。
「……今さっきここまで、その健脚で走って来たじゃないか。間違いなく、君は百まで生きるよ」
「クッ! お願いだから目を覚ましてジュード! あなたはその女に、洗脳されてるだけなのよッ!」
マルヴィナさんは私にズビシと、指を差してくる。
「ねえ!? いい加減ジュードを解放しなさいよ! 洗脳なんて汚い真似して、恥ずかしくないの!?」
「そう言われましても。私はジュード様のことを、洗脳なんてした覚えはございませんわ」
「でも――」
「帰れッ!!」
「っ!? ……ジュード」
ジュード様がマルヴィナさんに、氷のように冷たい視線を向ける。
「それ以上僕のメリルを侮辱するつもりなら、こちらにも考えがあるぞ。警察に訴えて、然るべき処置を取ってもらうことになる。それでもいいんだな?」
「……クッ! きょ、今日のところは一旦帰ることにするわ。ではまた、来週の夜会でね!」
「あっ、オイ!」
マルヴィナさんはとても病弱とは思えない、アスリートのような綺麗なフォームで走り去って行った。
相変わらず、嵐のような人ね。
「……ハァ、ごめんよメリル。また君に嫌な思いをさせてしまって」
「うふふ、ジュード様のせいではございませんので、どうかお気になさらず。――ところでジュード様、一つお願いがあるのですが」
「ん? 何だいメリル! 僕にできることなら何でもするよ!」
「それはですね――」
「オーレリア、来週の王家主催の夜会、よかったらあなたも私と一緒に出席しない? ジュード様に許可はいただいたから」
家に帰るなり、オーレリアにそう訊いてみた。
先ほどジュード様にオーレリアも夜会に参加させてもいいか伺ったところ、渋々オーケーをもらったのだ(大分苦い顔はされていたけれど)。
「えっ!? いいのお姉様!? やったー! やっと私も、ジュード様にお会いできるのね!」
「お、おい、メリル、お前はそれで、本当にいいのか?」
お父様が顔を青くされている。
オーレリアにジュード様を会わせたら厄介なことになるのは目に見えていたので、今まではお父様が気を遣って、意図的に会わせないようにしてくれていたのだ。
「ええ、私は構いませんわお父様。オーレリアももう子どもではないのですから、問題はないでしょう?」
「あ、うん、まあ、お前がそれでいいなら……」
「あー、楽しみー! ねえお父様、私、夜会に着ていく、新しいドレスが欲しいわ!」
「ええ!? またかぁ」
うふふ、私も夜会が楽しみだわ――。
「はじめましてジュード様! 私がメリルお姉様の可愛い妹の、オーレリアです!」
そして迎えた夜会当日。
念願のジュード様にお会いできたオーレリアは、いつにも増してハイテンションだった。
「あ、うん、はじめまして、ジュードです」
そんなオーレリアに反して、ジュード様は至って塩対応。
うふふ、このお方は、私以外の女性には、いつもこんな感じなのよね。
「わぁあああ!! 私が想像していた通り、ジュード様ってメッチャイケメンですねッ!!」
オーレリアは両手をブンブン振りながら、大層興奮している。
「え? そ、そうかな……」
が、当のジュード様は、あまり嬉しくはなさそう。
むしろ顔にハッキリと「面倒だな」と書かれている。
だが、私の妹である以上、邪険にもできずどうしたものかと思っているのだろう。
「ああもう! こんなイケメンと婚約してるなんて、お姉様ばっかりズルいズルい! ねえジュード様! お姉様との婚約は白紙にして、私と婚約しましょうよ! 私のほうがお姉様より、絶対可愛いですし!」
「は、はぁ……!?」
オーレリアの爆弾発言に、流石のジュード様も開いた口が塞がらないご様子。
うんうん、それでこそオーレリアね。
「ジュードオオオッ!!!」
「「……!」」
その時だった。
会場中を震わせるほどの大声を上げながら、マルヴィナさんがこちらに走って来た。
――うん、これで役者は揃ったわね。
「ジュード、会いたかったわ! 今日こそあなたの、洗脳を解いてあげるからね!」
マルヴィナさんはジュード様の左腕に、ガバリと抱きついた。
「オ、オイ、マルヴィナ!?」
「なっ!? 何よアンタ!? 私のジュード様に汚い手で触んないでよッ!!」
途端、オーレリアがマルヴィナさんに食って掛かった。
「ハァ? アンタこそ何者よ! そんな不釣り合いな高いドレス着て。アンタみたいなブサイクに着られて、せっかくのドレスが泣いてるわ」
「な、なんですってえええええ!?!? ブサイクはそっちのほうじゃないッ!! その二重、どーせ整形でしょ? 私そういうの、すぐわかるんだからッ!」
「ハ、ハアアアア!?!? な、なんでアンタにそんなことわかんのよ!?!? 変な言いがかりはやめてよッ!!」
「アハハ! やっぱり図星だったんじゃない、この整形女が!」
「なっ!? こ、このクソ女があああああ!!!」
「ぎゃっ!?」
「「「――!!」」」
鬼のような形相になったマルヴィナさんが、オーレリアの頬に思い切りビンタを喰らわせた。
あらあら。
「コ、コラ、マルヴィナッ! 何てことするんだ!?」
慌ててジュード様が止めに入ろうとする。
「痛いわね、このクソブスがああああああ!!!!」
「ぶべらっ!?」
「「「――!?!?」」」
今度はお返しとばかりに、オーレリアがマルヴィナさんにビンタを一発。
「何すんのよおおおおおおおおお!!!!!!」
「こっちの台詞じゃああああああ!!!!!!」
オーレリアとマルヴィナさんは、その場で取っ組み合いの喧嘩になった。
うんうん、これぞキャットファイトね。
「そ、そこの君たち、やめなさい!!」
「大人しくするんだ!!」
警備員の方たちが駆けつけて、二人を拘束した。
「放しなさいよ、この女を、殺してやるんだからあああああ!!!!」
「やれるもんならやってみなさいよおおおおお!!!!」
あらあら、この期に及んでまだそんなに吠えてるなんて、ある意味尊敬しちゃうわ。
二人は暫く暴れていたものの、それでも屈強な警備員には敵うはずもなく、会場外に連行されていった。
うん、これでよし。
王家主催の夜会でここまでの問題を起こしてしまった以上、厳罰は免れない。
よくて修道院送りといったところかしらね。
「なるほど、これが君の狙いだったんだね、メリル。毒を以て毒を制すということか」
ジュード様が顎に手を当てながら、うんうんと深く頷かれる。
「うふふ、幻滅しましたか?」
「まさか。むしろもっと君のことを好きになったよ。――やはり君は僕の理想通りの、聡明な女性だ」
ジュード様は私の手を取り、手の甲に優しいキスを落とされた。
まあ。
「僕と踊っていただけますか、レディ?」
「ええ、もちろん」
華やかな音楽に合わせて、私とジュード様は手と手を取り合った。
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